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通訳者のたまごたち

何ごとも丁寧に。それが時間短縮につながる

 毎日あわただしい日々を過ごす私にとって、その日の手帳にはやること項目がたくさん書かれています。学生時代は1カ月カレンダー型の手帳でしたが、社会人になり一週間見渡し型のものに替えて記入欄が増えました。ところがそれでも書く欄が足りなくなり、ここ数年はデイリー型の手帳を愛用しています。毎晩寝る前に翌日のやることリストを見渡し、翌朝起きたらすぐに再度見直していますが、そのたびに「今日もたくさんやることがあるけれどがんばろう!!」と自分に気合を入れています。

 とはいえ、一日の終わりにすべての項目が完了する日はほとんどありません。私はやることリストにチェックボックスをつけて、「□ 原稿納品」などと書き、その作業が終わったらチェックマーク「✔」を入れているのですが、全項目にこのマークが入る日は年に数回あるかどうかです。けれども最近、やるべきことを達成する上で大切なポイントに気づいたのです。

 それは「目の前のことに集中し、丁寧に行う」ということでした。

 私はそれまで何かに取り組んでいる時、頭の中で「あれもやらなきゃ、こっちも手をつけないと」と同時進行で色々と考えながらやっていました。けれどもそういう状況の場合、目の前のことをミスする確率が非常に高かったのです。たとえば朝、私はジョギングをしているのですが、自宅に戻ると朝食作りが控えています。「お皿を並べて盛り付けて」と考えながら玄関で大急ぎでシューズを脱ごうとすると、あわててしまって靴ひもがからまってしまうことが何度もありました。けれども「集中して丁寧に」を意識し、「靴ひもがからまらないように引っ張る」と考えるようになったところ、スムーズに靴が脱げるようになりました。これは靴ひもに限らず、iPodのイヤホンコードも同様です。

 あわてて取り組んだ結果、思いがけずハプニングが生じ、その処理に時間が費やされてしまうと、心理的なダメージも受けることになります。「どんどん遅れてしまう!」という焦りが出てくれば、余計ミスする確率も高くなってしまうのです。そのような状況を避ける上でも、まずは目の前のことをきちんと意識しながらしっかりと取り組んでみる。それがひいては時間短縮につながると私は思っています。

 ちなみにこの考えを導入するようになったところ、ゆで卵の殻をむく際にも上手にむけるようになりました!むきにくい殻を急いでむこうとすると、白身も大幅に向けてしまってがっかりですものね。


 (2010年3月8日)


腕時計の有効活用

 腕時計を持っていらっしゃいますか?おそらく社会人であれ学生であれ、お気に入りの腕時計を身につけていることと思います。

 私が初めて腕時計をするようになったのは中学生の時。入学祝いに祖母から頂いたものでした。セイコーのクオーツ時計で、当時はねじまきが主流の中、まかなくても動く時計は実に画期的だったのです。日付も表示されて文字盤も見やすく、ずいぶん長いこと愛用していました。

 その後、社会人になって手に入れたのがオメガの腕時計。自分のお給料で、それこそ清水の舞台から飛び降りるような感覚で購入したものでした。そこで今回は「腕時計の有効活用」と題して3つのポイントをお話しましょう。

(1)秒針のついた腕時計を

 通訳現場や授業の際、私は腕時計をはずして机の上に置きます。これを見ながら時間を確認しているのですが、あるとき電池が止まったことに気付かなかったのです。それは腕時計本体に秒針がついていなかったからでした。
 秒針がついている時計であれば、電池切れの際にはすぐにわかります。しかし秒針がないと、それに気づきにくくなってしまうのです。「さっき8時だったのに、また見たら8時。ということは電池が止まっていた!」と焦るようなことのないよう、私は腕時計購入するときは必ず秒針付きのものを買うようにしています。

