INTERPRETATION

Vol.32 「今が一番楽しい」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】
北村真澄さん Masumi Kitamura
明治大学卒業後、CBS SONY Incにセクレタリーとして入社。イギリス留学後、半導体企業社長付セクレタリーを経て、外資系企業にてヘッドハンティングビジネスに携わる。1997年にエグゼクティブ・サーチ会社設立。絵画の世界を知り、一旦ビジネスから離れるが、1年後復帰、現在はドイツ系保険企業にて社長付セクレタリーとして勤務。

Q. 英語に興味を持ったきっかけは?

小さい頃から、海外の小説、特にイギリス小説が好きで、大学は迷わず英文科を選びました。長野県の田舎で育ち、帰国子女でもないため、特に英語ができたわけではありませんでしたが、英語の文法には興味を持っていました。日本語にはない文章の作り方、その背後にある哲学や思想的なことにも感心を持ちました。一番成績が良かったのは、国語なんです。物書きになりたいと思っていたので、趣味で小説を書いたこともあり、今思えばバカみたいなことをしていました(笑)。

Q. 大学卒業後は?

大学院でイギリス小説の研究をしたかったのですが、経済的なこともあり就職を決めました。CBS SONY入社当時は、大賀さんが社長、盛田さんが会長でした。社会人として初めて働いた会社がここだったことは、私にとって非常に大きく、今日までの仕事に対するモチベーションを与え続けてくれています。今でも足を向けて寝られません。会社のポリシーが明確で、誰でも参加して意見を言える雰囲気、「人生は楽しむものだ! 働くことを楽しもう!」という風潮が大好きでした。

Q. イギリス留学後は?

帰国後、半導体関係の企業で4年間社長付セクレタリーとして勤務しました。ここでセクレタリーが何たるかを徹底的に叩き込まれたように思います。仕事に対する姿勢、人とのコミュニケーションを厳しく教えられました。私が入る前、前任者が何人も立て続けに辞めていったようで、「真澄ちゃんが一番長かったね」と言われたことを覚えています。つらい思いもしましたが、若い時は、鍛えられた方がいいですものね(笑)。

Q. セクレタリーの面白さとは?

ボスとの関係を良くし、お互いが働きやすい環境をいかに作っていくかです。相性の問題もあるかもしれませんが、もしちょっと合わないと思ったとしても、ボスの良いところをできる限り探し出して引き立てるよう努力します。逆に、他の人達の良識的な目で見ても、これはちょっと違うだろうという点に気が付いたときには、何気なくカバーしていくのが、プラスアルファな部分でしょうか。いずれにしても、同じ人間なので、とにかくコミュニケーションです。
現在の勤務先では、社長が非常に思いやりのある方で、私が少しでも暗い顔をしていると、「今日は元気かい?」と気遣って下さいます。お互いにうまくコミュニケーションが取れてさえいれば、「あぁもっと彼のためにいい仕事をしよう!」とモチベーションも上がりますよね。セクレタリーって奥が深いんです。歌舞伎の黒子と一緒で、彼らがいてはじめてスターが輝くんです。スターが黒子の大切さを理解しているかどうかによって、黒子の働きも違ってきます。面白い関係だと思いませんか?

Q. 北村さんの、セクレタリーとしての強みは?

度胸、でしょうか(笑)? 帰国子女ではないので、はっきり言って英語はうまくありませんが、ポイントを崩さない、失礼な言い方はしないことを心がけています。
コミュニケーション力も強みかもしれません。ヘッドハンティングの仕事をしていたこともあり、コミュニケーションに関しては、ある程度自信を持っているといえます。セクレタリーの仕事は、ボスだけではなく、周りの部署との関係作りも大切です。周りの人の力があって、ボスも生かされます。今の会社に入ったときも、引継ぎ期間が短かったので不安でしたが、周りの部署の方々がとても親切にしてくださって、本当に感謝しています。

