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21世紀の通訳 -Interpreting in the 21st Century-

第45回 自然な表現?

ゴールデンウィークを利用して、シンガポールとマレーシアに行ってきました。シンガポールは国民の大多数は中華系ですが、他にマレー系とインド系もいます。マレーシアではマレー系が多数派で、中華系とインド系が少数民族です。

マレーシアではペナン島に行ったのですが、中華系マレーシア人の知り合いが案内をしてくれました。空港からホテルまでタクシーを利用したときには運転手がマレー人だったので、マレー語で行き先を告げる。ホテルのチェックインはフロント担当がインド人だったので英語。翌朝は近くの屋台で中華料理を食べたので注文は中国語。バスの運転手にはマレー語で行き先を訪ねる。そのあと行ったレストランでは英語で注文していたので、なぜ英語なのか尋ねたところ、ウェイトレスがどこの出身かよく分からないからだということでした。空港に戻るときはウーバーでタクシーを呼びましたが、今度はドライバーが中華系だったので中国語で行き先を告げていました。

シンガポールでも英語と中国語がミックスして話されており、会話の中でも頻繁に英語と中国語が切り替わります。語尾にleをつけたり、文末にalsoを持ってきたりと英語ネイティブからすると不自然な英語かもしれませんが、彼らは別に英語ネイティブに憧れて英語を話しているわけではありません。

私も学部生のときは、「ネイティブはこうは言いません」という類の本を読むこともありましたが、今ではそういう本や「ネイティブらしい自然な表現」といった議論はうのみにしないようになりました。大学院時代にヨーロッパ系の講師からある単語に関して「その単語は英語ではネガティブな文脈にしか使えない」とフィードバックを受けたものの、直後にアメリカ人がポシティブな文脈で使っているという場面に出くわしたこともあります。また、イギリス人ネイティブにwhoseの前には人しか置けない、と言われましたが、whoseの先行詞に人以外のものがくる例は枚挙に暇がありません。ありがたく感じたフィードバックは「この単語の前にはtheが必ずいる」といった類のものや、同時通訳のときに役立つ簡潔な表現です。もしくは、間違って覚えている表現も指摘してもらえるとありがたく感じます。たとえば先日は「上意下達」をずっと「じょういげたつ」と言っている人がいました。もちろん誰も指摘していませんでしたが、自分だったらさりげなく誰かが教えてくれるとうれしいかもしれない、と思いました。

「自然な表現」や「一般的な表現」というのも、なかなか難しいものがあります。私は、参加者が使っている表現が、その場での「自然な表現」だと思っています。先日は医薬系の会議で英語のみの資料にGP (general practitioner) とあったので、どう訳したものかと思っていたところ、日本語でもそのままGPでした。「かかりつけ医」と訳されることもありますが、日本では湿疹なら皮膚科、風邪なら内科といったかたちで病状に応じて異なる病院に行くので、「かかりつけ医」という考え方にそもそもあまりなじみがないとも言えます。

私もたまに「自然な表現にはどんなものがありますか」などと聞かれますが、自然とか、一般的というのは主観的なもので、しかも英語は世界中で話されているので「BBCでこういっているのを聞いたことがある」「外務省のウェブサイトではこう訳してあった」のように答えるようにしています。

「サラリーマン」などは和製英語の代表格のように言われていますが、最近The Economistでも目にしました。引用符もなければso calledのような前置きもなく使われており、かつては通じなかったカタカナ表現がいつの間にか市民権を得てきているのだと感じました。もちろんこの記事を書いた記者も日本についての知見があり、読者にもある程度の日本についての知識は想定されているのでしょうが...。


第44回 英英辞典

大学のときの英文科の教授も、原不二子先生も、英英辞典を引くことの効用をおっしゃっていました。私もときどき気が向いたときは思い立ったように英英辞典を引くこともありましたが、基本的には英和辞典を引いていました。

特に、通訳者になってからは、最終的には訳すことが目的なのだから、英英辞典を引くのは二度手間になるのではないか、と思っていました。

ところが最近、英英辞典を引くことが増えました。もちろん、固有名詞や病気の名前などは日本語の表現が出てこないとどうにもならないので、英和辞典を引きますが、抽象名詞や動詞、形容詞などは英英辞典で調べることが多くなりました。

通訳理論ではDeverbalizationというのを教えられます。通訳というのは、言葉をそのまま訳していくのではなく、意味を訳していくのだと教わりました。病気の名前などの専門用語は、言葉をそのまま置き換えれば意味が通じることが多くありますが、逆に日常生活で使う言葉こそ、意味をよく理解した上で訳さなければならないし、名詞や動詞などの枠組みを超えて訳さなければいけないのです。

