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第10回 使える単語帳

前回のコラムでは忘却曲線を使って、機械的に覚えた単語はどれくらいのスピードで忘れていくのかについてお話ししました。

私の場合、通訳案件で必要な単語は、その案件期間中だけ覚えていればいいので、ある程度機械的に覚えてしまうこともあります。似たような案件が続けば、自然と覚えていくものですが、また期間が空くとそういった単語も以前ほどすぐには口からついて出てこなくなる場合もあります。

一年に一回程度しか使わない単語と、日々業務で使う単語や、英語の基礎として常に使わないといけない単語では覚え方を変える必要があるのでしょうか?私は基本的には違いはないと考えています。あるとすれば、覚えた後のメンテ期間をどれだけ設けるかだと思います。忘却曲線でお話ししたように、覚えた後24時間以内にどれだけ確認するかが、単語を記憶しておくカギでした。

それでは単語を6つのプロセスを整理していきたいと思います。
(1) 単語帳を作る
(2) 3秒ルールでチェック
(3) 全身で覚える
(4) 単語のイメージをつかむ
(5) △と×を再度チェック
(6) その日のうちに再チェック

まず今回は(1)の「単語帳を作る」プロセスについて話したいと思います。本にせよ、ソフトにせよ、さまざまな単語集が世の中にはあります。フォーマットも様々で、使いやすく工夫されているものも増えてきました。もし今お使いの単語集で、効率的に単語が覚えられ、使うときにもスラスラと出てくるのであればいいのですが、私の場合は、市販のものはどこか情報が足りなかったり(逆に多すぎたり)、訳語に違和感があってしっくりこないことが多くあります。

膨大なデータから選び出された単語はリストとしては活用させて頂きますが、適時自分が使えるようにカスタマイズしていきます。そのまま市販の単語集を使うのは、他人の服を借りて生活しているような感じがするので、自分の身の丈に合うように変えていきます。

通訳者の中には手書き用のノートを持ち歩く人や、スマホ等のデバイスを駆使する人もいます。私の場合、エクセルに英語と日本語の対訳を打ち込み、場合によっては例文や用法を書き添えます。エクセルのメリットは、アルファベットやひらがなだけではなく、他の属性情報(たとえば品詞や重要度等)を入れておくと簡単に並べ替えができるので、用途に応じて並べ替え、印刷し持ち歩くことができます。

さて、皆さんは単語帳にどのような情報を書いていますか?市販の単語集をみると、見出し語、訳語、発音記号、品詞、例文、解説、派生語、同意語・反対語・関連語等さまざまな情報が載っていて、辞書のダイジェスト版のようなものも少なくありません。自分の単語帳には自分が本当に必要な情報に絞ることが重要です。情報は多ければ多いほどいいというわけではありません。自分にとって本当に必要な情報を絞り込んでいくことが大切で、知っていることは書かなくてもいいわけですし、自分がいつも間違えるポイントや今後使ってみたい用法等を書き込むことが重要です。

まず必要な項目として英語とその対訳があります。スピーキングやリスニングが弱い人は発音記号も必要です。ただし全ての単語ではなく、自分が発音できないもののみでいいでしょう。発音記号が読めない場合は、最初は発音記号にカタカナを符って、強く読むところに印をいれておいてもいいと思います。訳語だけをとにかく覚えようとする人が少なくありませんが、発音できない単語をいくら覚えても、リスニングやスピーキング力を伸ばすことはできません。英語をコミュニケーションで使いたいのであれば、意味だけではなく発音も同時に覚えてください。

また文法が弱い人や英語の基礎ができていない人は、品詞も単語帳に入れるようにしてください。単語の意味がわかっても、その単語が名詞なのか動詞なのかがわからないとスピーキングやライティングで、その単語を使いこなすことができません。母国語で単語の品詞なんて考えることがないため、品詞の重要性が軽視されがちですが、自然に覚えた母国語と違い、大人になってから外国語として英語を勉強したのであれば、意識的にそれぞれの単語の品詞を覚えていく必要があると思います。最初は大変かもしれませんが、品詞を意識し始め、品詞を見分けるコツをつかめるようになると、日本語を使うように品詞を意識しなくても英語を使いこなせるようになります。品詞がわかるようになると、文章の構造もわかりますし、書くにせよ話すにせよ、どの単語をどういう順番で使えばいいのかも自然にわかるようになります。最初は窮屈に感じるかもしれませんが、単語を覚えるときには、訳語+音声情報+品詞は必須情報として押さえるようにしてください。

