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ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

ビジネス・経済・金融などの分野の翻訳や通訳でよく出てくる表現をイギリスのメディアから取り上げてお届けします。

第81回 賃金格差について

 皆さん、こんにちは。西日本は大雪だったそうですが、イギリスも雪がちらつく寒い日が続いており、春が待ち遠しいです。

 ところで今回は、最近よく話題になる「賃金格差」を取り挙げたいと思います。まず「賃金格差」の英語表現は何が思い浮かびますか? pay gap、wage gapの他、wage differentialsとかwage disparityという表現もあります(differentialはふつう複数形、disparityは単数形であることに注意)。

 男女の賃金格差(gender pay gap)だけでなく、ある企業内のトップ(CEOなど)と一般従業員の賃金格差、正社員と非正規労働者の賃金格差など、様々なタイプの問題があります。

 その対策として程度の差はあれ、どの国でも「富の再分配(redistribution of wealth)」が行われています。ただし、「富の再分配」という場合は、1企業内というより、社会全体の貧富の差を緩和させるという文脈で、1つの国の中だけなく、先進国から発展途上国への所得移転までもが議論の対象となることもあります。

 具体的には、税制度(tax system)や社会保障制度(social security system)を通じて、収入の多い人から税を徴収し、収入の少ない人には税控除(tax credit/exempt/relief)や生活保護(benefits)支給などの方法で恩恵が施されます。

 ここで具体策の一つとして、紹介したいコンセプトはmaximum wage(最高賃金)、a wage ceilingとか、a wage cap、a limit on the salariesなどとも言われます。米フランクリン・ルーズベルト大統領は最低賃金制度(minimum wage)を導入したことで知られていますが、最高賃金も提案したそうです。1942年の議案では年収が2万5千ドルを超えた場合100%の税率が課されるというもので、実質的には最高年収が2万5千ドルということになります。ただし議会により却下されました。

 最近ではイギリスの野党第一党(労働党)ジェレミー・コービン党首が1企業内における賃金格差(CEOと最も賃金が低い従業員の間)を20対1に抑えるべきだと訴えました。その背景には、イギリスの平均的労働者とFTSE100大手企業CEO平均賃金の格差が2015年には123倍に、最悪のケースではなんと2500倍にまで拡大という事実があります。

 最高賃金は、前述の通り金額の上限で設定されることもあれば、他の労働者の賃金との比率で設定される場合もありますが、このコンセプトについて皆さんはどう思われますか?

 企業のトップが膨大な報酬を得ている問題は、日本よりも欧米のほうが深刻ですが、上限を設けることが解決につながるのかどうかは疑問です。EUでは2008年の金融危機の後、銀行員(バンカー)のボーナスに上限が設けられましたが、結局は逃げ道が見つけられるので規制の効果は怪しいと思います。

 賃金格差は資本主義(capitalism)、市場原理主義(market fundamentalism)の弊害の一つと言えるでしょう。2014年にオックスフォード大学で稲盛和夫氏が講演された際に私は同通を担当する幸運に恵まれましたが、そこで稲盛氏は「社員も共感できるリーズナブルな報酬を得る経営者が、一人ひとりの社員の力を最大限に引き出し、その力を結集させ、全ての社員の物心両面の幸福を実現していくことに努める経営こそが、資本主義社会の矛盾を是正し、21 世紀のグローバル社会にふさわしい経営ではないだろうか」とおっしゃっていました。結局は、経営者マインドに頼るしかないのかもしれません。稲盛フィロソフィーの浸透を願います。


2017年2月13日


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プロフィール

グリーン裕美

グリーン裕美さん
結婚を機に1997年渡英して以来、フリーランス翻訳・通訳として活躍。ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。二児の母。ビジネス会議、国際会議、法廷、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)など様々な通 訳経験ある一方、翻訳では、実務翻訳以外に、ビジネスマネジメント論を説いた『ゴールは 偶然の産物ではない』を始め『GMの言い分』『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。 向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに喜びを感じる。 グローバル社会の発展に貢献するために自分ができることを日々僅かながらでも実行している(つもり)。
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