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金融翻訳ポイント講座

不特定多数の読者が対象となる金融翻訳では、質の高いアウトプットが求められます。 高品質の翻訳を上げるために必要なポイントを丁寧に解説します。

第16回 金融翻訳者の単語登録

こんにちは。5回続けてまじめな内容をお届けし、頭が疲れてきましたので、今回は息抜き編です。

よく言われることですが、金融翻訳の特徴の一つに、「短納期」があります。わたしの経験から言って、納期は長くて一週間以内。通常は2、3日以内。運用報告書などですと、朝9時に入稿して夕方納品とか、夜中に入稿して翌日15時までに納品などのケースも多々あります。というより、それが普通です。(原稿量が少なければ、さらに早い納品を求められる場合もあります)

当然ながら、すべての作業にスピードが求められます。それでも読み込みや見直しにできるだけ時間をかけたいので、本筋とは関係ないPC関連の作業時間をいかに短縮するかが重要となります。

例えばタイプ入力。自分がブラインドタッチしているかどうかなんて、どうでもいいのですが(昔はよく話題になりましたよね...)、とにかく間違えないで一度で入力・変換したい。あるいは参考資料にあたる回数を減らしたい。

というわけで、翻訳者であれば誰しも同じと思いますが、わたしも大量の単語(変換)を登録しています。以前、化学関係の翻訳をしている人のリストを見て、分野が違うとここまで違うものかとびっくりしたことがあるので、きょうはわたしの単語登録リストの一部をご紹介します。金融翻訳ではどのような言葉が頻出するのか、雰囲気をつかんでいただけるのではと思います。

【組織編】
固有名詞は長いものが多いため、登録の筆頭選手です。特に略語はアルファベットへの変換が面倒なので、以下に挙げたもの以外にも多数登録しています。

ふぇっど  連邦準備制度理事会(FRB) ※原語がthe Fedなので。
えふある  FRB
ふぉんく  米連邦公開市場委員会(FOMC)
おうしゅうちゅうおう  欧州中央銀行(ECB)
いしび  ECB

【セクター編】
ファンドの運用報告書などに出てくるセクター名は、「世界産業分類基準(GICS、Global Industry Classification Standard)」などの世界基準に従った名称が使用されています。よって例えば、このGICSに沿った分類を使用しているファンドの報告書でIndustrials sectorと出てきたら、「工業セクター」ではなく「資本財・サービス・セクター」とせねばなりません(「サービス」は間違いではありません)。これらを毎回調べるのは面倒ですし、覚えたつもりでも混乱することがあるので、単語登録して間違いを避けています。

いんだすとりあるず  資本財・サービス(Industrials)
すていぷる  生活必需品(Consumer staples)
でぃすくれしょなり  一般消費財・サービス(Consumer Discretionary)
まてりある  素材(Materials)
ゆてぃり  公益事業(Utilities)

【マクロ経済編】
GDPなどは、FRBと同じで英語変換が面倒なため登録。「1-3月期」は、当然ながら「4-6月期」「7-9月期」なども登録しています。この3つ、ハイフンや数字の全角・半角が違うことに気づかれましたか。これらはクライアントによって指定が異なりますので、すべてのパターンを登録しています。

じで  GDP(Gross Domestic Product)
じでぴ  対GDP比
しぴあい  CPI(Consumer Price Index)
だいいちしはんき  1-3月期

【はやり言葉編】
ある時期、やたらめったら出てくる言葉というのがあります。以下、登録はしましたが、いずれ消え去る運命にあると思われる言葉たちです。「ハードランディング」は、中国経済のハードランディングが懸念材料であったころの名残です(登録した頃には出てこなくなりましたが)。

くい  QE(quantitative easing)
ぶれぐじっと  Brexit
はどらん ハードランディング

【タイプミス回避編】
誰しも同じと思いますが、ローマ字入力する場合、nが絡むとどうしてもミスが多くなります。「占有」はsennyuuと打たなければいけないのに、senyuuと打ってしまい、「背乳」となってしまうような場合ですね。nの過不足は、日本語変換ソフトがある程度サポートしてくれるんですが、それでもkinyuuなどは「記入」が第一候補として出てきてしまいます。でも金融翻訳者が求めているのは「金融」なのです!

きにゅう  金融
しにょう  信用
げにゅう  原油

【入力めんどくさいよ編】
これはわたしだけかもしれませんが、手が小さいからか、「ー」や「P」でよくタイプミスをやらかします。よって、なるべくそれらを避けて登録。長いカタカナ語も有力候補です。

ぐる  グループ
さび  サービス
ぐろ  グローバル
こんふ  コンプライアンス
そりゅ  ソリューション
でゅで  デューデリジェンス
まね  マネジメント
まね  マネージャー
まね  マネジャー
ゆろ  ユーロ

【ホンスジの金融編】
最後に、金融関連の言葉です。こうしてずらっと並んだカタカナ語を見ると、ちゃんと理解したうえで訳してるんだかどうだか、自分でも分かりゃしない(笑)。

TIPS(インフレ連動債)は「てぃっぷす」と読むと思うのですが、「てぃ」だけで3ストローク必要なうえに「P」が入っているので、読みそのままでは簡略化の意味がありません。で、最初は「ちふす」にしたのですが、やっぱりイメージが悪いので、本来の日本語訳「物価連動」にしました。

せっかくの金融講座ですので、英語並記しておきます。

いるど  イールドカーブ(yield curve)
いんふ  インプライド(implied)
えくす  エクスポージャー(exposure)
おいす  OIS(overnight index swap)
おるた  オルタナティブ(alternative)
しょと  ショート(short)
すてぃ  スティープナー(steepener)
すふれ  スプレッド(spread)
ぞん  ゾーン(zone)
たむ  ターム(term)
ちび  Tビル(T-bill)
なぶ  NAV(net asset value)
ぶっかれんどう  TIPS(Treasury Inflation Protected Securities)
でゅれ  デュレーション(duration)
はいいるど  ハイ・イールド(high yield)
ばら  バランスシート(balance sheet)
ばりゅ  バリュエーション(valuation)
ぱふぉ  パフォーマンス(performance)
ふれみ  プレミアム(premium)
ぼら  ボラティリティ(volatility)
ぽと  ポートフォリオ(portfolio)
りたん  リターン(return)
りま  利回り(yields)

以上、いかがでしたでしょうか。ご参考に...ならないか。

ともあれ。どんなに単語を登録しても、どうしても避けられないのが、日本語を入力しようとしたら、英語/半角入力モードになっていた、というケース(またはその逆)。画面を見ないで入力していて、ふと気がつくとgamennwominaidenyuuryokusiteiteなんて状態になっていて、「んもうっ!」と叫びつつデリートしているのは、わたしだけではないですよね、きっと。


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プロフィール

アース(土川裕子)さん

アース(土川裕子)さん
愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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