INTERPRETATION

盛り上げ上手なアメリカ人

木内 裕也

Written from the mitten

 昨年の秋には日本のあるプロスポーツリーグの代表がアメリカを訪問して、どのように地元密着型のプロチームを作るのか、そしてどう魅力あるイベントを生み出すのかを調査していたことがありました。私はそこに通訳者として参加をしたのですが、アメリカ社会はちょっとしたイベントでも盛り上げるのが非常に上手です。またそこに参加する人々も、冷めた目で見つめるのではなく気軽に一緒に盛り上がって楽しんでいます。

 約2週間前のことになりますが、午後2時にキックオフの大学リーグの試合で審判をすることになっていました。全国サッカー3部リーグなのでそれほどのレベルの試合というわけではありません。通常なら30人も観客が集まればいいほう。そのほとんどは選手のガールフレンドやルームメイトです。しかしその試合当日の朝に連絡を受け、試合の開始時間が午後7時になり、会場も大学近くの公園にあるサッカー場に変更になったとのこと。新しいキックオフ時間に合わせて会場入りしてみると、担当者から「コミュニティーイベントとしてサッカーを使って、もっと大学と地元の密着をしようと思ったんです」と説明を受けました。実際に試合開始時間になると1000人を超す観客が集まりました。試合前に観客に配られた試合パンフレットの1つには選手のサイン入りのものがあったようで、それを見事に手にした人にはTシャツのプレゼントがあったり、入場券の番号による抽選会が行われたり、またハーフタイムにはゴールにつるされた人形を的にしたゲームが子供向けに行われたりしていました。大学リーグとして考えると質の高いプレーがあるわけではありませんが、コミュニティーイベントとして考えれば非常に良いイベントでした。残念ながら地元チームがオハイオ州のチームに負けてしまい、ファンは少し残念そうでしたが、それでも楽しい2時間を過ごしたようでした。ちなみに私はオハイオ州の監督を試合中に退席処分にしたので、敗戦ではあっても地元ファンは気軽に声を掛けてくれました。

 今はオハイオ州のシンシナチにて行われている学会に来ています。ここでも色々なイベントが行われています。学会というと真面目な雰囲気を想像し、実際に会議中は非常に真面目に議論が交わされます。しかしBook Exhibitと呼ばれるような出版社と研究者が情報交換を行ったり、書籍の割引購入が行われる場所ではシャンパンが振舞われたり、やはりちょっとしたプレゼントを用意したイベントがあったり、何かと工夫があります。

 地元の運動会に人が集まらず、地域のイベントがキャンセルになるなどということを良く耳にする日本の様子とはかなり違うと言えます。この差異には歴史的な背景も、地域居住者の特徴もあるでしょう。何世代にもわたって同じ場所に住んでいる場合には、わざわざ意図的にコミュニティーイベントを行わなくても、コミュニケーションが行われます。逆に国内だけではなく海外から頻繁に新しい居住者が来る場合には、それなりの意思疎通を意図的に行う必要があります。前者の場合はある程度の信頼関係を用意に築けるのに対し、後者では「一緒に楽しむ」背景には相手が信頼に値するか試すという目的もあると推測できます。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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