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放送通訳者直伝!

第343回 予定、変える?どうする?

先日のこと。急な通訳案件が入り、予習のためにスケジュールを調整する必要が出ました。当初の予定であれば、その日一日は調べ物をするため大学の図書館で缶詰めになるはずだったのです。開館から夕方までひたすらリサーチをするつもりでずいぶん前から予定していました。

けれども通訳の準備はきちんとしなければなりません。そうなると、大切にとっておいた(?)「一日図書館デー」を返上する必要に迫られます。図書館でのリサーチは個人的に調べたいと思っていた内容でしたので、いわば「プライベート」の作業です。個人的趣味であれば後ろ倒しにすれば良いのです。簡単なことです。

「でも」と心の中ではひそかに躊躇する気持ちもありました。と言いますのも、大学は現在長期休み。静かな図書館で丸一日を調べ物にあてられるのは私にとって実に貴重なチャンスでもあります。だからこそ余計に予定変更には抵抗があったのですね。

とは言え、急遽入ってきたのは正真正銘の「仕事」です。つまりお給料をいただき、それに見合うもの以上のサービスを提供せねばなりません。プライベートは二の次ということになります。

ではどのようにスケジュールを調整すれば良いでしょうか?

心の中で「うーん、調整かあ・・・」などと後ろ向きな気持ちになってしまうと、本来取り組むべき予習に本腰が入りません。これでは依頼をしてくださった相手に失礼になってしまいます。ここは気持ちを切り替えて、スケジュールを抜本的に組み直すしかないのですよね。

まず「個人的な図書館での調べ物」を後ろ倒しするにあたり、直近で次に図書館へ行ける日はいつなのかを考えました。図書館開館日カレンダーを引っ張り出し、自分の手帳とにらめっこした結果、1週間後に行けることがわかりました。これでまずは第一関門突破です。

次は、空いた丸一日をどのようにして通訳準備に充てるか考えました。私がその時おこなったのは、やるべき準備作業をすべて細かく書き出したことでした。具体的には:

*事前書類の通読
*事前書類の翻訳

*来日クライアントのプロフィールをネットで探す
*上記プロフィールを和訳する
*クライアントの動画をYou Tubeで探す

*訪問先A社の会社案内を日本語で通読
*上記の英語ページを通読

*訪問先B社の会社案内を日本語で通読
*上記の英語ページを通読

*単語リスト作成
*その他

ざっとこのような具合です。項目別にざっくりと5つにわけることができます。これを朝8時から14時までの6時間で仕上げようと決めました。8時から08:50までは「事前書類の通読」「事前書類の翻訳」、9時から09:50まではクライアント関連の予習、10時から10:50は訪問先A社の予習という具合に1時間1項目にしたのです。60分ではなく50分にすることで適宜休憩を取り、体を動かしたり家事をして気分転換をしたりして
集中力を温存するようにしました。14時を終了時間にセットしたのは、この時間帯になるとかなり疲労がたまってくるだろうと予測したためです。

なお50分という長さの間も2分割または3分割に分けてタイマーをかけました。8時から25分間は「事前書類の通読」にあて、08:26から08:50までは翻訳作業という具合です。このタイマー時間を厳守することにより、常に全体像と残り時間を意識しながら作業を進めることにしました。

このような進め方の場合、細かいことを調べ始める余裕はありません。むしろ大事なのは鳥瞰図的に全容をとらえて、まずは最後まで一気に予習をすることが求められます。作業全般を終えて時間に余裕があれば細かい部分にも取り組めばよいと私は思っているのですね。さもないと本来終わるべきところまで到達できないからです。

今回はこのようにしてタイマーできっちり時間を計測して予習をしたおかげで、何とか事前に予習を仕上げることができました。あとは通訳本番までの隙間時間を使いながら、さらに細かい部分で気になる点を洗い出し、詰めの作業をすることになります。

一日の予習を終えてみて感じたこと。それは「図書館デーを後ろ倒しにすることには最初抵抗があった。でもやはり思い切って変更して良かった」ということでした。もし未練たっぷりで(?)自分の予定を優先してしまえば、通訳準備がさらに後手後手に回ってしまったからです。

フリーランスで仕事をしているとこのような状況に直面することがたびたびあります。だからこそ「お財布を無くしても諦められるけれど、手帳は絶対無くせない!」と私など思ってしまうのかもしれません。

