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放送通訳者直伝!

第286回 師走なので生活ノウハウを少々

ついこの間お正月を迎えたかと思いきや、早くも12月になりました。先日、大学で実施した単語テストでexponentially(急激に)という語が出てきましたが、私にとってはまさにtime goes exponentially fastです。

今回はみなさまの年末大掃除や時短にお役に立てればと思い、ちょっとした生活ノウハウをお伝えいたします。師走のこの時期、少しでも参考になれば幸いです。

1.思い切って大掃除はプロに頼む
掃除そのものは嫌いでないのですが、どうしても苦手項目があります。特にお風呂場のカビや水垢の除去です。長年暮らしていると、どうしてもこびりついてしまうのですね。力のある主人に頼んでも限界がありますので、思い切ってプロの掃除会社に依頼しました。今回はちょうどキャンペーン中で、お風呂場と台所の2か所でのセット料金。半日かけてせっせと汚れを落として下さり、おかげで見違えるようにきれいになりました。今後、汚れを付けないようこまめに掃除をしていけば、これが維持できそうです。お金を払うことで「時間」と「ストレスフリー」を得られましたので、これは費用対効果大です。

2.年賀状やクリスマスカードの工程リストを作成しておく
年賀状やクリスマスカードの送付は、毎年そのほとんどが同じ工程を踏みます。写真つき年賀状であれば「写真を選ぶ」「文面とデザインを考える」「発注枚数を決める」「写真店に注文する」という具合です。私はPCの中に色々な家事や手続きの「仕組みリスト」を作っています。「年賀状仕組みリスト」には時系列にやるべきことをチェックボックス付きで表示しているのです。たとえば「11月1日」の横には「写真選定」「枚数決定」という具合。「11月5日」には「写真店に行き注文する」、「12月1日」のところは「クリスマスカード送付開始」などと記しています。このようにして具体的な日付を書き、その日に取り組むべきことを書くことで、毎年繰り返し行う作業は機械的に実施できるようにしています。

3.「買いものしないデー」を設ける
冷蔵庫の中をこの時期になると少しずつ空にしていきます。冷凍庫や冷蔵庫の調味料の類など、今あるもので料理を工夫してみるのです。そうすることで徐々に空にしていけば、拭き掃除も楽になります。同様に缶詰や乾物類などもこの時期には積極的に使うようにします。防災の観点から最近はrolling stockという方法が注目されていますが、毎年9月の防災期間だけでなく、年末の大掃除にも使える方法だと私は感じています。

4.調味料をどんどん使い果たす
乾燥ハーブやスパイス類、粉類などは何かと余りがちになります。先日私はとある懸賞で各種調理用粉をプレゼントされました。ところが揚げ物をさほど作らない私にとって、大量の天ぷら粉に実は困ってしまったのですね。幸い我が家にはホームベーカリーがあり、二日に一回はパンを手作りしています。そこで強力粉に少し天ぷら粉を混ぜて作ってみたところ、ドイツ風パンのような少し硬めのものができました。ハーブやスパイスもこまめに入れることで、いつもとは違うパンが楽しめています。

5.「まだ使えるから」を断ち切る
毎日の生活を続けていると、自分たち家族にとっては色々なものが風景の一部と化してしまい、とりたてて違和感を覚えなくなってしまいます。たとえば「くたびれたタオル」や「茶渋のついたマグカップ」などがその一例です。「まだ使えるし」「ずっと愛用してきたから」という具合に、深く考えずに使い続けているのですね。けれども新年というのは気分を新たにする絶好の機会でもあります。昔の人たちはタオルや下着、服などを新年におろして使っていました。我が家もそろそろタオルを変えようと思っています。

6.「期限付きボックス」を作る
たとえば「すぐには捨てたくないけれど、あまり使わないもの」というものがあります。そうしたものを今の時期、私は一気に取り出して箱にまとめてしまっています。ポイントは、箱に入れたらそのままガムテープで封をしてしまうこと。そしてその上に「処分日」として1年後の日付を書きます。今後12か月間、一度も中身を開けなければそれらのアイテムは自分にとってもはや卒業を意味します。我が家ではそうしたボックスをそのままチャリティショップに寄贈しています。

