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21世紀の通訳 -Interpreting in the 21st Century-

第15回 大学院での通訳訓練

先日、修士論文が無事合格し、無事会議通訳の修士号を取得することができました。今回は振り返りということで、今回は私が通ったロンドン・メトロポリタン大学(以下ロンドンメット)の通訳訓練の内容を簡単に紹介します。イギリスでは修士号は1年で取得できる場合があり、同大学の会議通訳修士課程も1年です。私は2014年の9月から2015年の5月にかけて渡航し、通訳訓練を受けました。6月から社内通訳者として仕事を始めたため、修士論文は日本で執筆し、2015年9月に提出しました。

昨年、イギリスで修士課程の通訳訓練を行っているのはロンドンメットだけでした。リーズ大学やバース大学のコースは、日本語はしばらく開講されていないようです。入学試験は約10分の英語スピーチと、英語→日本語の逐次通訳です。英語スピーチに合格しなければ、逐次通訳のステージまで進めません。

前期と後期にそれぞれ3科目ずつ授業があります。前期は逐次通訳、会議通訳Ⅰ(同時通訳)、通訳理論です。後期は会議通訳Ⅱ、会議通訳(国連・EU)、業界研究(職業倫理等)があります。理論と実践のバランスの取れたコースで、基本的には諸外国の学生と模擬会議を通じて通訳訓練を行います。言語ごとのチューターがいて、言語別のフィードバックも受けられます。

通訳技術習得に集中できるよう、教材は難易度がコントロールされており、日本の通訳学校で扱うものよりも簡単です。良かった点としては、国際会議基準を満たすブースで通訳訓練を行えることもありますが、何よりもクラスメートが国際色豊かだということです。逐次通訳はプレゼンテーションである、という考えのもと指導を行っているので、通訳だけでなく、スピーチを毎週やらされます。そのときに、自国の時事問題を扱うので、日本についての知識も深まります。ちょうど渡英中に日本の解散総選挙があったので、それを題材にスピーチしましたが、諸外国の学生からは日本の総理大臣はどうやって選ばれるのかとか、日本の参議院議員は選挙で選ばれるのかとか、色々と質問がありました。また、授業中にアフリカの学生が「台湾はもともと日本の領土だったけど、中国が取ったんだよね?」と発言し、中国人の学生がいたのでヒヤっとしたこともありました。ただ40人ほどのクラスにアジア人は2人しかいなかったので、ずいぶん仲良くなり、中国も身近に感じられるようになりました。

それから、日本語から英語に訳出するときは、私の英訳を聞いて各国の学生が自国語に通訳するので、身が引き締まる思いがしました。訳がもたついたりよくわからないようだと、容赦なく批判されてしまいます。また、英語になっていても、きちんと英語の論理構成がないと、何のことを言っているか分からないと言われてしまいます。これは自分に負荷をかけるという意味でよかったと思います。

ヨーロッパの学生はほとんどが欧州連合の関係機関で通訳をしたいと考えているため、EUに関するトピックが多く扱われます。日本からするとヨーロッパは物理的にも心理的にも遠いですが、今日のグローバルプレイヤーである超国家組織・EUについて基本的な理解をしておくことは、アメリカや中国、国連についてある程度の知識を持っておくことと同じくらい役立ちます。

日本の通訳訓練と加えて、一長一短がありますが、是非選択肢に加えてみてください。


第14回 通訳前の30分

先日、単発のお仕事で2日連続ある国際会議の通訳を務めました。初日と2日目で登壇者は違ったのですが、主催団体やテーマは同じでした。

初日も2日目も30分ほど前に会場入りしましたが、その30分を使ってやったことは異なりました。

初日は事前の30分で会議の流れ等について説明があったのですが、その部分から通訳してほしいと言われ、通訳しました。司会者や登壇者がそれぞれ自己紹介をしたあとに、司会者からパネルディスカッションの進め方、話してほしいポイントなどの説明があったところ、打ち合わせ自体がパネルディスカッションさながらになりました。そこで話された内容が、本番でもかなり重複して議論されたので、落ち着いて訳すことができました。

