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カンタン法律文書講座 第七回 契約書の種類

江口佳実

カンタン法律文書講座

英米法によるカンタン法律文書講座
第七回 契約書の種類
早いものでもう7回目ですね。今回からは、いろいろな契約書の種類をご紹介します。

ひとくちに「契約書」といっても、契約の内容によって他の種類の契約にはない特徴があります。前回までは、どの契約書にも共通して見られることの多い、「一般条項」を4回にわたってご紹介しました。今回はその逆で、そのタイプの契約書に特有の条項を一部紹介しながら、いろいろなタイプの契約書があるのをみていきましょう

売買契約

読んで字のごとく、物品を売り渡す側の当事者(Sellerということが多いです)と、物品を購入する側の当事者(BuyerまたはPurchaserということが多いです)の間の契約です。

契約書のタイトルは、Contract for SaleAgreement of SaleBuy and Sell AgreementPurchase and Sales AgreementPurchase Agreement など、様々ですが、「売買契約書」と訳していいでしょう。国際間の売買の場合は、Import Agreement などと言うこともあります。この場合はそのまま「輸入契約」と訳します。

売買契約には、1回きりの売買もあれば、長期間にわたるものもあります。例えば自動車のメーカーが部品を作る会社から長期間にわたって部品を購入するような場合は、Manufacturing and Supply Agreement (製造供給契約) といったりします。この場合、売り手の方はSupplier ということが多いです。また、長期的な売買契約の一種に、Distributorship Agreement (販売店契約) というのもあります。これは、買い手が売り手の商品を買い取って、契約で定めた地域 (territory) で販売するという契約です。販売店 (Distributor) 側には、買い取った価格と顧客に販売した価格との差額が利益として手に入り、売主側は、一定のまとまった量の商品を買い取ってもらえるという利点があります。販売店契約では、販売店がその地域で唯一の販売店になるという独占的な (exclusive) 権利を与える場合と、非独占的な権利の場合があります。この販売店契約と混同されるのがAgency Agreement (代理店契約) です。販売店と代理店の違いは、前述のとおり販売店が商品を買い取るのに対し、代理店 (Agency) の方は、商品を売り込むサービスを提供し、商品を買いたい顧客と売主の間を仲介するだけで、その手数料が利益となる点です。従って、代理店契約は売買契約の一種ではありません。

では一般的に、売買契約書とはどういった内容になるのかを見ていきましょう。

契約書では、まず頭書とWhereas clause (本講座第1回目を振り返ってください)のところで、両当事者がどういった会社であるか(自動車メーカーである、部品メーカーである、etc)、買い手はどのような商品を欲しがっているのか(タイヤなのか、ライトなのか、etc)、その商品を購入する目的などを簡単に述べます(もちろんこの部分を省略している場合もあります)。

売買契約書の本文に必要な内容は (一般条項以外で) 大まかに、(1) 売買の合意、(2) 売買する物品の指定 (仕様・品質、数量など)、(3) 価格、(4) 引渡し条件、(5) 支払い条件です。

(1)の売買の合意ですが、売買契約書なのだから合意があって当然なのですが、それを契約書にも以下のような条文で明記してあります。

【例文】
The Seller agrees to sell and deliver to the Buyer and the Buyer agrees to buy and take the Products specified herein and in the Attachment hereto in accordance with the terms and conditions set forth hereunder and agreed between the Parties.

【訳文】

売主は、本契約書およびその添付書に明記された本製品を、本契約書に定めた、かつ両当事者間で合意された条件に基づき、買主に売渡し、かつ引渡すことに同意し、買主は、かかる本製品を購入し、引渡しを受けることに同意する。

(2)の商品の詳細については、品番・型番、寸法や材質、形状、色などを契約書で詳細に述べずに、定義条項(“Definition“)や商品仕様(“Specification“)の条項で、添付書や付属明細書(AttachmentScheduleExhibitSpecificationAnnexAccompanying Document)と題する文書に明記する、あるいは見本(sample)の通り、と定義してあることが多いと思います。後者の場合、見本に関する条項が契約書に挿入されます。

【例文】
“Products” means such products as specified in Annex 1 hereto.

【訳文】
「本製品」とは、本契約書の付属書類1に明記された製品をいう。

【例文】
The Products delivered hereunder shall conform to samples submitted to and approved by the Purchaser in accordance with the provisions set forth in Article 17.1.

【訳文】
本契約に基づき引渡される本製品は、第17.1条に記載する定めに従い買主に提出され、これが承認した見本に一致するものとする。

(3)の価格については、契約書の本文に明記される場合もあれば、これもまた付属の別紙に詳細を定める場合があります。特に購入する商品の種類が多い場合は後者のパターンになりますね。
中には、価格の見直しを行なう条件を定める契約書もあります。

【例文】
The Price payable by the Purchaser after the first two (2) years shall be reviewed and negotiated by the Parties in good faith taking into consideration the economic situation and fluctuation of the exchange rate.