7.「ポケットサーチデー」
これは勝手に私が命名したのですが、要はあらゆる「ポケット」の中を点検するということです。衣類のポケット、カバンのポケット、車の中のポケットなどなど、「モノを収納する小さなポケット」を今一度チェックしてみるのです。ゴミが入ったままであったり、今や不要になったチラシが突っ込まれたままだったりなど、探してみると結構片付きます。

8.家具の場所にマスキングテープを
よく小学校の教室には机の場所を決めるため床にビニールテープが貼られています。我が家ではダイニングテーブルの脚の位置にマスキングテープを貼ってみました。と言いますのも、腰かけたりぶつかったり、あるいは地震があったりした際にテーブルの位置も微妙にずれてしまうからです。同様にTV台の角の床にもテープを貼っています。

9.「縦の面」の掃除
意外と忘れがちなのが壁の掃除です。床は意識して掃除機掛けをしますが、壁にも結構ホコリがたまっているのですね。同様にPCスクリーンや電子辞書の画面もこの時期になると「縦のもの」を重点的に掃除するようにしています。

10.とにかくMax数を決める
保冷剤に割り箸、プラスチックスプーンやコップなど、「持っていればいつか役立つかも」というものが家の中にはあふれがちになります。私は「とにかく最大所有数」を決めて、それ以上になったらたとえもったいないと思っても処分するようにしています。そうでもしないと見境なく増えていってしまうからです。ちなみに保冷材は最大3個、アイスクリーム用のプラスチックスプーンなどは一切持たないと決めています。コンビニで渡された割り箸は市販のものと比べて多少脆弱なものもありますので、そうしたものは捨てる前に使ってから処分します。我が家の場合、超多忙でお皿洗いなどにまで時間を割けない日などに「今日は地球に(ゴメンナサイ)厳しいデー」を設け、余った割り箸や紙皿などを使い切るようにしています。

以上、10項目ほど並べてみました。何かひとつでも参考になることがあればうれしいです。

(2016年12月5日)

【今週の一冊】
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「植民地朝鮮に生きる―韓国・民族問題研究所所蔵資料から」 水野直樹他編、岩波書店、2012年

指導している大学の授業で北朝鮮情勢を取り上げました。事前課題として学生たちには「北朝鮮」をキーワードに書籍や雑誌を読むように伝えておきました。私も学生たちと共に学び続けたいと思っていますので、学生たち同様、図書館へ出向いて本を探しました。その時見つけたのが今回ご紹介する一冊です。

本書は全編カラー写真から成り立っており、第二次世界大戦中、日本が北朝鮮や韓国でどのような支配をおこなっていたかが説明されています。私が中学高校時代の授業では、現代史に割く時間がさほどなく、いずれもさらっと取り上げておしまいだったと記憶しています。ゆえにきちんと知っておくべきことを知らないままになってしまいました。イギリスの大学院で学んでいたころ、同じ学生寮にはアジア各地の出身者がたくさんいたのですが、戦争の話になった際、きちんとした知識が無いまま話を進めていく自分を私は恥じたのでした。

以来、現在にいたるまで「過去の歴史を知ること」は私にとって大きな課題です。知らないこと自体が恥なのではなく、知らない「まま」にしておくことこそ良くないのだと今は痛感しています。ですので、学ぶ機会はすべてチャンスでもあるのです。

パラパラと本書をめくってみると、日韓併合に関する内容や抗日運動に関する資料が色々と出てきます。日本がどのように支配を進めていったかは当時の地図を見ると明らかです。日本の領土となっている部分がすべて真っ赤に塗られているからです。一方、当時の学校教育現場の様子も私にとっては衝撃的でした。植民地を含めて国を団結させるべく、いくつかのスローガンが教室には貼ってあることがわかります。日常生活における啓蒙ポスターも戦争一色です。

今回、「北朝鮮」をひとつのきっかけに本書を知り得たわけですが、こうして過去を振り返ってみると、そこには日常の生活があり、人々の人生があることがわかります。「戦争」とひとことで片づけてしまうのではなく、当時の人々に思いを馳せるということ、そしてそこから私たちが何を感じ、どういった教訓を得て、未来につなげていくかを考えること。

