HOME > 通訳 > 通訳者のひよこたちへ

放送通訳者直伝!

第335回 基準は人それぞれ

先日、付き添いでクリニックへ行く機会がありました。今までその診察内容であれば別の病院へ行っていたのですが、仕事が立て込んでいたこともあり、別の病院を選んだのでした。

最近の医療機関は、私が子どもの頃と比べるととても居心地が良くなっています。昔は病院の入り口でまずはスリッパへ履き替え、薄暗い待合室を横切って受付で診察券と保険証を出していました。私は幼児期、中耳炎にかかりやすく、とある開業医の先生に時々診ていただいていました。ところがその先生というのがこれまた非常に怖ーい方で、診察日が憂鬱でしたね。当時はお医者様の数自体少なかったのです。しかもその先生は小学校の校医も務めておられ、学校の集団検診でも「要診察判定」をもらってしまい、とにかく嫌でたまりませんでした。

そのような昔を思えば、今やどのお医者様も優しいですよね。言葉遣いも丁寧ですし、表情もにこやか。看護師さんたちも献身的で、処置も痛くなく、待合室にはテレビ画面や雑誌があり、無料のお茶や水、飴まで用意しているところもあるほどです。

ただ、「病院を選ぶ際には自分なりの基準が必要だ」と今回の付き添いで私は思いました。と言いますのも、私にとって再考を促された要因があったからです。具体的には、

*処方された薬の量が非常に多かった
*薬や自宅における処置方法の説明がマシンガントークで理解できなかった

という2点でした。

私は通訳という仕事柄ゆえか、診察室でも必ずメモと筆記用具を取り出し、医師の話を記入します。メモが数ページにわたる場合、メモ用紙にページ番号まで振ります(←これは通訳資料にページ番号を書く習慣ですので、マストではないのでしょうけれども)。

ところが、ことそのクリニックに関しては、とにかく説明が速くてついていけなかったのでした。もちろん、大切な内容であれば私の方から「もう少しゆっくり説明していただけますか?」「つまり、この薬とこの薬を夕食後に飲むのですね?」などと再確認すべきなのだと思います。けれども私の心の中ではあまりの速度に圧倒されてしまい、半ばあきらめてしまったのです。待合室にたくさん患者さんがいたことも思い出してしまい、いちいち再度の説明を求めて私の診察時間が伸びてしまうことも憚られました。

結局、家族と話し合った結果、この病院での再診察はやめようということになりました。今まで診ていただいていた先生のところへ戻ろうということになったのです。いわゆるセカンドオピニオンです。そして後日、大量に処方された薬を携え、以前お世話になったドクターの所へ駆け込んだのでした。幸いその先生は嫌な顔ひとつせず、私たちが持参した薬の中で最低限必要なものだけを挙げ、具体的な方法も丁寧に教えて下さいました。

今回感じたこと。それはどのようなサービスであれ、受ける側の人間は自分自身がしっかりと基準を持つべきだというものでした。世の中には色々な判断材料があり、それこそインターネットのランキングやコメントを見れば色々な意見が出ています。けれども大事なのは他者がどう思うかではなく、自分がどう受け止めるかなのですよね。

通訳の世界であてはめてみると、自分が通訳アウトプットをする際、もちろんベストを尽くします。改善点があれば直していきます。けれども、「この通訳者が好き」というクライアントさんもいれば、同一評価をしてくださらないお客様もいらっしゃいます。それはそれで良しと通訳者も割り切るべきだと思うのです。万人受けは無理でも、改善できることは直していく。それに尽きると思います。

(2017年12月18日)

【今週の一冊】
hiyoko-171218.jpg

「世界の国鳥」 水野久美著、青幻舎、2017年

街中を歩いている際、注目しているポイントが私にはあります。たとえば家の門や木の形、咲いている花、駐車中の車などです。その日の気分に応じて色々と眺めてはウォーキングを楽しんでいます。以前はイヤホンを付けて歩いていたのですが、最近は鳥のさえずりに心が和むため、もっぱら鳥に注目です。カラスやスズメだけでなく、よく見ると色々な鳥がいます。鳥の名前に詳しくないのが残念なところなのですが・・・。

