INTERPRETATION

Vol.38 「Every experience is a success」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】
下澤礼子さん Reiko Shimozawa
幼少から学生時代を米国、ブラジル、日本にて過ごす。国際基督教大学大学院行政学研究科在学中に米国交換留学。同大学院修了後、カリフォルニア大学サンディエゴ校教職課程入学。同過程修了後、米国で小学校教諭に。日本帰国後、企業内通訳・翻訳者として経験を積み、現在はフリーランス通訳・翻訳者として活躍中。

小さい頃、海外にいらっしゃったようですが。
3歳半から小学校3年までをアメリカで過ごしました。初めての海外滞在です。とはいっても、何しろ幼かったこともあり、特に何か苦労したという記憶はなく、割とすんなり現地の生活に馴染んでいたようです。逆に、日本に戻ってきてからの方が苦労しました。日本語は、聞いて分かるものの、発話となると思うようにいかない部分があったもので。また、当時はまだ「帰国子女」という言葉もそれほど浸透しておらず、私のような存在は珍しかったようです。外国語、というものを初めて意識したのはブラジルに行った時です。当時、私は中学3年生だったのですが、この時初めて「言葉が通じないところに行くんだ」と自覚したことを覚えています。ブラジルでは、アメリカンスクールに入ったのですが、9歳で日本に戻ってからは全く英語を話していなかったので、英語もほとんど覚えていません。最初の6ヶ月間は英語が話せず、授業中もぽかんとしていることが多かったですね。

大学ご卒業後の進路は?
大学に入った頃は、卒業後は外資系の会社に入って、バリバリ働きたいなぁと漠然と考えていました。しかし、何しろ社会に出たことがないので、一体世の中にどういう仕事があるのかも分からないわけです。その後いろいろ考えるうちに、国際公務員の仕事に興味を覚えました。ただ、応募資格として、大学院を修了していることが必須だったので、就職せずに大学院へ進みました。翌年に、交換留学でアメリカに行ったのですが、ここで私の人生設計は大きく変わってしまったんです(笑)。

一体何が起こったのですか……?
本来の留学目的は、修士論文を書くための資料集めと研究だったのですが、せっかくアメリカに来たのだから、ここでしか勉強できないこともやってみたいと思ったんです。そこで取ったのが、バイリンガル教育のクラス。そして、結果的には国際公務員ではなく、教育の道に進んでしまったわけなのです。私の人生って、振り返ってみると結構寄り道が多いんですよね(笑)。
 大学院修了後は、カリフォルニアの公立小学校で5年間教員として過ごしました。担当したのは、英語・スペイン語クラスの子供たち。初めての社会人経験が海外、しかも教師ということで、今から思えば大変なことも多かったのかもしれませんが、怖いもの知らずだったんでしょうね。与えられたカリキュラムをそのままこなすだけでなく、自分なりに独自のプログラムを考案しましたが、そういうことも含めて自由にやらせてくれた校長には感謝しています。

その後、日本に帰国されたのですか?
思うようなタイミングで永住権が取れなかったことと、アメリカで過ごすうちに、だんだん日本の生活が恋しくなってきたんです。最初は年に一度しか帰国していませんでしたが、「あぁ、そろそろ桜の季節かなぁ」と日本の四季を懐かしむようになってきたので、一旦帰国することにしました。さて、日本で何をしようと考えた時に、大手企業の英語教育関係プロジェクトをたまたま新聞で見かけて応募しました。ところが、入社した時点で、私が担当するはずの仕事の準備がまだ会社で整っていないということで、それまで翻訳・通訳を担当することになったんです。今まで専門に勉強したことはありませんし、できるだろうかと不安でしたが、とにかく挑戦してみることにしました。ただ、今思うと、この時は「受身の状態」で仕事をやっている部分がありました。現場の状況も、プロジェクトの進捗状況も分からないまま、ただデスクでじっと座って待っているという時間が長かったことだけは覚えています(笑)。とはいえ、パワーポイントの翻訳方法もここで教えてもらいましたし、弱かったパソコン操作もかなり鍛えられました。時には、ミーティングで通訳をすることもありました。
数ヵ月後に、本来私がやるはずだった仕事に就いたともあり、この時は将来通訳・翻訳でやっていこうとは思っていませんでした。しかしその後、プロジェクト自体が解散になってしまい、私は路頭に迷うことになるわけです。お恥ずかしい話、通帳の貯金残高が家賃一ヶ月分になってしまい、これではいけないと、エンターテイメント関係の通訳・翻訳業務に応募したんです。

