INTERPRETATION

「大学の安全管理」

木内 裕也

Written from the mitten

今年の4月にはヴァージニア工科大学で40人以上の犠牲者を出す乱射事件が発生し、今度はデラウエア州立大学で発砲事件がありました。このように、大学のキャンパスで事件や事故が発生した場合、アメリカでは日本よりも危機管理が重要です。これはアメリカだと銃犯罪が多いからではありません。その理由は、アメリカの学生の大半がキャンパスに住んでいるからです。言い換えれば、日本の学生の多くは、授業の始まる数十分前から、授業やサークル活動が終るまでしかキャンパスにいません。しかし、アメリカの場合、24時間学生がキャンパスにいるのです。デラウエア州立大学の学生数は2000人にも満たないですが、私がいるミシガン州立大学だと、45,000人以上の学生がいます。その全員がキャンパスに住んでいるわけではありませんが、家族とキャンパス内の寮に住んでいる人もいますから、数万人がキャンパス内にいることになります。

 従って、夜であっても何か問題が発生すれば、大学は学生の安全に責任があります。デラウエア州立大学の事件では、発砲が起きたのは午前1時。まだ中間テストまでは数週間ありますし、多くの学生が街に繰り出す木曜日の夜でしたから(真面目に図書館にいた学生も、数名はいるでしょうが)、必ずしも殆どの学生が寝室で寝ていたわけではありません。学生の身を守ることが、非常に重要になるのです。

 しかしキャンパスの多くは非常に大きいですから、入り口に守衛室を設けるだけでは不十分です。そこで、Campus Policeと呼ばれる警察の出番です。キャンパスポリスは、普通の警察官と何も変りません。管轄がキャンパス内というだけの違いです。ですから銃も携帯していますし、パトカーだけでなく、装甲車のような車もあります。キャンパス内の道路で速度違反や駐車違反をしていれば、一般道と同じようにつかまります。数ヶ月前の投稿に書いたとおり、誰かが部屋に入り込もうとするなど、何か問題があれば通報できます。そうすると、すぐに駆けつけてくれます。また夜遅くまで勉強をしていて、一人で夜道を帰らなければいけない場合などは、エスコートサービスもしてくれます。

 キャンパス内には、沢山の安全電話も設置されています。夜のキャンパスを歩くと、100メートル間隔くらいで、赤い光を放つポールが目立ちます。そこには、受話器を上げれば警察につながる電話が設置されていて、特に夜間の安全を監視してます。

 メディアも色々な形で使用されています。大雪で休講になるときから、今回のような事件が発生したときまで、各学校のホームページにはニュース速報が掲載されます。また、大学の寮にはケーブルテレビがありますから、そこに情報が流されることもあります。また、最近では携帯の番号を登録しておくと、自動的にEメールが届く(こちらの携帯は、番号がアドレス代わりです)サービスもあります。実際、数週間前に新学年が始まって、学生に対して番号の登録を勧める手紙が送られていました。もちろん、そんな時には警察官もキャンパス内をいつも以上に警戒して回ります。

 ここのところ、大学構内での事件がつづいて、どうも危険なイメージが先行しがちではありますが、実際にはこのような対策もとられています。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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