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Written from the mitten

木内裕也さんのアメリカレポート。2005年春-2006年夏まで、Hubbub from the Hubのニックネームで通翻訳者リレーブログを担当して頂きました。2009年5月にミシガン州立大学(MSU)博士課程を修了、博士号を取得された木内さんから見た、現地での生活やハプニング、大学のことなど、アメリカの今を発信します。 通訳・翻訳の話をまじえながら、幅広いテーマに沿ったレポート、毎週月曜日更新です!どうぞお楽しみに!

Football Scholars Forum

 ミシガン州立大学の友人と一緒に、昨年末にFootball Scholars Forumという組織を立ち上げました(インターネットのサイトも立ち上げました。http://scholars.footy-forum.net/)。これは大学院生や教職員でサッカー好きの人が集まり、ブッククラブのような形式で月に1度集まるものです。毎月「今月の本」を指定し(もちろんサッカーに関する学術書です)、それを集会までに読みます。筆者や世界中でリサーチをしている研究仲間もインターネット上の会議システムで結んで、90分(サッカーの1試合の長さ)に渡ってディスカッションを行います。1月に第1回を行い、5月の第5回の会議まで、無事に終了しました。

 第1回目は、ロシアのサッカー事情を社会情勢と結びつけた本がテーマでした。それ以降、南米に関する本、ヨーロッパに関する本などを読み、5月にはFSFのメンバーであるPeter Alegiという歴史学者の最新書籍を読みました。これはアフリカのサッカーに関する本で、丁度1週間ちょっとに迫ったワールドカップに合う内容でした。African Soccerscapesという本で、Ohio University Pressが出版しました。

 AdobeやSkypeのオンライン会議システムを使うことで、Peterはアフリカで研究を継続中でしたし、他のメンバーはカナダにいたりしましたが、問題なくFSFの会議を行うことが出来ました。1度は全員がオンラインで会議に参加し、会議室を利用せずにディスカッションを行いました。

 非常に興味深いのは、立ち上げメンバーの5名の全員が外国人(イタリア人、イギリス人、ロシア人、メキシコ人、そして私)で、今では10数名のメンバーがいますが、アメリカ人は2名か3名しかいないことです。2022年のワールドカップをアメリカで開催しようという動きもあるのですが、1994年のW杯後も相変わらずサッカー人気は高まりません。ユース年代のサッカー人口は非常に多いのですが、どうしても他のスポーツに負けてしまう現状が、FSFに参加している人を見ても分かります。

 もうすぐワールドカップが始まります。FSFのメンバーは大学が夏休みのために自分たちの研究でキャンパスにいないことが多いですが、ミシガンにいる仲間だけでも、観戦の予定を立てています。アメリカでは午前7時にスタートする試合もあるので、「仕事を終えてからバーに繰り出してサッカー観戦」というわけには行きませんが、4年に1度の楽しい1ヶ月になりそうです。


地ビール

 日本でも地ビールが流行したり、デパートの催事場で特別企画が行われることがあります。アメリカでも同じようにバドワイザー(今はベルギーの会社に買収されましたが)やミラーなどの全国ブランドや、サム・アダムスなど地域性はあるもののやはり全国的に展開しているブランドだけではなく、地ビールの人気もあります。特に地元産業を盛んにしよう、という流れを受け、様々なイベントが行われます。特に今の時期は次第にビールを美味しいと感じる時期ということもあり、そんなイベントが多く行われます。

 ミシガン州はそれほどビールの産地というイメージがありません。しかしMichigan Brewing Company(一般にMBCと略されます)という大きなブランドがあります。それ以外にもデトロイト近郊には比較的大きいビール工場があります。またMicro brewと呼ばれる本当に規模の小さいビールブランドも多くあり、例えば私の住んでいるEast Lansing市にはHarper’sというバーがあるのですが、そこでは独自のビールを展開しています。MBCも専門のバーがあって、工場見学や試飲だけではなく、普通に食事をすることもできます。また友人が夏のインターンをするためにミシガン州西部のHollandという街に引越しをしました。週末に遊びに行くことが多いのですが、Holland市にも同じようなMicro breweryがあって、人気を博しています。

 この様なMicro breweryに行くと、ある程度のビールの知識がつきます。また、「こんな感じのビールがすきなんだけど」といえば、そのBreweryにたくさんある種類の中から、特に口に合いそうなブランドを出してくれます。日本でもラガーやドライといった表現は耳にしますが、Pale ale、hefeweisen、Pilsner、Porter、Stoutといったなかなか聞きなれない言葉も出てきます。「Hopsの味が強いビールは苦手」とか「Sweetなビールが好き」といった風な言い方もできます。

 またHollandのMicro breweryでは常連客になって1年間に40ドルの会費を払うと、Mug Clubという会に入ることが出来ます。そうすると名前入りの特製マイグラスをバーにおいておくことができます。1杯(約470ml)につき1ドル引きになるので、1年間に40杯飲めば元が取れる計算になります。私の場合は夏の間に住む友人に会うために、そこのバーに週末に1度行くか行かないかないので、3ヶ月で40杯も飲めませんが。

