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21世紀の通訳 -Interpreting in the 21st Century-

第51回 Brexit

おそらく他のコラムでも取り上げられるでしょうが、イギリスがEUを離脱することになってしまいました。今回は、この出来事が通訳業界にどのような影響が出てくるか、可能性を考えてみたいと思います。

どの業界でもそうでしょうが、通訳業界も外部要因に大きく左右されます。私は当時通訳者ではありませんでしたが、東日本大震災が起こったあとは、福島第一原発の事故があったことで、日本から外国人が引き上げてしまいました。日本で予定されていた国際会議も軒並みキャンセルになり、中小の通訳エージェントの中には淘汰されたところもあったようです。フリーランスから、3.11をきっかけに社内通訳者に転向した通訳者もいると聞いたことがあります。

今回のイギリスのEU離脱はどうでしょうか。

まず、現在イギリスにヨーロッパ展開の拠点を置いている日本の企業が、戦略の見直しを迫られるだろうということがあります。そのため、短期的には密なコミュニケーションが必要となり、通訳業界は短期的な特需に沸くかもしれません。その後、様々な企業が機能を大陸に移してしまい、イギリスに拠点を置く日本企業の数は大きく減ってしまう可能性があります。ただ、拠点がどこであろうとも、ビジネスの言語は英語なので、イギリスでの案件は減るかもしれませんが、ビジネス通訳自体の需要は変わらないということも考えられます。

さらに、イギリスの大学院における通訳教育のあり方も今後変わっていくかもしれません。ロンドン時代のクラスメートの多くは、将来はEUのスタッフ通訳者として働きたがっていました。イギリス以外にも英語圏の国はあるものの、EUのパートナー大学となっているリーズ大学とバース大学は、イギリス人の通訳者を育成してEUに貢献する必要がなくなることから、存在意義が問われることになるでしょう。

また、逆説的ですが、EUの中で、逆に英語が多く使われるようになるかもしれません。強国であるイギリスがいる場合は、イギリスに有利に働かないように通訳を通じて折衝を行っていたのが、イギリスが抜けることによって、英語が使われ出すということがあるのかもしれません。EUでの通訳、翻訳のコストは相当かかっているため、イギリスが抜けたことで、逆に共通語を英語にしようとする動きが進む可能性もあるのではないかと思っています。

ビジネスや政治の場でも、非ネイティブ同士の場合は通訳者を介さずに英語で直接折衝をするけれど、非ネイティブが英語ネイティブと渡り合うときは、相手の土俵で戦わなくて済むよう、通訳を介することもあると聞いたことがあります。


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プロフィール

佐藤 祐大

佐藤 祐大さん
日英会議通訳者。熊本大学英文科卒。 公益財団法人日本英語検定協会に4年半務めたのち、ロンドンメトロポリタン大学に留学し、会議通訳の修士号を取得。 製薬会社、経営コンサル会社での社内通訳者を経て、2016年7月より現職。