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知ってトクするシゴトの韓国語

ハイ・キャリアに韓国語関連コラムが初登場! 大学卒業後に韓国語の学習を始め、韓国留学。海運会社勤務後、2004年に韓国語スクールを設立した幡野さん。2010年には中国語講座も開始し、自身も中国語の学習を始め、現在上級レベルを目指し奮闘中なのだとか。そんな幡野さんから、韓国語の話、語学学習の話、そしてスクール運営をする中での様々な風景について語っていただきます。

第7回 「〇手な通訳は、社会の〇」

3月3日に放映された「NHKプロフェッショナル 仕事の流儀」をご覧になりましたでしょうか。この日は英語通訳者の長井鞠子さんの特集でした。番組の副題は「言葉を超えて、人をつなぐ」。(再放送の情報は、こちらをご覧ください→ http://www.nhk.or.jp/professional/

私は瞬きするのも忘れるほど集中して観ました。下準備の大変さ、訳語を悩み抜くこと、訳出しに必要な集中力、外国語だけでなく母語の大切さ、これらは普段から当校での通訳の授業を拝見したり、先生方や受講生の皆さんと話すと知り得ることではありますが、番組は実際の現場に密着しているのでそれがリアルに感じられました。

大きな国際会議やサミットなど、大切な舞台で活躍する長井さん。その重圧や責任感はいかほどのものでしょう。通訳場面や対象の種類に貴賤はないけれど、それでも友達の観光案内をしながらする通訳と、政府間交渉におけるような通訳では、その重圧は雲泥の差があります。

そんな大海原に乗り込んでいく長井さんの姿を見て、私が「通訳をする」ということをしなくなった過程や考えを久しぶりに思い出しました。私は以前、「(私のように)下手な通訳は社会の悪だ」と思い、通訳をしなくなりました。いまでは通訳を生業とする人々と一緒に仕事をしたり、通訳の勉強をする人のサポートをする仕事にシフトしています。その理由を、いくつかの経験談などをもとにお話いたしましょう。

20代のころ韓国に留学して語学学校の最上級を卒業し、日本に帰国したのち通訳学校で通訳の勉強を始めました。約半年のコースを終えたとき、学習仲間がある日韓交流会議の一回限りの通訳アルバイトを紹介してくれました。これが私の初めての正式な場所での通訳体験です。会議では機関銃のような速さで話す人、興奮して長く話し、文章を切ってくれない人、通訳者の訳に納得がいかず、途中からもう一方の言語で自分で話し出す人など様々で、私を含む3人のアルバイト通訳は疲弊しました。このときの疲労感はいまでも忘れられません。頭が石になってしまったように硬直しました。しかし、お互いの国に興味がある人々が和気あいあいと進める会議で、中には両言語に堪能な人もいますし、終了後の交流会は通訳者はおまけのようなもので、みなさん身振り手振りコミュニケーションを取り、逆に思うように通じ合わないことが一念発起して勉強を始めたりするきっかけになったりもします。このような交流会議は、アルバイト通訳でもよしとしてくれる雰囲気がありました。

勤め先で社内の通訳を務めたこともありますが、普段一緒に仕事をしている人の話し方の癖などが分かると、通訳は随分しやすかったです。韓国から出張者が来て会議をするときなども、普段接している業務内容なので戸惑うことは少なかったです。議論が煮詰まると、「じゃあこれは今後の検討材料にしよう」と結論を先送りしたり、解決策を長期的に検討したりできるので、プレッシャーもそれほど大きくなかったように思います。

しかし、30歳のとき日韓ビジネス交流支援を事業とするアイケーブリッジを立ち上げ、いろんな企業とお付き合いをすることになり、ビジネスパートナーと共にする通訳、単発で請け負う通訳など、様々な通訳を体験する中で、先の考えに至りました。

社運をかけた国際間の企業交渉や新規ビジネス開拓などの大切な第一回目の会議などは、各国の商習慣の違い、企業文化の違い、理想像や期待度の違い、強弱関係などがぶつかり合います。さらには、当時の日韓ビジネスというとIT分野が多く、専門用語をそのまま置き換えても通じなかったり、お互いの国のビジネス慣習や常識、企業文化が違うので、聞こえてきた言葉を逐語訳するだけではその人の言わんとしている本意が伝わらないなど、自分はもちろん、その場にいる人すべてがもどかしい、というような場面を経験しました。このやりきれない雰囲気。それをどうすることもできないのは、本当に辛いことです。でも、自分のパフォーマンスが良ければ、この交渉、ビジネスは成り立つのかもしれない、成り立ったのかもしれないと思い、その責任を感じると、「もう私はこれ以上通訳をしてはいけない」と思ってしまうのです。

さて、「下手な通訳は社会の悪」を裏返すと、「上手な通訳は社会の善」。長井さんが一度、準備を怠ったとき失敗をし、「もうあなたは来なくていいよ」と言われたというエピソードが番組では紹介されていました。しかし、ある人からの手紙に励まされ、「負けるもんか」とふんばります。それから、仕事前に行う手書きの単語帳作りは一時も欠かさないそうです。

いまや一流の通訳者になった長井さんは、その抜群のパフォーマンス力で様々な重要な交渉を成立させる一助を果たしています。これこそ、究極の社会貢献でしょう。

「善き通訳者」であるために、一時も満足せず訓練を続ける通訳の先生方や受講生の皆さん、私はそんな皆さんを心から尊敬しています。そして、精一杯応援したいと思っています。


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プロフィール

幡野泉

幡野泉さん
早稲田大学第一文学部卒業。1998年、韓国・延世大学校韓国語学堂修了。韓国大手商船会社の日本総代理店に勤務後、有限会社アイ・ ケー・ブリッジ設立。04年には「シゴトの韓国語講座(現・アイケーブリッジ外語学院)」を開設し、ビジネス韓国語を中心とした講座運営を開始。同年、延世大学校韓国語教師研 修所、第20期研修過程修了。現在、「アイケーブリッジ外語学院」代表および「All About 韓国語」ガイド。著書に『明日から使えるシゴトの韓国語』(アルク)、『シゴトの韓国語 基礎編応用編』(三修社)、『リアルな表現が話せる!韓国語フレーズブック』(新星出版社)などがある。2010年の中国語講座開講をきっかけに中国語の学習を開始し、2012年にはHSK(新漢語水平考試験)の5級を取得。