こうしたプロセスを私たち一人一人が考えるべきだと感じたのでした。



第285回 好奇心

先日、日帰りで大阪へ出張してきました。その前後に仕事があったため、朝一番の新幹線での強行軍です。

最近は放送通訳と指導の仕事が多いため、業務拠点は関東がほとんど。ですので、新幹線に乗れるというだけで心の中はワクワク感でいっぱいでした。手元の東海道新幹線ポケット時刻表(相変わらず紙版が大好きです)をパラパラとめくりつつ、どの電車に乗ろうかなあ、途中駅にはどのような場所があるのかしらと、出張のずいぶん前から空想して楽しんでいました。

出張当日は祝日。東京駅までの早朝電車はガラ空きでした。しめしめ、きっと新幹線も空いているのではと期待大で東京駅へ降り立つと・・・ものすごい人出。そう、祝日だからこそ世間は行楽地へ向かうのですよね。

行きの道中は仕事準備のため、車窓からの風景はほとんど見られませんでした。品川、新横浜で指定席もほぼ満席です。乗客の大半は京都で下車していきました。京都は紅葉シーズンなのです。

無事新大阪に着き、駅構内の観光案内所でマップをもらおうと思いました。ところが近くに案内所らしきものは見当たりません。集合時間も迫っていましたので、とりあえず地下鉄の路線図だけ手に入れ、そのまま現地へ向かいました。旅先で私は必ず案内所に立ち寄り、市内マップをもらいます。スマートフォンなしの私ですので、今回は地下鉄マップと方向感覚だけを頼りに動き始めました。それでも何とかなったのが今回の出張でした。

大阪はずいぶん前に訪ねたきりですので、土地勘はほとんどありません。その分、目の前の光景は何もかもが新鮮に映りました。地下鉄の車内アナウンスに広告が流れたり(関東の場合はバスアナウンスのみです)、アナウンスの音声ボリュームが小さいことに気づいたりと自分なりに色々と発見がありました。ちなみにアナウンスの速さは関東よりわずかだけ速いように感じましたね。

ちなみに先週のこのコラムで橋の本をご紹介しましたが、あの本を読んでいたおかげで車窓から見える橋も楽しく眺められました。現地での仕事を終えてからはイチョウ並木を見ながら歩き、片道6車線の車道に驚いたり、建物の高さがほぼ均一であることに注目したりと、何を見ても楽しいひとときでした。

物事をエンジョイできるか否かは、今、目の前のことを好奇心でとらえられるかです。通訳の仕事を始めて以来、「何事も面白がること」が感覚的にしみついてきたようです。お金をかけなくても、大きな刺激がなくても、とりあえず「今、この瞬間」をワクワクしながら味わえるかどうか。それが日々の充実感につながると私は考えています。

(2016年11月28日)

【今週の一冊】
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「バカボンのパパよりバカなパパ」 赤塚りえ子著、幻冬舎文庫、2015年

相変わらず紙新聞に紙辞書が好きな私にとって、もうひとつ「アナロググッズ」として手放せないものがあります。ラジオです。我が家は洗面台と台所に小型ラジオを供えています。それまでは電源コードにさし込むタイプの大きいラジオだけでした。しかし東日本大震災を機に「電池で動くラジオ」をそろえたのです。単4電池2本さえあればどこにいても聞けますし、小さいので部屋から部屋へと持ち歩くこともできます。コンパクトで軽く、大いに重宝しています。

私は朝の身支度の際、NHKラジオをつけることが多く、他のことをしながら「耳で」情報を仕入れています。先日興味深く聞いたのは「著者に聞きたい本のツボ」という、日曜日の朝に放送されたコーナーです。その日番組に出ていらしたのは漫画家・赤塚不二夫さんの長女、赤塚りえ子さんでした。

私自身、「天才バカボン」や「ひみつのアッコちゃん」などの赤塚作品はいくつか読んだことがありました。しかし、それほど詳しいわけではありません。今回、りえ子さんのインタビューが非常に面白かったのを機に、本書を入手しました。

赤塚ワールドというとギャグ満載のイメージですが、実は赤塚家も「今」を大いに楽しみながら生きていたことが本書からはわかります。りえ子さんのお母様はもともと赤塚さんのアシスタントを務めており、お父さん顔負けのギャグセンスがあったそうです。しかし両親はその後離婚してしまい、それぞれまた再婚しています。しかし、りえ子さんは二人の「ママ」がそれぞれ亡くなるまで実に仲良くしていたそうで、そのエピソードは読みごたえがありました。「典型的な家族観」からとらえれば、赤塚家のそれは波乱万丈だったかもしれません。そんな赤塚家に当時、世間は冷やかな目を向けていました。けれども赤塚家の誰もが前を向いて明るく暮らしていく様子から、読者はエネルギーを感じられるはずです。

