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放送通訳者直伝!

第340回 やっぱりインフル

このコラムは毎週5週目が休載ですので、2週間ぶりのアップとなりました。気がつけばもう2月。前回のコラムでは「インフルではなかった」と締めくくっていたのですが、あにはからんや、「B型インフルエンザ」でした!私は10年以上インフルとは無縁でしたのでその旨を医師にお話しすると、「自分では気づかずに治してしまう人もいますよ」とのこと。うーん、ということは、過去に気合で風邪を乗り切ったのももしかしてと思う次第です。

今回は病院でタミフルを処方され、家で数日間おとなしく過ごしました。仕事もキャンセルせざるを得ず、非常に心苦しく思いましたね。でもエージェントの皆さんのおかげで迅速にピンチヒッターの方が入ってくださり、助かりました。感謝あるのみです。

日頃私は「外に出て仕事をする」という生活スタイルを築いている分、自宅で何もせずじっとしているのはある意味で新鮮、別の意味では非常に手持無沙汰でした。何よりも、大好きな放送通訳を休んでしまったのが自分にとっては残念だったのです。BBCワールド唯一の日本人特派員Mariko Oiさんが自らをnews junkieと称しておられましたが、私もそのような気分です。

さて、インフルエンザという急遽与えられた休養命令により、数日間布団の中で過ごすことになったわけですが、せっかくなので睡眠時以外に何かやってみようと思い立ちました。日頃忙しくて取り組めないことにチャレンジしたくなったのです。

プロジェクト一つ目は「ロイヤル英文法」の例文を読むこと。これはたまたまとあるサイトで例文を読破なさった方の記事を読み、私も取り組んでみたくなったのです。膨大なページ数ですので、ゆるゆる進めようと考えました。

2つ目は「電子辞書に親しむこと」。数週間前に電子辞書を買い換え、今、愛用しているのはカシオ EX-wordのDATAPLUS10です。先代と比べてもはるかにコンテンツ数が多いため、せっかくですので全ての辞書に親しもうと思ったのです。

3つ目は「AM放送を聞くこと」です。ラジオはもともと大好きなのですが、いつもAFNの定時英語ニュースで情報収集をしたり、NHKの日本語ニュースをシャドーイングしたりするぐらいにとどまっています。ラジオであれば寝床でも聞けますし、こうして時間がたっぷりあるのはまたとないチャンス。普段はダイヤルを合わせない民放のAM放送をあえて聞くことにしました。

上記3大プロジェクトはいずれも楽しく進められましたね。ポイントは体調に応じてのんびりと行うこと。せっかくインフルエンザから回復しようと体が頑張っているのに、別のところで体力を消耗しては元も子もないからです。

「ロイヤル英文法」に関しては、大きな発見がありました。我が家にあるのは旧版で1980年代発行のものです。よって例文もpolicemanなどジェンダー面で今ならNGのものも見受けられました。改めて例文を読み進めてみると、その一方で自分が知らなかったフレーズや文法項目がたくさんあることもわかり、勉強になりましたね。電子辞書に改定新版が搭載されているため、同じ個所を読み比べているのですが、修正された例文についても発見がありました。

一方、2つ目の電子辞書遊びは本当に楽しく、「自分は電子辞書holic」なのではと思ってしまうくらい、ハマりました。まず、具体的にどのような辞書が搭載されているのか、改めて一冊ずつ確認しました。とにかく膨大な量です。それだけでも時間がかかったのですが、さらに面白かったのは各辞書の「序文」と「著作権」を読むことでした。「著作権」ボタンを押すと、発行年と収録語数が出てきます。ランダムハウスは34万5千語、リーダーズは28万、ウィズダム英和は10万ぐらいという具合に、各辞書の単語数がわかっただけでも楽しめました。「序文」の方は各辞書の編纂者がどのような思いでその辞書を生み出したかが書かれています。いわば決意表明文(?)のような感じで、編集チームの苦労が想像できます。

3点目の民放ラジオに関しては、こちらも楽しめましたね。CMが独特だったり、ラジオショッピングが流れたりと普段耳にしていない番組編成を興味深く思いました。こうした「楽しみ」を発見できたと考えれば、今回ダウンしたのもそう悪くはなかったのかもしれません。