(2018年2月26日)

【今週の一冊】
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「ケイト・グリーナウェイ ヴィクトリア朝を描いた絵本作家」 川端有子著、河出書房新社、2012年

子どもたちが小さいころは毎晩読み聞かせをしながら寝かせていました。日本や海外の絵本に触れる貴重な機会となり、それを機に絵本の世界に魅了されています。物語としてだけ見るのではなく、文化や風習の違いも絵本から読み取れるのが面白いのですね。たとえば海外の絵本の場合、室内でも靴を履いている様子が描かれていますし、出てくる人物も色々な皮膚の色の子が登場しています。一方、日本では動物が出てくる絵本の場合、かわいい感じで描かれています。

さて、今回ご紹介するのはイギリスで19世紀後半に活躍した絵本作家ケイト・グリーナウェイを取り上げた一冊です。ケイト・グリーナウェイの名前は知らなくても、一度は作品を目にしたことがある、という方も多いのではないでしょうか。ほんわかしたタッチ、心温まる色遣いが特徴です。

絵本に出てくる絵を「芸術作品」として見てみると、実は奥が深いことを本書は教えてくれます。ヴィクトリア朝の時代風景や人々の暮らしぶりなどがケイト・グリーナウェイの絵からはわかります。

どの絵も魅力的なのですが、私のお気に入りは食事風景を描いた何枚かの絵です。ちょうどDlifeというチャンネルで「ブリティッシュ・ベイクオフ」という勝ち抜き戦お菓子コンテストを観ていることもあり、イギリスの焼き菓子ルーツを絵から感じることができるからです。ファッションが好きであれば洋服を、音楽好きなら楽器をという具合に、自分の興味に応じて絵というのは読み解けるのですよね。そのことを教えてくれた一冊でした。


第342回 楽しむのなら堂々と

時間をいかに有効に使うかは誰にとっても永遠の課題です。と言いますのも、書店へ行けば手帳術、時間管理術といった本がたくさん並んでいるからです。

私は数年前、読みたい本が積読状態になっていながら一向に読み進めることができない状況に直面していました。書店へ行けばついつい目新しい本を買ってしまう。それでいて自宅の本棚には読んでいない本がぎゅうぎゅう詰め。背表紙を見るたびに「早く読まねば」と焦るばかりでまったく片付かなかったのです。

ようやく「それでは」と本棚から取り出してはみたものの、「はて、一体なぜ私はこの本を買ったのかしら?」と思う始末。当初の興味はどこへやら。このようになるとページをめくるスピードも遅くなり、結局は古書店へ出すことになってしまいました。

なぜこのような状態になってしまったのでしょうか?

それは、当時はまっていたSNSでした。具体的にはFacebookです。

当時はFacebookが流行し始めたころで、友人がどんどん加入していた時期でした。「あ、あの友達もいる!」「わあ、小学校時代のこの子も!」という具合。探せば探すほど懐かしい名前が出てきます。再び接点を持ち、近況を報告し合うまではよかったのですが、そのうちFacebookをひたすら見つめる時間が加速度的に増えてしまいました。一度計ってみたところ、一日当たり累計で2時間は優に超えていましたね。読書タイムが削られてしまったのも致し方のないことでした。

自宅で通訳準備をしていても友人の動向が気になってしまい、「息抜き」と自己正当化してページを眺め始めてしまう。そして気が付けば数十分が経過し、自己嫌悪。

この繰り返しが続いたのです。

そこである日、意を決し退会したのでした。

もちろん、私のようにズルズルと流されず、けじめをつけて見られる人はたくさんいるはずです。私の場合、ポイントとなったのは「時間のロス」に加えて、閲覧直後に感じる「罪悪感」、そして何よりも「眺めていてもさほど楽しくない」という3点でした。

これはダイエットでも同じだと思います。「ちょっと食べすぎたけれどおいしかった。これが食べられて幸せ。今日はサイコー」と思えるのであれば、多少ハメを外してもそれは許されるはずです。けれども「ああ、これを食べたからさっきのジョギングはパー。これで400カロリーも摂ってしまった。どーして私は意思が弱いんだろう」と自己嫌悪に陥り、さらにストレスで無茶食いすれば何のためのダイエットかわからなくなります。