次に用例です。単語は文章で覚えるのが鉄則で、単体で覚えるよりも文脈があった方がより記憶に残りやすいものです。ただ単語を覚えるのに、全ての単語に文章を書き込んでいくと、かなりの作業になりますし、途中で嫌になる可能性も大きいので、文章でなくても句にしてみましょう。例えばbook(予約する)と覚える時に、I would like to book a double room for two nightsと文章にしてもいいですが、もっと短い句でbook a (double) room(部屋を予約する)というようにすると、単語単体より記憶に残りやすいですし、使う時にもbookの次の言葉もすぐに出てくるようになります。単語の使い方に関しては、辞書の例文を参照してもいいですし、比較的新しい電子辞書には研究社から出ている"英和活用大辞典"という単語の用例を集めた辞書もありますので、その中から自分が使いそうなものを選んで、単語集に書き込んでください。1つの単語に複数の意味があったり、用例もたくさんあるケースもあります。あれもこれも覚えたいと欲張るのではなく、自分が今後使うかどうかを基準にして、書き込む情報を判断するようにしてください。たくさん書けばいいというものではありません。

最後に単語帳を作る上で最も重要なことをお話ししたいと思います。訳語をどうするかという問題です。辞書や市販の単語帳の訳語をそのまま書いている方がほとんどではないでしょうか?単語の意味というのは、基本的に文脈に依存しています。特に動詞、形容詞、副詞は、その後に来る言葉によって訳語が大きく変わります。辞書にしろ、市販の単語帳にしろ、自分が普段使わない訳語が出てきたら、それは自分の単語帳には書き込まず、自分が普段使う言葉に変換してから単語帳に書き入れるようにしてください。

例えば、どの市販の単語帳にも必ず載っている"admire"という単語があります。辞書や市販の単語帳では、「感嘆する」「賛美する」「敬服する」という訳語が載っていますが、皆さんが日常的に「感嘆する」「賛美する」「敬服する」という言葉を使いますか?もし使うのであれば、そのまま覚えても問題ありませんが、私は使いません。こういう訳語を覚えてしまったら、admireという単語は高尚な文脈で使われるもので、日常的には使わない言葉だと思うのではないでしょうか。しかしこの単語は普通に使われる単語で、平易な日本語でいうと「すごい!!」という意味です。I admire you.というと「君ってすごいね!!」とか「君みたいになりたいよ」くらいの意味です。さすがに辞書に「すごい!!」とは書けないかもしれませんが、皆さんの単語帳にはそういう制約はありませんので、自分が普段使っている日本語を書き込むべきだと思います。機械的にこの単語を「感嘆する」「賛美する」「敬服する」と覚えてしまったら、皆さんの口からadmireが出てくることはないでしょう。使える英語を身につけるための単語帳ですから、自分目線で訳語をカスタマイズすることが重要です。とりあえず書かれている訳語を覚えることを止めることが良い単語帳をつくるポイントだと思います。

次回はその次のプロセス「3秒ルールでチェック」について説明していきたいと思います。


第9回 使える単語の覚え方1

 前回、英語をやり直す場合に、"TOEIC等の資格のためのやり直し"なのか、"ビジネス等で英語を使えるようにするためのやり直し"なのかを分けて考える必要があるという話をしました。ツールとして英語を使うことと英語のテストで点数を取ることは全くアプローチが違うために、一石二鳥を狙うと逆に遠回りになる可能性があります。

 今回から具体的な英語のやり直し方法を考えていきますが、TOEIC等の資格の勉強が終わった方、またはそういう勉強が不要な方を対象として考えていきたいと思います。まずは単語から考えていきましょう。

 学生時代にせよ、資格対策にせよ、ある程度の範囲が決まっていて、出そうな単語というのも決まっていました。出題パターンも決まっているので、「この単語は発音できないけど、日本語の意味さえ覚えておけばOK」とか「この単語は次にinが来るっていうのがポイント」とか「この単語を文章の中で見たことないけど、~っていう意味らしい」といったことを覚えた記憶はないでしょうか?単語の知識がテストで試されるとどうしてもこういったことを覚えておかないと点数が取れないので仕方ないのですが、資格試験の勉強が終わったら単語の覚え方も変えていく必要があります。

