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Training Global Communicators

原不二子先生は通訳の先駆者として活躍される傍ら84年に通訳・翻訳会社、ディプロマットスクールを設立。併設スクールでは、21世紀、世界レベルで活躍できる人材育成を目指し「グローバル・コミュニケーション・スキルズ」という新クラスを開講し、後進の指導にも大変力を入れていらっしゃいます。著書に『通訳という仕事』『通訳ブースから見た世界』(ジャパンタイムズ)、英訳書に『尾崎咢堂自伝』(プリンストン大学出版会)、『笹川良一研究』(イーストブリッジ出版社)などがあります。

第27回 「Accountability」 について

当初、この聞き慣れない英語にとまどい、「responsibility」とどのように異なるかが問題になりました。私が「アカウンタビリティ」に最初に遭遇したのは、オランダ人知識人のカレル・ウォルフレン氏の通訳をした時でした。その際、「説明責任」と訳すよう言われたのですが、日本語でも聞き慣れない言葉だと思ったことを覚えています。先ほど、あらためて古い辞書等も探してみましたが、大辞林を含めその言葉に関する記述はありません。実態のないところに言葉は存在しないのです。
「責任」は個人の言動に対する責任を差す一方、「アカウンタビリティ」は、公人や組織、機関の 採択した政策や方針に基づいて実施された行為の結果に対する責任を意味します。「説明責任」が問われるようになった当初、「事前に説明したから責任を果たした」という趣旨の発言も少なくはありませんでした。最近になって、ようやく法的な制裁や罰則があって然るべきであることが理解されるようになりましたが、福島第一原子力発電所の災害に関連付けて考えると、あれだけの未曾有の大事故を起こしたにも関わらずその責任が全く取られてもいなければ、問われてさえもないのが現状です。
実態のないところに言葉だけが浮いている感じが否めません。   

原 不二子


第26回 和の「こころ」と英の「マインド」

どの文化においても、また言葉が違っても「ネコ」は「ネコ」であり、「トリ」は「トリ」なのでしょうが、とりわけ「人の心」や「精神」のこととなると、通訳をしていて壁にぶつかったことのある方も多いと思います。
例えば、私たちは「心」という言葉の境界線がどこにあるのか、よく迷うことがあります。辞書には「精神的特質」や「心性」を表す言葉として「the human heart」、「human psychology」、「a mentality」、「the mind」、「the emotions」、「feelings」 など、「心理」、「知能」、「知力」、「精神力」の広範な概念が含まれ通訳者を泣かせますが、英語でも「マインド(mind)」という言葉は、「精神」、「心」、「意識」というように幅広い意味で使われるのです。
ロンドンの地下鉄で車掌が「Mind the gap!」と声をかければ、「ホームと電車の間があいています。注意してください。」という意味ですし、「to have a sound mind」と言えば「正気」のこと、「I will put my mind to it」は「本気でやる」、「My mind is all over the place」は「気が散って考えられない」という解釈になります。
しかしながら、英語は意味が明瞭であり、曖昧さが多い日本語とは異なります。言葉は使う人、使われる状況、それを受け取る人によって幅広い含蓄があるわけです。とすれば、辞書はあくまでも参考にしかならず、相手と状況に応じて最も適切な言葉を選ぶことのできる通訳者がコミュニケーションに長けていると言えるのではないかと思います。           

原 不二子


第25回 曖昧な日本語

最近読んだ本に、「新興国がモデルとするのはどういう国か?と考えたとき、経済力のパワーがあって、テクノロジーがあって、豊かで軍事には自制心があって、国内にも国外にもモラルがある国ということになると、答えは日本になる。......このモラルの中には『勤勉』、『助け合い』、『感謝』など、いろいろな精神が入ってくる。」と書かれていました。
辞書には、モラル(道徳)とは、 善悪の判断に基づく人の行為とあります。 今の政治、検察のあり方や国内外への対応にして、日本のどこにモラルがあると言えるのだろうと思わずにはいられません。

