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マリコがゆく
覗いてみませんか?、あなたの知らない通訳者の世界。
普段、表では「語られないかも」しれない通訳の実態、 要望、ホンネ、ときどき不満を現役通訳者マリコがお届け。時に過激に、時に優雅に。通訳者マリコは今日もゆく!
 
 

同時通訳の標準的な交替時間は15分といわれますよね。

15分で交替しなければもたないほど、脳も身体も酷使する仕事なのです。同時通訳で、40代や50代で亡くなる方が多いと聞きましたが、「こんなことやってれば、無理ないよなあ」と思います。自分でも、「確実に寿命を縮めてるよぉ」と感じることがしばしば。

なので、同時通訳の場合には、たいてい2人の通訳が担当して交替しながらやりますよね。3時間以上の会議の場合は、3人の通訳で担当しますが、これはあくまでもきちんとした会議の場合。社内の場合は、1時間から2時間、ひとりで担当することは珍しくありません。

社内通訳の場合は、会議内容も大体分かっているので、ある程度は標準オーバーも可能です。それでも15分過ぎると疲れが出てきて、30分たつと「ああ、ここまできてまだ30分!」と嘆きモードに入ります。1時間でかなりよれよれ、2時間終わるころにはボロ雑巾。ただただ横になって頭を休めたいと思います。

それなのに!会社によっては、7時間とか8時間とか、ひとりでやらなければならないことも。50メートル走専門なのに、猛ダッシュのままフルマラソンをさせられるようなものです。もう「スイッチ入りっぱなし」状態になってしまいます。仕事が終わっても、アタマの中はフル通訳モード。だからテレビを見ても、全部片っ端からアタマの中で通訳。聞こえてくる会話も、全部通訳。うるさくて仕方がないので、音のないところに行って本を読もうとしても、今度は書いてあることを全部通訳。アタマの中の字幕が消えません

こうなると、1週間くらい休んでも、疲労がとれません。なんともいえない、あの独特な疲れ。「通訳過多症候群」とか、ちゃんと病名をつけていただいたほうがよいのでは?

そうすれば、お客さまもあまり無茶なリクエストはしなくなるんじゃないかと思うんです。通訳のことを「何時間使っても壊れない機材」のように思い込んでいるお客さまが多い中、どうやったら通訳界の常識をわかっていただけるかと頭を悩ませます。ためしにニュース番組のシャドーイングでもしていただいたら、ちょっとはわかってもらえるかしら?

「通訳の疲れを、あなたも体験!シャドーイングセミナー」とか、お客さま向けに企画してみましょうか?

 
 
 

結婚できなくなるから、やめたほうがいいですよ

その昔、わたしが通訳学校に通うと報告したところ、ある男性通訳さんがそうアドバイス(?)してくれました。その予言は的中し、今に至っております。あれって、もしかして呪いだったんじゃないかと思ってしまうこの頃です。

結婚していて通訳をしている方は多いのですが、「結婚後に通訳を始めた」パターンが大半のようです。逆に「通訳として働いた後で結婚した」という方は少数派ではないでしょうか。(もしこれを読んでいて、後者の方がいらしたら、負け犬通訳の希望のために、ぜひ名乗り出ていただきたいです!)

それもそのはず。通訳の生活って、仕事以外はひたすら勉強ですもんね。特に通訳デビューしたての頃なんかは、休日返上で資料と格闘してました。勉強しすぎて具合が悪くなったり、あまりの資料の膨大さに泣きながら勉強したり。そんなこともしょっちゅうありました。

近頃はそんなに根をつめて勉強していないので偉そうに言えませんが。それでもやっぱり、直接関係ないような本を読む時でさえ、語彙を増やしたいとか、理解の幅を広げたいという気持ちはあります。「すべての道はローマに通ず」ならぬ「すべての道は通訳に通ず」というところがありますよね。

あんまり勉強ばっかりしていると、「いっそ学者とかになるほうがいいのかしら?」と思ってしまうこともありました。でも、あれこれ気が多いわたしの場合は、やっぱり通訳のほうが向いてそうです。

通訳を続けるって、一生受験生のような生活をするっていうことなんですよね。本を読んだり、単語の整理をしたり。新聞で専門にしたいテーマの切り抜きをしたり、調べ物をしたり。そんなことをしていると遊びに行く時間が勉強の時間になってしまって。なんだか通訳のお仕事が増えると生活の色気のなさが一気に加速してしまうような・・・。

今となっては、自分に言ってあげたいです。

結婚できないから、やめたほうがいいよ


 
 
 

「ウィスパリング通訳の仕事のはずだったのに・・・」

ウィスパリング通訳って、ウィスパーっていうぐらいだから、「囁く」わけですよね、本来は

できるだけ小さい声でできるほうが、通訳としてはやりやすいですよね。自分の話す声が大きくなりすぎると、それが邪魔になって聴くほうに集中できなくなってしまいます。特に、ウィスパリングの場合、通訳にとってあまりいい環境じゃありません。通訳ブースなどと違って、ちゃんと音が聴きとれるようになっていないので、何十人もいるような会議だと、話し声などがすごく耳についてしまいます。

ウィスパリング通訳をする相手も1人だといいのですが、「2人必要なんで、2人にお願いします」なんていうことがよくあります。「1人も2人もおんなじでしょう?」って、きっとお客さまは思っているはず。でも、違いますよね。

2人いると、やっぱり通訳も音量を上げないといけません。そういう時はその2人になるべくくっついて座ってもらいますが、「ちゃんと伝わってるかな」と2人に対して気を配らないといけないので、集中力もその分そがれるわけです。ウィスパリング通訳もやることは同時通訳と同じですから、極度に集中力が要ります。だから、「そんなところで集中力はできるだけそがれたくない」というのが本音です。