最後に一つ。

電子辞書には英英辞典もたくさん収容されているのですが、疑問に思ったことがあります。それは英語の辞書名と日本語の辞書名が今一つ合致しない点です。たとえばOxford Advanced Learners' Dictionaryの邦題は「オックスフォード現代英英辞典」。Oxford Dictionary of Englishは「オックスフォード新英英辞典」。Oxford Learner's Wordfinder Dictionaryは「オックスフォード英英活用辞典」となっており、英語書名と日本語名が微妙に違います。特にAdvanced Learners' Dictionaryは上級学習者向けの辞書なのですが、日本語は「現代英英辞典」です。Dictionary of Englishも日本語では「新」英英辞典とあります。うーん、なぜ?

Wordfinder Dictionaryは「英英活用辞典」ですが、同じく搭載されている研究社の「新編英和活用大辞典」の英語名はThe Kenkyusha Dictionary of English Collocationsです。Oxford Collocations Dictionary for students of Englishは「オックスフォード連語辞典」とあります。何だかややこしくなってきましたね。

・・・ここまで書き連ねている自分を客観視してみると、インフルエンザで療養中だと言うのに固有名詞の正式訳にこだわるあたり、我ながらおかしくなってしまいます。

何にせよ体力第一のこの仕事。皆様も寒い毎日が続きますのでご自愛くださいね!
 

(2018年2月5日)

【今週の一冊】
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「アメリカ大統領図鑑」 米国大統領研究編纂所・開発社著、秀和システム、2017年

放送通訳の現場では連日トランプ大統領のニュースが出てきます。外交問題から貿易、そしてもちろん、おなじみのツイッターに至るまで何かと話題豊富の昨今です。今年は中間選挙も開催されますので、アメリカ政治からは目が離せそうにありません。ゆえに今回ご紹介するのは歴代大統領を網羅した一冊。過去から私たちは何を学べるのか、アメリカとはどのようなリーダーが国を作ってきたのかを知る上では格好の書籍と言えます。

初代大統領のワシントンから現大統領のトランプ氏に至るまで、見開き2ページないし4ページでコンパクトにまとめられています。左下には「大統領の成績表」というチャートがあり、実行力、政治力、知力、カリスマ性及び決断力の側面から判定したものもあります。こうして眺めてみると、どの素質も完璧という大統領はおらず、長所短所は誰にでも備わっているものであり、大統領ももちろんそうなのだということを改めて感じます。

どの大統領もそれぞれ個性があるのですが、中でも私は二人の大統領に注目しました。一人目は第20代のガーフィールド大統領(任期1881年3月から9月まで)。当時のアメリカは資本主義が急激に発展し、富裕階級が拝金主義に陥り、産業界と政財界の癒着や汚職が蔓延していました。ガーフィールド大統領は結局、就任からわずか4か月目にして支持者から暗殺されてしまうのです。在職中に暗殺されたのはリンカーンに次いで二人目となりました。

もう一人は第29代ハーディング大統領(任期1921年3月から1923年8月まで)。こちらも富裕層や大企業を優遇し、スキャンダルにまみれました。アラスカを遊説後に立ち寄ったホテルで急死しています。浮気があまりにも多く、その最期は夫人による毒殺ではともささやかれています。

歴史から人は多くのことを学べます。本書を通じて今のアメリカが見えてくるかもしれませんね。


第339回 インフル?さあ、どうする?

先週木曜日に大学の授業が終わりました。これから長い春休みが始まります。ついこの間、春学期が始まったかと思いきや、あっという間の1年というのが毎年この時期になると実感することです。

その安ど感があったためなのか、木曜日の午後あたりから喉の調子がおかしくなりました。幸い、午後の授業は切り抜けられたのですが、夕方までに咳も出るようになり、嫌な予感がします。「でもまあ今学期を無事終えられたのだし、まずはめでたしめでたし」と思ったのも束の間、金曜日に目が覚めると体調がいつもとは明らかに違っていました。