 私が単語の覚え方の説明をするときに、忘却曲線の話をします。ご存知の方も多いと思いますが、ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが19世紀に行った実験で、記憶と忘却の時間的関係を測定するために、「MEV」「YJK」といった意味のない3文字の綴りを記憶させ、一定時間後どの程度思い出せるかを実験したものです。学習直後100%覚えていたものが、時間が経過すると覚えていた割合は次のようになりました。20分後→58%、1時間後→44%、9時間後→36%、24時間後→26%、6日後→24%、1か月後→21%。完璧に覚えたと思っても、1時間経つと60%忘れ、翌日には70%忘れてしまうということです。

 ここでもポイントは2つあります。1つは最初の24時間は急激に忘れるが、それ以降の記憶量はそれほど変わらない。この%が全員に当てはまるわけではないですが、早いタイミングで復習することがいかに大切であるかわかります。もう一つは"意味のない文字の綴り"を覚えたという点です。つまり無理やり機械的に覚えたものはこれくらいのスピードで忘れていくということなのです。

 このことを単語を覚えるという作業に当てはめてみると、覚えた単語を24時間以内に何度か確認すると覚えている確率が高く、機械的ではないやり方で覚えた方が記憶に残りやすいということになります。皆さんが単語を覚えてから、同じ単語を次にいつ確認しますか?単語集にせよ、自分の作った単語リストにせよ、最初の単語から最後の単語まで覚えてから、また最初の単語に戻るか何日後かに復習するというパターンが多く、24時間以内に確認をしている人は少ないのではないでしょうか?

 また機械的な暗記というのも単語集を使って覚えている人に多くみられます。単語集は膨大な情報から必要な情報をまとめてくれたものなので、それを覚えれば効率的に単語を覚えられそうですが、実はそれが機械的な暗記なのです。効率性を重視したつもりが実は遠回りになっているのです。

 しかし本屋に行けば、単語集だけの棚があるくらい多くの種類の単語集が出版されています。それだけの需要があるのでしょうし、学生の頃から、単語集で単語を覚えてきたので、英語のやり直しも単語集から始めるという人も少なくないのでしょう。単語集の中にはよくまとまっているものもありますので、そのエッセンスをうまく取り込みながら、機械的な暗記を避けるポイントがいくつかあります。

 次回はこの機械的な暗記を避けて、使える単語を身につけるポイントをご紹介したいと思います。


第8回 本当にやり直してますか?

前回、今プチブームの"やり直し英語"について考えてみたいと思います。社会人になってから英語を何とかしないといけない人にとって、英語のやり直しは頭の痛い問題です。英語がこれまであまり得意でない人は、恐らく"自分たちは基礎ができていないから、英語ができない。だからもう一度基礎に戻って勉強し直さないといけない"と考えることが多いようです。中学や高校の英語『やり直しの本』は、まさにこういった方のニーズに応えるもので、ベストセラーになっているのも納得できます。

しかし実際にこの手の本を手に取ってみてみると、自分が本当に中学や高校で使った参考書と同じような目次やレイアウトで、昔懐かしい例文が次々と出てきて、「あーやったな。こういうの」とノスタルジックな気分にさえなります。何十年前に出版された内容と全く同じ本がなぜ売れているのか不思議だったので、出版社の方と会った時に聞いてみたところ、「昔やったことを同じようなフォーマットで振り返ることから得られる安心感が受けて、復習した感が得られるから大人に受けている」のだそうです。

例えば受験勉強をしないまま高校や大学に入ってしまった人や英語から離れて何十年も経つような人の場合、一度中学や高校の本にさっと目を通し、復習することは無駄ではないでしょう。ただしあくまでも"さっと目を通し、全体としてどういう内容があったのかと自分の苦手分野を把握する"程度でいいと思います。それがわかったら、次はビジネスで英語を身につけたいのか、それともとりあえずTOEICスコアを上げたいのかを決めます。それによってやり直すべきことが全く変わってくるからです。