要は「楽しむのならば堂々と」ということなのですよね。それこそ正々堂々とエンジョイして、「よし、また明日から頑張ろう」と思えた方が健康的だと思います。私の場合、ことSNSではそれができなかったため退会したわけですが、楽しめるのであればとことん楽しむ。中途半端に自己嫌悪になるぐらいなら、どこかで自分なりにけじめをつけるしかないのではと感じています。

(2018年2月19日)

【今週の一冊】
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「子どもの本のカレンダー 増補改訂版」 鳥越信・生駒幸子編著、創元社、2009年

気が付けば2月ももう半ば。カレンダーを次にめくればもう3月がやってきます。私はなるべく物を増やしたくないため、カレンダーは飾っていません。けれどもカレンダーのデザインを眺めるのは好きで、大学の講師室や銀行、公共施設などにかけられているカレンダーをしげしげと見つめてしまいます。そういえば大学生のころ、ゼミの仲間が「一週間の初めは日曜日?月曜日?どっちだろう?」と真剣に考えこんでいましたっけ。暦というのはロマンがありますよね。

今回ご紹介するのは、1年366日の日付が出てくる絵本をまとめた一冊です。子ども向けの絵本や小説、漫画などが取り上げられており、各作品の中に出てくる日付に基づいて紹介されています。たとえばこのコラムがアップロードされる2月19日のページでは遠藤みえ子著「ブルーバースデー」(講談社、1998年)が出ています。筋書を読むと、この小説の主人公が2月19日に長い手紙を書いたのだそうです。

この本の初版は1996年ですが、増補改訂版は2009年の発行。よって紹介されている作品も新しいものが見受けられます。私が知らない本もたくさんありますが、それがかえって新鮮で、次世代の子どもたちがどのような本に親しんでいるかわかります。

ちなみに今年のセンター試験で何かと話題になったムーミンも本書には出ています。8月7日のページです。書籍名は「ムーミン谷の彗星」(トーベ・ヤンソン著、講談社、1990年)です。ムーミントロールがとある学者から「8月7日午後8時42分、赤い彗星が地球に衝突する」と聞かされるシーンが出てくるそうです。

身近なお子さんやご自分の誕生日に合わせて、ここに紹介されている本を手に取ってみるのも楽しいでしょうね。「誕生日辞典」や「名言集」のような感じで味わえる一冊です。


第341回 危機管理のこと

通訳の仕事をする上で、業務当日前にやるべきことはたくさんあります。事前予習もそうですし、単語リストを作成したり名刺を用意したり携帯電話を充電したり電子辞書の予備電池を備えたりなどもそうしたことの一環ですよね。それと同時に、万が一に備えて慌てないようにするために、様々な事態を想定しておくことも大切です。

もちろん、いたずらに不安ばかりを煽ることもいけないのですが、突発事態になっても慌てないようにしておくことは必要だと思います。これは先日、宇宙飛行士・若田光一さんのセミナーでも若田さんご自身がおっしゃっていたことでした。危機管理能力を日頃から高めておき、どのような課題が生じうるのかを紙の上でもよいからシミュレーションしておくと、いざというときにも冷静に対処できるというのですね。本当にそうだと私も感じます。

と言いますのも、これまで私は通訳現場において様々なヒヤリハット体験や失敗をしてきたのです。たくさんの痛い思いをしつつも多くの教訓を得ることができたのですね。その瞬間は本当に逃げ出したくなるようなことでも、時間の経過とともに、その経験があったからこそ次に同様の状況に陥りそうになっても回避できるというシナリオができたように思います。

ところで危機管理と言えば、イギリスでとある体験をしました。ずいぶん前のことです。

私は幼少期にイギリスの現地校に通っており、中学2年生で帰国しました。その後しばらくは日本にいたのですが、大学生になり、どうしても当時の学校が懐かしく思えたため、旅行のついでにフラリと立ち寄ってみたのです。昔の正門はそのまま、校舎も変わらず、非常に懐かしく思いました。あいにく長期休暇中でしたので、学校には誰もいなかったのですが、昔のことを思い出し、とても幸せな気分に浸ることができたのでした。

それから数年後、今度はイギリスで仕事をすることとなり、また学校を訪ねてみました。その時驚いたのが、警備が非常に厳重になっていたことでした。かつて誰でも開けることのできた門は2メートル以上もあるゲートに取り換えられており、施錠されていました。監視カメラも設置されています。その地域は住宅街で治安も良いのですが、それでも昨今の社会不安を受けての対応だったのでしょう。時代の流れを感じました。