(2)腕時計を反対の腕にしてみる

 たとえば外出先で「あ、ノート買わなきゃ!」などと急に思いついたとします。本来であれば手帳などを取り出してメモしておくことがベストなのですが、歩いている途中だったり、満員電車の中だったりとメモが書けない状況もあるでしょう。そのようなとき私は腕時計を反対の腕につけかえています。普段私は左腕にしていますので、右につけ直すというわけです。こうしておくと「普段と異なる場所にしている腕時計」ということで違和感があり、それが「自分へのリマインド」となります。いわば備忘録がわり、というわけですね。

(3)バンド型のゴールドとシルバーカラーで

 上記(2)の理由から、すばやくつけかえるために私はバンド型の腕時計を愛用しています。これまで何度かベルト型のカラフルなファッション時計を身につけたこともあったのですが、仕事の際にはやはり使いやすさが一番です。なお、バンドや本体カラーもゴールドとシルバー両方が組み込まれたタイプにしています。これは身につけるアクセサリーやベルトなどがどちらの色でも共存できるようにするためです。

 いかがでしたか?たかが腕時計。でも自分なりのポリシーで持ち物の購入基準を決めると、買い替えの際、とても楽になると私は思っています。

 (2010年3月1日)


時間の有効活用3つのヒント

 誰にとっても一日は24時間。その限られた時間内に、私たちは実に多くのことを行っています。仕事や家事、育児、勉強など、やるべきことややりたいことはたくさんあり、どうやって時間をやりくりしようかと私たちは考えながら日々過ごしているのではないでしょうか。

 今振り返ってみると、私にとって無限大の時間があったのは、実家にいたとき、社会人になって一人暮らしをしていたころ、そして結婚してから子どもが生まれるまでの時期です。当時は当時で「忙しい!」と思ってはいたのですが、今、子育てや仕事、子どもの学校関連の役員などを引き受けるようになってみると、かつての自分がいかにたくさんの時間に恵まれていたかが思い出されます。

 最近私は、自分が何かに取り組む際に心がけていることが3つあります。それは「スモールステップに分解すること」「集中すること」「完ぺきを目指さないこと」です。早速見てみましょう。

1.スモールステップに分解すること

 たとえばエージェントから通訳業務を依頼されたとします。業務の数日前になると、大量のプレゼン原稿をはじめ、関連資料や専門用語リスト、出席者名簿などがどっさり送られてきます。読むべきものがあることは分かってはいるものの、私自身、通訳者としてデビューしたころはどれから手をつけてよいか悩み、電話帳数冊分の資料を前に途方に暮れたことを覚えています。「まずはパワポ資料から読まないといけないな」と思って読み始めてはみるものの、初めての分野でそもそもの内容がわからず、「ならば専門用語リストから見ていこう」と思ってもやはり難しすぎるなど、スタート地点でつまずいてしまうことがあるのです。

 そこで求められるのが、やるべき課題をスモールステップに分けて取り組むことです。そのためにはまず、各工程をリストアップしてみましょう。たとえば上記の例でいえば、下記のような感じになります。

□資料枚数の確認
□資料を通読する
□単語リスト作成
□関連ウェブサイト検索
□関連文献の購入
□出席者の中で論文がネットで見られれば、検索・閲覧

 ざっとこうしてやるべきことをまとめてみるのです。そして自分なりに優先順位をつけて取り組んでいくことになります。もしその分野の通訳が初めてなのであれば、資料の通読よりも入門書を買って一読したほうが、内容そのものをしっかりと把握できます。ですので、「やるべきこと」と「自分の現時点での内容把握度」のバランスをとりながら準備を進めていくと、効率よく作業を進められるはずです。

2.集中すること

 実際に通訳日当日まで予習をしていると、「あ、あの内容についてウィキペディアで調べなければ」「当日、余裕を持って現地入りするには、何時の電車に乗ったらいいかしら」「昼食や休憩時間についてエージェントに確認しなきゃ」など、色々なことが頭の中をよぎります。目の前の資料を読みつつも、ひらめきのような形で「あれもやらなきゃ」「これも取り組まなくては」と思い付いてしまうのです。