それでも午前中は予定の原稿を仕上げて納品。いつもであれば午後にスポーツクラブの大好きなレッスンが控えています。しかし、土曜日には早朝の放送通訳シフトが入っていますので、万が一インフルエンザであれば外出禁止となってしまいます。エージェントにその旨を連絡するのであれば、早いに越したことはありません。そこでスポーツクラブは断念し、近所の内科へ出かけました。

ホームページで受付時間を確認していざ赴くと、なんとドアには「受付終了」の札が。「え?どうして?」と思いつつ扉を開けて尋ねると、看護師さん曰く、その日は急な往診が入ってしまったため、早めの受付終了とのことでした。そのころまでには悪寒もしてかなり「マズイ」状態に私の方もなっていましたので、ダメモトで「HPを見て確認してきたのですが・・・」とほぼ懇願状態。「午後3時からまた受付しますので」と言われはしたのですが、午前中にインフル診断をしていただかないと、エージェントの連絡が後手に回ってしまいます。仕方がないので、その病院を後にし、別の内科へ向かいました。

幸いインフルエンザではなく、扁桃炎とのこと。インフルであれば急な高熱や嘔吐があるのが通常のパターンということでした。薬を処方されて自宅へ戻りました。

実は待ち時間の間、私は手元のメモ用紙に「インフルだった場合の行動計画」を書き連ねていました。まずはエージェントに連絡してピンチヒッターを依頼することが最優先事項で、次は2日後に予定していた家族日帰りスキーをどうするかでした。そこにも「日曜日まで治ったとき」と「日曜日まで治らなかったとき」のパターンをそれぞれ書き出し、シミュレーションをしておきました。

このようにして最悪の事態を想定しつつ、今この瞬間、自分は何をすべきかを鳥瞰図的にとらえられると、大変な状況でも慌てずにすむように思います。幸い声を出すことはできていましたし、喉が痛いとは言え、かすれ声でもありません。あとは土曜の放送通訳までとにかく声を通常通り出せれば何とかなります。

フリーランスで仕事をしていると、「体調管理=自己管理=仕事のうち」という思いが非常に強くなります。本番まで自分の体をケアし、当日ベストのコンディションで臨むこともお給料のうちだからです。自己管理がなっていなければ、それは社会的信用にも影響します。

結局、病院から帰宅後に私がやったこと。それは何よりも「休む」ということでした。眠れるか否かは関係ありません。とにかく体を横たえてエネルギーを温存し、疲れをそれ以上増やさないことが最優先課題となりました。そのおかげもあってか、土曜日も何とか3時間の放送通訳を終えることができたのでした。

あの木曜日午後の体調異変に至るまで、取り立てて体に負担となるようなことをした記憶はありません。規則正しく生活をしてきたつもりでした。それでもダウンするというのを免れないのが人間なのでしょうね。機械ではないわけですので、さもありなんと思います。だからこそより一層体調管理には気を付けたいと思ったのでした。

・・・ちなみに早朝シフトを無事終えてホッとしたからなのか、土曜日夜は背中の痛みと片頭痛で一睡もできず、食べることの大好きな日頃の自分からは想像できないほど、食欲不振となりました。相変わらず熱はありませんので、インフルエンザではなさそうです。日帰りスキーに行けなかったのは残念でしたが、日中ひたすら横になっていたおかげで、夜となった今、体力が復活しているのがわかります。これでまた明日から意欲をもって仕事をしていきたいと思います。

(2018年1月22日)

【今週の一冊】
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「イギリス菓子図鑑 お菓子の由来と作り方:伝統からモダンまで、知っておきたい英国菓子104選」 羽根則子著、誠文堂新光社、2015年

1月上旬からケーブルテレビでThe Great British Bake Off (邦題「ブリティッシュ・ベイクオフ」)というイギリスの勝ち抜き戦クッキング番組が始まっています。数年前からイギリスで大ヒットを続けている番組です。毎週出場者がお題に挑戦し、審査員の判定を経て勝ち抜いていくという番組です。以前から評判は聞いており、ぜひとも日本で放映されればと願っていたところ、Dlifeというチャンネルで始まりました。二か国語放送ですので、英語がニガテな人も大いに楽しめる60分間です。

