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通訳式TOEIC勉強法

通訳式TOEIC勉強法

 通訳のトレーニングを行う人の多くは、すでにTOEICなどの英語試験で高得点を挙げている人が大半です。例えば通訳学校の受講生募集要項を見てみると、「TOEIC900点以上」「英検1級以上」などが最低の条件となされていることが多いことからも分かるでしょう。しかしだからといって、通訳式の英語勉強法がTOEICの得点アップにつながらないということはありません。実は、TOEIC900点や満点を取って一般的に「あの人は英語がすごくできる」と言われている人でさえ、通訳トレーニングを始めるとすぐに自らの英語力不足に気づくものです。そして、通訳トレーニングを通してTOEICなどの英語試験では図れないレベルで英語力をアップさせているのです。

 それでは、なぜ通訳式TOEIC勉強法が役に立つのでしょうか?これを理解するには、一般的に知られていないTOEICと通訳の共通点を把握することが役に立ちます。英語力を計る試験と、ビジネスや国際会議の通訳の世界にはそれほど共通点が無いと思われるかもしれません。しかし実はそんなことは無いのです。大きな国際会議で同時通訳をしている会議通訳者、CNNやBBCなど有名なニュースの同時通訳をしている放送通訳者、もしくは重要な契約の内容を通訳している通訳者の姿を想像してみてください。目の前にスピーチ原稿があったとしても、どれだけ予習をして仕事に望んだとしても、スピーカーの口から何が出てくるかはその場にならなければ分かりません。どれだけの勉強をしたって、スピーカーはその分野の専門家。通訳者は言葉の専門家ではあっても、ビジネスや政治、国際関係の専門家ではありませんから、「本当にきちんと訳せるだろうか?」と常に緊張しながら通訳ブースや通訳の席にいるのが実情です。思わぬ発言があったときなど、訳していて、「聞き間違えだったらこの後、通訳者としてのキャリアは終わりかも」と思うことだってあるのです。

 この心境は、TOEICなどの英語試験を受けている皆さんの心境と類似している点があります。どれだけ勉強をしても、実際にどんな試験問題が出るか分かりません。自分の苦手な分野のリスニング問題が出たらどうしますか? 通訳者が時に知らない単語に出会ったり、聞き逃したりすることがあるように、皆さんだって、試験問題に知らない単語があったり、リスニング問題で聞き逃しをしたりした経験があるでしょう。

 なかなか想像できないかもしれませんが、同時通訳ブースの中を覗いてみると、試験会場の皆さんと同じような心境にある通訳者ばかりです。聴衆にブース内の音声が聞こえないようにMuteボタンを押して、「今何て言った??」と聞いたり、隣のパートナーと首を傾げあったり、手元の資料を無視して目を瞑り、耳から入ってくる音声に集中したり。時にはスピーカーの話している内容の半分近くに「???」と思うことだってあるのが事実です。それでは、なぜ、プロの通訳者はそれでもある程度の質を確保しながら訳出できるのでしょうか? ここに実はTOEICスコアアップに役立つ通訳トレーニングの秘密が隠されています。

通訳者はロジックを読みきる

 通訳者はロジックをつかむのが得意です。別のコラムで、英語と日本語にはロジックの違いがあると書きました。そして英語らしい英語を話し、英語を本当の意味で理解するには、日本語とは全く違ったロジックを理解する必要があると述べました。実力のある通訳者はこの英語のロジックをよく理解しています。そしてスピーカーの思考回路を読むのを得意としています。情報をインプットしている通訳者の頭の中では、「なるほど、AだからBで、その結果Cとなり、だからDという結論なんだな」という風に、話の筋を常に追っています。その結果、情報を羅列として理解するのではなく、整理した形で理解できます。例えば、好きなスポーツとそれほどでもないスポーツを1つずつ思い浮かべてください。好きなスポーツのルールは、きっとある程度系統立てて説明できるのではないですか? たとえば「サッカーでは、手を使うことは許されていません。しかし例外もあります。それは自陣のペナルティーエリア内にいるゴールキーパーと、手が偶発的に競技者の手や腕に当たった場合です。ですから、今回の様に競技者が意図的に手を使って味方選手にボールをパスした場合は、ハンドリングの反則になるのです。」と言った風です。しかし、それほど好きではないスポーツの場合、何となくルールは知っていても、ここまで論理的に話をすることはできないでしょう。ロジックがあるとは、その情報を本当の意味で理解していることです。これはリスニングもリーディングも同じです。ですから、常に話の筋を理解しながら聞く、読むことが重要です。ただ英字新聞や英語のエッセーを読むのではなく、またただ正解か不正解かを練習問題を解きながら考えるのではなく、話の筋をきちんと追うトレーニグをすることは有益です。通訳講座において、「どのようなロジックですか?」と講師が学生に聞くことは稀ではありません。