通訳・翻訳の仕事が面白くなってきたのはいつ頃からですか?
通訳に関していえば、このプロジェクトからです。毎日いろんな刺激があり、現場だけでなく、会議で通訳する機会もたくさんあったので、楽しかったですね。また、平行して通訳学校に通い始めたこともよかったと思っています。仕事で大変なことがあっても、通訳学校に行くとちょっとほっとしたことを覚えています。

今までで印象に残っているお仕事は?
これはつらかった、という意味で印象に残っている仕事があります。ホテル関係のプロジェクトに通訳として入った際、イギリス人上司の健康診断に付き添うことになったんです。実際には、私は待合室で4時間ほど待っているだけでよかったのですが、終わってからが大変! 郵送されてきた健康診断の結果を、英訳してくれと頼まれたんです。急ぎのものではないからと言われたものの、正直他人の健康診断の結果を訳すというのは、あまり気持ちのよいものではありません。しかもすごくリアルだったもので……。

通訳・翻訳だと、どちらが好きですか?
最初は通訳の方が好きだったんですが、そのうち翻訳も同じぐらい好きになってきました。今は、どちらかというと、翻訳の依頼がたくさん入っていることもあり、楽しんでやっています。以前は、短期速成型だったため、通訳の方がすぐに頭を切り替えられてよかったのですが、翻訳をやっていると、だんだんリサーチするのが面白くなってきました。分からないな、と思っても、じっくり考えられるところがいいですね。

下澤さんの強みは?
月並みなことかもしれませんが、長く海外に住んでいたこともあって、ちょっと違った角度から物を見ることができます。また、翻訳においては、読み手を意識した訳を出せるということでしょうか。英語が透けてみえるような翻訳は一番避けたいところですが、例えば、単に日本語に置き換えただけでは辻褄が合わず、ちょっと分かりにくいかもしれないというところは、補足で注釈を必ず入れるようにしています。ただ、あくまでもこれは私の判断ですので、そのまま使うかどうかはクライアントの判断にお任せしています。

今後のキャリアプランは?
翻訳の面で言えば、今は圧倒的に企業の社内・社外文書翻訳が多いので、いつか自分の興味がある本を一冊訳してみたいと思っています。ただ、今はそういったものを自分から探す余裕がないので、あくまでも将来的なことですが。ビジネス文書の場合は、納期が短く、いつも期限に追われている感があるので、何かじっくり長期間取り組めるものがあれば、きっとまた別の楽しさを味わえるのではないかと思っています。
また、趣味でやっているカリグラフィーを何らかの形で仕事に繋げることができればいいですね。

日々心がけていること、スキルアップの秘訣は?
毎日何らかの形で、英語に触れるようにしています。仕事と関係なくとも、興味があるものであれば、ちょっと翻訳してみることもあります。自分の力を維持するためにも、常に勉強していくことが必要だと思っています。

現在のスケジュールは?
通訳が月に1ー2回、その他は翻訳が入っています。また、毎週火曜日は朝からカリグラフィーのクラスを受け、午後はリフレッシュの時間と決めています。水曜日は、最近始めたフラダンスに通っています。カルチャースクールのような感じなのですが、気分転換ができて、とても楽しいです。もちろん、火曜・水曜に仕事が入れば請けていますし、その辺は柔軟に対応しています。週末は、最近引っ越したばかりなので、主人と近所を探索などしてプライベートの時間に充てています。
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もし通訳・翻訳者になっていなかったら……?
もし、あのままアメリカにいたら、教育関係の仕事をしていたのではないかと思います。日本に戻ってきた時に、企業内トレーナーになることも考えたんです。アメリカでは、教育現場出身の人がなる場合が多いのですが、日本では、むしろ企業経験を問われてしまうのでご縁がありませんでした。思えば、私は随分遠回りをして、通訳・翻訳者になったんですよね!

これから目指す人へのアドバイスをお願いします。
‘Every Experience is a success.’ この言葉を送ります。好きな作家の言葉なのですが、どんな些細なことや、失敗さえもマイナスではないということです。全て何らかの形で成功につながるのですから。失敗やつらい経験は、記憶に長く残るものですが、それも全て経験だと受け入れて前に進んでいく気持ちを持ってほしいです。その気持ちさえあれば、どんなことでもきっとがんばれるはずです。
仕事に対する心構え。左側を縦に読むと……?

編集後記
インタビュー後日、下澤さんから嬉しいメールが届きました。友人である大学教授の研究書を翻訳チェックすることになったのだとか。「書籍の翻訳に一歩近づいた気がします」、とメールにありましたが、これも下澤さんの翻訳力があってのこと。近い将来、下澤さんの翻訳書が書店に並ぶのを今から楽しみにしています!

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テンナイン・コミュニケーション編集部です。
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