TOEICが出来たころは、TOEICは英語のコミュニケーション力を測るテストなので、対策はできないと言われていましたし、今のような対策本もほとんどありませんでした。しかし今は状況が全く違って、TOEIC自体がいろいろな人に分析されて、その対策本や攻略本が数多く出され、コミュニケーション力ではなくTOEIC力を測るテストになってしまいました。もちろん英語のコミュニケーション力が上がれば、最終的にはTOEICスコアも上がっていきます。一般的な目標点600点~700点代くらいであれば、コミュニケーション力がさほどなくてもTOEICの対策をしっかりやれば、目標点を取ることは難しいことではありません。

やり直したい英語がTOEICであれば、ビジネス英語やコミュニケーション英語の勉強はちょっと忘れて、ひたすら問題形式に沿った練習をすることをお勧めします。就職・転職にせよ、昇進にせよ目標点に達したら、次に本当に使えるためのやり直しを始めてください。本当に自分が使うための勉強をして、英語の地力が付いてくれば、TOEICのスコアも勝手に上がってきます。初心者または中級者の場合は、両方を一気にやらずに、まずはTOEICそれからビジネス英語のやり直しという順番を間違えないようにしてください。

TOEICのスコアの縛りもなくなり、コミュニケーションのための英語をやり直す場合、文法と語彙から始める必要があります。最終目標が英語を聞き取り、話せるようになることであっても、文法や語彙が弱いとその目標は単なる目標で終わってしまいます。日常的に英語を使わない環境で外国語として英語をマスターしていくための基礎が文法であり語彙であることは多くの方が理解し、実践しています。それでも納得するような形で英語ができないのは、そのアプローチにあります。

文法がわかるということはどういうことなのでしょうか?文法説明ができることでしょうか?文法の問題が解けることでしょうか? TOEICスコアもとりあえずクリアし、英語のテストを受けなくてよくなったのにもかかわらず、テスト勉強のようなことを続けていても英語が使えるようにはなりません。本当のコミュニケーションにはそもそも選択肢などないのですから、選択式の文法問題や穴埋め問題、リーディングの理解度確認問題もいらないのです。

これまではいかに早く答えを探す訓練をしなければならなかったわけですが、これからは"文法をどう使いこなすか"という訓練に変えなければなりません。そこには当然のことながら、選ぶべき選択肢はありません。しかし逆にいうと自分が好きなように文法を使えるという自由があります。苦手な文法は使わなくてもいいわけですし、自分が使いたいと思うものだけを自分で選択して練習すればいいのです。文法の全てを知らないといけないわけではない分、ある意味気分が楽になったのではないでしょうか?

以前授業の中で「私は過去を振り返らないので、仮定法は要らない」とおっしゃった方がいました。それでいいと思います。試験の場合はそういうわけにはいきませんが、自分で英語を使うだけであれば、文法全てを勉強する必要はないと思います。冒頭で『やり直しの本』をさっと見直す程度でいいと言いましたが、その時に"この文法って自分に必要?"って問いかけてみてください。

例えば、no more than~(~にすぎない)とあって、自分だったらonlyって使うかなと思ったら、それはとりあえず覚えるリストから外していいと思います。通常、やり直し勉強の場合、大切なところをできるだけ拾うようにしますが、この勉強はいかに自分にとって要らないものを捨てていくかがポイントです。著者が大切と言っても、自分がこれは使わないかなと思ったら、思い切って外してください。自分のレベルが上がってくると、要らないと思ったものも必要になる時がきますが、その時までは忘れて、今の自分に必要なものだけを覚えるようにしてください。


これからは誰かに英語力をテストされることはないわけですから、自分にとって何が必要か、必要でないかを決めることができますし、決めていかないといけないのです。通訳のように英語で生計を立てるのでない限り、今必要でない情報はかなりあります。

次回は、具体的に文法や語彙のやり直し方法について考えていきたいと思います。


第7回 大人のための英語やり直し

 「英語で何ができるようになりたいですか?」と聞くと「話せるようになりたい」または「聞き取れるようになりたい」と答える方が多いのですが、「英語をやり直すとしたら、何から始めますか?」という質問をすると、ほとんどの方が文法と単語と答えます。まず最初に、スピーキングの練習をするとかリスニングの練習をするという方は案外少ないのです。実はこれは初心者だけではなく、通訳訓練を受けているレベルの方でかなりレベルの高い方でも文法や単語をやり直す必要があると感じる方がかなり多くいます。