例えば先週のThe Economistには地震の記事がありますが、The ERI, for example, forecast in early 2012 that a powerful earthquake had a 70% likelihood of striking under Tokyo within four years. という記述があります。これは日本語であれば、「首都直下型地震が起こる可能性」と簡潔に言えます。日本は地震が多いので、地震関係の用語が充実しているのです。ただ、英語では東京の真下で発生する地震、と説明する必要があります。

また、I totally agree with youは完全に同意します、というより、おっしゃる通りです、つまらないものですが、はThis is a boring thingよりI've got a little something for youなど、言葉というよりは文脈に即した機能を訳したほうがわかりやすいと思います。そのためには、一旦ことばから意識を解き放つ必要があります。これがdeverbalizationです。

さて、冒頭の英英辞典の話に戻りますが、このdeverbalizationに役立つのが、英英辞典だと最近気づいたのです。英英辞典で定義を見て、単語のイメージを掴みます。そのあとで、自分の持っている日本語の引き出しから、一番しっくりくる表現を探すのです。この日本語の引き出しは、読書や他人と話すことによって培っていくことが必要だと思います。最初から日本語を見てしまうと、単語のイメージがばらばらに分断されてしまいます。


第43回 災い転じて

通訳のスタイルには、豪華絢爛型と訥弁型があると言われ、前者は聞こえてきたものを全て訳していくスタイル、後者は不必要だと思われる部分や既出の情報は省きながら訳していくスタイルです。「通訳者に編集権はないのでは?」と思う方は、「米原万里の愛の法則」という本に、同時通訳をする際にどのような部分は省いてしまってもコミュニケーションは十分成り立つのかということについて、解りやすい記述がありますので、参考にしてみてください。

さて、私は先日専門性の高い医療関係の案件を行いました。ビジネス案件は、業界が違っても大体内容は似通っている場合が多いのですが、この案件はお医者さんへのインタビュー。実際に手術のプロセスを確認しながら、使っている医薬品や医療機器について聞き取りをしていくものでした。

一般的なビジネスの案件では、言い回しに気を使ったり、なるべく多くの情報を取りにいったりしているのですが、この案件は内容がとても難しかったため、とにかく鍵となる情報、新しい情報だけを取りにいこうという考え方で臨みました。

自分にはあまり馴染みのない医薬品や、医療機器の名前は最初の一回だけ訳したら、別の製品のことに話が移るまではずっとThe product。手術についても同様です。同じ手術の話が続く間は、日本語では「⚪︎⚪︎の手術」と言っていても、「This type of surgery」で切り抜け、自分にかかる負荷を軽減。手元の用語集もフル活用しました。インタビューの質問の部分でも「全体の手術の件数を100%としたときに」などの部分はカット。How many percent of the cases〜?と聞けば、%で答えてくれるからです。

また、手元の資料を自作した用語集の使い分けですが、資料に沿って案件が進んでいる場合には、資料そのものに単語を書き込んでおくとすぐ参照できます。資料から離れて、自由に議論が始まったときには用語集が活躍します。日→英の通訳であれば、用語集上で日本語を見つけるのは難しくないため、順番はどうでもいいかもしれませんが、英→日の場合はアルファベット順に並べておくとすぐ見つけることができます。

また、自分が考えておいた訳語と、実際に使われている用語が食い違っている場合もあります。そのときは素早く用語集を書き換えます。また、言い換えが聞かない単語で、用語集でもカバーしていないものが出てきたときには、電子辞書を引きます。最初は聞きながら話すという2つの作業だけでいっぱいいっぱいですが、だんだんと資料や用語集、辞書を引く余裕も出てきます。


第42回 熊本地震

熊本で地震がありました。私も熊本は大学時代を過ごしたこともあり、また実家が熊本よりの大分にあることもあり、とても心配しています。亡くなられた方には心からお悔やみ申し上げるとともに、被災されている皆さんが一刻も早く通常の生活に戻れるように、お祈りしています。

私はテレビを見ないのですが、今回ばかりは数ヶ月ぶりにテレビをつけ、画面に見入っていました。学生時代を過ごした熊本の街の惨状や、熊本城の様子を見ると胸が痛みます。また、家族が暮らしている大分も土砂崩れなどかなり状況が悪く、今後孤立してしまった場合に備えて、具体的な対策も考え始めなければならないと感じています。