ところで私は幼少期をイギリスで過ごしました。現地の女子校での最初の調理実習はスコーンです。初回からいきなりお菓子というのは私にとって新鮮でしたね。日本の学校であればおかずやごはん系のものを作ると聞いていたからです。その後の実習でもケーキが多く、ヨークシャー・プディングなどのイギリス料理を習いました。懐かしい思い出です。

今回ご紹介する本は、イギリスのお菓子を大解剖した一冊です。アルファベット順に紹介されており、由来や各お菓子に関するストーリーも満載です。もちろん作り方も出ており、シンプルに説明されているため誰でもチャレンジできます。ほとんど4工程ぐらいですので、時間がなくてもお菓子作りが得意でなくても大丈夫です。

私は「ベイクオフ」の番組を見るたびにこの本を参照し、自分でも作っています。けれどもお菓子作りというのは英語学習と同じです。何度も練習することで上達するのですよね。英語を学んで使えるようになり幸せになることと同様、繰り返し作ることでよりおいしいものが出来上がり嬉しくなるというプロセスを大切にしたいと思います。


第338回 割り切りも必要

長年使っていたデスクトップPCが、どうにもこうにもならなくなりました。具体的には「反応が極端に遅い」という点が一番の懸案でした。メール一通を開くのに1分以上もかかることさえあったのです。ワードで原稿を書いていても、なかなか変換されず、保存にも時間がかかり、このままでは仕事に支障が出てしまうという段階にまで来ていました。昨年秋のことです。

それでも私にとって、新たに買い直すことは非常にハードルが高く感じられました。仕様も異なるでしょうし、新しいWindowsというのは、これまでも買い替えのたびに慣れるまで時間がかかっていました。その移行期間における心身の疲労(?)が私にはもったいなく思えてしまったのです。慣れるのに貴重な自分のエネルギーを費やすぐらいなら、現行の遅さで不自由しても構わないとさえ思っていました。フリーズしたわけでもなかったからです。

しかし、そうも言っていられなくなりました。ますます動作不安定に陥っていたのです。このままでは考えられる最悪のシナリオとして「完全にダウン。現在進行中の仕事や各種データなどがすべて消えてしまう」というものでした。そこで、年末のある日。思い切って近くの家電店へとりあえず見に行きました。

それまではデスクトップPCを使っていました。私はいまだにスマートフォンも持たず、ノートPCもiPadも持っていません。その理由は、「出先ではとにかく自由でいたい。束縛されたくない」という思いがあったからです。もちろん、そうしたグッズを持っていても自己コントロールをできる方は大勢いると思います。けれども私は、ことデジタル機器との付き合い方において自分を信用できないのですね。いったんそうしたアイテムを手にしてしまうと、出先でも電車内でもメールやネットが気になってしまうタイプであると自覚しています。だからこそ、あえて距離をとる方が私には合っていると思い、デスクトップPCだけでここまでやってきたのでした。

久しぶりに足を運んだ量販店には最新機種がたくさん並んでおり、目を見張るような技術的進歩がどの商品にも見られました。しかもスペックは飛躍的な向上です。そう考えれば、今の価格はお手頃ということになります。やはりここまで来たからには、思い切って買い替えて仕事環境を良くすべきなのだと思いました。データの移行や新しい仕様への慣れというのはプロの手を借りたり時間をそれなりにかけたりすれば解決する課題です。そのような思いが自分の中で湧き上がってきました。

帰宅後、家族に相談すると、「せっかく買うのだからもう少しいろいろとお店を回って比較したら?」との意見が出ました。確かにそれも一理あります。せっかく買うわけですし、しかも今後数年間は愛用していくものです。不十分な下調べのままで買うのももったいない。その気持ちもわかります。

しかし、年が明けた1月3日。私は思い切って先の量販店にまた足を運びました。「よし、もう今日ここで買ってしまおう。さもないとあれこれ迷い始めて結局買わずじまいになる。そして『あ~、PCの反応が遅い~』と低周波のイライラと共存する羽目になってしまう」と思ったのです。その場で即決で購入しました。

データ移行は古いPCをお店に持ち込めばやっていただけるとのこと。幸いその週はレギュラーで携わっている原稿執筆もなかったため、自分専用のPCがなくても何とかなります。数日後にはデータ移行済みの新しいノートPCが自宅へやって来ました。そして今、新しいPCでこれを書いているところです。

