HOME > 通訳 > Training Global Communicators

Training Global Communicators

原不二子先生は通訳の先駆者として活躍される傍ら84年に通訳・翻訳会社、ディプロマットスクールを設立。併設スクールでは、21世紀、世界レベルで活躍できる人材育成を目指し「グローバル・コミュニケーション・スキルズ」という新クラスを開講し、後進の指導にも大変力を入れていらっしゃいます。著書に『通訳という仕事』『通訳ブースから見た世界』(ジャパンタイムズ)、英訳書に『尾崎咢堂自伝』(プリンストン大学出版会)、『笹川良一研究』(イーストブリッジ出版社)などがあります。

第22回 グローバルコミュニケーションは足下から

先日、寛仁親王殿下主催の柏朋会の納会がありました。柏朋会は殿下が会長を務められている福祉団体で、「柏」(かしわ)は、殿下のお印でもあります。納会には、全国の福祉・障害の分野で活躍している方々が多数お見えでした。 脳性麻痺の女の子をはじめ、車椅子で来られた方、アメリカから駆けつけた方など、皆さん、殿下が長年にわたり心を寄せられて支援しておられる個人、グループや団体 です。納会も35回目を迎えるということでした。
そこで、つい最近トルコ大地震の被災者救済のために、NPO難民を助ける会から派遣されていた女性に会いました。一緒に行った彼女の同僚が崩壊した宿泊先のホテルで亡くなったのは、つい先日のことです。彼女は、気丈にも「また戻って仕事をしたい」と皆さんの前で覚悟を語りました。また、同じ難民を助ける会の方で、京都外国語大学就学中に提携先の米国の大学で学び、最後は英国の大学で人類学の博士号を取得した方と話しをする機会がありました。「次の研究テーマを模索中」とおっしゃられたので、私は宿題を出しました。
日本は少子化により労働力の減少は避けられず、将来は、他の国の人たちに助けてもらわなければいけなくなることは必須。にもかかわらず、難民認定を受け日本へ来た人たちの多くは、社会に溶け込めずに寂しい思いをしているか、第三国へ移住している。さらに、外国から働きに来たい人たちを快く受け入れる準備がない。法律の整備ができていないばかりか、社会が受け止める用意がない。是非、その原因やその解決方法について人類学的に研究して欲しいとお願いしました。
グローバルコミュニケーションは外国語を流暢に話すことだけではありません。異なる文化や異なる生活習慣を持つ人たちを受け入れ、その人たちにも日本の文化を受け入れてもらい、互いに心をひとつにして彼我に良い社会を一緒に つくることではないかと思います。

原 不二子


第21回 コミュニケーション障害のあれこれ

先日、私が通訳を担当したあるシンポジウムで、外国人が "I married a foreigner" と発言されました。外国人の視点から見ての "foreigner" なら日本人との結婚。日本人の視点から見れば、外国人。さてどちらかしら?外国人の立場から言われたのだろうと思い「日本人と結婚しました」と訳しましたが、果たして良かったのでしょうか。長い間日本で暮らしておられた方ですから、日本人的の視点からの "foreigner" で、外国人同士の結婚を意味したのかもしれません。