祖父の尾崎行雄は、1950年5月、サンフランシスコ講和条約締結の前夜に戦後の日本のあり方を審議する「日本問題審議会」に招かれ、91歳の高齢をおして渡米しました。そして彼は、日本とアメリカの関係は『親善』以上のもの ― 太平洋を挟んだ『モラル・アライアンス』であって欲しいと米国人に告げました。祖父は日米両国が、善悪の判断をきちんと行った上で行動することを願ったのだと思います。英語の"moral alliance" をカタカナで書くと『モラル・アライアンス』、日本語に訳すと『精神同盟』、『道徳同盟』となるのでしょうが、あまり釈然としません。祖父は生前よく「私たちが使っている言語はほとんど漢語で、文字を基として作られたものであるから、これでは逆立ちをして手で歩いているようなものだ」と言っていました。

日英の通訳者・翻訳者は日本語が 曖昧な故に苦労をします。そのような曖昧さが、現代の地球社会に生きる上で、コミュニケーションの大きな障害になっていることは深刻な問題だと思います。

原 不二子


第24回 通訳の仕事はまさに危機管理

この程、オウム真理教の元幹部平田信の出頭に際し、警視庁を始め、警察の対応の不手際が問題になっています。警視庁は急いでマニュアルを作り、「対応の徹底を期す」としていますが、今の日本社会の問題のひとつは、考えることが疎かにされ、すべてがマニュアル化された対応になってしまっていることではないでしょうか。
通訳の現場では、常に臨機応変な現場対応の姿勢が問われます。日本では、人の書いた原稿を会議で読むことが主体となっていたため、これまではその原稿をなるべく早く入手し文面通りに準備をする習慣が定着していましたが、それも徐々に変わりつつあります。他人の発表を聞き、それに自分で考えて答える場面が増えているように思います。そうなると当然、文字を追うだけの通訳とは異なる準備が必要となります。英語を母国語としない人たちがそれぞれの考えを表現するとなると、言語のなまりに加え、文化や歴史等の事象による理解の齟齬など、多くの障害を乗り越えなければなりません。通訳にマニュアルはないのです。

原 不二子


第23回 良い世の中を祈って。

今年も余すところ数日となりました。
東日本大震災、福島原子力発電所の起きてはならない事故のあった忘れられない1年でした。被災者の方たちには、これから寒い冬が訪れます。

今年はまた改めて、何のために生きているのかを自らに問う年でもありました。いつ何が起こってもおかしくない時代に生きる1人として、毎日を悔いのないよう過ごそうと心に誓いました。

数日前、ロシアでの選挙不正に対して何万人もの民衆がデモ行動を起こしたことが報道されていましたが、マイクを向けられた若いロシア人女性が語った言葉が印象的だったので書き留めました。
「私は、プーチン首相に反対しているのではありません。ロシア政府に反対しているのでもありません。でも、『何かが変わらなければならない』という心の声に従ってここに出てきたのです。」

私も1人ひとりが良心に従って行動したら、世の中は必ず良い方向に向かうと信じています。通訳者として1回1回の仕事に与えられた機会を無駄にせず、仕事を通して世の中を少しでも良いほうに導いていきたいと思っています。 

原 不二子



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プロフィール

原不二子

原 不二子さん
上智大学外国語学部国際関係史研究科博士課程修了。 祖父は「憲政の父」と呼ばれた尾崎行雄、母は「難民を助ける会」会長の相馬雪香。母の薫陶により幼い頃からバイリンガルで育ち、21歳の時MRAスイス大会で同時通訳デビュー。G7サミット、アフガニスタン復興会議、世界水フォーラムなど数多くの国際会議を担当。AIIC(国際会議通訳者協会)認定通訳者で、スイスで開催される世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)、ILO総会の通訳を務め、最近では、名古屋における生物多様性(COP/MOP)会議、APEC女性リーダー会議、アジア太平洋諸国参謀総長会議、ユニバーサル・デザイン(IAUD)会議、野村生涯教育センター国際フォーラム等の通訳を務めている。