検討から購入までのあまりの速さに家族はあきれ顔で、「まさに脊髄反応!」とからかわれたほどです。けれども私としては良かったと思っています。今回の体験を通じて思ったのは、PCの買い替え自体、私が想像していたよりはるかにハードルが低かったことでした。たとえて言うならば、旅先でレンタカーを借りるような感じかもしれません。「自宅の車と少し違うけれど、自分が必要とする機能を最低限使いこなせれば良し」ということだったのですよね。そう思うと、あそこまで数か月間、さんざん悩んで買おうか買うまいかと思っていた時間そのものの方がもったいなかったように感じられます。

快適に仕事をするための道具なのです。その道具をめぐり、お金と時間を出し惜しみしては、仕事面で自分の力を発揮しづらくなります。だからこそ、思い切りと割り切りと行動が必要なのだと感じた今年のお正月でした。

・・・それにしても「脊髄反応」というのは言いえて妙だと思いましたが、考えてみれば、これぞquick responseですよね。

(2018年1月15日)

【今週の一冊】
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ロゴライフ 有名ロゴ100の変遷」 「ロン・ファン・デル・フルーフト著、グラフィック社、2014年

私は街中を歩いている時、視界に入る景色を眺めるのが好きです。その時の気分に応じてテーマを決め、集中的にそればかりを見ることがあります。たとえば、雲の形ばかり眺めることもあれば、家の表札だけに焦点をあてることもあります。お店の看板や道路標識など、自分なりに絞り込んでみると楽しめるのですね。携帯音楽プレーヤーやスマートフォンがなくても、エンジョイできるのです。

今回ご紹介する一冊は、企業ロゴばかりを集めた本です。日本企業だけでなく、世界中の会社名やブランド名が本書には紹介されています。それぞれのロゴがどのような経緯でデザインの変更をしてきたかが一目でわかります。

著者のロン・ファン・デル・フルーフト氏はオランダを拠点とするクリエイティブディレクターです。私も幼少期、オランダに住んでいたため、本書に出ているオランダの店名など懐かしく読むことができました。たとえば、ファストファッションの先駆けとも言えるのがオランダのC&Aという店舗です。こちらは1970年代にずいぶんオランダでも人気でしたが、そのロゴもマイナーチェンジをしつつ、今の形に落ち着いていることがわかります。

他にもキヤノン、ニコン、資生堂やJALなどのロゴもあります。マイクロソフトやアルファロメオ、ボルボなど、今や日本でおなじみのデザインも紹介されています。こうしてページをめくってみると、企業ロゴにも会社側やデザイナーの熱い思いが込められていることがわかります。消費者として何となく素通りしてしまうには、あまりにももったいない!ロゴが醸し出す芸術的な「美」をこれからはもっと味わいたい。そんな思いを抱くことができる一冊でした。


第337回 仕事道具にこだわる

みなさま明けましておめでとうございます。旧年中は本コラムをお読みいただきありがとうございました。今年もみなさまにとって少しでもお役に立てるような文を寄稿してまいりたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、昨年末の少し仕事が落ち着いて来たころから、私は自分の仕事道具を見直すことにしました。電子辞書やカバンなど、仕事で使うグッズの刷新を図ったのです。きっかけとなったのは、「電子辞書の反応が遅い」という小さな懸案でした。

ただ、以前の買い替え時のように電子辞書そのものが完全にダウンしたわけではありません。まだまだ使えます。しかも手持ちの電子辞書にはたくさんのコンテンツが
入っていますので、わざわざ買い替えるのはもったいないと思っていました。それなりの投資も必要ですし、同一メーカーであっても、キーボードや仕様のマイナーチェンジもあることでしょう。そうしたものに慣れる時間と手間が惜しいように思えたのです。

ただ、キーボードの反応の悪さは気になっていました。使うたびに「あ~、またキーを押しても反応しない!」という潜在的苛立ちのようなものを感じていたのですね。我慢できなくはないけれど、愉快ではないという感覚です。

