INTERPRETATION

第4回 「仕方がない」、「しょうがない」、「関係ない」。

原不二子

Training Global Communicators

 「何気なく使ったこの3つの言葉のせいで、僕は11歳のとき、ニュージーランドの全寮制学校へ留学させられました。」これは、先日私が通訳を務めた第29回港ユネスコ協会国際シンポジウム「変貌する『家族』」において、20歳代の青年が発言した言葉です。

仕方がないことはない。仕方はいくらでもある。」「しょうがない生姜なら冷蔵庫に入っている。」「なに、関係ない?家族なのだから関係ある。放ってはおけない。」父親との問答の末、留学が決まったそうです。

 親子3人でニュージーランドへ。着いたその日からホームシックに陥り、両親との別れにもめそめそする彼に、「可哀そうだ。やっぱり連れて帰ろうか」と折れたのは父親。一方、母親は「今ここで連れ帰ったら、この子は一生、独り立ちができなくなってしまう」ときびすを返し、機上の人となってしまったのだそうです。

 「それからもすべてが順調であったわけではない。親に、祖父母に、叱咤激励されながら今の自分がある。」と青年は臆することなく語ってくれました。

まさに、子どもの教育に最適な環境を選び3度引っ越したという「孟母三遷の教え」の現代版であると思いました。

 学校で勉強さえしていれば人格が形成され、グローバリゼーションが進む21世紀をも生き抜く力が自然に身につくと思うのは、親の無責任かもしれません。家族や社会とより深く関わってこそ、人を思いやる心や互いを助け合う精神が育まれ、直面する問題を解決する能力も培かわれるのではないでしょうか。それこそが、グローバルレベルのコミュニケーションに繋がると思います。

原 不二子

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原不二子

上智大学外国語学部国際関係史研究科博士課程修了。 祖父は「憲政の父」と呼ばれた尾崎行雄、母は「難民を助ける会」会長の相馬雪香。母の薫陶により幼い頃からバイリンガルで育ち、21歳の時MRAスイス大会で同時通訳デビュー。G7サミット、アフガニスタン復興会議、世界水フォーラムなど数多くの国際会議を担当。AIIC(国際会議通訳者協会)認定通訳者で、スイスで開催される世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)、ILO総会の通訳を務め、最近では、名古屋における生物多様性(COP/MOP)会議、APEC女性リーダー会議、アジア太平洋諸国参謀総長会議、ユニバーサル・デザイン(IAUD)会議、野村生涯教育センター国際フォーラム等の通訳を務めている。

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