INTERPRETATION

Vol.3 遠藤香織さん「100人いれば100通りの中国がある」

ハイキャリア編集部

中国語通訳者・翻訳者インタビュー

【プロフィール】
遠藤香織さん

Kaori Endo

明治大学文学部史学地理学科(東洋史専攻)卒業後、大手レコード会社入社、アーティストプロモーションを手がける。7年間の勤務を経て、中国北京語言文化大学に留学。2000年秋帰国、現在はエンターテイメント分野を中心に中国語通訳翻訳者として活躍中。

中国との出会いは?

校2年の夏です。同級生が、中国に駐在しているお父さんのところへ遊びに行くと聞き、私も連れていってもらいました。10日間ぐらいでしたが、多感な年頃

だったこともあってか、非常に濃い体験だったんです。当時はまだ社会主義の色合いが濃く、「日本とは全然違う!」といろんなことにショックを受けました。

香港やアメリカを旅行したことはありましたが、ここまで強く印象に残ったのは初めてでした。

実際に中国語の勉強を始めたのは?

から歴史が好きで、日中関係や中国の少数民族などに興味がありました。大学では第二外国語で中国語を選択しましたが、特に「中国語を勉強するぞ!」と思っ

ていたわけではなかったんです。むしろ歴史の本に載っていないような中国近現代の文化をもっと知りたいという気持ちが強かったです。社会主義って何だろ

う、どうして配給券がないとお米が買えないんだろうと、疑問だらけの生徒だったと思います(笑)。

大学1年時に、中央民族学院という少数民族のための学校に留学したんですが、この時もいろんな発見、驚きがありました。当時はまだ外国人と中国人の間の格差も大きく、外貨券が存在した時代です。教科書で勉強した歴史を目の当たりにした気がして、非常にショックでした。

大学卒業後は、レコード会社に?

国語や歴史は好きでしたが、仕事として突き詰めようとは考えていませんでした。昔からライブや芝居を見るのが好きだったので、就職活動もマスコミ中心でし

た。邦楽アーティストのプロモーションが主な業務で、毎日本当に楽しかったです。90年代後半から、日本のアーティストが中国本土や台湾でイベントを行う

ようになり、中国語関係の仕事が出てきたんですよ。「私やります!」と手を挙げたくても、「英語できないでしょ?」と言われて、あぁそうかと。もし私がビ

ジネスレベルで中国語が話せれば、絶対この仕事できるのに! と思ったんです。30歳になるまでに一度中国に長期で行ってこよう! と決意しました。

長期留学はいかがでしたか?

生に自分の言いたいことを伝えるのに30分かかったんですよ。先生が根気よく付き合ってくれたお陰で、だんだん「あれ? 最近10分で話が通じるように

なった!」という具合に、少しずつ進歩していきました。留学生活は有意義なものでしたが、立場や文化的なことにおいて、考えさせられることが大いにありま

した。中国人の学生と話をしていて、「同じ学生だよ」と言っても、「でもあなたたちの国には自由がある」と言われるわけです。もちろん今は、かなり状況も

変わりましたが、様々なギャップを超えて「友達」になるって、どういうことだろうといつも考えていました。私が中国に関わるようになったきっかけは、「歴

史」だったのかもしれません。

通訳者になって感じることは?

コード会社時代は、アーティストの一番いいところを伝えるのが仕事でしたが、通訳をするときも「この人が話す一番いいところをわかってもらいたい」という

意識があるんですよね。これまで取材をセッティングする立場だったのが、今はその場に通訳として立ち会うようになり、当時の経験がプラスになっていること

がたくさんあります。通訳者としては、通訳力、語学力がもちろん大切ですが、アーティスト通訳の場合は、メッセージ、気持ちを通訳することも必要になって

きます。アーティストの話す言葉は、情報としての言語だけではないことが多いので、彼らの気持ちをすくいとれるような通訳ができるようになりたいと、日々

思っています。

「愛用のリュック」
最近の中国通訳市場は?

場としては格段に大きくなっています。ここ数年で中国関連のメディアも増え、WEBも中国情報を載せているところが増えました。昔は中国のエンターテイメ

ントはほとんど注目されていませんでしたが、時代が変わってきたなと実感しています。当時、レコード会社を辞めて中国に行こうと言うと、周りからは「変

わってるね」と言われたんです。大学で中国語を勉強していたときには、もっと変わっていると言われましたから(笑)。それだけマニアックな言語だったんだ

と思います。変わってきましたね。中国語、中国という国が日本人にとってぐんと身近になったと思います。

今後のキャリアプランは?
まだ手探りです。いろんなことをやってみようと思っている時期ではあります。通訳においても、少しずつ幅を広げていけたらいいですね。

今後も通訳翻訳だけをやるのかはわかりませんが、中国のことはずっと見続けたいと思っています。もっともっと中国の文化、思想、歴史について知りたいんで

す。私の関わった仕事を通して、「へぇ! 中国ってそうなんだ!」、この本読んでみようかな、中国に行ってみようかな、という人が増えたら幸せです。いろ

んなことを伝えていける人になれたらいいですね。

中国語を勉強している人へのアドバイスをお願いします。

訳学校の先生のお話を今でも覚えています。中国語通訳者としての第一世代の方で、「皆さん、中国語という言葉を話せることを誇りに思ってください」とおっ

しゃったんです。その言葉には、日中間の様々な歴史、その時間を経てきた先生の想いがこもっていて、ジーンとしてしまいました。

 中国語が話せることによって、いろんなものが見えます。中国の歴史、文化、人が見えます。その中の何を見るか、どこを好きになるか、何を中国だと思って

帰ってくるかは、人それぞれ。100人100通りの中国があると思うんです。行く場所、会う人によっても異なります。その人なりの中国体験、中国語があっ

ていいんじゃないかなと思います。いろんなものを見て頂きたいと思いますね。

編集後記
非常に興味深いお話ばかりでした。100人いれば100通りの中国がある、まさにその通りだと思います。1時間という短い時間でしたが、遠藤さんというフィルターを通して、私の中で少し中国が身近になったような気がします。

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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