HOME > 通訳 > やりなおし!英語道場 > 第111回〜第115回 > 通訳泣かせの日本語

やりなおし英語道場

通訳泣かせの日本語

通訳もしくは翻訳をするときに、どうしてもうまく訳せない表現があります。いわゆる日本語的表現または英語的表現です。説明をしろと言われると、背景を説明しながら、相手に理解してもらうことはできますが、A=Bという形で同等の表現が存在しないことは実はさほど珍しいことではありません。

通訳のエピソードが書かれている本の中で、“お疲れ様でした。”を“You must be tired.と訳して、クライアントに不思議な顔をされた・・・・というエピソードが挙げられていました。通訳訓練を受ける前は、”へ〜、そういうこともあるんだ。通訳は難しいんだな“と思っていましたが、今もし通訳がYou must be tired.なんて訳したら、オイオイって突っ込みをいれてしまうと思います。こんな訳をする通訳はいないと思いますが、訳そうとして”どうしよう??“と思う瞬間は少なくありません。

英語で訳しにくい単語の場合は、カタカナ処理という必殺技がありますが、日本語から英語にする場合には、そのような便法はありません。それが文化に根付いた表現の場合は、英語にしろ、日本語にしろ、お互いそういう概念や物を持たないわけですから、そもそもA=Bを探すのはかなり困難(ほとんど無理)です。

先日、授業で使った教材の中に出てきた表現で、今まで日本語的表現とは気付かなかったものがありました。それは“〜台”という表現です。よく考えると、日本人は頻繁に使いますよね。例えば、“20〜30%台“”50メートルを7秒台前半で走る“というように、普段の生活の中で何も考えることなく使っていますが、よく考えるとこれを英語にするのは案外大変です。

実際に翻訳されたものを検索してみると、range, levelといった言葉を使って訳されているケースが多いようです。 “〜台という”曖昧な表現を日本人は何も考えずに普通に使いますが、よくよく考えるとかなりファジーな表現です。例えば“20〜30%台“の対象となるのは20%〜39.99%で40%は含まないぎりぎりのところまでを指しているという感覚は日本人なら誰でもわかります。

これを訳す場合、より正確にいうのであれば、”the 20 – 39.99% range”と言えるとは思いますが、まず英語としてちょっと不自然ですし、厳密にいうと39.99 がいいのか、39.999でいいのか、それとももっと9を増やしていくべきなのか、考え出すときりがありません。何人かのネィティブに確認したら、”the 20 – 40% range”が一番いいということでしたが、ここでまた40% は含まないという問題が出てきます。

日本人としては何とも納得いかない表現ですが、英語としての自然さを取るのであれば、この、”the 20 – 40% range”という表現、厳密さを取るのであれば、”the 20 – 40% exclusive of 40%”となるという結論になりました。この”the 20 – 40% exclusive of 40%”という表現だとあまりにも具体的すぎて、日本語の持つファジーな“〜台”のもつファジー感が一気に消されてしまし、それなら最初から37%とか具体的な数字で言った方が早いよね・・・ってなってしまいます。

”50メートルを7秒台前半で走る“はどうでしょうか?こちらもまたよく考えると厄介です。こちらも例えば、”can run 50 meters in 7 to 7.5 seconds” “can run 50 meters in under 7.5 seconds”という風に訳すのがいいのではと思いますが、皆さんはどう思いますか?いづれにしても、日本語“7秒台前半”というファジーな表現を英語にするために、“無理やり定義してしまった”感がどうしても残ってしまうと感じるのは私だけでしょうか?これまでも何度となくこの”〜台“という表現を訳してきましたが、今回きちんと英語でいうとどうなるのかと考え始めた時、あらためてこの表現がとても日本的な表現(感覚)であったことに気付かされました。日本語は曖昧とよく言われますが、まさかこんなところにも曖昧さが潜んでいるとは!

もしこの”〜台“のうまい処理方法があれば、ぜひ教えていただきたいと思いますので、これは!という表現がありましたら、メールお願いします!!


やりなおし!英語道場


↑Page Top

プロフィール

上谷覚志

上谷覚志(かみたにかくじ)さん
1992年大阪大学経済学部卒業後、南イリノイ大学言語学部に留学し、特許事務所翻訳者・英語講師を経て、97年にオーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士課程入学。99年同大学院の修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律、商談、セミナー等幅広い分野で活躍するとともに大手通訳学校での講師も勤める。2006 年に英語力を生かして仕事で活躍できる人材を養成するAccent on Communicationを設立。後進の指導にも力を注いでいる。