今回ご紹介するのは、世界の国鳥をテーマにした一冊です。「国鳥」とは、国のシンボルや象徴として定められた鳥のことです。日本の国鳥はてっきりツルだと私は思い込んでいましたが、そうではなかったのですね。正解はキジです。日本書紀や民話などでも描かれており、オスは勇敢、メスは母性愛を表すことから、1947年に日本鳥学会が選定したのだそうです。

一方、アメリカは、予想通りワシでした。具体的にはハクトウワシ(bald eagle)です。コインを始め、様々なところで描かれていますのでおなじみですよね。ハクトウワシはアメリカ先住民にとって神聖な鳥だそうです。本文を読むと、ハクトウワシの夫婦は生涯を添い遂げ、巣を毎年作り足していくため、巨大な巣になるのだそうです。確かにインターネットで調べたところ、大きな巣の写真がヒットしました。

本書をめくっていくと、国によって勇猛な鳥を定めているところもあれば、かわいらしい小さな鳥を選んでいる国もあります。たとえばイギリスではEuropean robin(ヨーロッパコマドリ)が国鳥です。これは1961年に行われた人気投票で1位となっており、2015年に国鳥を決める国民投票でも首位を占めました。スズメぐらいの大きさと形ですが、胸がオレンジ色で、イギリスではよく見かける鳥です。

ちなみに説明には「十字架をかけられたキリストを歌で癒したという伝承から、クリスマスカードにもよく描かれる」とあります。気になる方はぜひ画像検索で"UK Christmas cards"と入力してみてください。robinが描かれたカードがヒットします。 


第334回 メッセージを伝えるには

本当は良くないのでしょうけれど、私の場合、メールの一斉送信で企業から「重要なお知らせ」「システムメンテナンスによるサービスの停止」といったお知らせが届いても、じっくりと読むことはまずありません。大事な内容であると承知してはいるのですが、不特定多数向けに送信されているとなると、なぜか他人ごとに思えてくるのです。よってわざわざ丁寧に読まなくても良いかなあと、つい斜め読みになってしまいます。ひどい時など、メールを開封して即削除です。

なぜこのようなアプローチをするのでしょうか?私なりの理由として考えられるのは、そうしたメールが私にとって大切だとあまり感じられないからなのですね。「これはシバハラサナエさんにとって本当に大切な内容ですよ」というものであれば、あえて私の個人メールアドレスを「送信者リスト」に表示し、メール本文にも宛名が書かれているはずだからです。そうではなく、一斉送信で送られてきたものというのは、「いざその情報が必要になった時は、その企業のHPを見れば何とかなる」と思えてしまうのですね。根拠のない確信です。

そんなことを考えながらふと思い出しました。街中で聞こえてくる音声案内です。電車内や駅のアナウンス、エスカレーター乗降時の注意など、今私たちの身の回りには沢山の音があります。私が通うスポーツクラブでも駐車・駐輪を始め、マナーに関する諸注意アナウンスが頻繁に流れています。私の場合、ほぼ聞き流しです。同様に、郵便受けに入っているダイレクトメールも、既成の印刷モノであれば読まずじまいです。

もし世間の大半が私のような感覚で対応している場合、サービス提供者は「本当に相手へメッセージを伝えたい」ということを真剣に考えるべきなのでしょう。せっかくお金をかけてダイレクトメールを印刷・郵送したり、声優さんを雇って自動音声を吹き込んだりしても、誰も注目してくれないのであれば、お金の無駄遣いだからです。

では、どういう方法が良いのでしょうか?「自動」に代わる方法としては「個人」が「直接」行動することだと思います。アナウンスであれば、担当者が肉声で行い、文書であれば、ダイレクトメールの代わりに個人宛のお手紙ということになります。郵便で伝わらないならば、直接相手と会うことがより効果を持つことになります。もっとも今は誰もが忙しいですし、メール全盛期であるがゆえに電話をかけることすら憚られるという時代です。そうなると、コミュニケーションについて私たちは一層深く考えなければいけないと思うのです。