実はこうした目に見えない小さなイライラというのが一番良くないのではないかと、次第に私は思うようになりました。せっかく好きな英語の仕事をして、大好きな辞書引き作業をしているのに、それがつまらなくなってしまっては本末転倒です。ゆえに思い切って新しい電子辞書を買ったのでした。

せっかく手に入れるのであればと思い、奮発して最新かつ最上位機種を買いました。結果は大正解でした。キーの反応も速く、重さも格段に軽くなり、持ち運びもさらに楽になりました。なぜもっと早く買わなかったのだろうと悔やんだほどです。そう、日常的に使う仕事道具だからこそ、惜しまずタイミングよく購入することを自分に許すべきだったのです。

これを機に他のものも見直しました。「今、使っているもので、何となく我慢して使っているものは?」と身の回りを見渡してみたのです。その結果、購入対象として挙がったのがハンドバッグとビジネスリュック、財布とダウンジャケットでした。

ダウンジャケットは数年前に購入したものなのですが、だいぶダウンがくたびれています。しかも先日、炭酸飲料をこぼしてしまい、シミだらけになっていました。ただ、こちらはダメモトでクリーニングに出したところ、見違えるほどシミが取れて戻ってきました。ですのでダウンジャケットは再購入ではなく、このまま使うことにしました。

ハンドバッグも、実は数か月前に「そのまま倒れず自立するものが欲しい」と思い、新調していました。ところがそれは革製で自立する分、重くなってしまったのです。そこでしまい込んだ先代の軽いバッグを再びクローゼットから取り出し、再活用しています。やはり私にとっては軽さが最優先です。

ビジネスリュックも重さと汚れが気になっていました。ネットで探したところ、さらに軽量の女性用リュックがあることを発見。色も私のお気に入りのレッドでしたので迷わず購入しました。今まで入れていたものを移し替えても非常に軽く、これで肩こりが軽減されそうです。

お財布も長年使いこんでいる分、くたびれてきていました。私は長財布を使っているのですが、ジッパーの開閉がしづらくなってきており、レジでお財布を開けるたびに引っかかっていたのです。いつかそのままジッパーがにっちもさっちも行かなくなるのではとドキドキしながらの利用が続いていました。

数年前から実はチェックしていたお財布があります。日本のメーカー製で、名前通り薄いお財布が売られているのです。カード用ポケットも5枚分しかなく、小銭も15枚ぐらいしか入りません。けれども厳選してお札やコインにカードを入れさえすれば、非常に軽量かつ薄い状態で使えます。そこでこの商品を思い切って買いました。結果はこちらも大正解。購入を機に手持ちのカードを5枚に絞り込み、持ち歩く際にも小銭をジャラジャラと入れなくなりました。会計時にキリの良いお釣りを目指すべく暗算をする必要はありますが、ぴったり決まったときなど気分爽快です。お金を払うたびに頭の体操をして、スリムなお財布を持ち歩ける快感を抱いています。日常生活におけるちょっとした達成感です。

このようなことから気づいたこと。それは、自分の仕事道具への投資を惜しむのはかえってもったいないということでした。その勢いで先日もPCを新調し、目下、データを業者に依頼して移行していただいているところです。長年買い替えが気になっていましたので、勢いで購入して本当に良かったです。

最後にもう一つ。

自分の仕事道具の中でも最も大切にケアせねばいけないのは、実は自分の体だと改めて思いました。健康第一だからこそ、仕事もプライベートも充実できるのですよね。今年も睡眠、栄養、運動に気を付けて一年を健やかに過ごしたいと思っています。

(2018年1月9日)

【今週の一冊】
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「『家事のしすぎ』が日本を滅ぼす」 佐光紀子著、光文社新書、2017年

昨年11月から年末にかけては怒涛のような日々でした。「やってもやっても仕事が終わらない、家事はてんこ盛り、家族がダウン」という状況だったのです。自分に体力があるときは、こうした時も対応できます。けれども私自身の疲労蓄積もあり、クリスマス前はクタクタでした。

しかもこの時期と言うのは、どこを見渡しても「大掃除」「クリスマス」「お正月」の大合唱です。やらねばならない家事が雪だるま式に増えるシーズンです。「あれもやっていない、これもまだ」と思えば思うほど、自分の能力不足に嫌気がさしてしまいました。

