INTERPRETATION

第21回 コミュニケーション障害のあれこれ

原不二子

Training Global Communicators

先日、私が通訳を担当したあるシンポジウムで、外国人が “I married a foreigner” と発言されました。外国人の視点から見ての “foreigner” なら日本人との結婚。日本人の視点から見れば、外国人。さてどちらかしら?外国人の立場から言われたのだろうと思い「日本人と結婚しました」と訳しましたが、果たして良かったのでしょうか。長い間日本で暮らしておられた方ですから、日本人的の視点からの “foreigner” で、外国人同士の結婚を意味したのかもしれません。

さらに別の機会で、ある方々の対談を英語から日本語、日本語から英語へと1人で逐次通訳していたときのことです。「民主党には、コウリョウがない」との発言。「えっ?マニフェストのこと?ちょっと違う?」慌てて辞書をひきました。

「コウリョウ」とひいて、出てくるわ、出てくるわ…。一番目に出てきたのは「口糧 (a ration)」、次いで「工料=工賃 (labor charge)」、次は「公領 (an imperial demesne)」。「 “demesne” なんて聞いたことがない!」後で調べたところ、「領地」を意味する言葉でした。4番目が「広量 (broad-minded)」、5番目が「光量 (the amount of life, the intensity of radiation)」、「考量 (consider carefully)」、「江稜 (Kangnung= 韓国の都市)」、「後梁 (Later Liang=中国史の五代の一国)」 、「恒量 (constant weight)」、「 皇稜 (an imperial Mausoleum)」…。「 いい加減にしてよ!」と思いながら、相応しい「コウリョウ」の検索を続けました。「荒涼 (desolate, bleak)」、「香料 (spices)」 、「校了(completion of proof reading)」、「黄梁 (yellow millet)」、「蛟竜 (dragon) 」 、「較量 (compare)」。 ようやく17番目にお目当ての 「網領 (a platform, a manifesto)」がお出まし。最後は、「稿料 (payment for one’s contribution)」 でした。私がその時使用していた電子辞書 はこれで終わりでしたが、「コウリョウ」という言葉はまだあります。「鉱量」、「高陵」、「好漁」、「高粱」など。ちなみに、今、この原稿を書いているノートパソコンでは、お目当ての「綱領」が2番目に出てきました。辞書の同音異義語の表記順はどのようにして決まるのでしょうね?

いずれにせよ、国際コミュニケーションには障害となるハードルが沢山あります。同音異義語が多いことは、専ら文字媒体(書き言葉)で意思疎通を図る時代には良かったかもしれませんが、会話することが媒体となる話し言葉でのコミュニケーションには大きな障害になり得ると感じています。

原 不二子

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原不二子

上智大学外国語学部国際関係史研究科博士課程修了。 祖父は「憲政の父」と呼ばれた尾崎行雄、母は「難民を助ける会」会長の相馬雪香。母の薫陶により幼い頃からバイリンガルで育ち、21歳の時MRAスイス大会で同時通訳デビュー。G7サミット、アフガニスタン復興会議、世界水フォーラムなど数多くの国際会議を担当。AIIC(国際会議通訳者協会)認定通訳者で、スイスで開催される世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)、ILO総会の通訳を務め、最近では、名古屋における生物多様性(COP/MOP)会議、APEC女性リーダー会議、アジア太平洋諸国参謀総長会議、ユニバーサル・デザイン(IAUD)会議、野村生涯教育センター国際フォーラム等の通訳を務めている。

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