INTERPRETATION

なぜ英語をやるのか?

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 先日、あるセミナーでお話する機会がありました。来場者の大半が英語学習者という構成でした。最近は通学だけでなく、独学の学習手段もたくさんあります。書店でテキストを買ったりNHKの語学講座を視聴したりすることはもちろん、ネット上で英語を学べる無料サイトや携帯コンテンツなども充実しています。かつて生の英語といえばFEN(現AFN)、英語学習誌も数誌のみといった私の学習時代から比べると、実に隔世の感があります。

 今回のセミナーで私は「時間管理」と「モチベーション」を中心にお話しました。誰にとっても一日は24時間です。その限られた時間をどのように配分して自分の学習時間を捻出するか、そのポイントをお伝えしました。たとえば隙間時間を活用する、iPodなどの携帯プレーヤーを活かす、料理はまとめて下ごしらえする、掃除機にはあらかじめ延長コードをつけていちいち部屋ごとにコンセントを差し込み直さなくても済むようにするなど、勉強から日常生活にいたるまで、様々なアイデアをお話したのでした。

 一方、モチベーション維持に役立つツールもご紹介しました。中でも私がお勧めするのはフリーペーパーです。投げ込みチラシや駅などにおいてあるミニコミ誌は、実は貴重な情報源です。たとえば東京メトロの「メトロガイド」には都内の名所旧跡案内やイベントガイドがあり、「R25」には著名人のインタビューも掲載されています。広範囲にわたる知識を仕入れることは「学び」を幸せなものにしてくれますし、プロの方々のインタビューからは、元気が出てくる言葉を活字で読むことができます。英語学習というのは、必ずしも英語そのものだけの勉強に限ったことではなく、様々な知識を吸収し、自分の一般常識力・教養力を伸ばすことも大切なのです。それがひいてはやる気アップにつながります。

 私が英語学習をする方たちに一番伝えたいこと。それは「自分の今の英語力を使って社会に還元してほしい」というものです。「え?まだそんなに英語は上手ではないし・・・」「通訳者でもないのに、通訳なんて・・・」などと思うのではなく、今、みなさん自身のレベルでできることを行うことが、結果的に社会貢献につながると私は思います。

 たとえば外国人が道に迷っているところを見かけたら、一声かけて差し上げる。市発行の印刷物にスペルミスがあったので、窓口でお知らせする。こういったことは直接的な「還元」に当たります。一方、英語を学ぶことで自分自身がハッピーになり、「よし、今日も仕事、がんばろう!」と前向きになる。そしてそのエネルギーを抱きながら、たとえば営業先で商談を行う。クライアントに「○○さんは明るいし、信頼できるから契約をお願いしよう」と展開する。これなどは間接的な還元になります。

 大事なのは、なぜ自分は英語をやるのかを今一度とらえ直し、そこから自分は何ができるかを常に意識しながら生きていくことだと私は思っています。

 (2010年4月19日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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