INTERPRETATION

「お客さん」の日米比較

木内 裕也

Written from the mitten

 年末年始に2週間程度日本に戻ることができました。日本に一時帰国するたびに感じるのは、お客さんと店員の関係が日本とアメリカでは大きく違うことです。去年の春に母がアメリカを訪れ、その時の経験を元に「日本ではお客さんが神様だけど、アメリカではお客さんと店員さんが対等だ」と言っていました。これは日米差を非常に的確に示しているでしょう。母がミシガンに来たとき、2人で近所のコーヒー屋に行きました。そこでは私と携帯メールをしたり、一緒に食事に行ったりするKeeganという名前の仲のいい店長が働いていました。日本のスターバックスを想像するとイメージがわくでしょう。コーヒーを注文し、少しは離れたところでミルクや砂糖を好みに合わせて入れます。丁度ミルクが切れていたようで、Keeganは私に向って、「このミルク、あそこのカウンターにおいてくれる?」と頼みました。きっとどのお客さんにもその様に頼むことはないでしょうが、毎日そのコーヒー屋に行くとはいえ、日本ではお客さんにその様なことを頼むことはないでしょう。英語を解さない母ですが、すぐに状況をつかんだようでお店を出るや否や、「日本じゃありえないね」と言っていました。

 日本ではお客さんへの接し方が全く違います。マニュアル化され、無表情で対応されることが気になることもありますが、基本的には一定レベルのサービスを期待することができますし、それが裏切られることは数少ないです。個人的にはもう少し丁寧さにかけても人間味のある接客があればより素晴らしいとは思うのですが。ただ、何よりも気になるのはお客さんのぶっきらぼうさでもあります。

 例えばコンビニエンスストアーでは、無言で商品をカウンターに置き、無言でお金を払い、無言でお店を出ます。カウンターの逆側にあるタバコや、店員さんにとってもらわなければいけないおでんやから揚げと言った商品を注文する際に、「アメリカンドッグ1つ」というだけで、「ください」とも「お願いします」とも言いません。もちろんとってもらったあとの「ありがとうございます」もありません。これはコンビニだけではなく、近所のスーパーであっても、都内のデパートであっても一緒です。また電車が少し遅延してストレスが溜まるとはいえ、何の責任もない駅員さんに文句を言ったり、怒鳴るのもよく目にします。もちろん海外でも飛行機のフライトが遅れれば文句を言っている人がいます。しかし言われている人が「私の責任ではありませんから、どうしようもありません。」と言い返せる欧米では状況が違います。「お金を払っているのだから」とはいっても、それは受け取る商品やサービスに対する対価でしかなく、店員さんなど相手より上の立場に立つ対価ではないはずです。

 日米のちょっとした違いですが、日常生活の中で何度も目にすると、やや気になり始めるエピソードでした。

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記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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