 英語でコミュニケーションを取れるようになることが目標でも、まずは文法と単語から取り組まないといけないと感じる人が多いのはある意味興味深いことです。日本で英語教育を受けた人にとって、「英語の勉強」=「文法と単語を覚える」ことであり、スピーキングやリスニングの練習そのものを、今までほとんどやってきていない人にとっては、スピーキングやリスニングからやり直す方法すらイメージできないのかもしれません。または、文法や単語の基礎がしっかりしてくれば、いずれは英語でのコミュニケーションができるようになるという希望を持っているのかもしれませんね。

 私自身、日本の義務教育を受け、大学で英語を専攻していたわけではなかったので、大学卒業した頃に、もし同じ質問をされていたら、全く同じように答えていたと思います。恐らく、もう一度受験の時に使った本を引っ張り出してきて、これまでやってきた勉強をもう一度やっていたと思います。私も昔から英語ができたわけではなく、ほとんどの方と同じような道を歩いてきました。

 少し私の話をさせていただくと、日本の大学で経済を専攻してから、アメリカに一年行きました。受験英語ができたことと、日本にいる外国人とちょっと会話が出来た(今から思い返すと単に相槌を打っていた)だけで英語ができると勘違いし、アメリカまで行ってしまいましたが、その自信と勘違いは一気に崩れ去りました。

 周りで流暢に話す留学生が話す英語を聞いても、書いている英語を見ても、文法や語彙に関して自分が劣っているわけではないので、理論上同じことが自分にも言えるはずだし書けるはずなのに、それができないというジレンマを強く感じました。文法は大学受験でかなり勉強したので、実際には周りの留学生に教えられるくらいでしたが、その知識をコミュニケーションに活かせないのです。

 1つは初めての海外生活ということもあり、知らない人の前で英語を話すことに慣れておらず、どんどん進んでいくコミュニケーションのスピードについていけなかったということもありました。この点に関しては、場に慣れていけば少しずつ対応できるようになりました。もう1つ文法や単語へのアプローチが間違っていたという点もありました。
これまで文法にせよ、単語にせよ大学受験のために勉強していたので、テストの設問に答えるための文法や単語は知っていました。例えば過去形と現在完了の説明をしろと言われたら、スラスラと例文を出して、その違いを説明することができましたし、単語にしても受験によく出ていたhistoric/historicalといったマニアックな違いも難なく説明できました。そういった知識が自分にとっての文法力であり、単語力であったのです。大学受験に必要な知識を覚えただけだったので、ある意味英語も日本史も同じようなものだったのかもしれません。

 受験英語は悪という方もいますが、私は必ずしもそうは思いません。受験で勉強したことが自分にとっての英語の基礎であり、それをベースに通訳になったわけです。ただそれはあくまでも大学に入るために必要な知識であり、社会人になってから英語をやり直すときにもう一度繰り返す必要はないと思います。しかしながら、受験英語時代に使ったような参考書をまた使って同じような勉強をしている人をたくさん見てきました。

 ここ何年か、中学の英語をやり直し、それが終わったら今度は高校の英語をやり直すというシリーズが売れているそうです。これに続いて他の教科のやり直し本が出され、ちょっとしたやり直しブームです。やり方を知らない人は英語を習い始めた中学から始めて、それができたら次の高校レベルに進むことが"やり直し"であると考える人がたくさんいることの裏付けだと思います。本当にそこからやり直さないといけないのでしょうか?

 次の回では、今ちょっとしたブームになっている"やり直し"英語について考えていきたいと思います。


第6回 サイトラの作法

 前回は、英語を聞いたり読んだりするときに"与えられた情報"を受けて、次の情報を予想していくことの重要性についてお話ししました。そのために、サイトラで前から理解していくことが必要となります。サイトラ(スラッシュリーディング)という言葉は10年前と比べるとかなり一般的になってきました。しかし"ただ前から読む"とか"スラッシュを引いて読む"という風に考えている人が少なく、具体的にどうやるのかはあまり理解されていないようです。以前担当したクラスでは、一度文章に目を通してから、スラッシュを入れたり、区切る場所を考える人もいました。