 勉強を進める上で大切なのは、目の前の作業にとにかく集中することです。雑念が頭の中に残ったままでは、100パーセントの集中力を発揮することはできません。ですので、色々なことが思いつくのであれば、ぜひ手元にメモと筆記用具を用意し、思いつくたびに書き出してしまいましょう。「書いたらすぐに元の資料に戻って集中する」というスタイルを維持すれば、大切な集中力を無駄にせずに済みます。メモ用紙に書いたことは、勉強が一段落した時点で取り組めばよいのです。

3.完ぺきを目指さない

 通訳の予習をしていると、覚えるべき単語や読むべき文献など、無限にあるように思えてしまいます。たとえば金融関連の通訳の場合、配布資料の単語だけでなく、「もしかしたらアメリカの金融事情の話になるかも」「東京証券取引所の仕組みなども理解しておいたほうが良いのでは」などなど、予習の対象分野を広げようと思えば、いくらでも広がっていくのです。

 ただしその場合、ある程度のところまで予習をしたら、それで良しと納得することも大切です。なぜならば、睡眠時間を削ってまで予習をして体調を崩したり当日寝不足になったりしてしまえば、最大限の力を発揮することができなくなってしまうからです。

 完ぺきは目指さない。けれどもできる限りのことはやる。そのためにはエネルギーを均等配分することも大切です。

 通訳者になりたてのころというのは、誰もが試行錯誤を続ける時期でもあります。自分なりの勉強法、心がまえなど、失敗と成功を積み重ねていくことが、経験へとつながります。ぜひがんばってくださいね。


 (2010年2月22日)


真のサービスとは

 先週のこのコラムで、通訳者に必要な要素とは「語学力」「知識力」「度胸」そして「体力」であると書きました。私はそれに加えてもう一つ、「サービス精神」が求められると思います。

 毎年2月、わが家は越後湯沢にあるスキー場で家族旅行を楽しんでいます。そこはスキーオンリーのゲレンデなので、高速スノーボードを気にせずのんびり滑れるため、幼い子供たちにとっても安心です。そのスキー場に隣接するホテルに宿泊するたびに、私は自らの仕事観を見直しています。

 具体的に何を見つめ直すかというと、「真のサービスとは何か」という点です。このホテルは、東京・紀尾井町にあるホテルの系列なのですが、フロントスタッフの応対はもちろんのこと、ベルマンやレストランスタッフ、スキー場の係の方々など、すべてが実に行き届いたサービスを提供してくれるのです。たとえば寒い雪道を経てホテルに到着すれば、フロントデスクの方がにこやかに出迎えてくれます。さらに、フロント付近でかさばる荷物を持っていれば、ベルマンがすぐにカートを持って手伝ってくれるのです。レストランでバイキングディナーをいただいた際には、使用済みの食器を迅速に片付けるスタッフがいます。どの持ち場のスタッフも常に姿勢をピンとさせ、お客様にとって必要なことはないかと意識しながら業務にあたっているのです。

 私たち通訳者の仕事では、「業務を依頼された日から当日まで資料などを読み込み、しっかりと予習をすること」「現場では英日・日英を漏れなく訳出すること」が大きな柱となっています。この2点は私たちが必ず実行すべきものであり、ここをおろそかにしたまま任務にあたることは、職務責任を果たさないことに相当します。

 けれども、この2つ以上にやるべきことがあると私は考えます。それが、毎年冬に私がこのホテルで感じる「真のサービス」です。相手が何を必要としているのか、常に意識の中に組み込み、他人から見られる職業人として、姿勢や表情、笑顔などに気を配ることも通訳者として求められていると私はとらえているからです。

 かつてイギリスに暮らしていたころ、あるお店で店員さんに‘Excuse me, could you please help me?’と尋ねたことがあります。ところが返ってきた答えは、‘No, I’m busy.’だったのです。ちょうどそのスタッフは棚卸をしていたときでしたので、おそらく顧客である私の問いに答えるよりも、上司に命じられた業務を行うことのほうが重要だったのでしょう。理屈としては理解できますが、とても悲しい気持ちになったのを今でも覚えています。

