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Written from the mitten

木内裕也さんのアメリカレポート。2005年春-2006年夏まで、Hubbub from the Hubのニックネームで通翻訳者リレーブログを担当して頂きました。2009年5月にミシガン州立大学(MSU)博士課程を修了、博士号を取得された木内さんから見た、現地での生活やハプニング、大学のことなど、アメリカの今を発信します。 通訳・翻訳の話をまじえながら、幅広いテーマに沿ったレポート、毎週月曜日更新です!どうぞお楽しみに!

アイスホッケー

 いつもはサッカーばかりの私で、アメリカでメジャーな野球、バスケットボール、フットボールなどには非常に疎い私ですが、先日アイスホッケーの試合を観戦する機会がありました。2003年に1度だけ大学リーグの試合をボストンで観戦したことがあるだけで、ミシガン州にはNHL(アイスホッケーのプロリーグ)のチームがあるのですが、観にいったことは一度もありません。しかし先日、友人の従妹がプレーするチームがミシガン州の州大会に進出しました。私の友人、彼女の両親、従妹の両親など総勢10名で金曜日から日曜日まで、合計5試合を応援しました。選手たちの多くは17歳、18歳の女子の高校生です。皆、ユニホームでないと普通の高校生にしか見えませんが、パッドやプロテクターの入ったユニホームを着るとがっしりとしたアイスホッケー選手に見えます。

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 金曜日の1試合は敗戦したものの、それ以外は全て順調に勝利し、最終的にはミシガン州のU-19(19歳以下)チャンピオンとして来月行われる全国大会に出場することになりました。この全国大会は偶然にもミシガンで行われるため、また私も観戦に行くことになるでしょう。昨年もミシガン州のチャンピオンになったのですが、主力選手がチームを離れた為に、今年はそれほどよい成績を残せない、と思っていたらしく、喜びも一層のようでした。ただ私の友人の従妹本人は、まさか全国大会に出場するとは思わず、カリフォルニア州に友人と遊びに行く予定をすでに立てていたらしく、嬉しい誤算、といったところのようです。

 アイスホッケーはチーム対戦型であり、ゴールに1つのパック(ボール)を入れることを目的とする点では非常にサッカーと似ていると言う感じを受けました。選手の数が少なく、リンク(フィールド)のサイズも小さいという違いはありますが、戦術的には似ているところがあるようです。アイスホッケーでは相手選手に体当たりすることを「チェックする」と言いますが、女子の試合ではこのチェックがルールで許されていないとのこと。とはいっても、ちょっと熱くなった選手が相手にチェックをしてファールをとられるシーンが複数ありました。

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 今の時期のアメリカはアイスホッケーとバスケットボールがTVでも視聴率を集めます。大学のキャンパスでも大学リーグが盛んに行われている時期です。面白いことに多くのスポーツはプロリーグも大学リーグも人気ですが、野球は大学リーグの人気がいまいち。逆にプロリーグが圧倒的な人気です。今は春季キャンプ中ですが、すでにシーズンの展開の予想などがあちらこちらで聞こえてきます。アメリカとスポーツは切っても切り離せない関係にあると感じる瞬間です。


春休み

 アメリカの大学は次第に春休みの時期です。地域によってややずれがありますし、高校や中学はもっと遅くに春休みですが、ミシガン州の大学の多くは2月末から3月の頭にかけて、1週間の休みがあります。私の教えているミシガン州立大学も今週が春休みです。先週は春休み直前の中間試験や、レポートの宿題が多くの授業で出されていたようで(私の授業でも同じでしたが)、学生たちの多くは春休み前のラストスパートという感じで頑張っていました。夜の9時ごろに図書館へ行く機会があったのですが、普段より多くの学生が勉強していました。

 教員にとって、学期の予定を立てる際、いつ試験や宿題を行うかは大きな悩みとなります。特に春休みや休日がある場合はなおさらです。例えば月・水・金に行われる授業を教えている場合(アメリカの大学の授業は月・水・金と火・木の2種類があります)、休みの始まる前日の金曜日に試験を行うと、「土曜日から休みだから、金曜日の授業は休講にしてくれるかな?」という学生の淡い期待を裏切るどころか、「なんで休みのぎりぎりまでこんなに勉強しないといけないの?」と思わせることになります。しかし休みの直後の月曜日に試験をすれば、春休みを学生は満喫することができません。春休みは丁度中間試験を行う時期に重なるので、毎年教員は悩むことになります。私は休みの前の月曜日にレポートの宿題の提出日としたので、それほど学生の負担は大きくなかったと思います。

 学生達の一部はフロリダなど、暖かい地域で春休みを過ごします。この時期は航空運賃が高くとなります。多くの学生は秋学期のうちからこの春休みの予定を立てて、お金を貯めています。また、安いモーテルに何人も一緒に止まったりして、節約しています。

