INTERPRETATION

メモがうまく取れません!

上谷覚志

やりなおし!英語道場

こんにちは。通訳学校の講座も始まり、学校のペースに慣れてきたころではないでしょうか?今期担当している講座にも通訳訓練を始めたばかりの方が何人かいらっしゃいます。毎回、サイトラ、リテンション、シャドウーイングといった通訳訓練の基礎練習を行いますが、一番時間がかかるのがメモ取りのようです。サイトラも確かに人によってはなかなか前から訳せず苦労される方もいますが、何回かやっていくうちにできるようになります。ところがメモ取りだけは時間のかかる人だと一年経っても「メモがうまく取れません」と相談に来られる方がいます。

通常、クラスの中に通訳訓練を受けたことがない人がいる場合、メモ取りの説明をします。いくつかのポイントを説明したあと、最後に“メモはあくまでも通訳をするための補助ツールであり、どんなメモであったとしても最終的に通訳ができれば、それがいいメモということになります”と付け加えるのですが、どうもこのコメントは生徒さんの記憶からす ぐにすり抜けてしまうようです。

これまでいろいろな方と組んで通訳をしてきました。逐次で組んだ時にパートナー通訳の人のメモを見せてもらうと、通訳者の数だけメモのパターンがあることがわかります。人によっては細かい文字でびっちり書く人もいますし、きれいなA型っぽいメモを書く人や、ほとんど書かない人さまざまです。私の場合、たくさん書けないので、他の通訳者の方と比べて書く量は少ない方だと思いますし、しかもなぐり書きに近いので、パートナー通訳の方にメモ出しするときには、清書しないと解読してもらえませんし、授業で自分の書いたメモをみせると本当になぐり書きなので、皆さん“え?”という顔をされます。ただ本来メモというのは自分が逐次をするときに、少し前の記憶を呼び起こすためのトリガーですから、どんなに汚くてもいいわけですし、文字であっても自分で考えた記号であっても絵であっても何でもいいわけです。

通訳を現場でやっている人であれば、「メモがうまく取れない」とは言わないと思います。話の内容や自分の持っている知識量によっては「メモが追い付かない」と言うことはあり得ると思いますが、「メモがうまく取れない」とは通訳をやってことがない人の発言だと思います。「うまく取れない」という状況がプロの通訳に起こったとしたら、その人は「今の個所よく理解できなかった」と言うと思います。プロの通訳だって当然聞いてわからないことはありますし、時には勘違いすることだってあります。ただその状況を「メモがうまく取れない」とメモのせいにしないのは、メモが取れない理由はメモ取りテクニック云々ではなく、単純に聞いたことがわからなかったとわかっているからです。

メモを取りに慣れていないと、英語で取るべきなのか日本語なのか、どの単語をどこまで書くのかとかいろいろと瞬時に判断しないといけないことはたくさんあり、メモを取るというプロセスは 複雑で大変だと感じると思います。原則論で言うと、訳出するターゲット言語(英日だったら日本語、日英だったら英語)で書いた方が訳出の際の負担が減るので、そちらの方がいいとは思います。ただ毎回そういう風にはいきませんし、自分のメモを見ても英語と日本語が混じっている場合ほとんどです。ターゲット言語でメモが取れているときは、話の内容がすっと頭に入ってきて、話の流れにうまく乗れている時で、逆にそうでない場合は調子があまりよくないとかエンジンがかかっていないような時が多いような気がします。いずれにしても大事なのは最終的なアウトプットである通訳がきちんとできれば、メモに何をどう書くのか は重要ではありません。

「メモがうまく取れない」と感じている人はメモ取るのをやめて、本当に理解できたかどうかを再度確認してみた方がいいと思います。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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