INTERPRETATION

Vol.44 「世界に還元できる仕事を目指して」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

今回はフリーランスの会議通訳者、小根山麗子さんにお話しをお伺いしました。
英語を必死で勉強したのは身を守るため!?小学生の頃から未知なる物への好奇心が旺盛で科学者になるのが夢だったという小根山さんが通訳の道に進んだ理由など、何でも笑顔でお話して下さいました。

<プロフィール>
小根山 麗子さん Reiko Oneyama

上智大学外国語学部英語学科卒。大学在学中にカリフォルニア大学サンディエゴ校に交換留学、またNGO団体ピースボートに船内講義通訳者として参加。大手広告代理店に2年間就業した後、渡豪しクイーンズランド大学大学院通訳・翻訳修士課程を修める。帰国後、通訳学校と平行し外資企業の社内通訳として経験を積み、フリーランス通訳者となる。
小根山 麗子さん

Q.語学との出会いは何ですか? 

私は英語の「え」の字もないくらいの家庭で育ったんです。小学6年生の頃、旦那さんの仕事の関係でオーストラリアのメルボルンに住んでいた叔母を家族で訪ねたのが初めての海外経験でした。実はそこで衝撃的な経験をしたんですよ。今でも鮮明に覚えています。オーストラリアの空港で、何も知らない私は有料のカートを無理矢理引っ張り出そうとしていたんですね。そしたらいきなり、私の3倍くらいはあるかと思われる大きなオーストラリア人のおじさんが私につかつかと近寄ってきて(笑)、早口の英語で怒鳴るように何か話しかけてきたんです。その頃私は近所の英会話学校に通っていて、簡単な日常会話は習っていましたが、もちろん本場の英語が理解できるわけもなく、あんなに大きな人を見たのも始めてでしたし、誘拐されるんじゃないかと思って体がすくみました。本当に怖い思いをしたんですよ。後から考えてみると、彼は私に注意をしようとしてくれていただけなんですが、その時に思ったのが、「英語が話せないと自分の身が危ないかもしれない!」・・という、ある種の恐怖観念ですね(笑)。本当に強烈な異文化体験でした。もちろん、メルボルン滞在中には陽気なオーストラリア人の方との素敵な出会いもたくさんあって、プラスの経験もたくさんしました。その後日本に帰国してすぐ中学生になり英語の授業が始まったので、これはしっかり勉強しないと!と思い、英語はほぼ全て丸暗記しました。そうこうしているうちに、自然と英語が得意科目になってしまったんですよ(笑)。

Q.いつごろから英語を職業にしようと思うようになったんですか?

子供の頃、実は科学者になりたかったんです(笑)。宇宙人とか、未確認物体とか、宇宙科学にすごく憧れていて、NASAに入りたいとずっと思っていました。だから、英語はそのための手段として一生懸命勉強していました。そして勿論、物理・化学は高校3年間みっちり勉強したんですがどうしても理解できなかったんです。それで仕方なく諦め、私に残されているのは英語しかない!と、英語を極める道に進みました。

Q. 通訳という仕事をしていて、遣り甲斐を感じるのはどんな時ですか?

小根山 麗子さん

通訳者になって初めて、昔は分からなかった「有難う」という言葉の本当の価値というか重みが分かるようになりました。どんなにハードな仕事、準備が大変な仕事でも、終わった後に「有難う」とても聞きやすかったよ、分かりやすかったよ、と言ってもらえると、この仕事をして良かったな、と心の底から思えるんです。通訳はあくまで黒子ですが、自分の価値が認められた気がしてとても充実感が得られます。
また、「有難う」という言葉だけではなく、自分の通訳を聞いて熱心にノートを取って下さっていたり、頷いて下さる人を見るだけで、ちゃんと伝わっている事が分かりとても励まされます。逆に、自分の通訳を聞いて何となく腑に落ちないような顔をしてる人、首を傾げているような人などを見ると、あれ?・・・伝わっていないのかな、と心配になります。
特に人前に立って逐次通訳をする時は、お客様の表情や目を見てアイコンタクトを取るように心がけています。通訳は私にとって本当にやりがいのある仕事です。

Q. 今までのご経験で、記憶に残る失敗談はありますか?

毎回の仕事で何かしら失敗はありますので、終わった後は取ったノートを見直して、「ノートの取り方が全然ダメだな」とか、「この部分はもっと上手く訳せたはずなのに」とか、自分の中で反省会をします。そして次の仕事の時には立ち直るようにしています。性格的なものもありますが、嫌な事は一晩寝ると忘れちゃうんです(笑)。失敗を引きずっては次に進めませんからね。
ただ、以前してしまった失敗で、 自分が訳出した言葉のアクセントが可笑しくて、会場がどっと沸いてしまった事があります。もちろん意図的にそういう発音をした訳ではないんですが、、、。
父が転勤族だったので、昔から日本中を転々としていたせいか、各地のアクセントが混ざり合ってたまに変なアクセントが出てしまうんです(笑)。その時はそれをきっかけに会場が良い意味でなごんで、結果的にはプラスに終わりましたが、黒子である通訳の私が会場を沸かすのは決してあってはいけない事ですので、本当に焦りましたし反省しました。