さらに別の機会で、ある方々の対談を英語から日本語、日本語から英語へと1人で逐次通訳していたときのことです。「民主党には、コウリョウがない」との発言。「えっ?マニフェストのこと?ちょっと違う?」慌てて辞書をひきました。
「コウリョウ」とひいて、出てくるわ、出てくるわ...。一番目に出てきたのは「口糧 (a ration)」、次いで「工料=工賃 (labor charge)」、次は「公領 (an imperial demesne)」。「 "demesne" なんて聞いたことがない!」後で調べたところ、「領地」を意味する言葉でした。4番目が「広量 (broad-minded)」、5番目が「光量 (the amount of life, the intensity of radiation)」、「考量 (consider carefully)」、「江稜 (Kangnung= 韓国の都市)」、「後梁 (Later Liang=中国史の五代の一国)」 、「恒量 (constant weight)」、「 皇稜 (an imperial Mausoleum)」...。「 いい加減にしてよ!」と思いながら、相応しい「コウリョウ」の検索を続けました。「荒涼 (desolate, bleak)」、「香料 (spices)」 、「校了(completion of proof reading)」、「黄梁 (yellow millet)」、「蛟竜 (dragon) 」 、「較量 (compare)」。 ようやく17番目にお目当ての 「網領 (a platform, a manifesto)」がお出まし。最後は、「稿料 (payment for one's contribution)」 でした。私がその時使用していた電子辞書 はこれで終わりでしたが、「コウリョウ」という言葉はまだあります。「鉱量」、「高陵」、「好漁」、「高粱」など。ちなみに、今、この原稿を書いているノートパソコンでは、お目当ての「綱領」が2番目に出てきました。辞書の同音異義語の表記順はどのようにして決まるのでしょうね?

いずれにせよ、国際コミュニケーションには障害となるハードルが沢山あります。同音異義語が多いことは、専ら文字媒体(書き言葉)で意思疎通を図る時代には良かったかもしれませんが、会話することが媒体となる話し言葉でのコミュニケーションには大きな障害になり得ると感じています。


原 不二子


第20回 TPPについて学んだこと

 近頃、盛んに日本のTPPへの参加の可否が議論されていましたが、ハワイで開催されているAPEC会議において、11月11日、野田首相がオバマ米大統領に日本参加の意思を伝えたことが報道されました。TPPは別名、環太平洋戦略的経済連携協定といわれるそうですが、日本国内における議論は往々にして中身の説明がなく、賛否だけが取り沙汰されていることが問題です。

東日本大地震以来、世界各地から支援が寄せられたこともあり、私は改めて「日本は世界の一部なのだから、地球市民としての視点で考え行動しなければ」と自分に言い聞かせていたところでした。考えてみれば、近代日本の建設はアメリカに迫られた開国で始まったのではなかったか。TPPも新たな開国を迫られているのと同じことと理解して全力投球をしたらよいのではないかと思っていた矢先に、尾崎行雄記念財団で開催されたオランダ人ジャーナリスト、カレル・ヴァン・ウォルフレン氏による「日本をとりまく罠」と題した講演での通訳を依頼されました。

TPPは当初、ブルネイ、チリー、ニュージーランドとシンガポール間のみの協定でしたが、アメリカが参加するようになってからは、その性格が全く異なったことを同氏は指摘されました。また、中国とロシアには参加が求められていないことから、旧共産国といわゆる「自由世界諸国」との間に隙間をつくることにならないか。中国では、目覚ましい経済成長により中産階級が拡大し、日本にとっても重要な市場のひとつとなりつつあるが、日中関係に水を差すことになりはしないか。さらに、モンサント社のようなアメリカの巨大企業が関係してくることで、日本の農業は破壊されてしまうのではないか...。

ウォルフレン氏の見解を通訳しながら、何故このような大事な情報がメディアで取り
上げられないのかと不審に思いました。どの情報を信用するかは個人次第ですが、常に考えせられ、学ぶことが多い通訳の仕事はやはり魅力的であると思います。

原 不二子


第19回 原子力に思うこと

先日、カリフォルニア州シミバレーにあるレーガンセンターで、2030年までに核兵器全廃を掲げる「グローバルゼロ委員会」会議の通訳を しました。米露間の第一次戦略兵器削減条約(STrategic Arms Reduction Treaty I、START I)は1991年に締結されましたが、START IIが事実上実行されなかった背景もあり、オバマ米大統領とメドべージェフ露大統領間で新STARTが 締結されるまで交渉は進展しませんでした。今年に入り、両国議会が同条約を批准はしたものの、米国のミサイル防衛システムが 問題として残っています。