その場での参加者へのウィスパリング通訳に加えて、「電話で参加する人も通訳が必要なんで、お願いします」ということもありますよね。電話だとやっぱり音量を上げないといけないので、できればこれもお断りしたいケースですが。なるべく電話にくっついて通訳して、なおかつその場の参加者にも近寄ってもらって・・・という形で乗り切ります。

でも、時々すごい状態になることがあります。電話での参加者のほか、その場で通訳が必要な外国人が7-8人わたしのまわりにわんさわんさとひしめきます。まるで、おしくらまんじゅうみたいです。こうなるとウィスパリング通訳とはもはやいえない状況・・・。立ち上がって、発言者に負けない大声で通訳する羽目に。

そうです、これはもう、シャウティング

 
 
見かけによらず濃いあなた
 

冗語って、何のことかわかりますか?

話をしているときに、「うーん、そうですねえ」とか、「えーと、まあねえ」とか、そんな言葉が入るでしょう?それが冗語です。情報や意味を持たないので、訳さなくてもいい言葉です。同時通訳をするときには、冗語があると「息継ぎ」ができてありがたいですよね。(なかには冗語しか発してくれないお客さまもいらっしゃるので、あまりにも間が持たないと仕方なく"Well,..."とか"Let me see..."とか訳しておきますが・・・。)

普通に話をするときは、「考える作業」と「話す作業」が並行しているので、冗語がよく出てきます。その分、情報密度は薄まっているわけですよね。これがプレゼンや書き言葉になると、よく練られてあるので当然ながら冗語は排除されてます。情報密度が濃いので、通訳しなきゃいけないことも増えるわけです。話をしている途中でいきなり書いたものを読み上げられたりすると、情報密度が急にグン!とあがって大変です。ホントに通訳泣かせだなと思ってしまいます。

女性は一般的に早口で、冗語も少ないことが多いです。ただ、言葉数は多くても、場合によっては話の情報密度はそれほど濃くないこともありますね。

対する男性陣は、「冗語の連発!」という方が多いものです。そんな中で、ひとり、とても印象に残っている男性がいます。ある会議で、ベンダー側の参加者のひとりが、手帳を見ながらよどみなく話していくんです。それが、冗語が一切なくて、全部情報なんです!見事なまでに、一語として無駄なものがないんですよ。ウィスパリングをしていたわたしは息切れしながらも、気になって仕方ありませんでした。「この人は、何者!?」

同じミーティングに参加していた人も、やはり彼に注目して観察していたそうですが、彼が見ていた手帳には「何も書いてなかった」んですって!何も見ないで、あんなによどみなく話していたわけですか・・・ちょっとその才能、私に分けてください!

 
 
そんな紙切れが、こんなにほしいの
 

通訳のみなさん、仕事のためにいちばん必要なものはなんですか?

紙とペンがなきゃ始まらないし、手元の水も手放せません。電子辞書だって持っていきたい。でも、なによりも、これがなきゃ始まらないもの・・・それはやっぱり、「資料」ですよね

通訳になる前、通訳エージェントでコーディネーターの仕事をしていました。仕事の度に通訳さんたちにしつこく資料を請求されるのに閉口して、「なんでこの人たちは、こんな紙切れがそんなにほしいのよ!?」なんて思ってしまうこともありました。

でも、自分が通訳になった今、よーくわかります。そうです、「そんな紙切れが、こんなにほしいの!!

だって、通訳って、言ってしまえば「部外者」なんですよね。その業界にとっても、会社にとっても「部外者」。いくら日本語だって、「内輪の話」なんてわからないですよね。たとえば、金融の仕事をしている人がいきなり医学学会に行ってもわけがわからないでしょう?内部の人にはわかりきった当たり前のことでも、外部の人には「なに、それ?」の世界です

少しでも内部の人の考えがわかるためには、資料の助けが必要なのです。資料なしで仕事に臨むのは、地図なしで大海原を漕ぎ出すようなものだと思います。同じ実力の通訳がいたとしても、資料のあるなしでパフォーマンスにはものすごく差が出てしまいますよね。資料がある通訳が100点満点の仕事ができたとすると、資料がない通訳は30点くらいになりかねません。実力が発揮できない上に、下手な通訳だと思われてしまう、そのストレス。「あ~、もう!資料さえあれば!!」そんな思いを一度ならずされた方も多いでしょう。

まりこ

単発の仕事のときだけでなく、社内通訳も、最初は資料との格闘です。慣れてくると、「この人に頼めばこの資料がもらえる」ということがわかってきます。いくら仕事に慣れても、違う部門の人が入ってきたり、新しい内容だったりすると、どんなサプライズがあるかわかりません。その場で困ることがないように、しつこーく資料をお願いします。「くださいね、絶対事前にくださいね!!」

でも、それだけしつこく頼んでも、「何もないんですよー」と言われて当日現場に行ってみれば、配布資料がどっちゃり・・・。悲しいことに、これもまたよくある事態です。そんな瞬間に、「聞いてないよー!」と暴れたくなるのは、きっとわたしだけではないはず・・・ですよね?


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プロフィール

寺田真理子

寺田 真理子さん
幼少時から中学までを、メキシコ、コロンビア、ベネズエラにて過ごす。東京大学法学部卒業後、国際会議コーディネーターを経て、通翻訳者デビュー。その後、数社にてインハウス通翻訳を経験し、2004年にフリーランス通翻訳者として独立。出版翻訳も手がける。