 以前に少し紹介したこともありますが、バーで必須の表現もあります。カウンターでビールを注文しながら、Can I keep it open?と言えば、最後に清算するから1杯ごとの支払いはしない、ということ。常連ならすぐにOKになりますし、そうでなくてもクレジットカードを預ければOKです。Can I keep the tab open?と言うのがもちろん正しいですが、The tabと言わなくても、itで十分分かってもらえます。逆に1杯で支払いたい場合は、I’m going to close it.とかYou can close it.と言えば十分。最後に清算する場合は、Can I cash out?といえばOKです。Can you put ESPN on that TV?「あのテレビでESPN(アメリカのスポーツチャンネル)が見たいんだけど」という風なリクエストも可能です。特にスポーツバーには、自宅でケーブルの特別パッケージを視聴していない人がお気に入りチームを応援する為に集まることがあります。そうすると、事前にどこのバーではどのケーブルチャンネルが見られるかを確認し、試合の開始前に向うことになります。私も自宅では一番安いケーブルパッケージを契約しているので、ヨーロッパのサッカーを見たい場合には友人を誘って近所のバーに向かい、Can you put FSC?とお願いします(今ではお願いする前にチャンネルを換えてくれますが)。


出版プロジェクト

 大学で教えていると、Publish or Perishという表現を耳にすることがよくあります。一般的に、大学の教員は授業を教えているのがメインの仕事というイメージが強いですが、実際には例えば私の契約書を見ても、授業を教えることは契約の25%の内容でしかありません。研究を行い、その内容を発表したり論文として出版することが常に求められています。出版(Publish)をするか、研究の世界から身を引くか(Perish)するかという選択しかない、という意味でPublish or Perishといわれるのです。分野によって、学術誌に掲載される論文が評価される分野と、書籍がより評価の対象となる分野とあります。私の分野では定期的に学術誌で研究内容を発表することも重要ですが、書籍を出版することの重要性が非常に大きいです。多くの新しい研究者にとっては、博士論文を書籍化することが最初のステップです。

 博士論文は書籍化するのに十分な長さ(単語数)があるのが一般的ですが、様々な編修作業が求められます。This book is very dissertation-like.(この本は博士論文のようだ)という形容を耳にすることがありますが、これは決して望ましいことではありません。博士論文を書いているときには、指導教員たちに対して十分なリサーチをしたことや、その分野の過去の文献に精通していることを示す必要がありますから、書籍では必要ではないLiterature Reviewといったことが必要になります。しかし書籍ではその必要はありません。場合によってはこのReviewを完全にカットして出版する、ということもあるほどです。

 私も自らの博士論文を出版しようとしている真っ最中です。出版社にも色々あり、Trade PressやPopular Pressと呼ばれる一般書籍も出す出版社と、Academic PressやUniversity Pressという学術書専門の出版社があります。前者のほうが一般的な読者の目に止まる可能性がありますが、後者のほうがより格調高いとされております。University Pressの中でも、Harvard U.P.やOxford U.P.のように非常に有名なところから、それほどでないところまで様々。1冊目の学術書をこれらの出版社で出版できることはまずありません。私もHarvard やOxfordから1ランク下がる出版社と連絡を取り合いました。

 まずは600ページ程度の博士論文を2ページに要約したAbstract、目次、サンプルの章などを担当者に送ります。そこでOKが出て、Full Manuscript Reviewに進むだけでも一苦労。Full reviewでは論文のすべてを送り、出版社が2名のReviewに論文を送り、出版の価値があるかどうかの判断が行われます。私もFull review用の論文を先日郵便で送りました。数ヶ月して返事が届くはずですが、OKの判断が出れば、Reviewerのアドバイスに従って一層の編集作業が求めされます。最終的に本が出るのは早くても2年後くらいでしょうか。Trade Pressであれば1年も掛からずに出版されることもあるのですが。

 このReviewが行われている間にも、次のプロジェクトの構想を練らなければなりません。1冊目の出版がなされると、その後は比較的容易とも聞きますが、必ずしもそうとは限りませんから、早めに出版プロジェクトはアイデアを練ることが重要です。


カジュアル表現

 何週間に1度、アメリカでよく耳にするカジュアルな表現や、様々な英語表現をご紹介しています。今週もその1つとして、日本で学ぶことの少ない表現をいくつかご紹介します。どれも当たり前のように使われる表現ですが、教科書には出てくることが少ないものです。

<Toss/Pitch>
Tossはバレーボールのトス、Pitchは野球のピッチャーで使う動詞ですが、どれも「ゴミ箱に捨てる」という意味を持っています。「これ、どうする?」とメモ書きを指差して友人に聞くと、You can toss that.とかYou can pitch that.という風に答えが返ってくるでしょう。You can throw that away.もよく耳にしますが、それよりもカジュアルです。You can discard itという表現はまず聞きませんね。

