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Training Global Communicators

原不二子先生は通訳の先駆者として活躍される傍ら84年に通訳・翻訳会社、ディプロマットスクールを設立。併設スクールでは、21世紀、世界レベルで活躍できる人材育成を目指し「グローバル・コミュニケーション・スキルズ」という新クラスを開講し、後進の指導にも大変力を入れていらっしゃいます。著書に『通訳という仕事』『通訳ブースから見た世界』(ジャパンタイムズ)、英訳書に『尾崎咢堂自伝』(プリンストン大学出版会)、『笹川良一研究』(イーストブリッジ出版社)などがあります。

第13回 コミュニケーションの必要性

 通訳は、それぞれの母国語へのアウトプットが基本となります。多言語が用いられる大規模な会議では、まずさまざまな言語を英語に訳出するブースがあります。欧州で開催される会議だと、ゲルマン系のドイツ語やオランダ語から英語に訳出する通訳者とラテン系の仏語・イタリア語・スペイン語・ポルトガル語から英語に訳出する通訳者が中心になります。
 欧米の通訳者といえば、今や専門とする言語を複数持っているのが常ですが、悲しいかな、日本と中国の通訳チームは日本語⇔英語、中国語⇔英語のみを受け持つのが一般的です。日本の方が中国より早く国際社会に進出し、通訳が活躍してきた歴史も長いはずですが、いまだに多言語を使いこなす通訳者は少ないのです。
 しかし、最近では英語・フランス語・日本語をこなす若い通訳者を目にする機会も増えてきているのは本当に素晴らしいことだと思います。フランス語は長年、外交言語として使用されてきた歴史があり、アラビア語からでもフランス語へ訳すことが多かったようですが、今は英語へ訳出することが一般的となりました。
 私が過去約30年間、ほぼ毎年通訳を務めている国際労働総会で最近感じるのは、ビルマ(ミャンマー)などあまり国際的な場に出て来ない国の代表も大変流暢な英語をお話になられることです。同様に、イスラム諸国の政府代表には女性が多く、単に彼女たちの英語力が素晴らしいだけではなく、自分たちの声を世界に届けようというコミュニケーション力も突出しているのです。アフリカ各国からの代表にも英語や仏語を自在にこなす人たちが増えています。
 日本の課題は、英語力にも増して、コミュニケーション能力の欠如にあるとつくづく思います。他人とうまくコミュニケーションを図れることは、通訳者にとって重要な要素のひとつであると思うのです。 

原 不二子


第12回 ヨーロッパ便り

去る6月1日から、ジュネーヴでILO(国際労働機関)の記念すべき第100回年次総会の仕事をする機会をいただきました。
ILOは、第一次世界大戦(1914~1918年)終結後、国際連盟の発足とともに設立された政労使三者構成の唯一の機関でもあります。1919年10月にワシントンで開催された第1回から今日に至るまで、「働きたい全ての人が、自由に選択するディーセント・ワークにつくことができる社会正義があってこそ、初めて世界平和が築かれる」という信念が機関を支えています。
長い間、この「ディーセント・ワーク」をどのように訳すのかが通訳者にとって「課題」でした。「適切労働」では意を尽くせないとして、何年かは「ディーセント・ワーク」とカタカナを使うように指示されましたが、最近では、「人間らしいやりがいのある仕事」と説明するようになりました。日本には概念がなく、適切な日本語に置き換えられない表現の通訳は、通訳者にとって大きな課題です。

海外へ出て仕事をすることは日本を外から見る機会でもあり、また自分の生き方を客観的に見る良い機会にもなります。
社会の雰囲気か、風土なのか、自分の能力を伸ばすことが奨励される風土と、「出しゃばらない」、「出過ぎたことはしない」ことを良しとする風土があることを感じます。「出る杭は打たれる」とか「雉も鳴かずば撃たれない」というような格言に見られるように、残念ながら日本は、それぞれが持って生まれた才能をさらに伸ばすことを奨励するより、むしろ阻む風土ではないかと思います。私たち有権者は「政治家にリーダーがいない」と批判をしますが、一方で「敵をつくらない人」、「出しゃばったことを言わない人」をリーダーに選ぶ風土があるのではないかと思うのです。政治家はもともと私たちと同じで、政治家の政治素養は有権者より高くも低くもないことを忘れてはならないと思います。政治家のリーダーシップは不在がちですが、3月11日の東日本大地震に次ぐ原発の事故で、若い世代がごく自然に各地でリーダーシップを発揮している様を見聞きし、日本の風土が変わることを大いに期待しているところです。

ヨーロッパはアメリカやアジアと異なり、やはり歴史と共に歩んできた文化に基づいていることを感じさせられます。
6日に18:30から21:00までの夜業を担当したとき、たまたま同じ委員会で仕事をしていた世界経済フォーラム通訳チームのチーフから「9時に終わったらワインでも飲みに行かない」と誘われたので、二つ返事で同行してくれている夫に電話をし、ジュネーヴ湖畔の約束のレストランに先に行って席をとってもらいました。夜9:30でも明るく爽やかで、大いにサマータイムのメリットを感じました。日の出は5:00前なので節電にもなります。日本も早くサマータイムを導入したら良いと思いました。
声をかけてくれた彼女はドイツ人ですが、夫君はスイスの欧州核原子力研究所CERNに最近まで勤めておられた理論核物理学者です。彼女はヴァイオリン、夫君はチェロの奏者で、余暇には夫婦でオーケストラに参加し、演奏するそうです。仕事と趣味、まさにワーク・ライフ・バランスが最高のレベルでよく保たれているのです。
サマータイムに、ワーク・ライフ・バランス、日本が進んで取り入れるべき欧州の良き文化だと思います。