そのような時に出会ったのが今回ご紹介する一冊です。著者の佐光氏は翻訳家として有名ですが、上智大学の修士課程で研究も最近なさっており、本書も学術的観点から日本の家事をとらえた一冊となっています。特に前半は各種データや海外の様子なども詳細に書かれており、アカデミックな内容となっていました。説得力があります。

私が救われたのは本書の後半部分です。読み進めると、いかに「きちんと」すべてを行うことが日本の中では良しとされているかに気づかされます。本人が快適であれば、何も世間の「きちんと」基準を気にする必要はないはずです。けれども周囲の雰囲気やマスコミの報道などにより、私たちは知らず知らずに最適解答を求め、それに向けて自分を縛ってしまうのです。

本来「家事」というのは快適かつ安全に暮らせるのであれば、その基準の幅はもっとあって良いはずだと私は本書を通じて感じました。「そこまで綺麗に掃除するのは私にはムリ」というのもアリだと思うのです。あまりにも完璧を求めてしまい、心身ともに疲れ切ってしまえば、それは本末転倒です。

本書を読了してまず思ったこと。それは「年末の大掃除はほどほどにしよう」ということでした。もっと暖かくなったら取り組めばよいのです。そう達観できただけで、穏やかな年末を迎えることができました。感謝! 


第336回 epidemic? pandemic? endemic?

以前、環境問題の国際会議で事前予習をしていたときのこと。deforestation、reforestation、afforestationという3つの単語が出てきました。森林伐採や植林に関する単語にも色々とあるのですよね。単語帳を作りながら必死に覚えたことを思い出します。

他にも私にとってゴチャゴチャになりやすい単語は幾つかあります。kidneyとliver、strategyとtacticsもその一例です。また、直近のCNNニュースでは「トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と承認した」という話題があったのですが、これも私の中では混同しやすい固有名詞です。「イスラエルをエルサレムの首都と承認した」とつい言いかけてしまい、焦ったこともありました。

まだまだあります。以前、通訳の指導をしていた際、教材で感染症の話が取り上げられたときも、こんがらがってしまったのです。出てきた単語はepidemic、pandemic、endemicでした。

endemicは「特定の地域」がメインなのに対して、epidemicは「ある地域で急激に増えている」状況、pandemicは「全世界的」という規模の伝染病です。いずれもdemicはギリシャ語のdemos(人々)から来ています。demosはdemocracyのdemosです。ちなみにdemonstrationの方はラテン語のmonstro(示す)から来ています。単語を覚える際には、このようにして意味だけでなく、例文を音読したり、語源を調べたりして、それこそ五感をフル活用して覚えるようにはしています。それでも人間というのは物事を忘れる生き物です。完全に記憶しようとすると辛くなってしまいます。よって、「忘れても良い」という前提条件で日々の通訳業務にあたるようにしています。

ところで「伝染」で思い出したことがあります。「通訳現場で通訳者はどこまで話者のテンションと同一化すべきか」という課題です。話者の話し方や気合が通訳者に伝染し、その状態で通訳した方が良いのか、それとも通訳者はあくまでも通訳する「文言」そのものに集中すべきであり、それこそ喜怒哀楽の部分にまで「感染」すべきでないととらえるか、迷うからです。

私個人としては、楽しい状況下での通訳作業であれば、大いに通訳者もその雰囲気を声に載せるべきだと考えます。たとえばレセプション通訳や華やかな記者会見の場などであれば、通訳者が一人淡々と訳していては白けてしまうからです。話者が熱い思いを持って何かを伝えたいのであれば、やはり言葉以上に込められたメッセージそのものを聞き手に伝達させるのが通訳者の使命であると考えます。

では、「怒り」の場合はどうでしょうか?これも迷うところです。ずいぶん前に、来日したお客様が訪問先企業へクレームをしに行くという状況下で通訳を仰せつかったことがあります。お客様の方はかなりのご立腹。何としてもそのビジネスミーティングで先方から有利な条件を引き出したいのは明らかでした。一方、お訪ねした会社側と言えば、その提案を受け入れる心積もりは一切ない状況だったのです。

