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21世紀の通訳 -Interpreting in the 21st Century-

第5回 バイリンガル社員は脅威?

今は日本人でも、英語を話す人がずいぶんいます。帰国子女だったり、海外留学の経験があったり、アメリカでMBAを取得したという人もいるでしょう。通訳者としては、そのような社員の方の存在をプレッシャーに感じることもあると思います。特に、英語の通訳者は英語以外の言語の通訳者を羨ましく感じているかもしれません。フランス語やイタリア語になると、話す日本人の数はぐっと減るからです。

私もバイリンガル社員の存在はプレッシャーに感じていましたが、ロンドンで会議通訳の勉強をしていたときに、講師の先生(ハイキャリアでも連載されているグリーン先生です)が「私ももともとはバイリンガル社員がいると嫌だったけれど、何も指摘されなければ訳はOKだということだし、間違いを指摘されたとしても学びにつながるから、今はポジティブにとらえるようにしています」とおっしゃっていて、とても勇気付けられました。

バイリンガル社員の方も、嫌がらせで間違いを指摘するわけではなく、通訳者が伝達している情報に間違いや曖昧なところがあったときに、サポートしてくれているのです。しかも、これらの社員の方は、通訳に必要な事前準備や、どのような内容は訳しにくいのか、ということも把握しています。私の今の勤務先でも、訳自体は間違っていなくても、より社内で汎用的に使われている訳語や、カタカナのままで残した方がよい用語などを教えてくれます。基本的に通訳者の内容に関する知識は、ダニエル・ジルなどの研究者が指摘している通り、当事者を上回ることはない(例えば医療通訳者の医療に関する知識が医者の知識を上回るということは考えにくい)ため、これらのバイリンガル社員の方からのフィードバックはより正確な訳のためにとても貴重です。

先日は会食での通訳を務めましたが、会食なのでパナガイドは使わず、メモ帳も持っていったものの食事中にノートを取りながら通訳するのもどうかと思い、内容も懇談的なものと知らされていたので記憶力だけを頼りに通訳しました。ところが話が弾み、ビジネスの話にもなったため、割と長めの発言を逐次でメモなしで通訳しましたが、英語を話す社員の方が随時抜けたところを補足してくれたり、似たような内容をもう一度言い直したりしてくれました。

ということで、バイリンガル社員の方は、脅威ではなく心強い味方だ、と感じています。


第4回 ヒヤリハット

通訳者は常に誤訳をするリスクを抱えています。もちろんそれは私だからで、ベテランの方であればしないような間違いもありますが、人間すべてを知ることは不可能なので、どうしても知識や経験には限界があります。

先日、ある小規模な国際会議でボランティア通訳者を務める機会がありました。そこでは主にアジア各国から参加者が集まり意見交換をしていたのです が、パートナーが通訳していたときに、「子どもができたときには、ちゃんと育てていけるか分からなかったけど、they are still aliving...」という発言がありました。台湾人の50代くらいの女性が発言したのですが、「they are still arriving」=「まだまだ産むつもりだ」ってことか?と一瞬戸惑いました。

パートナーの訳は、「でも、子供たちは、ちゃんと生きています」。スピーカーは、英語がネイティブではないこともあり、形容詞のaliveにingをつけてしまったんですね。そのあと、大学のときの准教授の先生にこのエピソードを話したら、先生の教えている学生も、aliveに関してはこのような間違いをよくするということを教えていただきました。

ある大御所の通訳者の方も、「昔はアメリカさえ見ておいて、あとはオーストラリアのことをちょっと知っておけばよかったけれど、今はグローバル化で把握しておくべきことが増えた」とおっしゃっていました。

それから、こちらはあるビジネス会議でのこと。その会議では英語から日本語への通訳は不要で、日本語から英語にのみウィスパリング通訳を行っていました。

その中で、France has a big tender market...という発言があり、その日の昼にステーキを食べたこともあり、一瞬、柔らかい市場、チャンスがあるおいしい市場か?と思いましたが、1秒後には入札のほうのtenderだとうことが分かりました。政府調達の市場ということですね。

上記の2つの例はヒヤリハットですが、実際に事故を起こしてしまったことももちろんあります。ある会議では直前の依頼で、全く資料が出ない状態でいったところ、開口一番「Regarding (外国人の名前)~」ときたので、「~さんの件ですが」と張り切って訳したところ、「あ、それはシステムの名前です」と笑われてしまいました。

