INTERPRETATION

第106回 「旧姓」を英語で言うと?

グリーン裕美

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

皆さん、こんにちは。早くも9月ですね。夏期休暇が終わり、仕事や勉学に本格的に取り組む季節となりました。私の方は、先週末のモザンビーク出張を終え平常の生活に戻ったところです。遠方への出張(しかも途上国)は何かと大変ですが、まったく異なる文化を体験できるのは非常に興味深く (absolutely fascinating!)、これも会議通訳という仕事の魅力の一つだと改めて実感したところです。

さて、日本では先週「国家公務員の旧姓使用を対外文書にも容認」というニュースが流れていましたが、その英訳で某メディアが「旧姓」をpre-marriage family nameと訳していたのに驚きました。皆さんなら、どう訳しますか?

在英20年(早いなあ!)で、最も馴染みのある表現はmaiden nameです。イギリスに引っ越したばかりのころ、銀行口座を開設するにあたり登録に必要な情報の一つが “your mother’s maiden name”でした。「自分の母親の旧姓」というのは、自分自身は(たいてい?!)忘れない情報だけれども、ふつう人に話すこともなく、本人確認の情報としてよく使われるということでした。言われてみれば確かに「自分の旧姓を言うことはあっても母親の旧姓を言う機会ってないな」と納得した記憶があります。

ただし、このmaidenという言葉は「未婚の女性/処女」という意味もあり、女性にしか使えないことや、古臭く聞こえることから「旧姓」の意味でmaiden nameを使うことに反対する人もいるようです。そこで政治的な正しい(politically correct)表現を好む場合は、previous nameとか、birth name, unmarried nameなどが使われます。

pre-marriage family nameという表現は、通訳でPlan Bとして使う分には問題ない(十分通じる)とは思いますが、やや冗長(a bit too wordy)という気がします。「旧姓」が2シラブル(音節)であるのに対してpre-marriage family nameは7シラブルです。通訳では簡潔な表現が好まれます。

「姓」だけを言う場合も、family nameやlast nameというよりsurnameというと簡潔です。

ちなみに「(下の)名前」の場合は、first nameの他、given nameもよく使われます。イギリスで驚いたのはChristian nameとも言われることです。「(下の)名前は何か?」と聞く場合、What’s your Christian name? がときどき使われます。けれども、名字が先で、キリスト教徒でない日本人の名前の場合はgiven nameが最も適切かと思います。

以上、今回は「旧姓」に関連する英語表現について取り上げました。お役に立てば幸いです。

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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