先日の会合で、米国とロシア(当時のソ連)間の戦略核兵器削減交渉は、そもそもレーガン米大統領とゴルバチョフソ連大統領による1986年のレイキャビクサミットが皮切りだった事が紹介されました。25年前です。その前年の1985年には、レーガン大統領訪ソの1週間前に、米ソ間の緊張緩和の橋渡しをしたインターアクションカウンシル(世界各国の大統領、首相経験者をメンバーとする国際会議:OBサミット)がモスクワで開催され、私はその時の通訳を担当しました。 モスクワ空港は、アフガニスタンから引き上げるロシア人家族でごったがえしていましたが、 白樺の芽が吹き、随所にプリムローズが植えられ明るい印象を受けたことを想い出します。

原子力は、軍事用であれ民生用であれ、危険が伴います。テロリストが原爆を手に入れないまでも、原爆を取り扱うのが人間である以上、誤ってボタンを押すことは絶対ないという保障はありません。原子力で発電を行う民生利用は、万全の安全措置を施しても「想定外」の悲惨な事故が起こりえる事は、私たち自身が経験したばかりです。
核兵器にかかるコストは、人々のより良い生活を実現するために使用されるべき社会保障等の財源を奪うばかりではなく、人として道徳や倫理に反する問題であることを改めて認識した会議でした。

原 不二子


第18回 チャンスは前ぶれなくやってくる。

 25日日曜日には、私の教え子の通訳である町田公代さんと一緒にディプロマットスクールで無料体験レッスンを開催しました。3連休最後の日にも関わらず、10数人もの方が集まってくれました。それぞれ、すでに通訳者として仕事をしている方が多く、日常に飽きたらず、自身の能力をさらに高める機会を求めてのことだと思いました。

 災害で家族を失い、その日以来すべてが変わってしまった環境下での再出発を強いられている多くの若い人たちのことを思いました。
 あの忌まわしい3月11日は中学の卒業式だった。小学校から10年近く一緒に過ごした仲間と別れ、家路を急ぐ。帰宅するなり、いつもとは違う大地震。電気は切れ、テレビからの情報ももちろんない。携帯で津波が来ていることを知るも、気づいたら黒い水の中。瓦礫をかき分けながら必死に泳いで避難所に辿りついたが、家族は誰もいない。気丈な彼女は、これからは英語を身につけ、国際機関で働き、世界中で自分より不幸な境遇に置かれた子どもたちの世話をしたい、と言う。
 先日、中国の大連で開催された世界経済フォーラムで通訳をさせていただいた際に、被災者代表として堂々と発表した日本人女子高校生の言葉です。この彼女のように、今回の大震災で人生の大転機を迎えた人は少なくないはずです。

 「チャンスというものは、知らないうちにやってくる。それをものにする用意が出来ている人にだけチャンスが来たことが分かるのよ」と、亡き母の言葉を思い出しました。この春は、多くの若い人たちがそれぞれのチャンスに気づき、ものにしたことを願って止みません。  

原 不二子



《 前 1 2 3 4 5 6 7 8 9 次 》


↑Page Top

プロフィール

原不二子

原 不二子さん
上智大学外国語学部国際関係史研究科博士課程修了。 祖父は「憲政の父」と呼ばれた尾崎行雄、母は「難民を助ける会」会長の相馬雪香。母の薫陶により幼い頃からバイリンガルで育ち、21歳の時MRAスイス大会で同時通訳デビュー。G7サミット、アフガニスタン復興会議、世界水フォーラムなど数多くの国際会議を担当。AIIC(国際会議通訳者協会)認定通訳者で、スイスで開催される世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)、ILO総会の通訳を務め、最近では、名古屋における生物多様性(COP/MOP)会議、APEC女性リーダー会議、アジア太平洋諸国参謀総長会議、ユニバーサル・デザイン(IAUD)会議、野村生涯教育センター国際フォーラム等の通訳を務めている。