HOME > 通訳 > 21世紀の通訳-Interpreting in the 21st Century-

21世紀の通訳 -Interpreting in the 21st Century-

第50回 専門分野

通訳の仕事は森羅万象、多岐にわたるので、ときどき自分の専門がないことでフラストレーションが溜まります。最近たまたま原不二子先生とメールのやりとりをする機会があったため、知らないことの多さに圧倒されています、と伝えたところ、以下のアドバイスをいただきました。ご本人から許可をいただいて、引用します。

Regarding the areas of our work as interpreters, there are basically five areas that are related to our lives, politics including human and national securities, economics, energy, science and technology, finance and insurance, health and medicine. It would be good to have one area you can honestly say you have mastered, then try and build on it.

さらに、補足で届いたメールには以下のようにありました。

I should include LABOUR with economics, the lack of work for the young people worldwide is, I am afraid, one of the big reasons for inequality, discontent and violence. and of course ability for cross-cultural communication is at the base of it all.

どの分野も相互に関連しています。たとえば最近話題になっている自動運転は、分野としてはテクノロジーになり、実際の開発はエンジニアがやるのでしょうが、社会のためにどうこの技術を活かしていくかというのは、技術者だけではなく、もっと広範な社会的な議論が必要となります。規制が必要になり、それは政策に基づいていきます。

みなさんにとって上記の5つの分野の中で、継続的に勉強してみてもいい、と思えるものはあるでしょうか。私の感覚では、たまたま最初に製薬会社などのインハウス通訳者を務めたことで、医療の分野に興味を持ち、体系的に学んでいる通訳者は結構いるように思います。

鳥飼玖美子先生は、通訳者から英語教育者に転向されていますが、著書で「自分の歌を歌いたくなったのかもしれない」と語っておられます。通訳者にとって、「自分の専門がないような感じがする」というのは、共通の悩みなのかもしれません。


第49回 職務経歴書

今回は趣向を変えて、インタビュー記事をお送りしたいと思います。インタビューにご協力くださったのは、テンナインのコーディネーターのHさんとIさん。通訳者になる前に知っておきたかった!ということについて質問をしてきました。ちなみにお2人はテンナインで社内通訳者を斡旋するお仕事をしていらっしゃいます。

Q、テンナインのウェブサイトを見ると、通訳者としての登録を希望する場合には、まず履歴書と職務経歴書を送ることになっています。履歴書、職務経歴書はどういったところを見ているのですか?

派遣先に通訳者をご紹介する場合は、年齢や性別などは伏せて、職務経歴書を提出します。ただ、派遣先の社風や求められる人物像に合わせて、得意分野や経験など、アピールできそうなポイントがあれば、履歴書から職務経歴書に反映します。職務経歴書は、見やすく作ってあるか、レイアウトがきれいか、といったところもチェックします。見やすく作り込んであると好印象です。枚数は多ければいいという訳ではなく、自分の強みや得意分野をきちんと把握されている方ほど、2枚以内にまとめて提出をされる方が多いと思います。

職務経歴書は派遣先に提出する前に、編集をお願いすることもあります。通訳そのものの経験以外にも、英語を使ってどんな仕事をしてきたのかを、詳細にわたって書いてもらうようにします。

Q、面接ではどこに注目していますか?

書類だけで判断することはなく、登録希望者の方には基本全員お会いしています。地方の方は電話で面接やスキルチェックをする場合もありますが、出来る限り直接会って話をするように心がけています。面接ではまずスキルチェックを受けていただき、その方の通訳スキルを面接官がある程度把握してから、面談を行います。面談ではその方の現在希望している仕事内容だけでなく、将来目指す通訳像をきちんと話していただき、その目標に少しでも寄り添うようなお仕事のご紹介を心掛けています。通訳スキルはもちろんのこと、人柄や仕事に対する熱意、プロ意識、コミュニケーション能力も通訳業務には求められますので、そこのあたりもしっかり面接で確認しています。

登録するにはスキル不足だったり、未経験の登録希望者の場合でも、秘書や英文事務などの簡単なお仕事からご紹介しています。スキルチェックは何度でもトライしてください。過去にも最初のスキルチェックでは躓いてしまったけれど、何度目かの挑戦で合格し、無事通訳者デビューを果たせた方もたくさんいらっしゃいます。

もちろん未経験でも、タイミングや派遣先との相性で仕事に繋がることもります。以前に、あるテーマパークではオープン前に現場対応の通訳ニーズが大量に発生したことがありました。実績のある通訳者だけでは人数的に間に合わず、未経験であっても通訳スキルがあり、やる気がある方をご紹介できたという事績もあります。

