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21世紀の通訳 -Interpreting in the 21st Century-

第20回 情報収集

皆さんはどのように情報収集をされていますか?私はテレビを見ないので、情報収集は主に新聞と雑誌、ポッドキャストを利用しています。最近は自分の関心のあるニュースだけを選別してチェックできるアプリなどもありますが、私はあまり関心がないニュースでもある程度は知っておけるように、日経新聞の電子版を活用しています。あまり深く読み込まない記事で
も、タイトルを見ておくだけで、何かの役に立つことがあります。先日は会議中に中国の「独身の日」についての話が出ました。

通訳の仕事をしていると、新聞で名前を頻繁に見かけるような大企業での案件をこなすこともあります。行ったことのある企業に関する記事はとても面白いですし、リピートがあることもあるので、自然とじっくり読むことになります。

また、国際面はもともと興味があるので以前から入念に読んでいましたが、ロンドンに1年間留学したおかげで今まで以上に色々な国のニュースに興味を持つようになりました。世界各国に友人ができたためです。スカイプで話すときには、話の種にもなります。

移動中には、NHKやBBC、CNNなどの英語ニュースをポッドキャストで聞くようにしています。満員で身動きが取れないような電車に乗ることもあるので、ポッドキャストは重宝しています。聞きながらなんとなくよく分からない記事があれば、次に新聞を読むときに同じトピックの記事を探して、大筋を理解しておくようにします。

あとはニューズウィークの日本語版と、The Economistを持ち歩き、電車で荷物を網棚に乗せられたり、座れたりしたときには読むようにしています。The Economistは英語で分量も多いのですべての記事に目を通せるわけではありませんが、1週間かけてなるべく多くの記事を読んでいます。

それに加えて、週末には図書館に出かけます。ビジネスや国際関係など、本当は体系立てて学んだほうがいいのかもしれませんが、今は新聞を読んで、特定のニュースをもっと理解したいと思ったら、同じトピックの本を図書館で借りてきます。ちょっと前は集団的自衛権の本を何冊か読みましたし、今はイスラム国や米国の大統領選に関する本を読んでいます。

それから、ロンドン留学に当たって、キンドルを買って持っていきました。語学留学であれば、日本語はシャットダウンするくらいの気持ちで行ったでしょうが、会議通訳の勉強に行ったので、日本語力も維持するためにキンドルを利用していました。今は日本に帰ってきたので、むしろ英語の書籍をダウンロードして読んでいますが、分からない単語などはタップするだけですぐに意味が出てくるので、重宝しています。


第19回 チームワーク

社内通訳の仕事は1人でしますが、単発の仕事は通訳者の先輩方と組ませていただくこともあります。大体15分ごとに交代しながら通訳をやります。最近は3人でチームを組んで仕事をしました。通訳をする順番はもちろん、何分ごとに交代するかを決めておくことが大事です。内容が重いときは10分ほどで交代したり、質疑応答のときは質問と回答をセットとして、1セット終わるごとに交代したりします。ブースだと自分のマイクを入れることで相手のマイクが切れるタイプのものもありますし、逆に片方のマイクがついているともう片方のマイクはスイッチが入らないものもあります。事前に確認しておくことが重要です。また、パナガイドを使って行うこともあります。その場合は送信機が数台あることもありますし、一台の送信機を手渡ししなければならないこともあります。スムーズに行うのはなかなか難しい作業です。

まだまだ私はこの仕事を始めてから日が浅いので、先輩たちの様子を見て、色々学んでいます。例えばパナガイドで通訳をするときに、交代のタイミングでパートナーに向かってきちんとスイッチを切る様子を見せる、机に立てられるタイプで音が出る代わりに光るタイマーが便利だ、といったことです。また、資料も英語版と日本語版のどちらを見ているか、簡潔な言い回しなど、毎日学んでいます。

チームでやるときには、プレッシャーになることもありますが、助け合うこともできます。社内通訳者の方と組むこともありますが、その場合は社内の用語などで詰まったときに、メモで助けてもらったこともあります。

