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知ってトクするシゴトの韓国語

ハイ・キャリアの韓国語コラム。アイケーブリッジ外語学院の幡野さんがお届けする、日常生活やビジネスシーンの活き活きとした韓国語表現集。 旬の話題や、日本語と比較したときの興味深さなど、多彩な内容です。

第8回 もう少し大らかになって、韓国語も「世界語」に。

強豪、大阪朝鮮高等学校ラグビー部を追ったドキュメンタリー映画、『60万回のトライ』を観てきました。社会的問題を扱いながらも暗く重い要素を感じさせず、スポーツマン精神に溢れた若者たちの、爽やかな笑顔と力強いスクラム、タックルが感動的な映画でした。

朝鮮学校については映画の中で語り手さんが語ってくれますが、第二次世界大戦後、朝鮮半島に帰国しなかった人たちが民族教育を受けるために設立された学校です。いまでも幼稚園から大学までがあり、当校にも「高校卒業まで朝鮮学校でした」「朝鮮大学校まで進みました」という方が韓国語を、多くは通訳や翻訳を学びにいらっしゃいます。

皆さんに共通して言えるのは、語彙の豊富さと流ちょうさ。日本語ネイティブではなかなか身につかない高級語彙をサラリと使いこなします。話すスピードも速く、羨ましい限りです。

しかし一方で、イントネーションや独特の語彙などにコンプレックスを持つ人も多く、「直したい」と口々におっしゃいます。どうも、韓国出身の、韓国語ネイティブの人々に指摘され、気にしてしまうようです。

話は変わりますが、当校が約4年前に中国語講座をスタートさせたときの説明会で、「通訳案内士道場」を運営し、韓国語と中国語の通訳案内士の資格を持つ高田直志先生に「韓国語から中国語への招待状」というテーマで基調講演をしていただきました(当日の様子)。そのときのお話で非常に印象に残っているのが、「中国語は、英語のような世界語です」というお話。

中国は広く、55あまりの民族の集合体。民族によっては固有の言語があり、それ以外に共通語として使うのが中国語なので、例えば高田先生が中国で中国語を話すと、「外国人だろう」とならずに、どこか別の地方の人なのだろうなと認識される程度なのだとか。

私はその話を聞いて、「なるほど、それは居心地がいい。すぐに'外国人だろう。どこから来たんだ。イントネーションで(発音で)すぐ分かる'となる韓国、韓国語とは大きな違いだな」と思いました。

もう一つ。以前出場した「世界韓国語雄弁大会」で少し残念に思う経験をしました。中国の吉林省、延辺(北朝鮮との国境に近い中国の、朝鮮民族の人々が暮らす地域。)から出場した発表者のことを、審査委員長さんが講評の際に「この大会は韓国の大会。北朝鮮の言葉は使わないで下さい」とおっしゃったのです。彼女の発表は生き生きとしていて、表情も豊かでとても印象的だったので、驚きました。彼女のその後の残念そうな暗い表情は痛々しかったです。

以前、私は第二回のコラムで、「通訳を目指すなら、発音は良くないといけない」と書きました。確かに、テレビから流れる通訳者の日本語がバリバリの方言だったりしたらそれはそれで衝撃的なので(笑)それとは別の話として、日本で暮らす朝鮮学校の人々が話すことば、中国の吉林省の人々が話すことばも韓国語(朝鮮語)。せっかく「世界語」になり得る要素を持つのですから、もっと大らかになれないかなぁ、と思ったりもするのです。

「方言というレベルを超えた、地域独特の語彙、イントネーションがある」というのは、一時期の移民制度などを除けば、島国でほぼ散らばる必要性がなかった日本、日本語にはないことです。韓国語を愛する人間として、韓国出身の韓国語ネイティブの人たちにお願いしたいのは、すぐに「ソウルの標準語でない、おかしい!」となってしまうのではなく、あれも、これも、私たちの誇らしい言語、と大らかに捉えてほしいということ。

標準語は守りつつ、通訳者の発音・イントネーションも守られつつ(笑)、その他7,700万人といわれる朝鮮語人口(東京外国語大学の調査ページ「朝鮮語を知る~総論」)の人々が話すことばに対しては、「世界語」に近い許容性があるといいな、と思っています。


第7回 「〇手な通訳は、社会の〇」

3月3日に放映された「NHKプロフェッショナル 仕事の流儀」をご覧になりましたでしょうか。この日は英語通訳者の長井鞠子さんの特集でした。番組の副題は「言葉を超えて、人をつなぐ」。(再放送の情報は、こちらをご覧ください→ http://www.nhk.or.jp/professional/