通訳の世界も同様です。AIの進歩が目覚ましい中、自動同時通訳機が到来する日もそう遠くありません。すでにAIは様々な分野で台頭しており、ロボットが応対するホテルや介護現場、観光案内などでおなじみとなっています。「いつかそういう時代が来るかも」ではもはやなく、「どれぐらいAIが浸透してくるか」「どのようにして私たち人間はAIと共存すべきか」を考える時期に来ているのです。

ところで私は仕事柄、肩や首の凝りに悩まされているため、定期的にマッサージの施術を受けています。微妙な感覚はマッサージ師さんにしかできないと感じます。お店の雰囲気やスタッフさんのお人柄、そして素晴らしい施術があるからこそ、サービスを受けた後は元気を取り戻すことができます。そうした繊細な部分をAIがどこまで将来的にできるかなのですよね。

これは通訳者も同じだと思うのです。クライアントが通訳者と接することで日本に対して良い思い出を本国に持ち帰ることができたり、ちょっとした気配りを通訳者が示したりということができる方が、究極の「サービス」としてご満足いただけると思うのです。そして、そのような繊細さを発揮するのは、人間が得意とすることだと私は考えます。

だからこそ、お客様が本当に満足して下さるような通訳者をめざして自己研さんを続けたいと思います。 

(2017年12月11日)

【今週の一冊】
hiyoko-171211.jpg
「陶磁器インヨーロッパ―ワンテーマ海外旅行」 前田正明監修、弘済出版社、1995年

「今日は疲れているなあ」という日、私は軽めの内容の本を読みます。写真集やイラストブックなど、見るだけで和みますし、新聞や雑誌なども斜め読みできるという気楽さがあります。日中、放送通訳現場でテレビ画面ばかり見ており、自宅でもコンピュータ作業が多いため、なるべく寝る前はデジタルから離れたいと思っているのです。

今回ご紹介する一冊も、肩肘張らずに読めるものです。発行年は少し前ですが、かわいいイラストや美しい写真でヨーロッパの陶磁器が紹介されています。ページをめくるだけで旅気分を味わえます。ちなみに私は自宅で使うお皿もシンプルにしたいため、ノーブランドの白いプレートの類しか持たないのですが、美しく歴史のあるヨーロッパ陶器には憧れます。

本書にはイタリアやフランス、オランダにドイツなど、有名な陶磁器生産国が紹介されています。私が中でも興味を抱いたのがイギリスでした。イギリスは産業革命の発祥地。それを機に作陶技術も飛躍していったそうです。

ところでイギリスの陶器王と言えばジョサイア・ウェッジウッドが有名です。生まれたのは1730年。幼児期に天然痘を患い、幼くして父親を亡くすなど、苦労人でした。しかも32歳の時には病気になり、天然痘にかかった右足を切断せざるを得なくなったそうです。その際、医師を通じて知り合ったのがトーマス・ベントレー。後に盟友として共同経営者になり、ウェッジウッドは発展を遂げていったと本書には記されています。 

ちなみにウェッジウッドの孫はチャールズ・ダーウィン。そう、「種の起源」の著者です。


第333回 First Come First Served

先着順ということばは、フリーランス通訳業において大切です。いったん請け負った仕事がある場合、どれほどその後に魅力的な仕事のオファーが来ても、最初にイエスとお答えした相手の業務をキャンセルするのはマナー違反だからです。「後から来た仕事の方が負担が軽い」「通訳料が高い」「拘束時間が少ない」「自分の得意分野」など、気持ちがそちらに傾く要素がたとえ山のようにあったとしても、とにかく最初に来た仕事を断ることは、自分の信頼に関わります。「バレなければ嘘も方便なのでは?」と思うことすら許されません。狭い業界です。片方をキャンセルしてもう一つを請け負えば、いずれ発覚します。信用を築き上げるのは地道な一歩で長年かかります。信用を失うのは一瞬なのです。