いかがでしょうか?通訳者というのは、どうやって目指していいのかよくわからない仕事の1つだと思います。まずは履歴書と職務経歴書をテンナインに送って、アドバイスしてもらうのもいいかもしれません。


第48回 芋づる式読書

芋づる式読書という表現があります。1冊の本を出発点に、少しずつ関連する他の本に読書の対象を広げていくことです。

通訳の仕事をしていると、知らないことの多さにうんざりしてきます。ときどき思い立ったように、日本文学の有名どころをまとめて読んでおくべきではないか、といった観念にかられます。

とはいえ、目の前には次の会議の資料がありますし、新聞にも毎日目を通す必要があります。限られた時間の中で読める量には限界があります。しかも、起きている時間を全て読書に当てたとしても頭が飽和状態になって、内容が入ってこなくなるということもあります。

そんな状況の中、最近は少しずつ会議通訳の案件が入るようになってきました。その場合、講演者の近著は四の五のいわずに読むことになります。だいたい、新しいものから、4、5冊は読みますが、そうするとだんだん繰り返し言及されている人名や、引用されている書籍があるので、次に読みたい本が出てきます。また、用語なども、一冊の本に何度か出てきますし、しかも一般の読者向けに書かれた本であれば、用語がきちんと説明してあることが多いです。プレゼンテーションの資料では、スペースが限られているので、用語の説明などはありませんが、本であれば文脈の中で、用語を理解することができます。

もちろん、一冊の本を読んだのち、その本の参考文献すべてにすぐ当たっていくことは時間的にできません。ただ、特に言及が多い本や、人物などについては、段々と興味が高まってきますので、それがピークに達すると、実際に図書館で借りてきたり、書店で購入したりして読むことになります。

最近は少しずつ政治関係の案件をするようになったので、ある洋書を使って近現代史を復習していたところ、「夏目漱石の『こころ』においてKは明治時代のモチーフである」と書いてあったので、え、そうなのと思いながらも、キンドルにダウンロードして(版権が切れている文学作品は無料です)読んでみました。夏目漱石は私が大学時代を過ごした熊本にもゆかりが深いし、「こころ」は教科書にも部分的に載っていたので、馴染みがある程度ありました。「坊ちゃん」や「三四郎」はなぜかたまたま読んでいて、リズムが良くて面白かった印象がありました。

そうすると今度は「吾輩が猫である」を読みたくなったので、それもキンドルにダウンロードして、読破しました。私は動物モノはあまり好きではないですし、特に猫に対してはアレルギーがあるので、「吾輩は〜」は避けていたのですが、この本もpage turnerでした。猫が深いことを言うのです。「欧米は何でもかんでも改善だ、ということで、キリがない。日本はその点現状を変えずに、足るを知るという傾向があるので、そういったところは日本の方が優れているように思う」とか、今の「持続可能な開発」のような考え方にも通じるところがあり、斜に構えた猫が色々と人間批判をするので、思わず電車で読みながら声を上げて笑ってしまうところもありました。

また、最近はある元外交官の方の著書を読んだのですが、対談形式で質問者が「若い人はもっと、いわゆる名書を読むべきだと思いますか。例えばこれは少なくとも読んでおくべきだ、というリーディングリストのようなものはありますか」と聞いていました。リストが飛び出してくるかな、とも思ったのですが、答えは「本には読みどきがあるから、経験がないうちから本だけ読んでもあまり意味がない。ある程度の経験をしてから本を読むと、自分の経験に照らし合わせながら読むことができるから有益だから、あまり強制的に義務感から読むのがそこまで有益だとは思わない。本は読みたくなったときが読みどきだ」という答えでした。

この答えに勇気付けられました。あまり体系立った読み方でなくとも、とにかく目の前の案件をやりながら、関心が高まったところで書籍を読んでいけばいいと思うようになりました。


第47回 ビジネスモデル

少し前に、友人からプリンターをもらいました。今は会社で印刷ができるので、あまり自宅で印刷する必要はないのですが、やはり何かと便利です。その友人は、結婚をして、奥さんもプリンターを持っているので、一台不要になったということで譲ってくれたのです。

今はプリンターそのものを売ってもあまり儲けにはならず、メーカーは売った後にインクなどを買ってもらうことによって利益を得るのだとい聞いたことがあります。正規品でないインクを買われることがメーカーにとっては一番打撃だということです。また、業界によっては、モノを売った後の保守サービス(メンテナンス)が収益の柱だということもあります。

通訳産業はどうでしょうか。フリーランスの通訳者は、複数のエージェントに登録しているので、結局どのエージェントに依頼しても、同じ人が来るというのはざらにあるようです。質の高い通訳者が集まるように、と通訳者への報酬を上げ、しかもエージェントのマージンも維持するということになると、今度は価格競争に負けてしまいます。