Q. 小根山さんの息抜き方法、ご趣味を教えてください。小根山 麗子さん 

料理が好きで、特に大好きなお菓子作りをよくします。作るプロセスも大好きなんですが、何よりお菓子のレシピ本を読むのが好きです。特に洋書は写真・色合い、 テーブルセット等、見た目にとても綺麗なので、旅行に行くたびに買い集めています。一人の時でも大量に作って冷凍庫にストックしています。大好きなチョコレート系やマフィン、スコーン、チーズケーキが多いですね。
体を動かす事といったら、日本舞踊のお稽古をしています。祖母が日本舞踊の師範をしていましたので、昔から日舞は身近な存在でした。ただ、舞台に立とうと思うと色々と入用で・・(笑)。そういう意味で学生の頃は全く手が届かないお稽古事でしたが、社会人になって自分で収入を得られるようになってすぐに始めました。週2回はお稽古をするようにしているのですが、知れば知るほど日本文化は奥が深くて、毎回たくさんの発見と感動があります。日本舞踊はヨガと同じ有酸素運動でしっかり筋肉も使いますから、お稽古の後はかなりの爽快感がありますね。実は学生時代、ヒップホップなどの激しい無酸素運動をしていたんですが、いまは流石に体がついて行かないですね(笑)。

Q. 小根山さんの人生の師。 

私には人生の師と仰いでいる方が二人いて、一人が日本舞踊の先生です。私の祖母もそうだったんですが、強く・賢く・しなやかに生きる女性で、飴と鞭の使い方もとてもお上手なんです。私が女性としての人生のお手本にしている方です。
もう一人が、オーストラリアの大学院で通訳の勉強をしていた時に出会った先生です。現役通訳者として活躍しつつ教鞭をとっておられた日本人の女性で、プロとしての私の土台を築く上でとても大きな影響を受けた先生です。お子様もいらっしゃるのですが、母親業と、通訳業を完璧にかつ自然に両立させながら、世界を舞台にご活躍されている本当に素晴らしい方です。彼女が先生でなければ、2年間の厳しいトレーニングを続ける事は出来なかったと思うくらい、感謝と尊敬の念でいっぱいです。おこがましくも、いつか先生と同じブースに入れる日が来ればいいな、と常々思っています。

Q.小根山さんの夢はなんですか?

最近、公益に関わる仕事の重要性を感じ、自分が生かされてきたコミュニティーに何か還元できる仕事をしたいという気持ちが強くなってきました。また、恵まれた日本だけではなく、そうではない他の地域の人々の利益になるような分野にも積極的に携わっていきたいとも思っています。具体的には、将来の子供達・地球市民が生きやすい環境を作るという意味で、エネルギーや環境などの分野に関心があります。いつかはそういった分野の第一線で活躍できるくらいのスキルと経験を積んでいけたらと思っています。
私の恩師がメンバーとなっている団体に、AIIC(国際会議通訳者連盟)というヨーロッパの通訳者連盟があります。ここのメンバーとして認定されるためには、ヨーロッパにおける国連会議など国際的な通訳経験と、世界レベルの通訳者の招待状などが必要になります。これは本当にまだまだ夢のような話ですが、私も将来はAIICのメンバーになれるくらいにまで力量を高めていきたいと思っています。そのためにも、いまは目の前に課された課題、仕事を一つ一つ丁寧に取り組んでいくことが大事だと思っています 。

Q. 最後に、通訳者を目指している方へのアドバイスをお願いします。 

私も勉強中の身ですので、おこがましいのですが・・言葉に興味を持つ、言葉にこだわる事が大切だと思います。私が一番良くないと考える通訳は、語尾を曖昧に終わらせる事です。逆に言うと、英語から日本語に通訳する時に一番難しいのが、語尾をうまくきちんと納めることなんですね。英語と日本語では文の構造が異なり、英語は動詞が一番最初にくるので、動詞に続く内容に集中していると、ついつい動詞(日本語の述語部分)を忘れてしまうんです。ごまかす事は簡単ですけれどね(笑)。逆に言えば、主語にうまく対応する述語で纏めると本当にきれいにキュッと引き締まった日本語になります。ごまかさずにきれいな通訳をするためには、日々、日本語の文章を意識して読み、何か座りが悪かったり、まとまっていない文章があればそれを「自分だったらどう表現するか」と考える癖をつけることが大事だと思います。そうする事で基礎となる国語力も上がっていくと思いますし。
もう一つは、普段人と会話をする時の言葉選びや話し方にも気をつける、ということです。基本的に私の場合、通訳をする時と普段の会話とでは話し方が若干異なりますが、逐次通訳をする際に、しばしば普段の話し方の癖が出てしまうことがあります。とても難しい事ですが、普段から綺麗で相手に聞きやすい日本語を意識して話すように心がけています。

<編集後記>
小根山さんからのアドバイスにあった、きれいな聞きやすい日本語。私が毎日直面している課題です。通訳者の方でも課題にされるくらい難しい事なんだな・・・と改めて言語の奥深さを感じました。今回は朝のお時間を頂いてお話をお伺いしたんですが、明るくてパワフルで、とっても素敵な方で、ボイスレコーダーを聞き返したら私の笑い声ばっかり入ってました(笑)。失礼いたしました・・・。

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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