私は瞬きするのも忘れるほど集中して観ました。下準備の大変さ、訳語を悩み抜くこと、訳出しに必要な集中力、外国語だけでなく母語の大切さ、これらは普段から当校での通訳の授業を拝見したり、先生方や受講生の皆さんと話すと知り得ることではありますが、番組は実際の現場に密着しているのでそれがリアルに感じられました。

大きな国際会議やサミットなど、大切な舞台で活躍する長井さん。その重圧や責任感はいかほどのものでしょう。通訳場面や対象の種類に貴賤はないけれど、それでも友達の観光案内をしながらする通訳と、政府間交渉におけるような通訳では、その重圧は雲泥の差があります。

そんな大海原に乗り込んでいく長井さんの姿を見て、私が「通訳をする」ということをしなくなった過程や考えを久しぶりに思い出しました。私は以前、「(私のように)下手な通訳は社会の悪だ」と思い、通訳をしなくなりました。いまでは通訳を生業とする人々と一緒に仕事をしたり、通訳の勉強をする人のサポートをする仕事にシフトしています。その理由を、いくつかの経験談などをもとにお話いたしましょう。

20代のころ韓国に留学して語学学校の最上級を卒業し、日本に帰国したのち通訳学校で通訳の勉強を始めました。約半年のコースを終えたとき、学習仲間がある日韓交流会議の一回限りの通訳アルバイトを紹介してくれました。これが私の初めての正式な場所での通訳体験です。会議では機関銃のような速さで話す人、興奮して長く話し、文章を切ってくれない人、通訳者の訳に納得がいかず、途中からもう一方の言語で自分で話し出す人など様々で、私を含む3人のアルバイト通訳は疲弊しました。このときの疲労感はいまでも忘れられません。頭が石になってしまったように硬直しました。しかし、お互いの国に興味がある人々が和気あいあいと進める会議で、中には両言語に堪能な人もいますし、終了後の交流会は通訳者はおまけのようなもので、みなさん身振り手振りコミュニケーションを取り、逆に思うように通じ合わないことが一念発起して勉強を始めたりするきっかけになったりもします。このような交流会議は、アルバイト通訳でもよしとしてくれる雰囲気がありました。

勤め先で社内の通訳を務めたこともありますが、普段一緒に仕事をしている人の話し方の癖などが分かると、通訳は随分しやすかったです。韓国から出張者が来て会議をするときなども、普段接している業務内容なので戸惑うことは少なかったです。議論が煮詰まると、「じゃあこれは今後の検討材料にしよう」と結論を先送りしたり、解決策を長期的に検討したりできるので、プレッシャーもそれほど大きくなかったように思います。

しかし、30歳のとき日韓ビジネス交流支援を事業とするアイケーブリッジを立ち上げ、いろんな企業とお付き合いをすることになり、ビジネスパートナーと共にする通訳、単発で請け負う通訳など、様々な通訳を体験する中で、先の考えに至りました。

社運をかけた国際間の企業交渉や新規ビジネス開拓などの大切な第一回目の会議などは、各国の商習慣の違い、企業文化の違い、理想像や期待度の違い、強弱関係などがぶつかり合います。さらには、当時の日韓ビジネスというとIT分野が多く、専門用語をそのまま置き換えても通じなかったり、お互いの国のビジネス慣習や常識、企業文化が違うので、聞こえてきた言葉を逐語訳するだけではその人の言わんとしている本意が伝わらないなど、自分はもちろん、その場にいる人すべてがもどかしい、というような場面を経験しました。このやりきれない雰囲気。それをどうすることもできないのは、本当に辛いことです。でも、自分のパフォーマンスが良ければ、この交渉、ビジネスは成り立つのかもしれない、成り立ったのかもしれないと思い、その責任を感じると、「もう私はこれ以上通訳をしてはいけない」と思ってしまうのです。

さて、「下手な通訳は社会の悪」を裏返すと、「上手な通訳は社会の善」。長井さんが一度、準備を怠ったとき失敗をし、「もうあなたは来なくていいよ」と言われたというエピソードが番組では紹介されていました。しかし、ある人からの手紙に励まされ、「負けるもんか」とふんばります。それから、仕事前に行う手書きの単語帳作りは一時も欠かさないそうです。

いまや一流の通訳者になった長井さんは、その抜群のパフォーマンス力で様々な重要な交渉を成立させる一助を果たしています。これこそ、究極の社会貢献でしょう。

「善き通訳者」であるために、一時も満足せず訓練を続ける通訳の先生方や受講生の皆さん、私はそんな皆さんを心から尊敬しています。そして、精一杯応援したいと思っています。


第6回 完璧を求められる日韓通訳

前回のコラムで、「韓国語は日本語と似ていて、外国語とは思えないほどだった」と書きました。言語間で共通点が多いことは明らかに学びやすい要素に繋がりますが、それによって引き起こされる大変な点もあるのだということを、先日当校の通訳の先生とお話していて知りました。