私はデビュー当初、通訳業務前日になって突然どうしようもない不安に襲われ、「もう絶対この仕事はできない」「そもそも私が受けるには難易度が高すぎる」「現場に行ってこんな程度の実力を露呈すればお客様に迷惑がかかる」「私が行かない方がかえってマシなのではないか」と猛烈に思ったことがあります。当時はメールのない時代でしたし、携帯電話も普及していませんでした。連絡先は日中のオフィス電話番号のみです。そちらに真夜中近く、いてもたってもいられなくなり電話をかけたのでした。

コーディネーターが運よく残業をしているのではないか?
大きなエージェントなので、誰か一人ぐらいは残っているはずだ。
とにかくこちらの事情を説明して、降ろさせてもらおう。

「やっぱり私には実力的に無理です。ごめんなさい」と誠意を持って謝罪すれば、エージェントのことだもの、急きょ私などよりうんと実力の高い大ベテランの先輩に依頼して、お客様にも迷惑がかからないはず。

このように思いながら、相手が出るまで受話器を握りしめて待ったのでした。

もちろん、時間が時間でしたから、誰も出ません。私の中では名案も実行不能です。

さあ、こうなると諦めるしかありません。やれるところまで予習もした。最後になってジタバタしてエージェントにも電話をかけた。でもつながらなかった。ならばもう今の状況を直視するしかない。こうなったらあとは明朝、通訳現場へ向かい、勇気を持って出来るだけのことをやるしかないと、良い意味で達観できたのでした。

いざ通訳が始まってみると、夜中までのあの恐怖心は何だったのかというぐらい、スムーズな内容でした。あそこまで恐れることはなかった。大騒ぎした自分は何だったのだろう。あれほど神経をすり減らして夜中の電話に何十分も費やしたぐらいなら、あの時間を勉強に当てればよかったと猛省しました。

もう随分前の体験談ですが、この出来事だけは今でも強烈に覚えています。もしあの時、エージェントが残業中で私の連絡を受け、私がゴネて業務から交代させていただいたら、おそらく私はそれから程なくしてこの業界を去っていたことでしょう。「私には通訳者になる資格などない」「私のレベルとは違いすぎる」「私がいなくても誰かがやってくれる」という具合に、自己否定や他力本願、それと同時に自己正当化をしたと思います。そして何十年経っても「自分は悪くなかったのだ」と言い訳をし続ける人生を歩んでいたはずです。

最初に来た仕事は責任を持って請け負う。
つべこべ理由は言わない。
真正面から真摯に向き合い、全力を尽くす。
それでも失敗したら誠意を持って謝罪し、反省し、再発防止を考える。

この繰り返しを積み重ねるしかないのだと私はあの出来事から教訓として得ました。そしてそれをひたすらひたすら続けながら今にいたっています。

(2017年12月4日)

【今週の一冊】
hiyoko-171204.jpg
「アメリカ大統領百科」 DK社編、大間知知子訳、原書房、2017年

DKとはDorling Kindersley社のこと。色鮮やかな図鑑を発行する出版社として有名です。1980年代には様々なモノの断面図を解説した本がベストセラーになりました。通訳の勉強を始めたばかりの私は、モノを鳥瞰図的に見られるこの図鑑にすっかり魅了され、本来の通訳勉強そっちのけで見入っていたことを思い出します。

今回ご紹介する一冊は、アメリカの歴代大統領を紹介するものです。もちろん、現大統領も取り上げられていますので、まさに最新版の一冊です。また、大統領のプロフィールだけでなく、ファーストレディーのことや、ホワイトハウス、大統領の別荘に大統領の利用するエアフォースワンや各種車両についても説明があります。そうした大統領の使うモノにもそれぞれ歴史があり、歴代の大統領が導入してきているのですよね。そう考えると、どの国であれ、「歴史」というものには重みがあり、その重みの上に今の私たちは生きているのだと思わされます。

