INTERPRETATION

やっぱり使える!単語カード

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 最近は一口に「英語学習」といっても、実に多種多様な手段があります。オーソドックスに学校へ通うのはもちろんのこと、ウェブの世界をのぞけばそれこそ無料で様々なサイトがあるのです。動画を使ったり、ボキャブラリーを増やしたりと、学習者のニーズに応じてあらゆるものが提供されています。かつてはNHKの語学テキストとFEN(現AFN)のラジオだけ、という時代もあったわけですから、隔世の感がします。

 ではここまで学習者にとって便利な世の中になったということは、英語を学ぶ人のレベルも高くなったのでしょうか?答えは残念ながら、そうとは言い切れないようです。たとえばよく引き合いに出されるTOEFLの点数を見てみると、2000年の統計では日本人の平均点は677点中501点。アジア21カ国では18位という順位です。また、高等学校の現場では、高校入学者の英語力が年々低下していると危惧する声も上がっています。さらに、英語を苦手と感じている中学生はおよそ6割との統計もあります。これだけ英語学習のハードルが下がったにも関わらず、それが実力に反映されていないのです。

 英語学習へのアプローチを見ていて思うのは、ダイエットに対する考え方と同じであるという点です。「何かもっと効果的な方法があるのではないか」「短時間で即効力のある秘訣が存在するはず」といった考えがいつまでも根強くあるため、ひたすらより良いノウハウを求めてしまうのです。「シャドーイングが効果的」と言われれば、書店にはシャドーイング関連の書籍が山積みされ、「やっぱり単語!」となると単語集のベストセラーが誕生します。これは「○○ダイエット」「△△エクササイズ」などのダイエット法が生まれては消えてゆくのと同じ現象でしょう。

 私は昨年春からフランス語を独学で進めています。すでに英語で生活の糧を得ているうえに新たな言語を学ぶというのは、なかなかやり甲斐のある行為ともいえます。限られた時間の中でどのようにフランス語学習時間を捻出するか、短時間でどうやって効果を上げるかなど、「費用対効果」ならぬ「消費時間対効果」を考えないと、あまりにも時間がもったいないのです。

 結局、1年近く続けてみてわかったこと。それは「即効性のある学習法というのは存在しない」という点でした。やはり毎日少しずつコツコツと学び続けるしかありません。単語や構文等も暗記しては忘れ、また暗記しては忘れる、の繰り返しをしながら定着をはかるしかないのです。忘れることや間違えることに憶病になってしまっては、先に進むことができません。「忘れるのも語学学習のうち」と前向きにとらえて、ひたすら継続あるのみなのです。

 ところでみなさんは単語や構文を覚える際、どのような方法をとっていますか?私はかつてA4の紙を縦半分に折り、左側に英語、右側に日本語を書いていました(図参照)。

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 通訳業務の際はこのシートが単語リストとなり、一覧するうえでとても便利です。しかし、フランス語学習においてこのようなリストで暗記をしようとしたところ、訳語をめくるとどうしても下のほうに書かれた単語が目に入ってきてしまい、いわば「いやでも答えが見えてしまう」という状況になってしまったのです。

 そこで最近はオーソドックスな単語カードを愛用しています。単語カードなど、受験勉強以来すっかりごぶさたしていたのですが、いざ使ってみるとその効果が非常に高いことを実感しています。一枚一枚めくるので、別の問題の答えがあらかじめ見えてしまうこともありませんし、正答できたものは取り外し、不正解のものだけを集中的に学ぶことができます。かつては「単語カードなんて」と敬遠していた私ですが、何かを暗記するうえではとても効率的です。読者のみなさんも、よかったらぜひ試してみてください。

 (2010年1月25日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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