本書を読み進めるにつれて、「小さな世界での価値観」や「人目を気にすること」がいかに人生を寂しいものにさせているかがわかります。「ちょっと最近疲れているなあ」という方、日々の生活に息切れしつつある方など、本書を読めばきっと元気が出てくるはずです。



第284回 先生の偉大さ

私は手紙を書くことが好きです。メール全盛期になっても旅先では葉書を買います。文具店へ行けばおしゃれな便箋セットに目がありません。私の机の引き出しを開けると、これまで買いためたカードや便箋、記念切手などが所狭しと収納されています。

幼いころから手紙で近況報告をしてきたことが幸いし、今でも懐かしの先生方とお手紙のやりとりをしています。暑中見舞いや年賀状から先生方のお元気な様子をうかがうことができると、とても嬉しく思います。

長年そうした手紙の往復をしていると、お互いの文体にも変化が表れます。たとえば小学校時代にお世話になった先生の場合、その直後は「児童」と「先生」の関係です。私の文章も当時は拙く、先生からのお返事も「教員らしい」文章でした。

しかし、児童生徒であった私が大人になったころから、先生方の文は敬語に満ちたものとなってきたのです。私を一人の人間として見て下さり、それを文言で表してくださっていることがわかります。私からすれば先生はあくまでも一生私にとっては先生なのですが、こうして尊重して下さることを本当にありがたく思います。

手紙と言えば、先日、次のようなことを経験しました。とある講演を聞きにいったときのこと。その先生がお話なさったことに大変感銘を受け、お手紙を差し上げたのです。一人の聴衆としてお送りしたわけですのでお返事はまったく期待せず、むしろこちらの感想を読んでいただけるだけでも幸せと思っていました。

ところが投函して数日後にご丁寧なお返事を頂戴したのです。多忙な方でおられるにも関わらず、わざわざ時間を割いてお手紙を書いて下さったことに心からありがたく感じました。

もう一つは、高校時代に教えていただいた先生からのお葉書です。数週間前、私はとある高校の資料館を訪れる機会があり、そこに展示してあった記念誌を手に取りました。後ろの方に歴代教員名簿があり、何気なく眺めていると、高校時代にお世話になった先生のお名前があったのです。同姓同名の方はおそらく日本にはいらっしゃらないくらい、先生のお名前は非常に珍しいものです。先生はすでに定年退職なさっていたため、とりあえず母校気付でお手紙をお送りしたのでした。

少しすると先生からは毛筆で書かれたお返事が届きました。一卒業生のためにわざわざ美しい筆跡でお手紙を下さったのです。文面を拝見すると、先生は大学を卒業した直後、その高校で教鞭をとられていたそうです。

「先生」というのは何も直に教わっている間だけにとどまりません。こうして何年も何年も経った後、その先生の偉大さに気づかされることもあるのです。私も一人の教員として、どのように次世代と歩み続けるか考え続けたいと思っています。

(2016年11月21日)

【今週の一冊】
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「橋の形を読み解く」 エドワード・デニソン、イアン・スチュアート著、ガイアブックス、2012年

BBCワールドで放送通訳をしていたときのこと。ナローボートを貸し切り、イギリスの運河を家族で旅しました。イギリスは産業革命を機に貨物輸送用として運河とナローボートが発達しています。鉄道網が全国的に張り巡らされていることは有名ですが、イギリスの運河もずいぶん広範囲に広がっているのです。

私たちが運航したのはウェールズの北東にあるランゴレン運河でした。緑豊かな中、ゆっくりと進むナローボートで私たちはくつろぎました。食事は運河沿いのパブへ。そして夜はボートを係留させて小さな船内で体を休めます。日頃はなかなか味わえない「ゆっくりとした時の流れ」に身を任せることができました。

そのランゴレン運河にある有名な橋が「ポントカサステ水路橋」です。長さは300メートル強、そして高さは地面から何と40メートル近くもあります。穏やかに進むボートから眺める光景は実に美しいものでした。と同時に、高所恐怖症の私にとってはなかなかchallengingでもありましたね。懐かしい思い出です。

