INTERPRETATION

通訳的リスニング訓練法

上谷覚志

やりなおし!英語道場

先週は”リーディングの伴わないリスニング”について書きました。今週は具体的なリスニングの勉強方法について考えてみたいと思います。

私も英語の勉強を始めた頃、ほとんどの方と同じようにリスニングに対する苦手意識がありました。テープを聞き、音に慣れようとしましたが、結局聞くだけでは思ったような成果は得られませんでした。わかるところは100%わかるし、わからないところはやっぱりわからず、スクリプトを見てやっとわかるという感じで、一体どれだけ聞けば聞けるようになるんだろうと思ったものです。

オーストラリアで通訳訓練を始めてからもリスニングは頭痛の種でした。ただ音声を聞くだけではこれ以上伸びる気がしなかったので、先生にどうしたらいいか相談したことがありましたが、”たくさん聞きなさい”と言われただけで、具体的な方法は見つかりませんでした。

リスニングができないと言いつつも、通訳訓練は進んでいき、だんだん教材も難しくなり、求められる精度もだんだん高くなってきたため、放課後や週末ひたすらクラスメイトとペアで逐次の練習を続けました。クラスの半分くらいが2年度のクラスに上がれなかったため、強迫観念に駆られながら逐次訓練をしたものです。週末だと文字通り1日朝から晩まで10時間以上やることも普通にありました。この集中逐次練習をしばらく続けた頃、これまでのように”音”が聞けないことが問題なのではなく、そもそも”英語”がわからないことが問題なのだと考えられるようになりました。

結局、”音”そのものが障害になっているケースは

(1) 単語の発音を間違えて覚えている

(2) アクセントに対応できない

くらいだと思います。(2)は音声を聞くことでアクセントに慣れることはできますし、(1)に関しては、それほど数はないと思いますので、音を聞いてスクリプトと比べながら記憶している音と正しい音との差を地道に埋めていく必要があります。

先ほど、逐次をやってリスニングが伸びたと書きました。では、逐次のプロセスの何がリスニングに有効なのでしょか?

本当に多くの人が知っている単語が聞こえたら、その部分は”理解できた”と勘違いしてしまいますが、逐次では音声情報からメッセージを捉えられたかどうかを 確認でき、全ての単語がわからなくても、前後の単語から意味を類推していく力(コミュニケーション力)が身に付きます。

通訳を目指さない人の場合には、アウトプットの日本語は自然な日本語である必要は全くありません。ここまでの意味は〜、ここからここまでは〜という意味 で・・・というざっくりとした内容の確認で十分です。ポイントは音声情報を聞いて、何を言っているのか(メッセージ)がわかるかどうかを確認することで す。

シャドーイングやリプロダクション(音声を聞いてから聞いた英語を再現する)も音声認識力を強化する練習としては有効ですが、音声認識できたからといって、意味がわかるわけではないので、やはり聞き取った音声情報を理解しているかどうかの確認は必要だと思います。

逐次といっても通訳訓練ではないので、長い文章を聞き、メモを取り、情報を再現する必要はありません。長い文章の場合は、ここで意味が切れるというところ で、音を止めてそこまでの意味を言ってみるだけで十分です。サイトラに精通している人であれば、音声のサイトラ版と考えてもらえばわかりやすいと思いま す。短い文章の場合だと、1文流して確認というプロセスを繰り返してみてください。

最初は長い文章の途中で止めるのは大変だと思いますが、止める場所がわからないということは、前から出された情報を捉えきれていないということになります。 その場合はスクリプトに戻り、なぜ情報を捉え切れなかったのかを分析するというプロセスを繰り返していけば、聞きながら小出しに出てくる情報を積み重ね て、全体のメッセージをつかめるようになります。

聞きながす練習だけをやっている方は一度この”通訳的リスニング訓練法”を試してみてください。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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