どのくらいパートナーをサポートしたほうがいいかということについては、相手次第です。パートナーが通訳している声がよく聞こえて、しかもどの単語で苦労しているか分かった場合はメモを出すこともできますが、どこを訳しているのかよく分からないということもあります。また、気が散るのでメモなどはあまり出さないでほしいという人もいます。
また、ブースで訳しているときには、ミュートボタンを押してさっと口頭で訳を伝え合うこともできます。

それにしても、サラリーマン時代の会議は本当に長く感じていましたが、通訳をしているとあっという間に時間が経ちます。訳していないときも話を聞いておかないと分からなくなるし、用語を統一したり、サポートするためにパートナーの訳も聞いておかなければなりません。3人いれば、1人が通訳、1人がサポート、そして1人は完全に休憩することもできますが、ビジネスの場で3人というのはかなり待遇がいいと思います。


第18回 Put it under the pillow

今週の火曜日のディプロマットの会議通訳Ⅱの授業は、校長の原先生がご担当でした。TEDのスピーチを題材にして授業が行われましたが、通訳者泣かせの表現が色々とありました。Frustration, inspiration/to inspire, initiativeなど。カタカナ表現にもなっていますが、そのまま訳してしまうと場合によっては意味がぼやけてしまいます。原先生でも、しっくりくる日本語の表現が出てこないことがあるそうです。そのときに先生が紹介されたのが「Put it under the pillow」という表現。枕の下に入れてじっくり考えるという意味だそうです。英語では「I'll sleep on it」(一晩寝て考える)という表現もありますよね。その場ですぐに最適な訳が出てこなかったとしても、こういった表現を枕の中にストックしておけば、どこかでいい表現に出会った時に、次回はそれを使おう、と思えるかもしれませんね。

ちなみに私は新聞をひとつの基準にしていて、新聞でカタカナ語で表記されているものはそのままでもいいけれど(基礎的財政収支=プライマリーバランスなど)、それ以外のものはなるべく日本語できちんと言いたいと思っています。ポッドキャストなどで英語ニュースを聞きながら、日本語で言えない表現があれば、次に新聞を読むときに同じ題材の記事を探します。なんとなくですが、その場ですぐ調べるよりも少し時間差を置いたほうが覚えられるような気がします。今は分からないことがあるとすぐスマホで調べるのですが、その分調べたこともすぐ忘れてしまいます。家を出る前に電車の経路を調べたはずなのに、すぐ調べられるからか、駅についてまたアプリで調べなおしたりすることもしょっちゅうです。

日本語にはカタカナという便利なシステムがあるので、英語で新しい表現があると、そのまますぐ取り入れてしまいます。デザート→スイーツのように、使い古されてくるとすこし目新しい表現が求められます。たまにお年寄りと話をしていると、日本語が存在すると思っていなかったような言葉でもきちんと日本語があることに気づきます(ノート=帳面など)。考えてみれば当たり前のことですが、少し英語をかじり始めるときちんと考えることなく「これは日本語では言えない」などと思ってしまいます。グローバル化が進んで、次々と新しい概念が生まれてきているのだから仕方ないという意見もありますが、明治時代にfreedom=自由やdemocracy=民主主義、communism=共産主義といった訳語が生まれて、定着しているのですから、日本語で言えないということはなかなかないと思います。

とくに共産などは、漢字の祖である中国が逆輸入して、政党の名前にしているのですからよく訳したものだと思います。中国語にはカタカナがありませんから、音を取り入れるにしても意味が通るように漢字を充てるので、今では日本人より海外の言葉を消化する努力をしているということになるかもしれません。

同時通訳だとカタカナで乗り切らなければならない場面も多くありますが、折にふれて言葉を枕の下にためていこうと思います。


第17回 通訳の声の大きさ

通訳者にとって通訳の妨げになる要因の1つとして、自分の声があります。あまり大きい声で通訳してしまうと、同時通訳のときは自分の声で元発言がかき消されてしまうのです。特にウィスパリング通訳のときは発言を生耳で聞きとらなければいけないので、難易度はますます高くなります。とはいえ、あまり声を小さくしてしまうと、通訳を聞いている人が聞きづらいし、声も暗くなってしまいます。