二日目については、打ち合わせがディスカッションになってしまうことはなく、比較的登壇者とも打ち合わせができました。もちろんプロフィールは事前に調べて臨みましたので、ある程度の固有名詞なども把握していったのですが、登壇者に「会社名や組織名、プロジェクト名など言及するかもしれない固有名詞はありますか」と聞くことができました。自分が事前に調べていったものとかなり重複していましたが、スピーカーはみんな英語のネイティブスピーカーではなかったので、彼らが実際にそれらの単語をどのように発音するのかを事前に聞けて、準備に役立ちました。また、ざっくりと、どのような話をするか聞いてみたところ、事前に色々と教えてくれました。放っておくとスピーカーがいつまでも話し続けてしまうので、ところどころ遮って、内容を確認してから通訳に臨みました。

初日は思いがけず事前の30分を有用に使えました。2日目は初日の経験のおかげでどのような情報を事前に抑えていたほうがいいか把握できたため、自分で主体的に準備に使うことができました。

通訳の仕事は、毎回スピーカーに会うまでは緊張の連続です。先日も部屋で会議が始まるのを待っていたら、インド系の方が入ってきて、電話で話していました。ところどころ英語っぽい表現が聞こえるのですが、あとの部分は英語に聞こえない...。結局その人は会議に参加する人ではなかったのですが、今でもあれは英語だったのか、それとも英語をところどころに混ぜた他の外国語だったのか、謎です。もちろん、少し有名な人なら、YouTubeに話している動画がアップされていることもあります。少しでも話している様子を実際に聞けると、かなり緊張がほぐれます。

上記のように、どれだけ準備ができるか、どれだけ事前資料が出たかということで、パフォーマンスはかなり異なってきます。ですから、単に他の通訳者が通訳している様子だけを見て、能力を判断することはできませんし、自分にはとてもできないと劣等感を覚える必要もないと思います。先達の本を読んだり、話を聞いたりすると、結構失敗談なども語られていて、励みになります。


第13回 目は耳よりも欲張り

通訳というと、耳で聞いた言葉を別の言葉に訳すというのが基本的な作業ですが、書き言葉から話し言葉への通訳を頼まれることもあります。例えば契約書の書面などがスライドに映し出され、それを部分的に訳してほしいと頼まれることがあります。会議中に資料を渡され、上から訳してくださいと頼まれることもしばしば。

箇条書きの場合は、日本語では体言止めというかたちで、名詞で終わっている場合が多いのですが、これは英語にするときは動詞にするとうまく訳せることがあります。

通訳の訓練法にも「サイト・トランスレーション(サイトラ)」と呼ばれるものがあり、これは文章を読みながら口頭で他言語に訳していく練習です。先日通訳学校で行われた試験では、試験の一環としてサイトラがありました。どこから抜粋したのか分かりませんが、日本語の論説を英訳しました。

難しいのは、通訳をするために耳で聞いているときは自然と幹の部分と枝葉末節を意識しながら、話の流れを追いかけられるのに対して、目で読んでしまうとあらゆる情報を訳に入れようと欲張ってしまうことです。何かを言いかけても、追加の情報が目から入ってきたために言い直すことも増えてしまいます。契約書であれば、一言一句訳すことが必要なので、そうしなければならないでしょうが、場合によってはかなり時間がかかる上、分かりにくい訳になってしまいます。よく言われることですが、通訳とは言葉を訳す作業ではなく、意味を訳す作業なので、あまり言葉に引きずられてしまうと聞きにくい訳になってしまいます。

また、法律文書だけではなく、広告のキャッチコピーをその場で訳してくれと頼まれることもあります。自社のものから競合他社のものまでが羅列されているのを、順番に訳すのはとても難しい作業です。特にキャッチコピーはよく練られているし、日本語ならではの言い回しも多いので、訳すのにいつも苦労しています。

また、先週末の仕事では直前になってプレゼンテーションの原稿を渡されました。原稿を部分的に拾い読みしていたので、サイトラするかたちで対応しました。


第12回 通訳・翻訳学会

先週末は青山学院大学で行われた学会に参加をしてきました。通訳というと実践の世界かと思われがちですが、実は通訳理論というのも進んでいます。イギリスの大学院では通訳理論もやりましたが、他のアジア諸国と比べて、日本はG5などの時点から国際社会の主要プレイヤーになっていたためか、日本における通訳研究はよく引用されています。日本通訳学会の創始者である近藤先生や、二代目会長の鳥飼先生などのお名前は、英語の文献でもよく目にしました。