 市販の教材の中には、すでにスラッシュを引いてあり、それを手掛かりに英文を読むものもあります。慣れないうちはそういう教材を使うことも一つ手のではありますが、サイトラ(スラッシュリーディング)のトレーニングで一番力が付くのは、区切りを探していく(またはスラッシュを引いていく)部分にあります。区切る場所を見つけて、スラッシュを入れるだけの作業ですが、実は文法力、構文力、語法・語彙力を駆使しなければならないプロセスなので、適切な場所で区切ってスラッシュを引けるかどうかで、こういった知識が十分にあるかどうかを確認できます。

 よくある間違いの中に、機械的に細かく区切る(スラッシュを入れる)パターンがあります。前回の例"It's useful to have a rule of thumb on what to wear, and for my money, it's usually better to be overdressed than underdressed."を使うと、次のようになります。
It's useful (それは役に立つ)
to have a rule (ルールを持つ)
of thumb (親指の)
on what (何かの上に)
to wear (着るために)
and for my money (私のお金のために)
it's usually better (普通やより良い)
to be overdressed (オーバードレスであること)
than underdressed (アンダードレスよりも)

 あまり考えず、意味が分かる単語(上記のアンダーライン部分)だけの意味を考えて、何となく区切っています。次にどういう情報が来るのか、その前の部分とどういう関係なのかは全く考えられていません。このようなパターンは構文力や語彙力が弱い人、初級者・中級者によく見られます。構文力というと、昔高校で習ったIt is ~ that・・・の強調構文といった力だと思われるかもしれませんが、実際には、文章がどういう情報の固まりで出来ているのかを見極め、その前後の固まりとどういう関係なのかを前から読み解く力といった方がいいかもしれません。この力がないとサイトラをしても、上記の例のような分け方になり、内容も分からないし、場合によって誤訳になることもあるのです。

 構文力がまだ弱い人、サイトラに慣れていない人はどうやって情報の固まりを見分ければいいのでしょうか?文章の中の区切りのポイントが大きく分けて5つあります。まずは①から④までのポイントを説明します。
① 不定詞の前
② 関係代名詞の前
③ 接続詞の前
④ 前置詞の前

 次の例文で確認していきます。
I went to the office yesterday to finish the presentation that I would be giving on Monday even though yesterday was my day-off.

 上記の①-④のルールで区切ってみると、次のようになります。
I went to the office yesterday / 昨日オフィスに行きました
to finish the presentation / プレゼンを仕上げるために
that I would be giving / 私がすることになっている
on Monday / 月曜日に
even though yesterday was my day-off. / 昨日は出社しなくてよかったんだけど。

 上記の不定詞(to finish)、関係代名詞(that)、接続詞(even though)の前では、必ず区切れます。前置詞の場合、全ての前置詞で毎回区切ると逆に意味がわかりにくくなるので、時、場所以外の前置詞は文脈に合わせて考えてください。

 5つ目のポイントは
⑤ 分詞(現在分詞または過去分詞)の前です。
以下の例文で確認してみましょう。
As the quality of our chemicals directly impacts the end products purchased by our customers, we also place a high level of importance on quality control.

 5つ目のポイントを使って区切ると次のようになります。
As the quality of our chemicals directly impacts the end products /我々の化学品の品質が最終商品に直接影響するので、
purchased by our customers, /我々の顧客が購入する
we also place a high level of importance/我々は非常に重視している
on quality control. /品質管理を
上の例の下線purchased(過去分詞)とon(前置詞)の前で区切っています。

 このように①から⑤までの品詞が来たら、一般的には区切り(スラッシュ)を入れるポイントとなりますので、まだ慣れていない方はこのポイントを使って文章を前から区切って理解していく練習をしてみてください。また皆さんの練習のためにサイトラの練習問題を用意しましたので、一度試してみてください。

ビジネス英語用:
http://www.aocjapan.com/mailform/dojo-biz/sighttrans-dojo-biz.html
通訳トレーニング用:
http://www.aocjapan.com/mailform/dojo-interpret/sighttrans-dojo-interpret.html


サイトラの練習を続ければ、必ず読む力そして聞く力が伸びますので、3か月間続けてみてください。頑張りましょう!



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プロフィール

上谷覚志

上谷覚志(かみたにかくじ)さん
大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。