このような対応について私は次のように考えました。たとえ安全な場所であっても、様々なリスクを考えれば、根本のところで安全対策を講じる必要があるということなのです。厳重に守れるところをまずはしっかりとガードしていくことは自衛として必要なことであり、学校という場を守り、児童生徒・教職員の命を守り、保護者に安心を提供する上では必須なのです。

日本では時々、登下校中の児童生徒の列に制御を失った自動車が突っ込むという痛ましい事故が起きています。また、不審者が校内に入り込み、幼い子どもたちが犠牲になるケースも生じています。そのたびに保護者が登下校に付き添ったり、防犯パトロールをしたり、監視カメラをつけたりという対応がなされます。もちろん、これらは大事なことです。

けれどもその一方で、込み合った道路を一方通行にせず、ガードレールもつけずに対面通行の状態にさせておけば、やはり通学路の安全は確保されないままとなります。不審者が入ってくるのがわかっているのに、正門や裏門がいつでも誰でも入れるような開放状態にしておけば、同様の事件が起きないという保証はありません。根本の部分をなんとかせねばいけないと私は思うのですね。

通訳の仕事でも、根本の部分で危機管理をするにはどうすべきか、個々の通訳者は失敗やニアミス体験を通じて自分なりの対応策を講じています。このような考え方は仕事に限らず、日常生活の安心・安全面でも大いに必要だと感じます。私自身、行政のホームページなどを通じてそうした意見をこれまで提示してきたのですが、色々と規制や事情があるのでしょう。なかなか抜本的な改善には至っていません。

だからこそ、一人一人が問題意識を持ち、命を守るにはどうすべきか、根本的解決を見出す上でどのような行動をとれるか、考える時が来ているように思います。
 

(2018年2月13日)

【今週の一冊】
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「美しい世界の傑作ミュージアム」 MdN編集部著、エムディエヌコーポレーション、2017年

大学図書館や公共図書館へ行くと、特設コーナーが設けられていることがよくあります。陳列されているのは新刊本や特集テーマなどです。私は通常の棚だけでなく、そうしたコーナーも欠かさず確認するようにしています。今回ご紹介する一冊は、勤務先の大学図書館の新刊コーナーに置かれていたものです。

もともと建築や美術館・博物館は好きで、関連する本はよく読む方なのですが、「美しい世界の傑作ミュージアム」はオール・カラー版で、世界各地にあるミュージアムが出ています。建築家の名前や竣工などのデータもあり、美術館ガイドとしてだけでなく、建築学の本としても楽しめる一冊です。

日本にも珍しいデザインのミュージアムはありますが、世界に目を転じてみると本当に面白い建物がたくさんあるのですね。どれも魅力的なのですが、曲線の美しいフランスのワイン博物館や海に浮かぶブラジルのニテロイ現代美術館などが本書の中では印象的でした。特にブラジルにはこうした珍しい建物が多いように思います。

一方、ロンドンのテート・モダンはかつて発電所として使われていた建物ですが、近現代美術館として2000年にオープンしました。変電所そのものはジャイルズ・ギルバート・スコットによるデザインです。ネットで調べたところ、Giles Gilbert Scottの他にGeorge Gilbert Scottという建築家もいたようです。私が幼少期に暮らしていたロンドン南部の近所にはGilbert Scott Primary Schoolという小学校がありました。名を冠した学校なのでしょう。懐かしく思い出しているところです。


第340回 やっぱりインフル

このコラムは毎週5週目が休載ですので、2週間ぶりのアップとなりました。気がつけばもう2月。前回のコラムでは「インフルではなかった」と締めくくっていたのですが、あにはからんや、「B型インフルエンザ」でした!私は10年以上インフルとは無縁でしたのでその旨を医師にお話しすると、「自分では気づかずに治してしまう人もいますよ」とのこと。うーん、ということは、過去に気合で風邪を乗り切ったのももしかしてと思う次第です。

今回は病院でタミフルを処方され、家で数日間おとなしく過ごしました。仕事もキャンセルせざるを得ず、非常に心苦しく思いましたね。でもエージェントの皆さんのおかげで迅速にピンチヒッターの方が入ってくださり、助かりました。感謝あるのみです。