今回ご紹介する本のキーワードは「橋」。橋と言っても実に多様です。構造や用途も異なり、素材もさまざまです。本書は橋の歴史や建築学的なポイントが詳しく書かれており、カラー写真と豊富なイラストで分かりやすい一冊となっています。ページをめくるたびに、橋の奥深さ、美しさが視界に入ります。

ちなみにエッフェル塔で有名なギュスターヴ・エッフェルは橋も設計していました。山口県の錦帯橋は大洪水に耐えるためのデザインだそうです。一方、徳島県・祖谷渓谷の橋は「かずら橋」として有名です。こちらは有機材料の葛類で作られています。

鉄やコンクリートだけでなく、植物やレンガなど、橋の世界は実に奥深いものです。本書を機にこれからは「橋ウォッチング」が楽しめそうです。


第283回 電子辞書あそび

私の知り合いの先生で「携帯電話が苦手」という方がいらっしゃいます。このようなご時世ですので仕方なく持ち歩いてはいるものの、出先にまで電話やメールが追いかけてくるのが嫌なのだそうです。自宅から一歩出たら自分で物事を考えたい、だから何かを引きずられるようなことはしたくないのだとおっしゃっていました。

実は私も同感です。通訳業に携わっていながらいまだにスマートフォンも持たず、モバイルPCも購入していません。ここ数年は放送通訳業にほぼ特化しつつありますので、スタジオ内のPCで間に合っているのが大きな理由でもあります。携帯電話は昔ながらのガラケーですが、私にはこれで十分です。移動時間は私にとって書籍や資料を読んだり、あれこれ考え事をしたりする貴重な時間と今やなりつつあります。

ごくたまに移動中、何もすることがなくなるときがあります。新聞も本も読み終えてしまい、とりたてて仕事準備をする必要もないときなどです。そのようなとき、私は電子辞書を取り出してはもっぱら「遊んで」います。

中でも最近のお気に入りは「例文検索ボタン」の活用です。私が愛用する電子辞書のトップ画面は「複数辞書検索」で、そこには「例文検索」というボタンがあります。これは電子辞書内に搭載されている辞書すべてが検索の対象となります。キーワードを入れればその単語を使った例文が一気に網羅されるのです。

目下私が好んで表示するのは、オックスフォード英英辞典とロングマン英英辞典の例文です。英和辞典の例文も参考になるのですが、英英辞典の場合、学習者でもわかりやすいような英文が練られており、読み応えがあるのですね。

最近検索でハマったのは地名です。たとえばSaitamaと入れたところ、なんとロングマンではprefectureの例文としてSaitama prefectureがありました。ChibaもYokohamaもKawasakiも出ていないのに、なぜかSaitamaだけはあるのです。編集者はSaitamaにゆかりがあるのでしょうか。

これに味をしめて(?)、今度はサッカー・プレミアリーグのチーム名を入力してみました。するとイングランドのArsenalでは例文が24個もあったのです。辞書編者はきっとアーセナルの大ファンなのでしょうね。例文も"Arsenal rules OK"などのスローガンから、他チームとの試合結果を表す例文まで色々と出ています。おおむねアーセナルが「勝った」という前提の文章が見られますので、やはりこの部分を執筆した担当者はアーセナル好きだと推測できます。

かつて私は航空会社に勤めていたこともあり、それではと次に航空会社名を入れてみました。すでに日本から撤退しているギリシャの「オリンピック航空」や、数年前に「英国航空」から「ブリティッシュ・エアウェイズ」に社名変更をしたBAもロングマンには出ています。例文を読みながら「懐かしい~」とつい心の中で歓声をあげてしまいました。

ちなみにロングマンの場合、自動車会社のトヨタやホンダは出ています。メーカーでは日立、ソニー、韓国のサムスンもありました。自分のなじみのある固有名詞や単語を入力して例文を検索する。そしてその例文をきちんと読み、語義も確認することは、自分の興味にのっとった「楽しみながらの英語学習」になると私は感じています。

(2016年11月14日)

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「ビリービンとロシア絵本の黄金時代」 田中友子著、東京美術、2014年

みなさんは書店や図書館を日ごろ活用なさっていますか?「本の調達はもっぱらネット書店」「最近は電子書籍で読むことが多い」など、本との関わり方もここ数年で大幅に変わってきました。本は自分の知らない世界をもたらしてくれる「きっかけ」であり、「知識の扉」だと私は感じます。人それぞれ自分に合った方法で書物と一生お付き合いができればと思います。