ところで10月にイギリスへ出かけた際、知人と数年ぶりに会うことになりました。知人は日本政治に関心があり、歴代首相や日本の選挙など、知識豊富です。しばらく日本に来ていないとのことなので、知人が喜びそうなお土産を持参しようと私は決めました。その頃はちょうど10月下旬の選挙直前でしたので、私は国会議事堂の売店へ向かいました。小さな売店ですが、国会見学者が必ず立ち寄る場所です。覗いてみると、歴代首相の似顔絵が描かれたグッズや食べ物もあります。早速数点買い求めてプレゼントしたところ、満面の笑顔が返ってきました。ちなみに日本の歴代首相の数もなかなかのものです。ご興味がある方はぜひ永田町の売店へどうぞ。

最後にもう一点。放送通訳のニュースではleaderという単語が出てきます。大統領や首相など国家元首を指します。同時通訳の際には、すぐに具体的なタイトルの和訳を付けなければなりません。もう一つ私が難儀するのはpresidentということば。「大統領」「国家主席」「議長」など色々な訳語があります。その都度暗記です。


第332回 健康管理も仕事のうち

大学卒業後、初めて入った会社は毎年一回、社員向け健康診断がありました。日本では小学校から健診がおこなわれており、本当にありがたいと思います。と言いますのも、私が小学校時代を過ごしたイギリスでは健診がなかったからです。

最初の就職先に勤めたのは1年半ほど。その後は小さな事務所に転職したのですが、外国人一人に私一人という組織でしたので、転職を機に国民健保・年金へと移行しました。健康診断も自分で手続きをして受けるようになったのです。

以来、フリーランスで働く現在に至るまで、年1回の健診は欠かせない行事となっています。国民健康保険に加入していれば、地元で健診を受けられます。私が暮らす街では基礎健診とは別に人間ドックもあります。自己負担はありますが、自治体から補助が出るため、通常の費用よりも割安で受けることができます。

さて、通訳者にとって、とりわけフリーランスで働く場合は自分の健康管理も仕事のうちになります。業務当日に向けて体調を整え、ケガや病気にならないように気を配る必要があるのです。声を使う仕事ですので、前日のカラオケ、スポーツ観戦などは私の場合NGです。暴飲暴食を控え、万全の体調にしなければなりません。

私もデビュー当時はまだ体力があり、多少無理をしても踏ん張りがききました。仕事に不慣れな頃は準備をいくらしても足りない気がしてしまい、ついつい夜更かしをすることもありましたね。膨大な量の単語リストを前に「わあ、どうしよう!」と不安になり、寝る間を惜しんで勉強したこともあります。それでも翌日は何とかテンションを高くして臨めたわけですので、要は体力がモノを言う年齢だったのでしょう。

けれども誰にとっても年は積み重ねられていきます。若かりし頃のやり方が通用しなくなります。昔は何ともなかったのに疲れやすくなったり、肩こりや眼精疲労など、PC画面の影響で昔より疲労の蓄積が大きくなったりもします。忙しさにかまけてメンテナンスを怠ってしまうと、後でまとまって体調不良に見舞われます。私も痛い目にこれまで遭いましたので、今では定期的にマッサージに出かけています。

話を健診に戻しましょう。

健診では様々なチェックがなされますが、私の場合、何か一つでも「要経過観察」や「要精密検査」などの項目があった場合、早めに専門医に診て頂きます。心の中に不安を抱えたままでは精神衛生上、良くないからです。健診ではあくまでも平均値に照らし合わせて「要検査」といった結果が出てきます。ですので、専門医で診察をいざ受けてみると、実はさほど心配なしと言われることもあるのですね。けれども油断は禁物ですので、とにかく早め早めに病院へ行くことを私は心掛けています。人間は加齢とともにホルモンのバランスも変わってきますので、「これまでずっと元気だったし、今もピンピンしている」という人でも、やはりきちんと気に留めることは必要でしょう。