 私は週の前半に友人と近場に旅行に行くことにしています。私はまだミシガン州の北のほうに行ったことがないので、その友人と一緒にMackinaw Cityという場所に一泊で向います。ただでさえまだ寒いミシガン州で、わざわざ北のほうへ向う必要も無いのですが、休暇でリラックスするのが目的です。1泊か2泊を予定しています。週の後半は仕事が入っているので(授業を教える必要がなくても、仕事は入ってくるものです)、ちょっとした休暇を楽しむ予定です。

 休みが終わると、学会シーズンです。通訳業界も春と秋が忙しいものですが、学会も同じです。3月下旬はニューオーリンズ、ダラス、セントルイスと続きます。4月にはボストンが2回ありますし、授業も学期末に向けてスピードアップします。同時に夏学期の授業の準備も必要です。この春休みがちょっとした息抜きとなりそうです。


冬季オリンピック

 約2週間にわたった行われていた2010年冬季オリンピックが閉幕しました。オリンピックを海外で経験するたびに思うことですが、自分の国の活躍をいかにして報道するか、他国の成績をどう伝えるか、自分の国が余り活躍しない競技の扱いをどうするかなど、面白い観察をすることができます。ここ数回のオリンピックはアメリカで観戦していますが、今回も非常に興味深い観察をすることができました。

 今回のオリンピックはカナダで行われていたということもあり、アメリカ対カナダの様子が非常に強く映し出されていました。特にアイスホッケーではカナダがトップの実力を持っていますが、アメリカのリーグは世界で一番ですから、お互いの意地が見えてきました。1度目に両国が対戦した際にはカナダ有利の予想に対してアメリカが勝利を収め、アメリカの国内では非常に大きな話題となりました。しかしその決勝戦では同じ対戦カードが見られ、延長戦の結果カナダが優勝しました(このブログを書いている数時間前の出来事です)。未だにアメリカではやや落胆の様子があります。

 またオリンピックでは普段目にすることのできない競技がTVで放映されることも非常に興味深いです。例えばカーリング。普段カーリングのTV中継はありませんが、オリンピック期間中は頻繁に放送されていました。そこでも面白いと感じたのは、にわかカーリングファンが私の教えている大学のキャンパスでも現れ、2週間超の期間でしたが、キャンパス内でカーリングが盛んに話題になっていました。

 オリンピックではドラマ性も非常に重要です。日本でも感動させる演出がテレビで行われますが、それはアメリカでも一緒です。特にフィギュアスケートの女子選手が競技数日前に母親を亡くし、国内の感動を呼んでいました。同様に、大会開始寸前に怪我をした選手が、悪天候の影響で競技が順延になり、それに助けられて金メダルを手にするなど、やはりドラマ性に大きな焦点が当てられていました。

 ショートトラックの競技では日系アメリカ人の選手がアメリカ人の冬季五輪記録となるメダル数を獲得しました。またアフリカ系アメリカ人のスケート選手を目にすることは非常に少ないのですが、今回の大会では1人その様な選手がいて、話題を集めていました。

 大会が終わると、テレビ番組も日本でいうと年末年始の特別編成の終わりのように、普段のスケジュールに戻ります。今回は時差の少ないオリンピックでしたが、それでも平日の夜に12時過ぎまで起きてTV観戦をするのは容易ではありません。少しは寝不足が来週からは解消されるでしょうか。

 次の大きな大会はサッカーのワールドカップ。なかなかアメリカでは人気のないサッカーですが、サッカー人口は決して少なくありません。わたくしもまだ大会は4ヶ月先ですが、すでに近所のバーでサッカー放送をする場所を確認してあります。また友人とも「絶対にこの試合は見逃せないね!」などと話をしています。


Valentine’s Day

 日本と変わらず、アメリカでもバレンタインデーは商業的要素が強くなっています。まだホワイトデーなるものが現れるほどではありませんが、宝石店や花屋、カードのお店などが盛んに広告を出していました。今週は約1週間遅れですが、そんなバレンタインの話です。

 日本ではバレンタインデーと呼ばれることが多いですが、正しくはValentine’s Day(もっと正しくはSt. Valentine’s Day)です。チョコレートを必ずしもプレゼントするという決まりはありませんが、チョコレートなどのちょっとしたお菓子をプレゼントすることは親から子供へ、夫婦の間で、恋人間などで行われます。しかし普段は500円のチョコレートが1,000円で売られ、2,000円を越すチョコレートが売られるということは普通ではありません。都市部へ行けば、有名なお店のチョコレートやトリュフが数十ドルで販売されていますが(例えばボストンには9つのトリュフ入りで45ドル〜、というお店があります)、これは一般向きではありません。私はバレンタインデーの2日前に友人の家に行く機会がありました。彼女は普段大学の近くに住んでいるので、実家に戻るのは月に1度か2度。そこでバレンタインでーには少し早いのですが、彼女の両親が彼女にバレンタインデーのプレゼントを渡していました。そこで渡していたのは、どこのお店でも3ドル程度で買えるチョコレートの大袋。バレンタイン用にピンクの包装がされていましたが、特別なところはないプレゼントです。It’s the thought that counts.(大切なのは気持ち)という言葉が良く聞かれますが、それを象徴するようでした。