原 不二子


第11回 社会制度は正義に、思考は真実に基づくべし

「社会制度は正義に、思考は真実に基づくべし」20世紀のアメリカの代表的な政治・道徳の哲学者ジョン・ロールズ(John Rawls)の言葉を書き留とめてあったノートを見つけました。

現在の福島第一原子力発電所の問題ひとつとっても、正義や真実がどこにあるのかと思わずにはいられません。国策という大義名分の下、いつのまにか電力供給の多くを原子力に依存することを決定し、原子力発電推進派が原子力安全・保安院管轄の下、同時にその安全確保をも任されています。一部では核爆発ではなかったかと指摘される爆発が起きても、水素や水蒸気の爆発であったと曖昧な発表を続けました。炉心が溶け、「メルトダウン」という最悪の事態が起きても、その言葉はタブーとされ「溶解」や「崩壊」などという表現が使用されています。事態を「収束させる」という言葉を使いますが、「収束」とは何を意味するのでしょう。英語に訳しようのない表現のひとつです。これは、そもそも自分たちの文字を持たない私たちが隣国の「漢字」を安易に借用しているからではないかと思います。単体で意味を成す漢字と漢字の組み合わせは真実をごまかすのに都合が良い言葉と言ってはいいすぎかもしれませんが、真意を伝えにくい、伝わりにくいことには違いありません。

今回の原発事故は福島や日本だけの問題ではありません。人類全体に対する大きな過ちであると思います。申し訳ないという謙虚な気持ちで他国の英知を借りなければなりません。現実を直視して初めて解決への道が開けるのだと思います。

原 不二子


第10回 「タブー」の由来

管直人総理は、中部電力株式会社に対し浜岡原発の全面運転停止を要請しました。生命財産の保護、子孫の繁栄、国家の運営を託して国民が選出した政治家だけができるお役人にはできない英断でした。マスコミにはとりあげられませんでしたが、今回の前面停止要請の決め手となったのは、全国から寄せられた92万筆の署名。東海大地震が過ぎるまで浜岡原発を止めておくための署名活動が全国で継続されることも決定した矢先です。
また福島原発事故を受け、ドイツのメルケル首相は、核廃棄物処理の問題が未解決であることを主因に改めて脱原発へ舵を切り直しました。

日本ではよく「タブー」という表現が多用されますが、今回の原発問題でも例外ではありません。原子力における「タブー」とは、原子力を「国策」としてすべての反論を封じてきたことを指します。福島原子力発電所事故の背景や経緯、その対応策など、これまで「タブー」とされてきた原子力政策に関わる実情が表面化するにつれ、私たち国民は愕然とするばかりです。

そもそも「タブー」の語源をご存じでしょうか?

トンガ王国で生まれた言葉であることが、当地を訪れた英国の探検家クック船長により明らかにされています。「人の前で座ったり、食べ物を口にしたりしない島民」に驚き、それを質すと、人々は「タブーだから」と答えたと言い継がれています。ポリネシア地域一帯では、「なになにを禁止する」の意味で広く使われるようで、トンガ語では、「tapu」とも表記し、慣習や法律で禁止・制限される意味をもつ一方、「犯されない」とか「神聖な」という意味もあります。「トンガ・タプ」とは、3島から成る同国の南端の島を表す「神聖な(悪に侵されない)南の島」という意味だそうです。        

原 不二子


第9回  若いあなたのために


日本は未曽有の大震災と津波、さらに原子力発電所の事故に見舞われ、多くの方が亡くなったり、行方不明になったりしたまま1か月が過ぎました。幸い命を取り留めた方の多くも家屋や生活の手段を失い、今後の生活に大きな不安を持っておられます。また、被災地でなくとも、風評により日本産の農水産物が多くの国で輸入禁止の対象になっています。このようなとき自分に何ができるのか、と思う方は少なくないと思います。

先日、1人の農家の青年を取り上げているテレビ番組を観ました。自宅の農地は再び農作物を生産できないまでに放射能で汚染され、消防の手伝いをしていた彼。被災者の間に「野菜が欲しいけれど手に入らない」という悩みがあることを知り、自ら野菜を仕入れて被災地へ運ぶことにしたそうです。商品にならないキャベツを農家から譲り受け、それを配っていました。「命があっただけでもありがたい。これでどんな目にあおうと生きていく自信がついた」と明るく語る本人。彼のような方がきっと大勢いることでしょう。

明日何が起こるか分らない今だからこそ、親兄弟(姉妹)、夫や妻に頼るのではなく、1人ひとりが自分で生きていくことのできる技量や力を身につけておくことの大切さを思わずにはいられません。人から言われたことを瑕疵なくこなすことより、状況を見据え、自分ができることを見出し、行動していくことが大切であると思います。今こそ自分を一番活かすことができる技を磨く最善の時なのです。                               

原 不二子



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プロフィール

原不二子

原 不二子さん
上智大学外国語学部国際関係史研究科博士課程修了。 祖父は「憲政の父」と呼ばれた尾崎行雄、母は「難民を助ける会」会長の相馬雪香。母の薫陶により幼い頃からバイリンガルで育ち、21歳の時MRAスイス大会で同時通訳デビュー。G7サミット、アフガニスタン復興会議、世界水フォーラムなど数多くの国際会議を担当。AIIC(国際会議通訳者協会)認定通訳者で、スイスで開催される世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)、ILO総会の通訳を務め、最近では、名古屋における生物多様性(COP/MOP)会議、APEC女性リーダー会議、アジア太平洋諸国参謀総長会議、ユニバーサル・デザイン(IAUD)会議、野村生涯教育センター国際フォーラム等の通訳を務めている。