本当は土曜日から行きたかったのですが、仕事が入ってしまったため、日曜日にいくつか分科会に参加をしてきました。通訳はやはり理論だけではできませんが、私は理論もとても有用だと思っています。You don't have to reinvent the wheelというように、みんなが同じ問題を抱えていたり、すでに研究がされていて、分かっていることがあるのであれば、それを通訳業界全体で共有しない理由はないからです。

まずは、政治的発言を通訳するときに「lengthening」という現象についての発表を聞きましたが、とても興味深かったです。私はどちらかというと、言質を取られないように余計なことを言わないように心がけることが多いのですが、政治的発言の通訳ではあえて色々と発言を言い換えたり、説明を加えていくことで、通訳者の発言がそのまま海外メディアに引用されるのを防ぐというリスクヘッジも行われるようです。

そのあとは、翻訳者がどういうところにストレスを感じているのか、ということについての発表をテンナインの同僚と聞いたのですが、クライアント(翻訳エージェントも含む)とのやり取りという要素もあったので、同僚は翻訳コーディネーターだということもあり、興味深かったようです。

それから、大学における通訳や翻訳の英語教育への応用に関する発表もありました。「アナと雪の女王」の日本語字幕を見て、英語に訳し直し、元発言と比べるということを大学の授業で行ったという内容でした。字幕の日本語が受動態になっていても、英語の元発言は能動態だったりすることもあり、これを通して学生の関心を文法形式にひきつけるという内容でした。

どれもとても参考になりました。あまり通訳や翻訳理論にはなじみがない方も多いかもしれませんが、たまに触れてみると気づきがあるかもしれません。私もローデリック・ジョーンズやダニエル・ジルなどの本を大学院のために購入しましたが、折に触れ読み返すと毎回違った学びがあります。特に勇気づけられるのが、実際に百戦錬磨の通訳者でも100%意味が取れなかったり、分からない単語があるのは避けられないという内容を目にしたときです。もちろん可能な限りニュースをチェックしたり、資料を読み込んだり、関連分野の書籍に目を通してから仕事に臨みますが、熟練の会議通訳者でも分からないことがあるというのは勇気づけられます。


第11回 ビジネス英語の表現

私は前職が民間ではなかったので、毎日ビジネスのことを学んでいます。皆さんからするととっくにご存知の表現かもしれませんが、いくつか面白いと思った表現を紹介します。

Be aligned with~ (~と調整する、意識統一をする)
どのような企業でも、部署間の情報共通、意識統一を図ることは重要です。The marketing team has to be aligned with the sales.(マーケティング部は営業部と足並みをそろえる必要がある)といったかたちで使われます。文脈からすぐに意味は分かりますが、知らない表現でした。今まではWe have to coordinate with...とか、Let's make sure we are on the same pageなどを使っていましたが、最近この表現を自分でも使うようになりました。We have to get an alignment on this issue(この問題については意識統一をしておく必要がある)という使い方もあります。

Heads-up (情報)
Thank you for the heads-up(情報提供をありがとう)や、This is just a heads-up(ちょっと伝えておきたいだけなんだけど)といったかたちで使われます。

Apple-to-apple comparison
りんごとりんごの比較。まったく同じ条件のもとで2つのものを比較することです。This is not an apple to apple comparison because the consumption tax hike is not taken into consideration.のように使われます。訳はそのまま「消費増税の影響を考慮していないから、これはapple to appleの比較になっていません」。

Nice-to-have
あるに越したことはないけれど、必須ではないもの。Is it a must or a-nice-to-have? We have to prioritize because our budget is limited. 「これは絶対必要ですか、それともあればいいといった類のものですか?予算が限られているので、優先順位をつける必要がありますので」。

Deck
プレゼンテーションのスライドのこと。

いかがでしょうか?もちろん毎日色々な単語や表現を学んでいますが、その中でもいくつか一般的だと思われる表現が溜まったので紹介しました。



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プロフィール

佐藤 祐大

佐藤 祐大さん
日英会議通訳者。熊本大学英文科卒。 公益財団法人日本英語検定協会に4年半務めたのち、ロンドンメトロポリタン大学に留学し、会議通訳の修士号を取得。 製薬会社、経営コンサル会社での社内通訳者を経て、2016年7月より現職。