以前の私は書店へ出かけても「チェックする棚」はたいてい決まっていました。雑誌コーナーでは最新のタイトルを確認し、あとは興味のある語学コーナーや文庫、新書の棚を見て必要なものを買って書店を後にしていたのです。一方、あまり足を踏み入れなかったのは理工系、法律、文化芸術のエリアでした。もちろん、時間があるときはそうしたところもくまなく見ていました。けれども日々の生活があわただしくなると、そこまで余裕が出なくなってしまったのですね。

ここ数か月は勤務先の大学図書館で本を借りることが増えました。良書がそろっており、コンパクトにまとまっていることから最近はヘビーユーザーです。学生たちのために司書のみなさんが厳選した書物が大学図書館には並びます。よって、棚の間を歩いていても飽きることがありません。

今回ご紹介するのは、そのような「ブラブラ図書館さんぽ」で見つけた一冊です。今月末にロシアの音楽をクラシックコンサートで聞く予定があることから、私の頭の中では「ロシア」と曲名「火の鳥」がキーワードとして常にありました。そのような状態のときというのは、物事もうまくアンテナに引っかかってくれるようです。

ビリービンは19世紀のサンクトペテルブルクに生まれた画家であり、ロシアの昔話絵本で一躍有名になりました。その絵のタッチはアールヌーボーを彷彿させるものであり、細部にまで美しさが施されています。ビリービン自身はロシアの政情不安を受けて一時期亡命し、のちに帰国したそうです。その理由は「金銭的理由」とも「愛国心」とも言われています。

本書はビリービンの絵本原画を始め、グラフィックデザインや舞台芸術の絵など、美しい作品がカラーで掲載されています。絵をじっくり見ると、当時のロシア文化や人々の暮らしぶりがわかります。ビリービンは北斎の浮世絵の影響も受けており、当時のジャポニスムや日露関係などを想像することもできます。

他文化を知るには活字だけの書物が手段とは限りません。こうした視覚的なものからも様々なことを私たちは知ることができるのですよね。


第282回 「身の丈に合う」ということ

大学卒業後に入社した航空会社では、本社研修が入社一年目の社員に課されました。アムステルダムの本社へ出向き、数日間にわたり世界各国から集まった社員と共に座学や現場研修を行います。幼いころオランダに暮らしていたこともあり、懐かしのアムステルダムへ行けるだけでもワクワクしましたね。

当時はバブル経済末期だったためか会社側の羽振りもよく、往復ともにビジネスクラスでした。それまでエコノミー以外に乗ったことがありませんでしたので、ビジネスクラスの食事の質やアメニティの豊かさなどに私は驚きました。特に座席は、私が座っても両側にビジネスバッグを置けるほどの幅です。これは実に快適だと思いました。

けれどもその時、強烈に思ったことがあります。もともと学生時代は貧乏旅行ばかりをしてきた身分です。「こうした豊かさが自分の『当たり前』になってはならない」と自分を制したのです。会社のお金で研修に行かせていただくわけですから、ここはしっかりと学んで帰国し、会社のお役にたてるようにならねばと思いました。また、「本当にビジネスクラスに乗りたいのなら、しっかり働いて自分のお金で乗ること」および「そうしたステータスにふさわしい人格を身につけること」を痛切に感じたのでした。

結局私はそれから1年も経たないうちに留学をめざして転職します。けれども「自分の身の丈に合う環境」については、その後も心の中に強く抱いていました。

一方、通訳者デビューをしてからも、グリーン車やビジネスクラス、ホテルのスイートルームなどを提供されたことがありました。思えばまだまだ日本経済が潤っていたのですよね。通訳業は頭脳労働ですので、仕事を依頼するエージェントさんも通訳者へ色々と心遣いをして下さったのだと思います。おかげで移動中に落ち着いて仕事の準備をしたり、ホテルでは資料を広げて読み込みをしたりと、業務に集中できる環境を提供されたのは本当にありがたかったです。

そうした感謝の気持ちを抱きつつも、それでもなお、自分には身に余るそうした環境に申し訳なさを覚えていたのです。その感覚は今でも私の中で大きく存在します。企業やよその方から素晴らしい環境をお受けすることにはありがたさを覚えつつも、自分でそうしたことを欲するならば、しっかり自分でお金を払おうと思い、今に至っています。