その時私があえてとった行動は、「お客様のご不満を言葉で伝えつつ、私も一緒にヒートアップはしない」というものでした。なぜかと言いますと、もし私も一緒にテンション高く通訳してしまうと、雰囲気がさらに悪化し、双方が同時に話し出してしまう恐れがあったからです。そうなりますと、逐次通訳の場合、2人以上の声をすべて拾って訳すことはできなくなります。あくまでもone at a time, pleaseというのが、より良い通訳をする上では絶対条件です。

あえてテンションを上げずに通訳していたことが少しは寄与したのか、時間の経過とともにお客様の興奮も収まっていきました。おかげで私も早口や威圧的な言動を耳にすることなく、その日は通訳業務を終えることができたのです。今でもあのときの選択は正しかったと思っています。

そう考えると、場の空気というのは本当に「伝染する」のだと感じます。これは通訳現場に限りません。クラス運営をする上での教室しかり、家庭の中しかりです。今年一年を振り返ってみて、果たして自分は「良き空気」を「伝染させる」ことはできていただろうかと自省してしまいます。理想に届かなかった部分は潔く認めて反省するしかありません。来年に向けて気分も新たに歩み続けることが最大の解決策だと思っています。

今年もご愛読、ありがとうございました。セミナー会場などで「『ひよこたちへ』、いつも読んでいます!」との嬉しいフィードバックも頂きました。心より感謝しています。来年は1月9日火曜日にアップする予定です。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

皆さまにとって2018年も幸せいっぱいの一年となりますように!

(2017年12月25日)

【今週の一冊】
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「からだにおいしい野菜の便利帳 世界の野菜レシピ」 高橋書店編集部編、高橋書店、2010年

最近はインターネット上でレシピのサイトが充実していますよね。食材名を入力すれば、あっという間にたくさんのレシピがヒットします。余った食材やスパイスをどう使い切るか困っている時など便利ですし、忙しい毎日の食事作りにも活躍してくれるので本当に重宝しています。ネットの長所は必要とする情報をピンポイントで探し出すことですので、時間が足りないときはありがたい存在です。

ただし、特に当てもないときにネットを検索し始めると、大いなる時間泥棒となってしまいます。あーでもない、こーでもないと気分もあちこちに飛び始めると収拾がつかなくなるのです。「はて、最初に検索し始めたのは何だったかしら?」と立ち止まるころには、すでに膨大な時間を失ったことになります。私にとっては要注意です。

ですので、「何となく眺めたい」という心境の時こそ、書籍の出番だと私は考えます。ペラペラとめくったとしても、インターネットほど時間を費やすことはありません。書籍には1ページ目から最終頁までという区切りがあるからです。アイデアを探し出したり、単に息抜きのために眺めたりできるのが書籍の長所だと思います。

今回ご紹介するのは、そのような心境の時に入手した一冊です。世界各地の野菜が紹介されており、レシピに加えて巻末には細かな索引も付いています。私は「索引」というものがとにかく好きで、どのような本であれ、後ろにインデックスが付いているだけでその本の価値は格段にアップすると考えます。本書も単に野菜紹介やレシピに留まらず、学名や分類なども細かく出ています。まさに学術的な価値のある一冊です。

頁をめくってみると、日本で入手できるおなじみの野菜もあれば、現地ならではの食材も見られます。写真もすべてカラーで、レシピも国旗・国名と合わせて紹介されています。

たとえば私にとってrhubarb(ルバーブ)は、幼少期のイギリス時代を思い出す食材です。本書にはこの珍しい野菜も出ています。説明を読むと、漢方薬の一種で整腸作用があることがわかります。他にもjackfruit(ジャックフルーツ)という世界最大のフルーツについても初めて知りました。

ところで小松菜はkomatsuna、たかなはtakana、ゆずもyuzuと表記されています。そのまま英語になっているのですね。一方、クウシンサイはwater spinachとありました。漢字では「空心菜・空芯菜」ですが、英語の場合はwaterが付くあたり、興味深く思います。



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プロフィール

柴原早苗

柴原 早苗さん
放送通訳者。獨協大学・順天堂大学非常勤講師。 上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。 ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。 NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。 ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。 通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。 著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。 「放送通訳者・柴原早苗のブログ」 http://sanaeshibahara.blog.
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