通訳者の失敗談は本当に面白い...のですが、それは思い返せばのことであって、誤訳をした直後は恥ずかしいやら情けないやらで冷や汗ものです。


第3回 社内通訳者の視点

今の勤務先は、全社に社内通訳者が1人しかいないため、基本的に私が全ての通訳業務を務めています。そうすると、どうしても通訳者のところには色々な情報が集まります。ほとんどのプロジェクトのミーティングに参加しますし、外部との商談の通訳も担当します。

通訳者としてのルールの1つに、機密保持がありますが、これは社外はもちろん、社内にも当てはまります。会議の内容を参加者以外に話してはならないのはもちろんですが、社員の方とのちょっとした雑談にも気を遣います。たとえば、通訳が必要な外国人役員のアジェンダは、すべて通訳者に共有されます。ですが、社長のアジェンダ1つとっても、何時に誰とどのようなミーティングが入っているか、というだけで、かなり色々なことが分かってしまいます。ですから、カジュアルに「明日の社長の予定はどうなってる?」と部長や課長に聞かれても、「秘書の方がご存知だと思いますよ」などとお茶を濁すしかないのです。また、「今日の社長の機嫌はどうだった?」と聞かれても、よかったとも悪かったとも言えません。どちらにしても、なぜ機嫌がよかったのか、悪かったのか、会話が展開していってしまうので危険です。

これは非常にジレンマになります。通訳者として、会議のたびに、色々な社員の方にあれこれと情報共有をお願いしておきながら、こちらからは情報提供は何もできないのですから。もちろん、そこは割り切ってやっていますが...。

通訳する必要のない移動中などは、社員の方とお話をして、日ごろの疑問点を確認しておきたくなりますが、口が滑ってしまう可能性もあるので、イギリスのパーティーではないですが、天気の話に終始したほうが安全かもしれませんね。

私もかつては団体職員でしたが、日々の業務を通じて、特定のことに習熟しても、このような俯瞰的な視点をもつ機会はありませんでした。あるフリーランス通訳者の方が、通訳の醍醐味は時代の波頭に立っていると実感できることだ、とおっしゃっていました。社内通訳者だと、時代の、とまではいきませんが、少なくとも勤務先の業界の最先端の情報に触れる機会はあり、これはとても貴重で面白い経験です。


第2回 通訳者の必要性

たまに知り合いなどから、「日本人も英語が出来る人が増えているでしょう。社内には英語を使える人もいるだろうし、通訳なんているの?」と聞かれることがあります。私も通訳者になる前は同じような疑問を持っていましたが、先日通訳の重要性を再認識させられることがありました。

ある2つの部署間の通訳を務めていたのですが、それぞれの意見が対立していました。部署Aは国際的な事業を扱っていることもあり、社員はみんな英語を話しますが、部署Bは主に国内の業務を行っているため、社員は英語を話しません。ただ、どちらの部署も日本語を介さない外国人部長が統括しています。そして、部署A、B、それぞれの担当者が外国人部長に対して自分たちの意見をアピールしようとしていました。

ここで、部署Aの英語を話す社員が通訳者を務めてしまうとどうでしょうか?部署Bの社員は、自分たちの発言がきちんと訳されているか心配になってしまいますよね。ですから、中立性を持った通訳者が必要になってくるわけです。また、通訳者は発言を訳すことだけに集中できますが、社員のみなさんは通訳をすることが仕事ではないので、発言を主体的に聞いて、問題点を洗い出したり、反論を考えたりするので、通訳をする余裕はないのです。

また、時間を節約するために、逐次通訳ではなく、ウィスパリング通訳を行うこともあります。これは通訳が必要な人の後ろや隣に座って、ささやき声で通訳をする、もしくはパナガイドなどのトランシーバーのような機器を使って通訳をすることを意味します。通訳が必要な人が複数いる場合や、スピーカーと聴衆の距離が離れているときなどに役立ちます。このウィスパリング通訳は同時通訳の一形態であるため、通訳者でなければ対応するのは難しいのです。

英語を話す日本人の数も増えていますが、グローバル化に伴って、急に日本の企業が外資系の企業に買収されたりすることもあります。通訳者の需要は、今後ますます大きくなっていくように思います。


第1回 はじめまして!