ところで先日、レンタカーを借りました。これまでも家族旅行でレンタカーを利用しており、いつも小ぶりの車を選んでいたのです。けれども子どもたちが大きくなったこともあり、少し大きめの車種を考えました。

今回選んだのは、現在我が家で乗っている車の新型バージョンです。その車は1年ほど前に全面刷新しており、街中でもずいぶん見かけるようになりました。同じ車種でもどのような変化が施されたのかずっと気になっていましたので、今回はこの車を選びました。

我が家の車より少しだけ大型になり、デザインもカッコよくなっています。中に乗り込むと、ハイブリッド車ならではのエコ関連表示があり、車のキーもボタン式。内装も洗練されており、ずいぶん進化していることがわかりました。音も格段に静かになり、スムーズに運転できます。技術の進歩に一家全員驚いたほどでした。

ではすぐに乗り換えたいかと言うと、これまたそうでもないのですよね。今乗っている車はあちこち擦り傷だらけで内装もくたびれています。でも愛着があり、私にとっては「身の丈に合った車」なのです。どうやら私は自分なりの「心地よさ」というものがあり、それに浸れれば幸せなのでしょう。

(2016年11月7日)

【今週の一冊】
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「重機の世界」 高石賢一著、東京書籍、2013年

毎日の生活を続けていると、スムーズに物事が運び、嬉しくなることがあります。かと思うと、何をやってもうまくいかず、嘆かわしく感じることも少なくありません。人間は機械ではないのですよね。照る日曇る日あるのが人生です。

先日のこと。いつも通る道を運転していると、突然渋滞に遭遇しました。普段であればスムーズに車が流れている通りです。いったい何が起きたのかとよくよく見ると、道路工事でした。片側通行になっていたのです。ちょうど夕方のラッシュ時に差し掛かっていたこともあり、なかなか車は前に進みません。

何かに直面した際、私はいつも「3つの選択肢」を頭の中に描きます。一つ目は「打開のために建設的な意見を考えること」です。不満を言うばかりでは前進できません。多少苦言を呈することになっても、それが改善につながるならば勇気をもって前向きな意見を述べるに限ると考えます。

2つめは「我慢すること」です。あえて意見を述べるほどでもなく、その事態が一期一会のようなものであるならば、何も言わずに我慢するに限ります。軋轢を生まず、その時だけ耐えれば何とかなるからです。

以上の二つが選べない場合、「その場を立ち去る」ということも考えます。どうしても耐えられなかったり、そこから離れたりすることが許されるならば、「立ち去る」という選択肢もありだと思うのです。人生は一回しかありませんので、あとは自分の心と体の反応次第ということになります。

話を交通渋滞に戻しましょう。この日私は3つの選択肢のうち「我慢する」を選びました。立ち去ることは前後に車がいたため難しかったからです。また、建設的意見として「工事は夜間にやるべし」などと工事関係者に言うのは、どう考えても無理ですし常識はずれです。裏道を探して渋滞から抜けるという選択もなかったため、「このままガマンしよう」と思ったのでした。

ところがそのおかげで、日頃見慣れない道路工事用機械をじっくりと見物できたのですね。よく見るとタイヤに溝の付いていない大きなローラー車が前後にゆっくりと動いては道路を固めています。近くにはショベルカーもあり、色々な「働く車」が控えています。「へえ~、こうして道路の工事が進むのね」と興味津々で見ていると、あっという間に時間が過ぎました。

今回ご紹介する一冊は、その時の経験がきっかけとなり入手したものです。著者の高石氏は重機の専門家で、都内でショップもお持ちです。本書はたくさんの働く車を紹介しています。サイズや機能、実際の作業現場での様子などが文章と写真で表されており、重機の世界がここまで奥深いのかと魅了されます。考えてみたら、私たちの住む家も、日頃使う道路も、乗っている電車なども、こうした工作機械が活動したからこそ機能しているのですよね。交通渋滞がきっかけで重機の世界を知ることができた、そんな一冊でした。



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プロフィール

柴原早苗

柴原 早苗さん
放送通訳者、獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。 アルク「English Journal」でBBC Newsを監修した後、現在はNHK「ニュースで英会話」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当中。 現在は通訳学校でも後進の指導にあたる。ESAC英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。 著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)。「放送通訳者・柴原早苗のブログ」を更新中。