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21世紀の通訳 -Interpreting in the 21st Century-

第30回記事 日進月歩

もう1月も下旬ですが、皆さんは初詣に行きましたか?テンナインのスタッフブログにも、明治神宮のおみくじのことが書かれていましたが、実は私も明治神宮に初詣に行ってきました。私も「大吉」や「吉」のようなおみくじをひきたくて行ったので、短歌が書いてあるだけのおみくじ(大御心)に実はがっかりしたのですが、内容は今の自分にぴったりのものでした。

わざわざ通訳者を入れてまで行う会議というのは、海外から情報を取り入れるために行っている場合が多いため、内容としても必然的に最先端のものとなります。今年のダボス会議ではビッグデータやIoTなどもテーマに上がっていたようですが、実は私は最近 AI(人工知能)や機械学習、ビッグデータや共有経済などの世の中の流れの速さに少々圧倒されていました。技術の発展の文脈で使われることの多いdisruptiveという単語は日本語訳が難しいですが、現在のビジネスのあり方を揺るがすといったイメージでしょうか。disruptive technologyで破壊的技術、と訳されているのも見たことがあります。たとえばタクシーをアプリで手配できるウーバーや、空いている部屋や物件を貸し出すプラットフォームとなっているAirbnbなどもこういった技術の例でしょう。

これらの変化というのは何もIT関係の企業にだけ影響を及ぼすのではなく、あらゆる産業が影響を受けます。IoTがさらに進むと、データ収集のポイントが増え、いつの間にかジョージ・オーウェルの1984のような世界になってしまうかもしれない...という不安を覚えていた矢先に、大御心を引いたところ、以下の短歌が書いてありました。

「世の中の人におくれをとりぬべしすすまぬときに進まざりせば」

解説は「世の中は日進月歩で絶えず進歩していきます。もしも日頃の努力を怠ると、進むべきときに進まれず、世間から取り残されてしまいましょう」。

日頃の努力とは何をすればいいのでしょうか。私は、自分の周りで起こっていることについて、考えるのを放棄しないことではないかと思います。



第29回 自分が聞きたいことはよく聞こえる?

先日、知り合いからブログの記事を書くために、留学経験がある人に話を聞きたいと相談を受けました。普段からよくしてくれている人だったので、話をしたあと、特に原稿などをチェックすることもなく、忘れていたのですが、ふとブログを見てみたところ、自分が言った覚えのないことが書かれていて、驚きました。もちろん書き手に悪気はなく、訂正か削除をお願いしたところ、快く応じてくれ、今は削除されていますが、通訳者も他人の代わりに話をする仕事だということで、色々と考えるきっかけとなりました。

知り合いとしては熱い思いを持って執筆にあたっているブログなので、もしかしたら本人の意見が投影されてしまったのかもしれません。

会議に参加していても、通訳者と会議の参加者とでは、話の聞き方がずいぶん違います。通訳者は聞こえてきたことをすべて訳すべく努めますが、会議の参加者には自分の聞きたい部分だけを聞いている人が結構いるように感じます。ときに日本人が外国人が言ったことを代弁し、「この人がいいたいのはこういうことなんです」と説明するのを聞いていて、「あれ、そんなこと言ってたかな」と思うこともあります。私が最近気付いてきたことは、通訳をするときは話し手が何を言いたいのか、ということについては一生懸命分析しながら聞かなければなりませんが、「この人が言っていることは少しおかしいのではないかな」というようなことを考えてしまうと、次の部分を聞き逃してしまう場合が多いので、通訳者である自分自身の意見は押さえ込むようにしています。もっともスピードが早いとき、内容が込み入っているときは、そもそもそこまで考える余裕はありませんが...。

知り合いのブログの話に戻ると、内容に加えもう一つ違和感を覚えたのは文体です。これは読み手にもよると思いますが、少しくだけすぎているように感じました。書きことばと話しことばの違いはありますが、通訳者も他人の意見を代弁しているという面においては同じです。特に日本語から英語への通訳の場合は、表現力が不足しているということが多々あります。スピーカーが洗練された表現を使っているときには、同時通訳のときは文法構造としてはあまり複雑なものは使えませんが、せめて単語や表現では少しでもニュアンスが伝わるように、引き出しを増やしていきたいと思わせてくれた出来事でした。


第28回 Various Accents

英語の通訳をする上で挑戦となるのが、様々な発音やアクセントです。これは世界の共通語となっている英語ならではの問題です。今日は、これまで私が経験したアクセントや諸外国の英語の特徴について書いてみたいと思います。

Englishは以前は複数形にできませんでしたが、最近ではWorld Englishes(世界の英語たち)のようにesをつけて複数形にする用法も出てきています。有名なのはシンガポールのシングリッシュやインド英語、日本人がLとRを間違えることから日本人の英語をEngrishと揶揄することもあります。また、イギリスでは聞き取りづらい英語の代表としてGeordie(ニューカッスル地方のアクセント)やScouce(リバプール地方のアクセント)があります。

私もこれらの英語には苦労させられています。以前電話会議の仕事をしたときに、電話の向こうのアメリカ人が言っていることを、電話のこちら側のインド人が繰り返してくれたことがありました。アメリカ人の言っていることは電話の音質が悪いため聞きづらいのですが、こちら側にいるインド人の英語はアクセントのせいで聞き取りにくくということで、これが逆だったらどんなによかったことか...。