【訳文】
当初の2年間が終了した後の、買主が支払うべき本価格は、経済状況や為替レートの変動を考慮に入れながら、誠意をもって、両当事者により見直され、交渉が行われるものとする。

(4)の引渡し条件ですが、FOBとかCIF という言葉を目にされたことがあるかもしれません。

【例文】
The Goods shall be delivered to the destination specified by the Purchaser in its Order on an FOB Shanghai basis within 4 weeks after the Seller accepts such Order.

【訳文】
物品は、買主がその注文書において指定した場所へ、FOB上海港条件で、かかる注文書を売主が受け入れてから4週間以内に引渡されるものとする。

FOBというのは、Free On Boardの略で、インコタームズ(Incoterms:ICC=国際商業会議所の定めた貿易条件の規則)の定義では「本船渡し」、すなわち、物品が出荷される港で船に積み込まれた時点から、その物品に対する所有権や損失の危険などがすべて、買主に移ると定める条件のことです。ところが、アメリカの統一商法典(U.C.C)では、買主側の工場や、荷揚げされる港での引渡しという条件もアリなので、FOBCIF などの条件を指定する場合、それがインコタームズの条件なのかどうかを明記しておく必要があります。

【例文】
Trade terms such as FOB, CIF and any other terms which may be used in this contract shall have the meanings defined and interpreted by Incoterms 1990, ICC, as amended, unless otherwise specifically provided in this contract”.

【訳文】
FOB、CIF、およびその他の取引条件用語が本契約に用いられる場合は、本契約書に別段の意味が明記されていない限り、ICCの1990年版インコタームズ(またはその改訂版)により定義および解釈される意味を有するものとする。

引渡し条件にはその他に、EXW (ex works =工場渡し)、CFR (cost and fright =運賃込み値段)、CIF (cost, insurance, and fright =運賃保険料込み)、DDU (delivered duty unpaid=仕向地持込み渡し関税抜き)、DDP (delivered duty paid=仕向地持込み渡し関税込み) などがあります。

(5)の支払条件ですが、国際売買の場合によく利用されるのが、Letter of Credit (信用状、L/C)です。L/Cとは、簡単に言うと、買主から銀行への依頼に応じて、銀行が売主に対して「この買主の支払う代金は当銀行が代理してちゃんと支払いますよ」という手紙を発行するシステムです。買主は船積書類 (shipping documents) を添えた為替手形 (bill of exchange) を、売主に当てて振り出します。売主はこの船積書類と為替手形を、自分の取引銀行に買い取ってもらいます。取引銀行は、この信用状を発行した買主の銀行に、この為替手形の代金を支払うように請求する、という一連の流れになります。

【例文】
Purchaser shall open, within thirty (30) days after this Agreement, an irrevocable and confirmed letter of credit through a prime bank satisfactory to the Seller to the amount of the invoice value plus 15 % in favor of the Seller in a form and upon terms satisfactory to the Seller and be payable in Japanese Yen.

【訳文】
買主は、本契約書の日付から30日以内に、売主が満足する一流銀行において、請求書の金額に15%を上乗せした金額で、売主の満足する条件による、日本円で支払われる、売主に当てた取消し不能の確認信用状を開設するものとする。

irrevocable (取消し不能)と指定されているのは、取消し可能な L/C も存在するためです。国際取引の契約書では、曖昧な部分、他の意味に解釈できる部分を可能な限り排除した内容で作ることが鉄則で、「prime bank (一流銀行)で」、「upon terms satisfactory to the Seller(買主の満足できる条件で)」などと細かく指定してあるのもそのためです。

一旦取引関係ができている相手などの場合では、いちいち信用状を開設する方法ではなく、送金小切手 (demand draft) や電信送金( telegraphic transfer)での支払いを指定する契約も、もちろんあります。初めての取引でも、例えば相手が超一流企業であるときなど、信用を疑う必要がない場合や、当事者間に力関係がある場合などもそうだと思います。

さて今回は、契約書の中でも物品の売買契約と、その特徴的な中身についてご紹介しました。ほんの一部しか紹介できなかったかもしれませんが、インコタームズや信用状はもっとも基本的かつ大切な知識ですので、貿易実務の本を少し読んでみるなどして理解しておくと良いでしょう。

次回はさらに他の種類の契約書について、お話を続けていきます。
どうぞお楽しみに!

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記事を書いた人

江口佳実

神戸大学文学部卒業後、株式会社高島屋勤務。2年の米国勤務を経験。1994年渡英、現地出版社とライター契約、取材・記事執筆・翻訳に携わる。1997 年帰国、フリーランス翻訳者としての活動を始める。現在は翻訳者として活動する傍ら、出版翻訳オーディション選定業務、翻訳チェックも手がける。

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