<Deadbeat>
そもそもは無責任な親のことを指す表現でしたが、それが転じて職を持たず飲酒運転で免許停止になってガールフレンドに運転してもらうボーイフレンド、というイメージの表現で今は使われています。一般的には冗談として、ガールフレンドの運転で買い物に行ったり、ガールフレンドがどこかに迎えに来てくれたという場合に、友達がDeadbeatと言ってからかう、ということがあります。

<Blow>
「夜1時まで仕事をして、朝5時に起きるのはIt blows!」という風に使われます。「つらい」という意味と、It sucks!という意味の混ざった表現ですね。You blew it!と言えば、「せっかくの機会を台無しにした!」という意味です。Blowなどの基本的な動詞こそ、色々な意味があって、使いこなすのは難しいですね。頑張れよ!というニュアンスで、Don’t blow it!と冗談めかして言うことも出来ます。

<Egg>
Eggと耳にすると、「卵」しか思い浮かびませんよね。私も数日前までそうでした。しかし友人がI sort of egged you on it.と言うのを聞いて、はじめてEgg onという表現に触れました。これはEncourageとかInciteという意味のフレーズです。プラスの意味より、マイナスの意味で使われることのほうが多いようです。例文としてはThey egged him on when he started arguing with his friend.が考えられますね。

<Complimentary/Complementary>
これは日本でも学ぶ形容詞ですが、ネイティブスピーカーでも混同します。ComplementaryはCompleteさせるので、補完的な、という意味です。Complimentaryは無料という意味。Complementary medicineは他の薬と一緒に飲んで効き目がでるもの。Complementary medicineは無料でサンプルとしてもらう薬です。


ボストンマラソン

 今年もボストンマラソンに参加してきました。4月の第3月曜日がマラソンの日。例年通り、ランナーとしてではなく、赤十字の医療チームとしての参加です。毎年数万人の登録ランナーと、それと同じ位の数のランナー(公式な参加ではなく、趣味がてら走る人々)がボストン市内のゴールをめがけて走ります。私は現地に2日前に入りました。ボストンへは通訳などの仕事で年に6回は少なくても向うのですが、いつも仕事でなかなか友人とあったりする機会がありません。今回はマラソン当日以外の予定は何もありませんでしたから、ボストンに住んでいた当時の友人と食事に行ったりすることができました。

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 マラソンの当日は朝の6時に集合です。写真はその朝の会議の様子です。ボストン郊外にある集合場所で、医療チームと無線チームが落ち合います。42キロのコースには20を超える医療テントが設けられ、それぞれに番号がついています。私のテントはStation 6。私を含め5名の医療スタッフと、3名の無線スタッフが割り当てられました。無線スタッフは救急車を要請したり、テントとテントの間で処置の必要な場合に医療スタッフと現場に向って逐一テントと連絡を取り続ける役目を果たします。

 2004年のマラソンは気温が非常に上がり、脱水症状になる人が後を立ちませんでした。その翌年は前年の教訓を踏まえてたくさんの水を飲んだランナーが、逆に血を薄めてしまってテントに担ぎ込まれることが発生しました。今年も同じような通達があり、血の中の塩分が低下してしまうことによる危険性が強調されていました。

 今年のマラソンのコンディションは決して悪くはなかったと思いますが、医療テントは大盛況でした。レースが始まって早い段階で1人のランナーがふくらはぎの痛みを理由にテントを訪れ、そこでリタイアしたのを決めました。Station 6は11マイル(レースの折り返し地点の少し前)でしたから、いつもはそれほどリタイアする選手は多くありません。しかしそれを皮切りに、10名近くのランナーが私のいたテントでリタイアを決めました。また喘息持ちのランナーはテントに入るなり「息ができない」と訴え、意識を失いかけました。すでに携帯用の吸入器を5回も使用したと言うことでした。すぐに酸素を与え、血中酸素は90%台前半を低迷しました。マラソンは市街地を閉鎖して行うので、救急車を要請してもすぐには来ません。従ってテントで働く救命スタッフは、患者の容態が30分後にどうなるかを考えて救急車の要請を考える必要があります。今回のランナーはどう考えてもテントでできる処置で容態が好転するとは考えられなかったため、すぐに救急車を要請しました。それでも、救急車が現地に到着できたのは45分後。その間、2人の救命スタッフが付きっ切りで対応しました。それでも他のランナーはどんどんとテントに入ってきます。救急車が到着する数分前には、この喘息持ちのランナーに加えて、7名のランナーがリタイアを決めてテント内で治療を受けていました。

 例年通り多くのランナーが途中棄権したり、救急車で病院に運ばれたりしましたが、最終的には大きな事故もなかったようです。私の友人もミシガンから数名参加していましたが、皆無事にゴールにたどり着いたとのこと。来年の参加がまた楽しみです。



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プロフィール

木内裕也

木内 裕也さん
フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。