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21世紀の通訳 -Interpreting in the 21st Century-

第40回 色々な通訳者

一口に通訳者と言っても、色々な種類の通訳者がいます。イギリスにいたときは、確立されていたのは会議通訳者(Conference Interpreters)と公共サービス通訳者(Public Service Interpreters)でした。公共サービス通訳者というのはコミュニティ通訳者と呼ばれることもあるようです。

日本では以前もこのブログに書いたように、「通訳」ということばは定着しています。先日BBCを聞いていたところ、ギリシャからトルコへEUとトルコの合意に基づいて、難民の送還が始まったので、それにあたってTranslatorが20名ほど必要だと報じていました。文脈からはおそらく「翻訳者」ではなくて「通訳者」なのではないかと思います。

参考:http://www.bbc.com/news/world-europe-35854413

イギリスではTranslatorとInterpreterの使い分けは日本語の「翻訳者」と「通訳者」ほど厳格ではありません。

「通訳」ということばは日本では人口に膾炙していますが、「会議通訳」というのは専門用語だと言えるでしょう。これは国際会議や記者会見での通訳のことを指すようです。また、「同時通訳者」ということばも日本ではよく使われます。同時通訳というのが物珍しい芸当のようにとらえられているからでしょうか。「同時通訳者」という肩書の人が執筆した英語学習の参考書なども多くあります。

日本ではまだまだ通訳サービスの需要が大きいため、色々なジャンルに特化した通訳者がいます。医療通訳者、というのも使い方が難しい表現で、お医者さん顔負けの知識があって創薬などの専門分野の国際会議に特化した通訳者のことかもしれないし、外国人に付き添って病院に同行し、症状などを説明する通訳者のことかもしれません。

放送通訳者というジャンルもあります。身近なところでは、NHKの夜7時のニュースを副音声で聞いていると、一部同時通訳されている部分もあります。ビジネスや、IR(投資家関係)に特化している通訳者もいるようです。

色々な通訳者と話す機会がありますが、面白いのはみんな違ったところに魅力を感じているということです。社内通訳者として働きながら、いつかは放送通訳者になりたいという人もいます。私はやり取りを訳すほうが好きですが、世界のニュースを不特定多数に一方通行で分かりやすく伝えることにやりがいと見出す通訳者もいます。理系の技術的な内容をきちんと理解したうえで訳せることに誇りを持っている通訳者もいます。スピードにとても強い人もいますし、人前で臆せず話せる人もいます。

色々な案件をこなしていく上で、自分の強みが分かってくるのではないでしょうか?


第39回 変化球

フォーカスグループや、インタビューの通訳をすることがあります。クライアントからは、質問の部分はいいから、参加者の答えに集中して訳してくれと言われることがあります。フォーカスグループというのは、新製品の開発を行う場合やブランドが消費者からどのようなイメージを持たれているかを把握するために、何人か参加者を集めて、司会者が色々と質問をしながら情報収集をしていくセッションのことです。

クライアントは聞きたい質問の内容は把握しているので、質問の部分ではなく答えに集中したいのはある意味当たり前です。先日行った案件では、司会者もしくはインタビュアーの発言は全く訳さないでいいので、質問に対する答えだけを訳してくれという内容でした。「質問に対する答えに重点を当てて訳してください」、ではなく、「答えのみ訳してください」、という要望でした。

ただ、実際にまったく質問を訳さないというのもなかなか難しいものがありました。例えば質問が10問あり、それぞれが完全に独立しているというのであれば、答えだけを訳せば事足りるかもしれません。ただ、フォーカスグループやインタビューでは、完全に事前に準備した質問だけを聞いていくということはあまりなく、参加者のコメントで面白いものがあれば掘り下げたり、よく分からない答えだった場合には説明を求めたりします。ましてや既出の情報はどんどん省略していく日本語ですから、純粋に答えだけを訳していくと、日本語を解さないクライアントは何のことかさっぱり、ということになってしまうかもしれません。

ということで、先日お引き受けした案件では、インタビュアーがその場で思いついた質問をする際には、少しだけ補足を行いました。インタビュー対象者は回答する前に少し沈黙して、考えてから答えることが多かったので、沈黙している間に「一番大きな問題だと考えているのは」や「今の〜に関する質問については」のような情報を付け加えました。

通訳倫理では、通訳者は勝手に情報を付け加えたり、省略したりする権利はない、と教えられるので、意見が分かれるところかもしれません。

フォーカスグループなどは1時間から1時間半くらいのセッションで行われることが多いのですが、プレゼンなどに比べ、対象者はその場で考えながら話すため、やりとりされる情報量はそこまで多くありません。何が出てくるかわからない怖さはありますが、プレゼンテーションなどに比べると、比較的余裕を持って通訳できる案件だと言えるのではないでしょうか。


第38回 To B or Not To B?