 また金額という観点から考えると、日本のメディアから受けるイメージがやや偏っているのかもしれませんが、日本でのバレンタイン産業はアメリカのそれに比べ裾野が広いと感じます。言い換えれば、一般の人々も日本ではバレンタインに多くの出資をする、ということです。バレンタインデーの前日には「今年のバレンタインは30ドルは予算を取っておいたほうがいいですよ」とTVで話をしていました。もちろん、何かの記念の年であったりすれば宝石を買ってプレゼントしたりもしますが、近所のスーパーでちょっとした花束を買い、一緒に食事に行く、というだけのバレンタインを過ごす人が大半です。

 Valentineという言葉は、Be my Valentine.という風にも使われます。バレンタインデーは日本と同様に「好きな人と過ごす」日です。特に今年は日曜日でしたから、街中でバレンタインを楽しんでいる人々を見かけることがありました。このように「一緒にバレンタインを過ごす相手」をValentineと呼ぶのです。このように愛の告白をすることはないでしょうから、どちらかと言えば「一緒にバレンタインを過ごそうね」という約束であったり、「この人は私のことを好きかも」という状況で相手に伝える、というコンテキストで使われる表現です。

 また今年はバレンタインを控えた金曜日にValentine’s Dayという映画が公開され、スターがたくさん出演しているということで話題になっていました。特別素晴らしい映画、というわけではありませんでしたが(個人的な感想ですが)、この時期にあったCute movieという表現が合う映画でした。


大学の終身在職権

 日本でも話題になっているようですが、先日アラバマ大学の准教授による発砲事件がアメリカで発生しました。かつて高校や大学で発砲事件が発生したことはありましたが、多くの場合は学生や大学と関係のない人による事件で、教員によるケースはそれほど数が多くありませんでした。そのため、アメリカ社会というよりも、アメリカの大学など研究機関に属する人々の中で、この事件は多くの関心を集めています。

 この投稿を書いている段階では犯行の動機などははっきりしていませんが、容疑者である准教授が事件の前に終身在職権の審査段階でその権利を却下されていたことに理由があるのではないか、とされています。終身在職権は一般にTenureと呼ばれています。テニュアを与えられている教員をTenured Facultyと呼び、そうでない教員をUntenured facultyと呼びます。Untenuredの人の中にも2種類あり、Tenure TrackやTenure Streamと呼ばれるコースにいる人と、Non-Tenure Trackに属する人があります。基本的にはTenureを手にするには博士号を取得して研究機関で研究を始めてから約7年を要します。Tenureを手にする可能性があるものの、まだその7年間が経過していない人が、前者に当たります。逆にTenureを取得する可能性がゼロでありながら、研究機関で研究したり教えている人が後者です。今回の事件を起こした容疑者は、前者に当たります。Tenure Track Positionと呼ばれる、テニュアをもらえる可能性のあるポジションは非常に数が限られていますから、研究者全体から考えれば、ある意味で恵まれている環境にある研究者でした。

 テニュアをもらうには、Tenure Trackの教員として雇用されることが第1歩です。その後毎年か2年に1度の審査を繰り返し、十分な研究実績が認められれば、約7年後にTenureを手にすることができます。よく冗談半分で「Tenureをもらえれば好きな研究ができる」と言いますが、Tenureがもらえるまではとにかく成果を残すことが重要で、自分の好きな研究内容かどうかは2の次とされます。

 この審査はResearch(研究)、Publication(論文などの出版)、Service(委員会などでの活動)など4つから5つのカテゴリーが対象となります。私の所属しているミシガン州立大学もそうですが、大きな研究機関の場合は、学生からの評判が悪くても教員は研究者として雇用されていますから、研究成果があれば、授業の質はそれほど重要視されません。逆に小さな学校の場合は、研究成果がそれほどではなくても、学生のフィードバックが重要です。これらの内容を加味して、Tenure Committeeとよばれる委員会のメンバーが、教員に対してTenureを与えるかどうかを決めます。

 Tenureがもらえなければ、いつ職を失うかは分かりません。現在の私の場合もそうですが、基本的には1年間か2年間の契約ですから、例えば今年度末で契約をきられる可能性も十分にあります。3月末に来年度の契約交渉が始まりますが、その段階で「来年は必要ありません」と言われてしまえばそれまでです。従って博士号を取得したあとは、もちろん就職先を求めるのですが、tenureの可能性があるかどうかも大きな関心事です。

 最近は不況の煽りを受け、いつでも首を切ることのできるNon-tenureの教員採用が進んでいます。結果として教員の異動が増え、教えたり研究する代わりに職探しをするために教育の質が低下するなどの弊害も起きています。特に人文系ではその傾向が強く、問題視されています。しかし大学レベルの視点では高等教育機関がビジネスと化している今、その弊害がなかなか聞き入れられない現実があります。今回の発砲事件はその様な背景のある中に発生し、アメリカの多くの教育機関が抱える問題を浮き立たせていると言えるでしょう。



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プロフィール

木内裕也

木内 裕也さん
フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。