日頃私は「外に出て仕事をする」という生活スタイルを築いている分、自宅で何もせずじっとしているのはある意味で新鮮、別の意味では非常に手持無沙汰でした。何よりも、大好きな放送通訳を休んでしまったのが自分にとっては残念だったのです。BBCワールド唯一の日本人特派員Mariko Oiさんが自らをnews junkieと称しておられましたが、私もそのような気分です。

さて、インフルエンザという急遽与えられた休養命令により、数日間布団の中で過ごすことになったわけですが、せっかくなので睡眠時以外に何かやってみようと思い立ちました。日頃忙しくて取り組めないことにチャレンジしたくなったのです。

プロジェクト一つ目は「ロイヤル英文法」の例文を読むこと。これはたまたまとあるサイトで例文を読破なさった方の記事を読み、私も取り組んでみたくなったのです。膨大なページ数ですので、ゆるゆる進めようと考えました。

2つ目は「電子辞書に親しむこと」。数週間前に電子辞書を買い換え、今、愛用しているのはカシオ EX-wordのDATAPLUS10です。先代と比べてもはるかにコンテンツ数が多いため、せっかくですので全ての辞書に親しもうと思ったのです。

3つ目は「AM放送を聞くこと」です。ラジオはもともと大好きなのですが、いつもAFNの定時英語ニュースで情報収集をしたり、NHKの日本語ニュースをシャドーイングしたりするぐらいにとどまっています。ラジオであれば寝床でも聞けますし、こうして時間がたっぷりあるのはまたとないチャンス。普段はダイヤルを合わせない民放のAM放送をあえて聞くことにしました。

上記3大プロジェクトはいずれも楽しく進められましたね。ポイントは体調に応じてのんびりと行うこと。せっかくインフルエンザから回復しようと体が頑張っているのに、別のところで体力を消耗しては元も子もないからです。

「ロイヤル英文法」に関しては、大きな発見がありました。我が家にあるのは旧版で1980年代発行のものです。よって例文もpolicemanなどジェンダー面で今ならNGのものも見受けられました。改めて例文を読み進めてみると、その一方で自分が知らなかったフレーズや文法項目がたくさんあることもわかり、勉強になりましたね。電子辞書に改定新版が搭載されているため、同じ個所を読み比べているのですが、修正された例文についても発見がありました。

一方、2つ目の電子辞書遊びは本当に楽しく、「自分は電子辞書holic」なのではと思ってしまうくらい、ハマりました。まず、具体的にどのような辞書が搭載されているのか、改めて一冊ずつ確認しました。とにかく膨大な量です。それだけでも時間がかかったのですが、さらに面白かったのは各辞書の「序文」と「著作権」を読むことでした。「著作権」ボタンを押すと、発行年と収録語数が出てきます。ランダムハウスは34万5千語、リーダーズは28万、ウィズダム英和は10万ぐらいという具合に、各辞書の単語数がわかっただけでも楽しめました。「序文」の方は各辞書の編纂者がどのような思いでその辞書を生み出したかが書かれています。いわば決意表明文(?)のような感じで、編集チームの苦労が想像できます。

3点目の民放ラジオに関しては、こちらも楽しめましたね。CMが独特だったり、ラジオショッピングが流れたりと普段耳にしていない番組編成を興味深く思いました。こうした「楽しみ」を発見できたと考えれば、今回ダウンしたのもそう悪くはなかったのかもしれません。

最後に一つ。

電子辞書には英英辞典もたくさん収容されているのですが、疑問に思ったことがあります。それは英語の辞書名と日本語の辞書名が今一つ合致しない点です。たとえばOxford Advanced Learners' Dictionaryの邦題は「オックスフォード現代英英辞典」。Oxford Dictionary of Englishは「オックスフォード新英英辞典」。Oxford Learner's Wordfinder Dictionaryは「オックスフォード英英活用辞典」となっており、英語書名と日本語名が微妙に違います。特にAdvanced Learners' Dictionaryは上級学習者向けの辞書なのですが、日本語は「現代英英辞典」です。Dictionary of Englishも日本語では「新」英英辞典とあります。うーん、なぜ?