韓国語と日本語は語順が一緒なので、通訳、翻訳をするとき、いわゆる「逐語訳(ちくごやく):原文の一語一語を忠実にたどって訳すこと」が割としやすいです。しかし、例えば英語はそうはいきませんよね。主語があり、その次にすぐ動詞や形容詞の述語がくるなど、日本語の語順とはかなり異なるため、逐語訳はしにくいでしょう。通訳をするときは情報を頭の中に溜めたり、メモしたりしながら訳出しをしていくのでしょうが、英語の通訳者の方々の頭の中はどうなっているんだろうと感心します。

中国語もやはり日本語の性質とはかなり違うので、英語や中国語の場合、通訳は「文章を100%、忠実に、瞬時に再現するのはかなり難しい」ということが前提としてあり、大意を伝達する、重要ポイントを伝達することがまず求められるそうです。しかし韓国語の場合、語順がほぼ一緒で、質の高い逐語訳が可能になるので「完璧」を求められ、少しの言葉の抜けや落ちもミスとして逆に指摘を受けやすいのだとか。通訳者にとって、これはほんとうに大変なことだと思いました。

またこれは私があらゆる現場で個人的に感じたことですが、日韓ビジネスの現場では、日本留学経験者の韓国人や在日韓国人の方々が活躍していることが多く、日本語と韓国語の両言語が流暢で、通訳者に引けを取らないほどの語学力を備える方が割と多い気がします。

そういった方々がコミュニケーションのサポートをしてくれる場合もありますが、通訳者にとって少々「やりにくい」場面も少なからず出てくることになります。例えば、「さっき○○と訳していましたけど、△△と言った方が良かったんじゃないでしょうか」なんて指摘を受けることもある、ということになりますから。

このように、国が近い、言語が近いと、嬉しいこともある反面、場面によっては大変なことも出てくるのですね。どんな分野でも、上にいけばいくほど新たな苦労が生じるのだということが分かります。


第5回 韓国語は外国語と思えなかった。韓国語にのめり込んだキッカケ

このお正月、地元で出身中学校の大規模な同窓会が開催されました。初めて英語を学んだ恩師に再会し、私の外国語との出会いについて、思い返していました。

当時、ほとんどの子供は中学校一年生で英語に触れるのが常でしたが、私もそうでした。初めて触れる「外国語」。理解できるのだろうか、と緊張していましたが、発音、文法、英語圏の国々の話題など、英語を取り巻くその世界が大好きになりました。

高校のときは、「大学では教育学部か英文科に進み、英語の先生になりたいな」と漠然と思っていましたが、ロシア文学が専攻できる大学に進んだことで、興味のあったロシアについて勉強したくなり、ロシア語を学び始めました。

初めて行った海外はロシアのモスクワ。大学三年時の夏、1ヶ月の短期語学留学でした。流暢な会話はほど遠く、もどかしい思いだけが残りました。さらには、当時はソ連崩壊直後の混乱期。治安が悪く、ウブな私たちは格好のカモにされ、怖い思いもたくさんし、ロシアへの想い、付き合いは学生時代で終わってしまいました。

卒業後就職し、心にポッカリ穴が空いていた頃、学生時代一緒にロシア語を学んでいた友人が「韓国語って面白いよ」と、ハングルのカラクリを簡単に教えてくれました。「子音と母音があって、アルファベットみたいに読めて......」。

「へぇ~!」と思い、韓国語の民間語学講座に通い始めました。その講座は「朝鮮語講座」という名前で、事務局に「朝鮮語と書いてありますが、韓国語は勉強できるんですか?」と問い合わせるほどの知識のなさでした。

韓国人の女性の先生。至近距離で外国の方と話し、かつ密に付き合うのは初めてのことだったのですべてが新鮮でした。その後、韓国、韓国語にのめり込み、韓国留学、韓国関連の仕事をするに至りました。

のめり込んだ要素はいろいろありますが、やはり、直前までロシア語という難しい言語に接していたことによる反動が大きかったと思います。ロシア語は女性名詞、男性名詞、中性名詞があり、動詞や形容詞の格変化は夥(おびただ)しく、英語に比べ、はるかに難しかった。

当時は韓国語を学ぶ人は少なく、「どうして韓国語?」と聞かれる(いぶかしがられる?)ことはしょっちゅうでした。でも、「こんなに日本語に似た言語を勉強しないだなんてもったいない。この楽しさが分からないなんて、逆におかしいヨ。」と本気で思っていました。
韓国語がいかに日本語と似ていることか!? ロシア語に比べれば、韓国語は外国語と思えないほどでした。