Q. 起業もされたと伺いましたが。

外資系ヘッドハンティング企業でアソシエイトとしてリサーチを担当していた時、一緒に働いていたコンサルタントに声をかけられ、独立することになりました。最初は彼と2人で、段ボールの上に電話を置いて仕事を始めました。とてもエキサイティングでしたが、会社経営とヘッドハンティング業務の両立は過酷で、心身ともに疲労困憊の域に達してしまいました。経営は順調でしたが、私自身ちょっと休まないと、これでは倒れてしまうかもしれないと不安になったんです。気分転換にと通いだしたアートスクールで、自分の新たな世界を垣間見た気がしました。仕事との両立も困難なぐらい夢中になったので、思い切って会社を辞めました。冗談じゃないと言われたんですが、絵の情熱の方が勝ってしまったんです。1年近く、絵だけを描く日々が続き、ずうずうしくも3回も個展を開かせて頂きました。

Q. 再びセクレタリーに戻って、現在の生活はいかがですか?

毎日本当に楽しいです! 絵を描く時間もあり、仕事もプライベートも充実しています。CBS SONYの頃に培われた、「働くことは何て楽しいことなんだ」という想いが今も生きています。社会を見ることは、絵を描くエネルギーになります。どんな仕事をしようとも、そこには絶対に面白さがあるります。前向きなことがとりえなので、どんなに落ち込んでも、「このままじゃないけない!」と思う自分がいるんですよ。何をしているときも、生きている喜びを感じていたいんです。

Q. 現在の1週間のスケジュールは?

平日の夜は、アートスクールとクラッシックバレエに通っています。アートスクールは、今年で7年目です。バレエは、体のためにと思って始めたのですが、姿勢が良くなり、何より健康になりました。週末は、水彩画や油絵のクラス、写生、お茶やお香の教室にも通っています。友人と会うとなると、前もって約束しないと大変です(笑)。

Q. 今後のキャリアプランは?

振り返ってみれば、楽しいことばかりではなかった人生だったからこそ、「楽しい」気持ちになるには、どうしたらいいのかを考えるようになりました。画家として食べていくのは、夢のまた夢なので、きちんとした生活のベースを作った上で、絵を楽しみたいと思っています。
セクレタリーとしての観点で言えば、まずは’A good secretary’でいることです。与えられたポジションの中で、精一杯がんばります。自然体でいることも忘れずに。私は120%努力して、はじめて人の80%ぐらいの実力なので、とにかく頑張らないと。
現在勉強中の中国語

Q. これからセクレタリーを目指す方へのアドバイスをお願いします。

まずは、社会人としての常識を持ってください。秘書は「秘」と記してある通り、企業のトップシークレットに少なからず関わることがあります。機密保持に関しては最大限の注意をしてください。各部署の方とのコミュニケーションにおいても、常に意識していなければなりません。そういう意味では、孤立した存在であるとも言えるのではないでしょうか。
‘On the job training’ を大切にして下さい。いいと思った事は全て吸収し、自分の血や肉にしてください。わからないと思ったら聞くことです。つまらないプライドを持たなければ、周りも喜んで教えてくれると思います。
将来の目標を高く持ってください。更にセクレタリーの道を究めるのもよし、別の道に進むのもよし、起業家になるのもよし。目標を持つことで、今何をすべきかおのずと見えて来ます。たとえ途中で別の目標が出てきても、その姿勢はきっと役に立つでしょう。柔軟に物事を考え対処してゆくことです。年齢にかかわりなく、生き生きと働く女性の姿は本当に美しいと思います。誰のものでもない、貴方の人生です。大いに羽ばたいて下さい。
北村さんの作品

<編集後記>
「北村さんと話すと、元気をもらえる」と噂に聞いていたのですが、あぁ本当でした。インタビュー中、何度も「先輩!」と呼びそうになってしまいました。人生の大先輩から頂く言葉は、本当に温かいものでした。どうかまたお会いできますように。

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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