Wordfinder Dictionaryは「英英活用辞典」ですが、同じく搭載されている研究社の「新編英和活用大辞典」の英語名はThe Kenkyusha Dictionary of English Collocationsです。Oxford Collocations Dictionary for students of Englishは「オックスフォード連語辞典」とあります。何だかややこしくなってきましたね。

・・・ここまで書き連ねている自分を客観視してみると、インフルエンザで療養中だと言うのに固有名詞の正式訳にこだわるあたり、我ながらおかしくなってしまいます。

何にせよ体力第一のこの仕事。皆様も寒い毎日が続きますのでご自愛くださいね!
 

(2018年2月5日)

【今週の一冊】
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「アメリカ大統領図鑑」 米国大統領研究編纂所・開発社著、秀和システム、2017年

放送通訳の現場では連日トランプ大統領のニュースが出てきます。外交問題から貿易、そしてもちろん、おなじみのツイッターに至るまで何かと話題豊富の昨今です。今年は中間選挙も開催されますので、アメリカ政治からは目が離せそうにありません。ゆえに今回ご紹介するのは歴代大統領を網羅した一冊。過去から私たちは何を学べるのか、アメリカとはどのようなリーダーが国を作ってきたのかを知る上では格好の書籍と言えます。

初代大統領のワシントンから現大統領のトランプ氏に至るまで、見開き2ページないし4ページでコンパクトにまとめられています。左下には「大統領の成績表」というチャートがあり、実行力、政治力、知力、カリスマ性及び決断力の側面から判定したものもあります。こうして眺めてみると、どの素質も完璧という大統領はおらず、長所短所は誰にでも備わっているものであり、大統領ももちろんそうなのだということを改めて感じます。

どの大統領もそれぞれ個性があるのですが、中でも私は二人の大統領に注目しました。一人目は第20代のガーフィールド大統領(任期1881年3月から9月まで)。当時のアメリカは資本主義が急激に発展し、富裕階級が拝金主義に陥り、産業界と政財界の癒着や汚職が蔓延していました。ガーフィールド大統領は結局、就任からわずか4か月目にして支持者から暗殺されてしまうのです。在職中に暗殺されたのはリンカーンに次いで二人目となりました。

もう一人は第29代ハーディング大統領(任期1921年3月から1923年8月まで)。こちらも富裕層や大企業を優遇し、スキャンダルにまみれました。アラスカを遊説後に立ち寄ったホテルで急死しています。浮気があまりにも多く、その最期は夫人による毒殺ではともささやかれています。

歴史から人は多くのことを学べます。本書を通じて今のアメリカが見えてくるかもしれませんね。


第339回 インフル?さあ、どうする?

先週木曜日に大学の授業が終わりました。これから長い春休みが始まります。ついこの間、春学期が始まったかと思いきや、あっという間の1年というのが毎年この時期になると実感することです。

その安ど感があったためなのか、木曜日の午後あたりから喉の調子がおかしくなりました。幸い、午後の授業は切り抜けられたのですが、夕方までに咳も出るようになり、嫌な予感がします。「でもまあ今学期を無事終えられたのだし、まずはめでたしめでたし」と思ったのも束の間、金曜日に目が覚めると体調がいつもとは明らかに違っていました。

それでも午前中は予定の原稿を仕上げて納品。いつもであれば午後にスポーツクラブの大好きなレッスンが控えています。しかし、土曜日には早朝の放送通訳シフトが入っていますので、万が一インフルエンザであれば外出禁止となってしまいます。エージェントにその旨を連絡するのであれば、早いに越したことはありません。そこでスポーツクラブは断念し、近所の内科へ出かけました。

ホームページで受付時間を確認していざ赴くと、なんとドアには「受付終了」の札が。「え?どうして?」と思いつつ扉を開けて尋ねると、看護師さん曰く、その日は急な往診が入ってしまったため、早めの受付終了とのことでした。そのころまでには悪寒もしてかなり「マズイ」状態に私の方もなっていましたので、ダメモトで「HPを見て確認してきたのですが・・・」とほぼ懇願状態。「午後3時からまた受付しますので」と言われはしたのですが、午前中にインフル診断をしていただかないと、エージェントの連絡が後手に回ってしまいます。仕方がないので、その病院を後にし、別の内科へ向かいました。

