HOME > 通訳 > ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう! > 第95回 「人員削減」を英訳すると?

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

ビジネス・経済・金融などの分野の翻訳や通訳でよく出てくる表現をイギリスのメディアから取り上げてお届けします。

第95回 「人員削減」を英訳すると?

皆さん、こんにちは。今日は言葉のregisterについて考えてみたいと思います。
通訳のフィードバックで "the meaning is conveyed but the wrong register is used" などとコメントされたら、何を直せばよいのでしょう。

言語学で言うregisterとは、「(言語)使用域/レジスター」などと訳されますが、相手の年齢や立場、状況によって適切な言葉を選んで使うことを意味します。「レジスター/使用域」という専門用語は知らなくとも、日本人に限らず他の言語の話者も皆体験的に学び、日常的に行っていることです。ただ言語によってレジスターがミスマッチすることがあるので、翻訳・通訳者である私たちは気を付けなければなりません。

英語と日本語を比べた場合、英語のほうがレジスターがカジュアルな場合(くだけた/簡易な表現)が多く、訳をするときは target language/audience(目標言語/聞き手・読み手)に合わせたレジスターを選ぶことが大切です。

そこで表題の「人員削減」ですが、あなたならどう訳しますか?

英辞郎には、corporate downsizing, cut in workforce, headcount reductionなどなど名詞用法だけで23もの表現が記載されています。文脈によって使えるものとそうでないものがありますが、今日紹介したい表現はずばり job cut です。日本の中学英語で習ったような表現ですが、名詞用法ではjob cut、「人員削減する」と動詞用法で使いたければ cut jobs と応用できます。英エコノミスト誌のような経済誌(書き言葉)、国際会議などフォーマルレジスターが使われる場でもふつうに使われています。

反意語の「雇用拡大」だといかがでしょう?
直訳のemployment expansionも通じますが、job creationあるいはもっと簡単に more jobsでも英語では自然に聞こえます。動詞用法「雇用を拡大する」だと、上記二つの表現を使ってcreate more jobsと言えます。

トランプ大統領がgood や badなど、単純な言葉を連発するので「訳しにくい」と翻訳者や通訳者から批判されていますが、この問題は今に始まったことではありません(もっとも問題悪化にはつながっていますが......)。「不良債権」のような日本語ではやや難しい言葉も英語では bad debtと、英語ネイティブなら2歳児でも知っているbadが使われます。ここで気を付けるのは、bad debtと聞こえたときに「悪い借金」と訳さないこと! この場合、意味も通じない誤訳となってしまいます。

日本語で話すとき、赤ちゃんには赤ちゃん言葉で、上司には敬語で話すように、訳をする場合も聞き手/読み手のレジスターに合わせて適切な表現を使うようにすることを心がけるとよいと思います。

この応用編では、人の呼称(呼び方)も含まれます。通訳の現場で、欧米人がファーストネームを使い、日本人は姓(&肩書き)を使う場合、同じ人のことだとピンとこなくて混乱を招くことがよくあります。そんなとき、少し気配りして、日本語に訳すときは英語の原発言がファーストネームだったとしても姓(&肩書き)に変換し、英語に訳すときは姓を下の名前に変換して訳すと意外にスムーズに話が進むことがあります。

以上、今回はレジスターについて説明し、その例として「人員削減」や「人の呼称」を取り上げました。お役に立てば幸いです。


2017年5月22日


ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!


↑Page Top

プロフィール

グリーン裕美

グリーン裕美さん
結婚を機に1997年渡英して以来、フリーランス翻訳・通訳として活躍。ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。二児の母。ビジネス会議、国際会議、法廷、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)など様々な通 訳経験ある一方、翻訳では、実務翻訳以外に、ビジネスマネジメント論を説いた『ゴールは 偶然の産物ではない』を始め『GMの言い分』『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。 向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに喜びを感じる。 グローバル社会の発展に貢献するために自分ができることを日々僅かながらでも実行している(つもり)。
Follow me on Twitter!