さて、通訳のセミナーをしていてよく受けるご質問の一つに「通訳者にとって一番必要な実力は何ですか?やはりリスニングですか?」といった問いがあります。もちろん英語の4技能は全て必要ですが、私の答えは「語学力・知識力・体力」です。その体力維持のためにも「睡眠・運動・栄養・心の元気」は欠かせないと私は考えています。

(2017年11月27日)

【今週の一冊】
hiyoko-171127.jpg
「ドイツのごはん(絵本 世界の食事)」 銀城康子著、農文協、2008年

ある国について知識を深める際には様々な方法があります。インターネットで調べるも良し、知り合いに聞くも良し、書店で文献を読んだりすることも可能です。私はニュースでどこかの国が出てくると、俄然興味が湧いてくるため、その国の料理レシピを検索したり、レストランを探したりしています。

今回ご紹介するのはドイツ料理を取り上げた一冊で子ども向け絵本です。絵本の良い所はカラフルで字が大きく、ページ数が少ないこと。これならサッと読めますので気分的にも楽です。しかも解説が易しく頭に入りやすいのですね。未知の分野について調べる際には私の場合、必ず易しめの文献からあたるようにしています。

本書を読むきっかけとなったのは、ドイツの連立協議が失敗したというニュースでした。ドイツは今や世界情勢において重要なプレーヤーとなっています。そのドイツでメルケル首相の牽引力低下が見られ始めたとなると、一体世界はどうなっていくのか気になります。そのような思いを抱きながら放送通訳をしたのでした。ただ、ニュースで接しただけで終わらせるのはあまりにももったいないと思い、本書を手に取ったのです。

頁をめくるとドイツ料理の特徴や一般的な家庭の様子などが描かれています。ドイツでライ麦パンが発達したのは、かつて野菜が取れなかった時代の名残だそうです。また、台所をピカピカにしている理由も説明がありました。あまり汚したくないという思いから、平日の忙しいときはわざわざ調理をするのではなく、ハムやピクルスなど冷たいメニューで済ませるとも書かれていました。

ところで季節はもうすぐクリスマス。ドイツ名物のクリスマススイーツ「シュトーレン」は、おくるみに包まれたキリストをイメージしたものだそうです。こうした話題を子ども向け絵本から知るのは楽しいですよね。 


第331回 好きなことを堂々と行う勇気

先日インターネットのニュースを見ていたところ、Wall Street Journalのアジア版(紙版)が廃止になり、デジタルに移行したとありました。新聞業界は今、購読者数の減少に見舞われており、廃刊になったりデジタルだけになったりと方針を変えざるを得ない状況です。

私は全体が俯瞰できる便利さから、家では今も紙版の新聞を購読しています。日本経済新聞です。一説によれば紙版の朝刊1部は新書1冊に相当する情報量だそうです。毎日一字一句を読まないまでも、新聞をめくるだけで色々な情報に接することができるのが紙新聞の良さだと思います。

もう一つ、紙新聞の長所は「思いがけない情報に遭遇できること」です。先日もそうした嬉しい出会いがありました。

普段私は自宅でテレビをあまり見ないのですが、イギリスが出てくるドキュメンタリーは別です。最近はBSの旅番組をよく見ています。その日もBSの番組表を日経でチェックしていました。

ふと見ると、DLifeというチャンネルが目にとまりました。このチャンネルはディズニー系の局で、数年前、私はこの局で放送されていたBloomberg Newsの同時通訳に携わったことがあります。私にとってはなじみのある局なのですが、Bloomberg契約が終了したことから、あまり見なくなっていました。

日経に出ていたDLifeの番組表には「ジェイミー・オリヴァー」とあります。イギリスのセレブリティ・シェフJamie Oliverのことです。私は吹き替えではなく原語で視聴したいのですが、この番組は英語でも見ることができました。

Jamieはイギリスの学校給食に革命を起こしたことや斬新な料理法などで知られる大人気のシェフです。話し方もざっくばらんでイギリスの口語表現もたくさん出てきます。肩肘張らないアプローチが特徴です。