シンガポールや中国の英語は、中国語には動詞の活用がなく、文末に「了」をつけることで過去形を表すので、I go to school yesterdayのような文を作ることがあります。過去を表す表現が入っていれば、それで過去形だということはわかるでしょう、というおおらかな英語です。フランス人は日本人と同じく、thの発音が苦手。特に有声音のtheやthatなどは、zの音で代用しています。また、フランス語から来る単語はフランス訛りで発音します(presentation)など。rの音が、英語にはないはずの音になっています。ラテン系の発音はrを巻いています。

私が英語が上手だと感じるのは、ドイツ人やオランダ人、北欧の人々。日本人はというと、年配の方は英語を話す場合は文法・語彙・発音どれも本当にお上手な方が多いです。若い人は帰国子女などはもちろん上手ですが、割とサバイバルな英語の方もいます。

聞き取りやすさに違いがあり、ときどき頭を抱えたくなることもありますが、どれもEnglishesの1つだと割り切って、聞き取れたところをしっかり通訳したいと思います。


第27回 謹賀新年

みなさん、明けましておめでとうございます!年末年始はリフレッシュできましたか?私は九州の実家に一週間ほど帰り、先日東京に戻ってきたところ、3通年賀状が届いていました(うち一通は嵐から...)。メールやラインも便利ですが、実際に年賀状が届くというのはうれしいものですね。

さて、お気付きの方もいるかと思いますが、ブログのタイトルをリニューアルしました。理由としては、通訳者として仕事をしていくうちに、通訳業界も実に変化の激しいところだということが分かってきたためです。通訳者という仕事が職業として確立したのは戦後のことで、その頃は外国語を話せる日本人の数も随分少なく、エージェントも1つしかありませんでした。通訳技術は実践を通じて身につけたということが、色々な書籍に書かれています。同時通訳をするための設備もなく、ヨーロッパでは最初に同時通訳の設備ができたときは、今まで人前でスピーカーさながらに逐次通訳をしてきた通訳者たちは、ブースに追いやられるのを嫌がったといいます。

今では通訳者は職業として確立し、エージェントも数多くあり、また通訳訓練も体系的に受けることができます。ヨーロッパでこれから通訳者として活躍したいと考えているクラスメートたちは、ブースでの仕事を心待ちにしています。このように、時代の流れや技術の発展によって様々な変化がある通訳業界について、一通訳者の目を通しての記録のようなブログにしたいと思い、これからは新しいタイトルのもと、記事を書いていきたいと思います。

私個人はといえば、昨年末で半年間お世話になった派遣先を退社し、今年は心機一転新しい分野で社内通訳者としてスタートしました。どんな課題が待ち受けているか分かりませんが、健康に気をつけて、今年も頑張りたいと思います。それでは2016年が皆さんにとっても飛躍の年になりますように!


第26回 2015年を振り返って

みなさん、こんにちは。2015年も終わりに近づいていますね。社内通訳者の方は外国人がクリスマス休暇に入ってしまって少し落ち着いているでしょうか。翻訳者の方は年内に終わらせておきたいという仕事でお忙しいかもしれませんね。

私の勤務先も外国人が休暇に入ったため、私も12月25日で仕事を切り上げて、冬休みに入ることにしました。と同時に、来年からは勤務先を変えることになったので、今の会社での半年間を振り返ってみたいと思います。

結果から言うと、半年間とてもいい経験をさせていただきました。特に、社内通訳者を務めた会社では役員、それぞれの事業部長など通訳を必要とする方が多く、民間も外資系企業も初めてでしたが、色々な側面から1つのビジネスを理解することができました。特定の部署の特定の役職付きのポジションだったらこうはいかなかったと思います。また、周りの方がみなさん親切で辛抱強く、至らないところも多かったとは思いますが、あたたかくご指導いただきました。色々な用語にも慣れ、準備もだんだん楽になっていきました。

テンナインの工藤社長によると「通訳者はいつも崖っぷちでいるくらいでないとダメ。あまり準備をしなくても仕事をこなせるようになってきたら、次のステップに進むといいかもしれない」ということです。私は今の職場で「準備をしなくても仕事がこなせるか」と言われると全然そんなことはないのですが、少し経験の幅を広げたくて、次の会社に移ることにしました。新しい勤務先はまた分野が違うので、成長に繋がればと思っています。

今回は色々なことが「最後」だということにちなんで、ひとつ書いておきたいのですが、ウィスパリングの仕事が多い中で、最近久しぶりに逐次通訳の仕事をしました。逐次通訳では、メモを取りながら通訳をするのですが、多くの通訳者が抱える問題の1つに、「一番最後の部分を忘れてしまう」ということがあります。これは私も訓練中によく抱えていた問題なのですが、大学院で学んでいるうちに、自分だけの問題でないことを知りました。逐次通訳をするときには、話し手は話をまとまりごとに切りながら話をしますが、まとまりの終わりが近づくと、通訳者は少し油断してしまうのだそうです。また、まとまりの最後に来た部分は、記憶が新鮮なため、覚えておけるだろうと、最後の部分についてはメモを取らずに、メモを最初から読みながら通訳に入るわけですが、終わりに近づくころには記憶が薄れてしまっているため、最後があやふやになってしまうという現象に陥ります。話が終わりが近づいたときこそ、集中力を一層発揮して、結論をきちんと覚えたり、メモに残しておかなければいけないというわけです。

それではみなさん、よい年末年始をお過ごしください!



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プロフィール

佐藤 祐大

佐藤 祐大さん
日英会議通訳者。熊本大学英文科卒。 公益財団法人日本英語検定協会に4年半務めたのち、ロンドンメトロポリタン大学に留学し、会議通訳の修士号を取得。 製薬会社、経営コンサル会社での社内通訳者を経て、2016年7月より現職。