私は英文科を出ていますが、お恥ずかしながらシェイクスピアは読んでいません。このタイトルは、ハムレットに出てくる有名な一節ですが、ヨーロッパではB言語に通訳するべきか、それともするべきではないのか、という議論として使われています。

国際的な会議通訳者の協会であるAIICは、言語をそれぞれA言語(母語)、B言語(アクティブな外国語)、C言語(パッシブな外国語)に分類しています。以前も書いたように、ヨーロッパの国際機関では母語にのみ通訳するのが基本だと考えられています。たとえば英語が母語であれば、外国語から母語にしか通訳しないということです。ただその代わりに、複数の言語から母語に通訳できる必要があります。B言語というのは母語からその言語にも通訳できる言語ということで、私の場合は日本語がA言語、そして英語がB言語ということになります。あとはこれに加えて、たとえば私が中国語は理解が理解でき、話すことはできないが中国語から日本語に一方通行で通訳することはできる、という場合は、中国語は私のC言語ということになります。

前置きが長くなりましたが、今回書きたかったのは英→日の通訳のほうがいいか、それとも日→英か、という問題です。

ビジネスの案件で意外と多いのが、日→英の通訳だけを依頼されることです。英語の聞き取り・理解は問題ないが、話すときは日本語のほうが効率がいいので、それを英語に訳してくれという依頼です。

私は実は日→英のほうが気が楽です。日本語の聞き取りやすさも話し手によって違いますが、基本的に話し手は日本人なので、発音やアクセントのばらつきは英語に比べてずっと少なくなります。あとは、日本語であれば訳語が浮かんで、意味の上では問題なくても、レジスター(形式)の問題で、もっといい表現があるはずだ、という気持ちから、訳出をためらってしまうという心理的負担があります。

グリーン先生のコラムでも、英語では買収にbuy、離脱にleaveなどの単純な表現が使われていることが指摘されています。たとえばThe UK might be leaving the EU...と聞いたときに、leaveで「出ていく」という訳語が浮かんだとしても、「イギリスがEUを出ていくかもしれません」というのは幼稚に聞こえて、「離脱」という表現が出てくるまで訳出ができず、結果としてその次の部分の聞き取りの負担が増すということがあります。逆に日→英の場合は、英語は外国語でしかも単純な表現を使う傾向があるので、あまりためらわずに言えるのではあるのではないかと思います。日本語では「年寄り」というのは憚られ、「高齢者」でないと抵抗なくは言えませんが、英語だとelderly citizenが思い浮かばなくても、old peopleといってしまって差支えないような気がします。実際英エコノミスト紙でも以下の記事ではvery old peopleといってしまっています。

http://www.economist.com/news/asia/21656238-plan-send-old-people-countryside-out-pasture


第37回 Aptitudes

通訳者を目指している人のためのセミナーなどに参加すると、必ずと言っていいほど出るのが、どのような人が通訳者に向いているのかという質問です。研究もなされており、表面的であるとか、リスク回避志向が低いなどという結果が出ています。また、外国語学科や英文科を勉強した人よりは、政治経済や国際関係、ビジネスなどを学んだほうが有利だという意見もよく耳にします。

ただ、私は結局のところこの仕事は語学が好きだという人が向いていると思います。社内通訳の仕事を始めてから、前職が民間でなかったこともあり、ビジネス、会計など毎日学ばなければいけないことが山のようにあります。今はコンサルティング会社勤務で、特定のプロジェクト付きの通訳だけをしているわけではないので、今日は自動車、明日はエネルギー、明後日は金融といった感じで、毎日辞書とにらめっこしています。