今回の地震で感じたことは、ソーシャルメディアの役割です。私はフェイスブックをやめていたのですが、今回の地震をきっかけに再開しました。たくさんの方から「家族は大丈夫ですか」というメッセージをいただき、こんなときにフェイスブックで一言「家族は大丈夫です」と載せておけば、みなさんに心配をかけずに済みます。と同時に、私自身も家族のことがとても心配でした。木曜日の夜に最初の地震があり、そのあとまた土曜日の朝にもっと大きな地震がありました。こちらが本震だったようです。

テレビでも、ソーシャルメディアからの情報をかなり報道に利用しているようです。もちろん野次馬根性からやっている人もいるでしょうが、道路にヒビが入ってしまっているところや水道管が破裂しているところなどを写真にとって、随時ツイッターなどにあげている人もいます。また、外国人などは不安な思いに駆られているでしょうから、英語などの言語で避難所の場所を発信し、拡散をお願いしたりもしているようです。さらに、エアービーアンドビーでは、行き場をなくした人のために、無料で宿泊所を提供し始めるような動きも見られます。

このように、ソーシャルメディアが本当に社会インフラになっている現状を、改めて強く感じました。今のバズワードに、IoTやビッグデータがありますが、ツイッターのつぶやきやフェイスブックの投稿などを利用して、災害の状況を分析することが今後ますます可能になり、少しでも災害の被害者が減ることになればと思います。

また、外国人が動揺している様子もニュースから伝わってきます。このような状況でも、通訳者が活躍しているでしょう。災害のときは、ボランティアのために現地にすぐ飛んでいきたくなりますが、受け入れ態勢が整っていないところにいくと、かえって迷惑になってしまいます。家族と連絡を取りながら、状況をきちんと見極めていきたいと思います。


第41回  Client Education?

通訳のパフォーマンスというのは、外部の要因によっても大きく左右されます。偉そうなタイトルをつけてしまいましたが、今回はクライアントがどのように協力してくれればいい通訳ができるのかということについて考えてみたいと思います。

1、早めに資料を提供する。

同じ10時間を準備に費やすのでも、10日間に分けてコツコツと準備をできたほうが、前日にまとめて一夜漬けで準備をするよりも用語の定着などが測れます。ビジネス案件では直前まで資料を作り込んでいるということがほとんどでしょうが、前回の議事録などの参考資料も、前日にまとめて送るのではなく、前もって送ってくれると、少しずつ用語集作りなどが始められます。特にフリーランス通訳者を手配している企業の場合、同じ人に継続的に来てもらうことが難しい場合もあるので、暫定版の資料なども随時送ってもらえると、準備に役立ちます。

2、通訳環境に気を配る。

同時通訳ブースがあれば理想的ですが、ビジネス案件の場合、ほとんどはパナガイドを用いたウィスパリングです。たまに通訳者の席がスピーカーの後ろに設けられており、声がかなり聞きづらいということもあります。同時通訳というのは聞きながら理解し、すぐに訳出していく作業なので、通常の会議の参加者のように、まとまりを聞いて、たぶんこういうことだろうと理解していき、自分の仕事に関連のありそうなところだけをメモする、という聞き方はできないのです。なので、実際に声がどのくらい聞きやすいか、ということはとても大事です。会議室が広い場合は、マイクを使ってくれるとかなりやりやすくなります。

3、わかりやすい話し方をする。

これができれば苦労はしませんが、主語をきちんという、専門用語を一般的な用語で言い換えるなど、話し手が意識をして話してくれると、通訳者の仕事はやりやすくなります。また、通訳者がついていけないような話し方で話すということは、通訳者を無視することではなくて、そのサービスの利用者を無視することと同じです。もちろん、通訳者としては、準備や日々の情報収集を充実させて、なるべくスピーカーが自然に話していてもきちんと訳していけるように努力をします。それが自分の付加価値を高めることにつながるからです。

ただ、上記のことは忙殺されているビジネスパーソンには難しいもの。たとえば筆者は1,000円カットで髪を切ることがありますが、あまりくどくどと説明をしなくても、さっさと切ってくれるところに価値を見出しています。仕上がりは4,000円のときと同じ...とはいきませんが、コストパフォーマンスを考えると大満足です。こういった経験をしてしまうと、クライアントやエージェントにどのくらいプッシュしていいのか、迷いが生じてしまいます。



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プロフィール

佐藤 祐大

佐藤 祐大さん
日英会議通訳者。熊本大学英文科卒。 公益財団法人日本英語検定協会に4年半務めたのち、ロンドンメトロポリタン大学に留学し、会議通訳の修士号を取得。 製薬会社、経営コンサル会社での社内通訳者を経て、2016年7月より現職。