INTERPRETATION

教えて学ぶ

上谷覚志

やりなおし!英語道場

人間というものは不思議なもので、自分ができることは当たり前と思って、当然他人もできるはずと思い込みがちです。また、自分が今いる環境の中で自分が普通にやっていることは当たり前のことで、他の環境で他人がどうしているかなんて普段の生活の中では考えないものです。ちょっとしたきっかけで全く違う世界に足を踏み込んだり、一歩引いて現状を見てみると“あれ?”と思うことがあります。

ここ10年ほど通訳訓練・通訳業という世界に身を置いてきました。飛び込んだ当初はすごく難しい内容の新聞を読まされたり、早いテープを聞かされたりでこんなもの理解できないとショックを受けましたし、日本語から英語に直す訓練でも何をどうしていいのか試行錯誤の毎日でした。やればやるほど深みにはまっていくような感じがして、通訳の仕事でも少し慣れてきたかなと思ったら、必ずまた難しい内容の仕事が入ってきて、“また振り出しからのスタートか”という思いの繰り返しでここまできました。恐らく通訳という仕事を続けていく限り、こういったことの繰り返しなんだろうなと思います。

最近、前々からやりたかった通訳訓練を一般の人に使って英語を教えるというプロジェクトを始めていろいろな気付きがありました。その中でサイトラだけではなく、本当に基本的な辞書の引き方も説明しました。名詞の場合、U(不可算名詞)とC(可算名詞)をまず見て、それも参考に意味を考えないといけないとか、動詞の場合はI(自動詞)とT(他動詞)によっても意味が違うことがあるので、辞書を引いて日本語の意味だけ見ていては誤訳になる可能性があるという話をしたら、意外にも反響があり逆にこちらがびっくりしました。

発音に関しても例えばrunとranの母音の違いについて体を使ってどうやって発音するのかを説明したところ、これまた全員が知らなくて驚くと同時に、発音記号をほとんどの人が読めないということにも驚きました。

生徒さんを含め、自分の周りにいる人たちは英語ができる人が普通にいるので、何となく自分たちがやっていることや、知っていることは当然他の人達にとっても当たり前のことと知らないうちに思い込んでいたのです。

普段、通訳訓練には、TOEICで満点近い方が普通に来られており、そういう方に慣れてしまい一般の方が英語に対してどういう知識を持っているのかの感覚が全くずれていました。通訳訓練を受けている生徒さんはなかなか思ったように通訳スキルが伸びず、まだまだという気持ちで日々練習をされていると思います。ちょっと見方を変え、外を見てみると、通訳訓練をしている方たちの多くは一般の方から見るとあこがれの存在であり、その方たちが持つ知識や学習経験というのは一般の方からすると喉から手が出るほど欲しいものなのです。

そう思うと、通訳者や通訳を目指す方が単に自己鍛練だけで知識を内部に蓄積するだけではもったいないですよね。通訳訓練を受けている方の数まで入れるとかなりの数の方がいらっしゃるので、そういう方の一部の方でも、“勉強!勉強!”の毎日から“勉強!教える!”という風になれば、日本の英語力はかなり上がるような気がするのですが、皆さんどう思われますか?他人に教えるというのは、結局は自分が学ぶということになりますし、通訳だけだと自分で何かを発信するという機会がないので、バランスを取るという意味でも教えるということを自己啓発の一環として捉えてみてもいいのではないでしょうか?

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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