大量に資料が出たときなどは、げんなりしてしまいますが(資料が出ないと不安で、出過ぎるのも気が滅入ります...わがままですね)、それでも何とか毎日楽しくやっていけるのは、それぞれの言語で新しい用語を学んだり、簡潔にまとまった表現に出会ったりしたときに喜びを感じるからです。「本音と建て前」はどう言おうか、とか、「縦割り」「横串」というのは英語でどう言えるだろうかということを考えることが楽しめなければ、通訳という仕事はストレスに晒されるのでなかなか続かないと思います。あとは日本語と英語を行き来することよって言葉の意味がよくわかるということも快感です。

会計などはその最たるもので、不良債権と言われると?と思ってしまっても、bad debtというのを聞くと理解がぐんと深まります。また、パートナーの訳を聞いたり、英語の文献に触れたりしながら「ほう、この表現はかっこいいな、今度使ってみよう」というふうに楽しめる人が向いていると思います。この前は先輩がreduceの代わりにcurtailを使っていたので、さっそく盗ませていただいています。

資料は片方の言語でしか出ないこともありますが、たまに両言語でもらえることがあります。今の勤務先は日→英の翻訳には英語ネイティブしか使わないと決めているため、バイリンガル資料は宝の山です。案件が終わってしまってからもときどき見直して、表現を磨くようにしています。

確かにビジネス、会計、IT、医療、法律の知識などあるに越したことはないですが、これらの分野での学位とか、資格を持っているのであれば、おそらくそれぞれの専門職につくのではないでしょうか?ということで、アクティブに通訳者を目指している人にとって一番大事な資質は、結局のところ、「ことばに興味がある」ということに尽きるのではないかと思うのです。アクティブに、としたのは、配偶者の転勤や退職、出産等の事情で上記の専門知識がある人が、フリーランスとして働きやすい通訳や翻訳を始めるパターンもあるためです。


第36回 M&A

グローバル化がますます進む中で、色々な業界で再編が起こっています。その結果、企業のM&A(合併・買収)も活発に行われています。たとえばシャープと鴻海精密工業(英語ではFoxconnとなっている場合もあります)の交渉などは連日紙面を賑わせていますね。

国内の企業が別の日系の企業を買収するという場合もありますが、シャープの例は買収元が台湾の会社なので国境を越えたクロスボーダーM&Aということになります。ここまで大きなものでなくても、通訳者がM&A案件に関わることは多くあるでしょう。

M&Aと聞くと大仰に聞こえ、尻込みしたくなりますが、ざっくり考えると普通の買い物と同じです。皆さんも何か買うときには衝動買いすることもあるでしょうが、何かを買うとき、本当にお金を出すだけの価値があるか、色々と検討をしてから購入するかしないかを決めますよね?このプロセスのことをデューデリジェンスといい、DDやデューデリと略されます。たとえば買収の対象となっている企業の経営陣に対して、中長期的な戦略がどうなっているか、など、詳細にわたって様々な質問をします。これを通訳することがあります。もしくは、その前の段階で、買収を検討している企業とのシナジー効果(synergy effects)の評価を行う会議にも、通訳者が呼ばれることがあります。

この場合自社や買収先、提携先の候補となっている企業に対してコードネームをつけることがあります。万が一会話を聞かれたり、資料を見られてしまってもどことどこが交渉しているかを分からなくするためです。ただ、会議中にはせっかくコードネームをつけたにも関わらず参加者が実際の会社名を出してしまう場合があります。通訳者は案件先の住所を見て、買収を行う側の企業は前もってわかるでしょうが、買収先の企業は資料を見てもわからないという場合があります。しかも会議中にはコードネームと実際の会社名が混在して使われるということがありますから、整理しながら聞くことが重要です。

それではここでマーケティング関係の用語を少し。製品群を4つに分類する方法があります。

1)花形事業(star):自社のシェアも、市場の成長率も高い製品 
2)問題児(problem child):自社のシェアは低いが市場の成長率は高い製品 
3)金のなる木(cash cow):市場の成長は止まっているが自社のシェアが高く、安定した収益が見込める製品 
4)負け犬 (dog):自社のシェアも、市場の成長率も低い製品

ざっくりした説明ですが、ご紹介しておきます!



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プロフィール

佐藤 祐大

佐藤 祐大さん
日英会議通訳者。熊本大学英文科卒。 公益財団法人日本英語検定協会に4年半務めたのち、ロンドンメトロポリタン大学に留学し、会議通訳の修士号を取得。 製薬会社、経営コンサル会社での社内通訳者を経て、2016年7月より現職。