幸いインフルエンザではなく、扁桃炎とのこと。インフルであれば急な高熱や嘔吐があるのが通常のパターンということでした。薬を処方されて自宅へ戻りました。

実は待ち時間の間、私は手元のメモ用紙に「インフルだった場合の行動計画」を書き連ねていました。まずはエージェントに連絡してピンチヒッターを依頼することが最優先事項で、次は2日後に予定していた家族日帰りスキーをどうするかでした。そこにも「日曜日まで治ったとき」と「日曜日まで治らなかったとき」のパターンをそれぞれ書き出し、シミュレーションをしておきました。

このようにして最悪の事態を想定しつつ、今この瞬間、自分は何をすべきかを鳥瞰図的にとらえられると、大変な状況でも慌てずにすむように思います。幸い声を出すことはできていましたし、喉が痛いとは言え、かすれ声でもありません。あとは土曜の放送通訳までとにかく声を通常通り出せれば何とかなります。

フリーランスで仕事をしていると、「体調管理=自己管理=仕事のうち」という思いが非常に強くなります。本番まで自分の体をケアし、当日ベストのコンディションで臨むこともお給料のうちだからです。自己管理がなっていなければ、それは社会的信用にも影響します。

結局、病院から帰宅後に私がやったこと。それは何よりも「休む」ということでした。眠れるか否かは関係ありません。とにかく体を横たえてエネルギーを温存し、疲れをそれ以上増やさないことが最優先課題となりました。そのおかげもあってか、土曜日も何とか3時間の放送通訳を終えることができたのでした。

あの木曜日午後の体調異変に至るまで、取り立てて体に負担となるようなことをした記憶はありません。規則正しく生活をしてきたつもりでした。それでもダウンするというのを免れないのが人間なのでしょうね。機械ではないわけですので、さもありなんと思います。だからこそより一層体調管理には気を付けたいと思ったのでした。

・・・ちなみに早朝シフトを無事終えてホッとしたからなのか、土曜日夜は背中の痛みと片頭痛で一睡もできず、食べることの大好きな日頃の自分からは想像できないほど、食欲不振となりました。相変わらず熱はありませんので、インフルエンザではなさそうです。日帰りスキーに行けなかったのは残念でしたが、日中ひたすら横になっていたおかげで、夜となった今、体力が復活しているのがわかります。これでまた明日から意欲をもって仕事をしていきたいと思います。

(2018年1月22日)

【今週の一冊】
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「イギリス菓子図鑑 お菓子の由来と作り方:伝統からモダンまで、知っておきたい英国菓子104選」 羽根則子著、誠文堂新光社、2015年

1月上旬からケーブルテレビでThe Great British Bake Off (邦題「ブリティッシュ・ベイクオフ」)というイギリスの勝ち抜き戦クッキング番組が始まっています。数年前からイギリスで大ヒットを続けている番組です。毎週出場者がお題に挑戦し、審査員の判定を経て勝ち抜いていくという番組です。以前から評判は聞いており、ぜひとも日本で放映されればと願っていたところ、Dlifeというチャンネルで始まりました。二か国語放送ですので、英語がニガテな人も大いに楽しめる60分間です。

ところで私は幼少期をイギリスで過ごしました。現地の女子校での最初の調理実習はスコーンです。初回からいきなりお菓子というのは私にとって新鮮でしたね。日本の学校であればおかずやごはん系のものを作ると聞いていたからです。その後の実習でもケーキが多く、ヨークシャー・プディングなどのイギリス料理を習いました。懐かしい思い出です。

今回ご紹介する本は、イギリスのお菓子を大解剖した一冊です。アルファベット順に紹介されており、由来や各お菓子に関するストーリーも満載です。もちろん作り方も出ており、シンプルに説明されているため誰でもチャレンジできます。ほとんど4工程ぐらいですので、時間がなくてもお菓子作りが得意でなくても大丈夫です。

私は「ベイクオフ」の番組を見るたびにこの本を参照し、自分でも作っています。けれどもお菓子作りというのは英語学習と同じです。何度も練習することで上達するのですよね。英語を学んで使えるようになり幸せになることと同様、繰り返し作ることでよりおいしいものが出来上がり嬉しくなるというプロセスを大切にしたいと思います。



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プロフィール

柴原早苗

柴原 早苗さん
放送通訳者。獨協大学・順天堂大学非常勤講師。 上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。 ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。 NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。 ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。 通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。 著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。 「放送通訳者・柴原早苗のブログ」 http://sanaeshibahara.blog.
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