みなさん、こんにちは!

先月からテンナイン専属通訳者としてスタートを切った、佐藤祐大と申します。このブログでは、新米通訳者の私が日々仕事をする上の学びや気づきを綴っていこうと思っています。どうぞよろしくお願いします。

今回は初回ということで、簡単に自己紹介と、私が通訳者としてのスタートを切るまでの過程について簡単に書いてみたいと思います。

私はいわゆる純ジャパで、大学卒業までずっと九州各地を転々としました。大学での専攻を英語にしたのも、お恥ずかしながら消去法でした。特にやりたいことは ないけれど、英語かITをやっておくといいかな、と漠然と考え、文系だったので英文科に進学しました。その程度の意識でしたが、20歳のときにアメリカに 2週間ホームステイしたことがきっかけで、本格的に英語に興味を持ちました。

そのあとは国内の公益財団法人に就職したのですが、あまり英語を使う機会はありませんでした。そこで、通訳者を目指すことにしましたが、通訳者という仕事に対して漠然とした憧れはありましたが、どうすればなれるのかということについては、さっぱり見当がつきませんでした。どのくらいの英語力が必要なのかもわかりませんでしたし、帰国子女のよう に、特別なバックグラウンドがなければ難しいのかと悶々としていましたが、一度きりの人生なので、社会人生活も5年目を迎えたところで、思い切って挑戦してみることにしました。

国内の通訳学校に通うという選択肢もありましたが、修士号を取得したかったため、ロンドン・メトロポリタン大学の会議通訳科に留学することにしました。そして帰国後、何とか通訳者としてのスタートを切ることができたわけですが、「どうすれば通訳者になれるのか?」という質問に対する答えは、結局は「人それぞれ」だと思います。

大御所の方は、「成り行きで通訳者になった」という方が多いです。英語が話せる人材が今よりもっと希少だったときは、最初から大きい舞台での仕事を任され、OJTで学んだと方が多いようです。国内の通訳学校で訓練を受けて通訳者になる方もいれば、医療系や法律系などの他の専門を活かして、 特定の分野に特化した通訳者になるパターンあります。国家資格もないため、スタンダードな「なり方」は存在しません。社内通訳者を経て、フリーランスに転向する場合、通訳訓練を受けて、最初からフリーランスで始める場合など、実に様々なキャリアパスがあります。

ただ1つ必須条件があるとすれば、当たり前ですが、スキルがなければならないということです。私が所属しているテンナインでは、通訳経験があまりなくても、 スキルチェックをしています。私もそこでスキルチェックを受けて、コーディネーターさんに認めてもらい、通訳者としてのスタートを切ることができました。

通訳者というのは、最初にスタートを切るのが難しいキャリアだと思います。実績重視の業界なので、経験がないうちは最初の仕事を得るのが大変です。

私も同じ問題を抱えていましたが、たまたま単発の穴埋めのお仕事を引き受ける機会があり、ある外資系企業でCEO、CFOなどの通訳を務めました。その企業 ではたまたま社内通訳者を募集していて、他にも何人かトライアルを行っていたようなのですが、もしよければ社内通訳者として来ないか、とオファーをいただき、スタートを切ることができました。これも、やはり基本的な通訳スキルを身につけていたからだと思います。

通訳練習は、その気になれば今日からでも始めることができます。語学力が足りていないのであれば、語学学習から始めればいいし、日本語で読書をすることも、 表現力のアップにつながります。インターネット上の動画を、教材として利用して、実際に通訳をしてみることもできます。もちろん通訳学校や通訳研究科のある大学院に通うこともできます。

基本的な通訳スキルを身につけた上で、挑戦する勇気があれば、テンナインのようにチャンスを与えてくれるところがきっと見つかるのではないでしょうか?

写真はテンナインの若手通訳者で、食事をしたときのものです。

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プロフィール

佐藤 祐大

佐藤 祐大さん
日英会議通訳者。熊本大学英文科卒。 公益財団法人日本英語検定協会に4年半務めたのち、ロンドンメトロポリタン大学に留学し、会議通訳の修士号を取得。 製薬会社、経営コンサル会社での社内通訳者を経て、2016年7月より現職。