 自分の業務範囲外のことを求められたので「できない」と言うのは、ロジック的には正しいかもしれません。けれども、それを口にする前に自分は何ができるかを考えることも、サービス提供者として必要だと私は思います。通訳者であれば「英語を日本語に、日本語を英語に直せばそれでよし」というだけではないはずです。同じ「訳す」という行為でも、お客様が求めるものはそのときそのときで異なります。臨機応変に、そして相手の立場になって考えることを私たち通訳者はやるべきなのではないでしょうか。

 相手のことを思いやり、求められる真のサービスを提供すること。それがファンを生み出し、リピーターを増やし、間に入る通訳エージェントの業務を拡大させ、私たち通訳者も新しい仕事や次の通訳アサインメントに恵まれることになります。自分の仕事を心から愛するからこそ、そこまで考えて仕事にあたっていきたいと私は考えています。

 (2010年2月15日)


今こそ体のメンテナンスを

 昨年元旦から始めたジョギング。当初は2009年の間に100回継続できれば目標達成ととらえていましたが、お陰さまで100回以上続けることができ、雨の日以外はほぼ毎日走ることができました。生まれて初めてのハーフマラソンにも出場し、ストレスや肩こりからもおさらばし、体重は減り、健康を手に入れ、と私にとっては良いことづくめのジョギングです。

 中でも大きかったのは、今まで頑として減らなかった体重が自己記録でベスト体重になったことです。高校時代はバドミントン部に所属しており、ハードな練習と遠距離通学だったこともあって、すっきりした体型でした。ところが大学入学後は運動から離れてギターアンサンブル部に所属。社会人になってスポーツクラブに入会はしたものの、「今日は雨だから」「仕事で疲れたから」と何かと言い訳をしては通うことを避けていったのです。太りすぎになったわけではありません。けれども社会人数年目のこと。久々にあった英語仲間の男性から「ひょっとしてふくよかになられましたか?」と言われたことは大いにショックでした。「ふくよか」という婉曲表現でも、十分グサッと来たのを覚えています。

 その後は出産で自己最多体重を記録し、ベスト体重などはるか過去のことになっていたのです。半ばあきらめもありましたし、「ま、いっか」と投げやりになっていた部分もありました。それが昨年来のジョギングと筋トレによって、体質自体に大いなる変化が見られていったのです。

 人間の骨密度や筋肉は、40代あたりからどんどん低下していきます。一見、健康な人でも、肉眼では見えない骨密度や筋肉における低下は避けることができません。これを防ぐには栄養や運動など、トータルな面での体のメンテナンスが求められます。何もしないままでは、カクンと衰える日をじっと待つようなものです。

 「通訳者になるには、何が必要ですか?」という問いを私は頻繁に受けます。たいてい私は「知識力」「語学力」「度胸」と答えていますが、それに加えて欠かせないのが「体力」です。むしろ、「先に体力ありき」と言っても過言ではありません。なぜならば、健康だからこそしっかりとした仕事の準備ができるのであり、業務日当日にベストコンディションで臨めるからです。

 最近は何ごともパソコンを介して済ませられるようになりました。本当に便利になり、ありがたい世の中です。けれども、その一方で過剰な栄養摂取や栄養に関する知識不足、そして運動の欠如なども指摘されています。アメリカでは国民の3分の2が肥満とも言われており、一方の日本も中年男性の3人に一人が肥満とされています。

 毎日元気に仕事ができること。実は人生においてこれほどありがたいことはありません。だからこそ意識的に体の調子を整え、自分の体のために行動することも、大いに求められていると私は思っています。

 (2010年2月8日)



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プロフィール

柴原早苗

柴原 早苗さん
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。 アルク「English Journal」でBBC Newsを監修した後、現在はNHK「ニュースで英会話」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当中。 現在は通訳学校でも後進の指導にあたる。ESAC英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。 著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)。