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第21回 集中してますか?

 先週、同時通訳者の集中の秘訣というテーマを与えられ、金曜日にNHKの教育番組の取材を受けてきました。集中の秘訣というテーマには、集中するためのテクニック的なものがあるという前提で、それを聞き出し、中学生、高校生の勉強のヒントにしたいという狙いがありました。

 確かに同通をしているときは集中しているし、集中力を維持するために15分~20分交代で通訳をしているわけですが、何らかのテクニックを使って集中状態に入るわけではありません。正確に言うと、集中していないと同時通訳はできないという方が正しいと思います。

 何も準備なしで同通することもありますが、通常は事前の資料をベースに自分なりに調べて、スピーカーがどういう話をするかを考えたり、これまで行った講演の動画を見て音声的な特徴をつかんだりします。場合によっては、そのスピーカーのこれまでの発言等もチェックし、どういう考え方を持った人なのかも確認します。

 こういった準備を通して、その人になるための準備をしていくのです。仕事の当日スピーカーに会うことができれば、そこで最終的な情報収集をし、本番に臨みます。実際に同通をしているときには、できるだけその人になりきることに集中し、発言の度にどういう意味なのかを分析し、次にどういう話をするのかを先読みしていきます。その15分の間、基本的には「自分」をできる限り消すようにしていきます。その結果、集中した状態になっているような気がします。スピーカーとうまく同期できれば、自分の思ったように話が進み、乗り移ったように言葉がでてくること(めったにありませんが)もあります。

 通訳でない人がここまで集中して話を聞く必要があるのか議論が分かれるところではありますが、スピーカーになりきることで得られることは少なくありません。英語のリスニングの勉強は「音」を聞くという部分に焦点が当てられ、音が聞き取れ、理解できるかどうかに終始しがちです。しかしスピーカーと同化し、発言の意図を瞬時に理解しつつ、その一歩先を読む力が付けば、余裕をもって人の話を理解できるようになります。

 スピーカーと同化するというのはそうそうできることではありません。まずその人に興味を持ち、時間をかけてリサーチをする必要があります。ただもし自分が興味のあるスピーカーやアーティストがいたら、その人に関する情報や発言を英語で調べ、その人なりや考え方を理解していきます。自分の好きな人に関するリサーチなので、英語の勉強をしているという感覚(やらされ感)はないはずです。この段階で、リーディング力、語彙力、何よりもリサーチ力がアップしています。

 この準備をした後、 (より集中するために)にヘッドフォンを使ってその人のスピーチを聞いてみてください。その時に「音」を聞くのではなく、その人が伝えたい「メッセージ」に耳を傾け、その人にできるだけなりきるようにしてみてください。そしてその人が次に何を言いたいのかを予想してみるといいと思います。

 同じスピーチを何度もなりきって聞いていくうちに、その人の話し方そのものが自分のものになってきますし、スピーチの上手なスピーカーであれば、イントネーションや間の取り方もうまくなるはずです。

 本来リスニング力を上げるというのは音の聞き分けではなく、その人の伝えたいメッセージを理解するためですが、リスニングの勉強が「音」のレベルで止まっているケースが多く、発音練習やシャドーイングといった練習に終始しがちです。好きな人になりきることで、自分の英語力を多面的に強化できると思いますので、普段の「音」の勉強に取り入れてみてください。


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プロフィール

上谷覚志

上谷覚志(かみたにかくじ)さん
大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。