今回私が見たのは60分のドキュメンタリーだったのですが、体に良い食材を求めてジェイミーが世界を旅するという内容でした。その日は日本の沖縄も出てきました。地元のご長寿のお宅にお邪魔して手料理をおいしそうに食べるシーンが印象的でした。

番組ではジェイミーが考案したレシピも紹介されました。取材先でヒントを得たジェイミーの料理は決して複雑でなく、自分でも作りたいと思えるような内容です。見ていて何よりも楽しいのは、豪快な作り方そのものです。日本のようにきっちり計量することなく、量も極めてアバウト。調理方法も大胆でした。

私は実はあまり料理が得意ではありません。くたびれて帰宅した日など「外食したいなあ」と思うほどです。けれどもジェイミーを見ていると、とにかく料理が大好きという情熱が伝わってきます。料理というのは堅苦しく考えなくても良いのだというアプローチが私にとっては新鮮でした。

ジェイミーは子どもの頃、学習障害に悩まされていたそうです。けれども自分の好きな料理の道に進み、今やその分野では第一人者です。周りの目を気にしたり、小さくまとまったりしていたら、おそらくその才能は開花されなかったでしょう。

好きなことを堂々と行う勇気。

そのような人生を歩みたいと思います。


(2017年11月20日)

【今週の一冊】
hiyoko-171120.jpg
「イギリスの家庭料理」 砂古玉緒著、世界文化社、2015年

先月出かけたイギリスで、「必ず食べよう!」と思っていたものがあります。スコーン、サンドイッチ、フィッシュ&チップス、キャロットケーキ、カスタードソースがたっぷり載ったスポンジケーキです。いずれも子どもの頃に食べたり大学院時代に寮の食堂で味わったりしたものです。私にとってはノスタルジア料理です。今回泊まったのは大学院時代に過ごした寮(ゲストステイ扱い)でしたので、到着日の夕食には早速フィッシュ&チップスを食べられました。ちょうど金曜日だったのが良かったのでしょうね。その寮は毎週金曜日に必ず魚が提供されるのです。

イギリス料理はおいしくないとかつて言われていましたが、それも随分前のこと。グローバル化の恩恵もあったのでしょう。シェフたちが大いに工夫をしてイギリス料理も洗練されたものに今やなりました。先ほどご紹介したジェイミー・オリヴァーを始め、著名なシェフたちが大活躍しています。

オシャレなModern Britishにも私はもちろん惹かれます。けれどもむしろ1970年代80年代の、かつて「マズイ」と言われていた時代の料理の方が嬉しくなります。パサパサのケーキに金色のカスタードクリームをた~~~っぷりかけて甘くして頂くのもイギリスならでは。日本のティールームで提供される2倍サイズのスコーンも捨てがたいものです。下味がさほど付いていない魚や肉料理にグレイビーソースや塩コショウを振りかけるのも、私にとっては「懐かしいお作法」です。

今回ご紹介する一冊は、イギリスに長年滞在した著者の砂古さんが手がけるイギリスの家庭料理です。前菜からメイン、デザートや保存食に至るまで多様なレシピが並びます。今の時代、インターネット上のレシピサイトが人気ですが、やはりこうして書籍に美しくレイアウトされたものも良いですよね。実際に作るも良し、写真集として眺めるも良しという一冊です。

ところでイギリスの書店にもレシピ本がたくさん並びますが、日本と比べると大型本で豪華旅行写真集のような装丁です。こうした本はcoffee-table bookと言われます。これを見て作るという以上に、リビングのインテリアの一環として飾るのですね。



《 前 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 次 》


↑Page Top

プロフィール

柴原早苗

柴原 早苗さん
放送通訳者。獨協大学・順天堂大学非常勤講師。 上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。 ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。 NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。 ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。 通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。 著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。 「放送通訳者・柴原早苗のブログ」 http://sanaeshibahara.blog.
so-net.ne.jp/