先日通訳を務めた会議では、発表者の声が小さく、音の聞き取りに苦労しました。そのため資料に頼ろうと、資料ばかり見ながら通訳していましたが、気持ちが入らないため、やはり発表者のほうを見ながらウィスパリング通訳することに決めました。アイコンタクトを取り、うなずきながら聞いていると、だんだん発表者の方もこちらを見ながら話してくれるようになりました。そして、声も少しずつ大きくなってきました。おかげで、声も聞き取りやすくなりましたし、私自身の通訳の声も少し大きくすることができました。

また、逐次通訳の会議でも、参加者の声があまり大きくないことがあります。そういうときも、少しはきはきと通訳することで、参加者の声がつられて大きくなってくることがあります。そうすると、通訳もずっとしやすくなります。

通訳は毎回外的要因に大きく左右されます。昨日より今日いいパフォーマンスができたからといって、スキルが伸びたとは限らないのです。自分の背景知識、準備に充てられた時間、前もって手に入った資料の量はもちろんのこと、話し手の声の大きさ・話す速度、騒音、通訳者の席がどこに用意されているか、プレゼンテーションのときにポインターを使うかどうかでも出来が異なってきます。

ちなみに、皆さんは通訳するときは、イヤフォンを両耳に入れていますか?私は大学院では片耳にのみイヤフォンを入れて、もう片耳で自分の通訳をモニターするように教わりました。その前までは日本で我流でやっていて、両耳に入れていたので、最初は音がうまく聞き取れませんでしたが、今では慣れました。ロンドンの知り合いの通訳者の方は普段は片耳しか使わないけれど、音がうまく取れないときは両耳に入れると言っていました。また、ブースで通訳しているときは、片耳を空けておくことでパートナーの通訳を聞くことができます。数字を書き取ったり、表現や用語を統一するためにパートナーの訳も聞いている必要があります。私は個人的には聞きながら話すことより、2つのことを同時に聞くほうが難しく感じます。


第16回 ビジネス以外でも

ときどき、「こんな雑談まで訳してもらって申し訳ない」と言われることがあります。でも、私にとって雑談を訳すのはとても楽しい作業です。人間は知らない相手に対しては警戒心を持ちます。言葉の壁があるときはなおさらです。ビジネスだけを一緒にやっていると、文化の違いから、色々と軋轢が生まれてしまうことがあります。ただ、そんな場合でも雑談をすることによって、相手も自分と同じ人間で、当たり前のことですが、家に帰ると家族がいたり、趣味があったりすることがわかります。ですから、私は雑談もなるべく訳すようにしています。

ときどき、外国人役員に、この通訳者はおしゃべりも全部訳す、とからかわれることもありますが、雑談の内容が面白ければ、みんなが笑って雰囲気が和むこともあります。何がきっかけになるかわからないので、時間とスキルが許す限りなるべくたくさん訳したいと思っています。

同じ言葉を話さなかったり、見た目が自分たちと違う人たちに接するとき、想像力が欠如してしまうことはないでしょうか?会議中に日本人から「この部分は訳さなくていいから」と言われることがありますが、分からない言葉を聞いている時間というのは実に長いものです。自分が逆の立場だったら、不安になり、不信感を覚えてしまうと思います。その中で笑いが起きようものなら、自分のことを笑われているのかと感じてしまうかもしれません。私がロンドンにいたときに、すごいと思ったのは、イタリア人の学生4人か5人と私で話をしていたときに、イタリア語で話すこともできるのに、私がいるというだけの理由で会話が英語に切り替わったことです。多文化なヨーロッパだからこその、inclusiveな態度だと感じました。

外国語を勉強して、外国人と接する機会が増えると、どうしても表面的な違いに目が言ってしまいます。でも、人間は基本的にはみんな一緒だと思います。以前は表面的な文化の違いに興味がありましたし、今でももちろんそうですが、今はクライアントがお互いのことを身近に感じられるような通訳をしたいと思います。



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プロフィール

佐藤 祐大

佐藤 祐大さん
日英会議通訳者。熊本大学英文科卒。 公益財団法人日本英語検定協会に4年半務めたのち、ロンドンメトロポリタン大学に留学し、会議通訳の修士号を取得。 製薬会社、経営コンサル会社での社内通訳者を経て、2016年7月より現職。