それでは、通訳エージェントはこれからどうなっていくのでしょうか。群雄割拠の中で、どうやって差別化を図っていくのでしょうか。

通訳と国際会議の運営をまとめてこなせる、というのは、発注者からすると便利で魅力的でしょう。また、多くの通訳エージェントが、通訳スクールだけではなく、一般の英会話スクールも展開しています。

今はやりのビッグデータを使ったサービスはどうでしょうか。継続的に通訳者を派遣しているクライアントがいれば、毎回通訳者から用語集を回収し、アルゴリズム分析にかけ、クライアントごとにオーダーメイドの単語帳を作成し、それをクライアントへの追加サービスとする。もしくは、駆け出しの社内通訳者が作成した用語集を業界問わずアルゴリズムにかけて、一般的なビジネスの用語集を作成する。これであれば通訳者以外の人にも販売できるかもしれません。もちろんデータ分析というのは、一歩間違えれば機密保持に関わるので、慎重に進める必要がありますが...。

何でも今は個人に合わせてカスタマイズする時代で、お仕着せのモノやサービスはどんどん勢いを失っています。英会話も、生徒さんの発言内容を通訳者が逐次通訳するというのはどうでしょう。社内通訳者としての経験からすると、もちろん会議が続いていると、資料の読み込みでいっぱいいっぱいですが、時期によってはアイドルタイムも結構あります。そんなときに、サービスの一環として、逐次通訳を利用した英会話サービスを提供してはどうでしょうか。実際に通訳をしているわけではないので、通訳者もわからない部分があれば、その場で調べることもできます。

また、色々な企業でパートナーシップも生まれています。例えば転職支援を行なっている企業と組んで、模擬面接の際に逐次通訳を入れるというサービスはどうでしょう。もちろん本番の面接に、通訳者を連れていくわけにはいきませんが、1回だけでも他人に訳してもらうことで、訳語や表現を学ぶことができるし、自分の日本語が分かりにくい場合は、それに気づくこともできます。


第46回 通訳関係の書籍

最近、自宅の近くの図書館で、「通訳になりたい!」という本がおすすめされていました。以前このブログで通訳学会に参加したことを書きましたが、そのときに発表をされていたICUの松下先生が最近上梓されたようです。図書館には、あまり新しい本はないイメージがあるので、もうすでにあるということは、東京オリンピックを控えて、通訳に対する関心が高まっているのでしょう。対象の読者は、中学生や高校生で、通訳という仕事に興味がある人たちでしょうか。

ご本人がどのように通訳者になったかということに加え、様々な分野で活躍している通訳者に対してのインタビューが掲載されており、通訳者を目指している人にとってはとても参考になる内容です。

あえてフリーランスではなく、社内通訳者として働いている方のこだわりや、英語から日本語への一方通行だからという理由で放送通訳者を選んだ方の体験談など、通訳という仕事の多様さがリアルにまとめられた一冊となっているので、これから通訳者を目指す方にはおすすめです。

通訳関係の書籍は多くありますが、通訳者としてスタートを切るにはどうすればいいのか、という情報はなかなかありません。通訳という仕事の内容や魅力は余すところなく語られていますが、ある世代より上になると、成り行きで通訳者になった、という方が多いからです。

また、通訳は経験重視の世界だということは、色々なところで言われていますが、では最初の経験はどこでつければいいのか、ということについての情報はなかなかありません。

似たようなことは続くもので、松下先生の本を見かけてからすぐ、ある方から米原万里さんの著作を3冊ご恵投いただきました。「不実な美女か 貞淑な醜女(ブス)か」「ガセネッタとシモネッタ」「打ちのめされるようなすごい本」です。1冊目の「不実な〜」は有名で、以前にも読んだことがあり、抱腹絶倒でしたが、改めて読むとまた新たな発見がありました。「打ちのめされるような〜」は、米原さんの書評を収集したもので、読みたくなるような本がたくさん紹介されていましたが、と同時に彼女の癌との闘病生活も赤裸々に綴られています。

他にも、 このブログに何度かご登場いただいている原不二子さんや、NHKの番組に出演された長井鞠子さんの著作など、通訳関係の書籍で読みやすく参考になるものはたくさんあります。



《 前 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 次 》


↑Page Top

プロフィール

佐藤 祐大

佐藤 祐大さん
日英会議通訳者。熊本大学英文科卒。 公益財団法人日本英語検定協会に4年半務めたのち、ロンドンメトロポリタン大学に留学し、会議通訳の修士号を取得。 製薬会社、経営コンサル会社での社内通訳者を経て、2016年7月より現職。