通訳者は根幹の情報を逃さない

 通訳者の頭の中が「???」で埋め尽くされていても、ある程度のクオリティーで訳出ができるのは、通訳者のトレーニングの中に、根幹の情報を逃さないトレーニングがあるからです。言い換えればBig Pictureを捉えながら思考する、と言えるでしょう。例えば、なぜか「日本は世界で1番大きな国です」と聞こえたとしましょう。Big Pictureが分かっていれば、「今インプットされた情報はおかしい」とすぐに分かります。本当は第5回目の世界大会であるのに、スピーカーが「第4回の国際会議にご招待いただきありがとうございます」と言ってしまっても、通訳者は落ち着いて「第5回」と言いなおすことがあるのと同じです(そうすべきかどうかには、色々な議論がありますが)。

 このようにBig Pictureを捉える訓練で強調されるのは、「要するに何を言いたいか」「結局のところ、何なのか?」ということです。例えば皆さんも、それほど好きではない上司が会議で発言していたり、話の長い人の意見を聞いていて、「色々言うのもいいけど、結局なんなの?」と感じた経験があるのではないでしょうか? この結局のところ、というのがBig Pictureであり、根幹の情報です。

 「午後6時に薬局の前のマクドナルドで待ち合わせ」という情報は、「元気?」「元気だよ。最近会ってないね。」という情報より重要ですよね。TOEICの試験では非常に凝縮された情報が特にリスニング問題では与えられがちですが、その環境でも「あ、これは待ち合わせの約束だな」と理解すれば、場所や時間の情報に意識を集中させることもできるでしょう。

 こう読むと、非常に難しいプロセスのように感じるかもしれません。しかし私たちは日常生活の中でこれを実践しているのです。例えば大学の授業で、教授が話した内容をすべてノートに書いていましたか? そんなことは無いでしょう。自然に重要な情報と、そうではない情報を取捨選択していたはずです。それと同じことです。試験という特別か環境にいることで、どうしても集中が難しくなりがちですが、これは特別なスキルではありません。

知りたいという気持ち

 ただ単純に「知りたい」と思う気持ちがTOEICのスコアに影響すると書いたら、あまりに抽象的と思われるかもしれません。しかしこの気持ちが、実は通訳者の理解を促進する役割を果たしているのです。TOEICは英語のグローバル化を反映して、アメリカの英語だけではなく、世界各地の英語を網羅しようとしています。しかしそれでも英語検定試験という枠組みがありますから、あまりに強いアクセントは出題されませんし、会話が聞こえにくくなるような雑音が入ることもありません。しかし通訳の現場では、ものすごく強いアクセントも、時には技術上の問題で雑音が入ることもあります。しかし多くの場合、音声が全く入らない場合や、明らかに理解が不能な場合を除いて、「音声の調子が悪いため、通訳できません」ということはありません。例えば皆さんがCNNなどの同時通訳を聞いていて、その様なせりふを耳にしたことはないでしょう。

 この背景には、「訳出ができなければ、次の仕事が無いかもしれない」「誤訳したら、次の仕事が無いかもしれない」そして究極的には、「仕事が無かったら、路頭に困る」という切実で素直な気持ちがあります。これはものすごいプレッシャーです。それと同じプレッシャーを皆さんが感じることは、皆さんの持つ能力を最大限に引き出すことを妨げるかもしれません。しかしそれくらいの気持ちで「知ろう」と思うことは、必ず皆さんの読解や聴解に影響を与えます。

 「伝えたい」という気持ちや「理解したい」という気持ちが大切だ、と別のコラムで書きました。大切な人に伝えたい、と思うように、大切な人の気持ちを理解したい、と思うでしょう。そして少しくらい分からないことがあっても、「自分のできる範囲内でも理解したい」と思うのではないでしょうか。その様な気持ちを持ってTOEICに望むことは決して精神論ではありません。

通訳トレーニングとTOEIC

 これまでの内容で、TOEICと通訳の間には思わぬ類似点があるのを理解していただけたでしょうか? もちろん、実際に通訳トレーニングを行うことは大切です。シャドウイング、メモ取り、サマリーなど、色々なトレーニング方法があります。しかしその1歩目として重要なのは、以下の4つの点です。

 通訳者が業務上行っていることと、TOEICの試験中の状況には共通点があり、実は通訳トレーニングがTOEICの高得点につながることを理解する。

 ロジックを追うことで、深い理解が可能になるだけではなく、聞き間違いや聞き逃しに対応することができるようになる。

 Big Pictureを考えることも、聞き逃しや聞き間違いに対応する手段となり、同時に話の大筋を理解することにつながる。その結果、「要するに何なのか」という本当に重要な情報を把握することができる。 精神論に聞こえがちですが、「知ろう」とする気持ちは「高得点を得よう」という気持ちとは違います。真摯に「知ろう」と思うことが、必ず理解度のアップにつながります。

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