外国語を学ぶすべての人が、それを学ぶことになったきっかけや動機がありますよね。ハイキャリアをご覧になっている皆さんは、なにかしらの言語に通じている方が多いでしょう。皆さんそれぞれ、いろんなドラマをお持ちかと思います。皆さんが、なぜ、どのようにしてその世界にのめり込むようになったのか、とても聞いてみたいです。


第4回 スピーチ大会の同時通訳にチャレンジ

先日、当校の一大イベントである第7回スピーチ大会を開催しました。年に一回開催しておりまして今年で7回目ですが、今回初の試みがありました。

韓国語の「通訳翻訳プログラム」に所属する皆さんが、演説をする出場者の皆さんの同時通訳にチャレンジしたのです。これは、第3回のコラムで書かせて頂いた「同時通訳ブース 体験レッスン」に参加された受講生の方の発案でした。

出場者は3分以内の韓国語スピーチを発表します。入門者の方は自己紹介から、中上級者の方は「韓国語を学ぶ理由」「韓国で経験した心温まる話/失敗談」など、あらゆるテーマで発表を行います。同時通訳者はそのスピーチの日本語出しを行います。ちなみに、発表当日にお配りするパンフレットには韓国語の原稿と、日本語の翻訳が付いています。

会場に同時通訳の設備はなく、同時通訳にチャレンジする方が持参した自身の録音機に日本語出しをしていきました。したがって、聴衆者の耳に日本語出しの通訳音声が届けられるものではありませんが、録音した音声は後日、クラスで先生方からフィードバックをしてもらうことになりました。

さて、「一人数分以内」「原稿内容もそこまで難易度の高いものはなく、逆に親しみやすいものばかり」、「韓国語と日本語の原稿付き」という同時通訳初心者には好条件が揃っていると思いましたが、一方で、話者が日本語話者なので「韓国人ネイティブスピーカーの発する韓国語ではない」「韓国語・日本語の原稿があらかじめ渡されていたら、日本語を読むだけになってしまい訓練にならないのでは?」という疑問も頭をかすめました。

そこで、クラスの先生に尋ねてみました。「韓国語ネイティブでなく、日本語話者の韓国語なので、発音がところどころ不明瞭で聞き取れなかったりするかもしれませんし、日本語原稿があるので、読むだけになってしまい、訓練にならないのではないでしょうか」と。

そうしたら先生は、「いいえ、そんなことはありません。韓国語ネイティブだからといって分かりやすい発音で話すとは限らないし、韓国語に堪能な外国人が韓国語で話す内容を通訳することもあるので、'発音が聞き取りにくい人の通訳をする'という訓練にもなります。また、いくら日本語の原稿があるからといっても、目で原稿を追いながら、耳でスピーチを聞いてそれを通訳するとなると、うまくいかないことも多いんです。良い経験になると思います」とおっしゃいました。さすが、百戦錬磨の先生だな、と思いました。

スピーチ大会当日、5名の同時通訳者が会場後方に座り、各6名ずつ程度の出場者の韓国語を日本語に訳出ししました(当日の様子を、当校ブログに掲載しております→こちら)。

原稿を前もってお送りし、そして担当も決めさせていただいていたので、それぞれがきちんと準備をされ、落ち着いて訳出しをされていました。スピーチ大会の緊張感と、その中で通訳をするという臨場感を少しでも感じていただけたのではないか、と思います。

これからも、少しずつ、いろんな方法で通訳者・翻訳者を志す方々の経験値を高めていくお手伝いをさせていただきたいと思っています。



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プロフィール

幡野泉

幡野泉さん
アイケーブリッジ外語学院」代表および「All About 韓国語」ガイド。 1998年、韓国・延世大学校韓国語学堂修了。同年コリア・ヘラルド新聞社主催「第33回外国人韓国語雄弁大会」にて最優秀賞・文化観光部長官賞受賞。 2004年に「シゴトの韓国語講座(現・アイケーブリッジ外語学院)」を開設。 同年、延世大学校韓国語教師研修所 第20期研修過程修了。 2016年 韓国雄弁人協会主催「第21回世界韓国語雄弁大会」にて国務総理賞受賞。 著書に『明日から使えるシゴトの韓国語』(アルク)、『シゴトの韓国語 基礎編応用編』(三修社)、『リアルな表現が話せる!韓国語フレーズブック』(新星出版社)などがある。 2010年の中国語講座開講をきっかけに中国語の学習を開始し、2014年にHSK(新漢語水平考試験)最上級6級で181点獲得(合否なし)。 2015年 第32回全日本中国語スピーチコンテストにて第2位入賞。 2016年NHK World Chinese主催 第3回中国語ラジオパーソナリティコンテストにて会場賞を受賞。

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