TRANSLATION

Vol.16 チャンスを引き寄せる力

ハイキャリア編集部

翻訳者インタビュー

[プロフィール]
ニキータ・ディオさん
Nikita Deo
ロンドン大学東アジア学部日本語学科在学時、初来日。大学卒業後、文部科学省JETプログラムに参加、島根県役場に勤務。非営利団体ピースボート通訳を経て、翻訳エージェントにコーディネーター兼オンサイト翻訳者として勤務。現在は、ロンドンの銀行にて、金融翻訳者として活躍中。

Q. 日本語に興味を持ったきっかけは?

高校3年の時です。大学に入ったら何を勉強しようかと悩んでいた頃でした。ある時、日本語を勉強している友人がテキストを見せてくれたんです。見たこともない文字がすごく印象的で、興味を持ちました。カタカナで「ドライヤー」と書いてあり、「ドライヤーって、英語と同じじゃん。日本語って結構簡単なんじゃないの!」と思ったんです。この大きな勘違いとともに、私の日本語人生がスタートしました。

Q. 実際に大学で勉強して、いかがでしたか?

「こんにちは」からスタートし、会話、文法、文学と一通り勉強しました。最初は悪夢でしたね(笑)。先生は日本人、授業も全て日本語です。最初の数週間は、一体何が起こっているのかさっぱりわかりませんでした。入学した以上勉強するしかないので、必死でしたが。何もかもが英語と正反対で、とても新鮮でした。何となく謎めいた雰囲気も魅力的で、是非一度訪れたいと思うようになりました。

Q. 在学中、二度日本に?

1年生の時に、交換留学プログラムで北海道に6ヶ月滞在しました。高層ビルがそびえたっている国だと聞いていましたが、札幌の道は広くてまっすぐで、日本は意外とゆったりした国なんだなと思って帰国しました。
3年時に留学した時は、2年前のイメージが180度ひっくり返ってしまいました。場所は東京、上智大学だったのです。
実は、再び日本に行くことになるとは想像もしませんでした。日本に来る直前に大失恋し、あぁもうイギリスにはいられないと思ったんです。イギリスなんて嫌だ、どこでもいいから他の国に行きたい! と(笑)。そんな時、留学プログラムの定員に空きがあることを知り、参加を決めました。急だったので、全く準備もしていませんでしたが、とても有意義な1年でした。この頃には、日常会話はある程度できるようになっていたと思います。

Q. 大学ご卒業後は?

東京での生活が楽しく、すぐに戻ってこようと決めていたので、JETプログラムに応募しました。運良く合格したので、大学の卒業式を待たずして日本に来ました。
JETプログラムの合格通知には、滞在予定先として島根県の住所が書いてあったんです。地図を広げて「あれ? 東京じゃない?」とびっくりしました(笑)。北海道、東京、島根、同じ日本でも土地によって全く違うことが面白かったです。

Q. ピースボートでは、通訳もご経験されたとか。

Japan Timesの「無料で世界をまわりませんか?」という謳い文句に誘われて、試験を受けにいきました。ボランティア通訳としての参加でしたが、船にはプロの通訳者も乗船しており、そのプロ意識の高さには感銘を受けました。通訳は英日中心で、私は英語が聞き取れても、日本語のボキャブラリーが足りずに的確な言葉で通訳できないんです。これではやっていけない、とショックを受けました。
これまでに何度か通訳のお仕事を頂きましたが、その場ですぐに言葉にしないといけないことがストレスでした。あぁでもない、こうでもないと考えてから、一つの言葉を選ぶ方が、私には合っているように思います。

Q. その後、翻訳者としてのキャリアを?

東京のゲストハウスに住みながら、語学を生かせる仕事を探していたところ、翻訳エージェントでの編集・翻訳業務のポジションを見つけました。知らないうちに翻訳の面白さに引き込まれました。頭全体がフル回転しているのが自分でもわかって、ぞくぞくするぐらいでした。いつからか、「翻訳で生きていこう」と思うようになりました。

Q. 一日中翻訳をしていると、気分転換したくなることはありませんか?

ストレスがたまることはありませんが、気分転換したくなったら、外に出ることもあります。ラップトップがあれば、外でも仕事はできますしね。逆に、パソコンがウィルスに感染したり、何らかの理由で壊れたりすることの方がストレスです。つい先日も、日本から持ち帰ったパソコンに紅茶をこぼしてしまい、キーボードをダメにしました……。

Q. ご趣味は?

2年前ぐらいから、ヨガ教室に通っています。翻訳をしていると、どうしても体が固くなってしまうんです。ヨガを始めてから、精神的にも肉体的にもバランスがとれているように思います。歩いていても、体がちゃんとつながっているイメージがあるんですよ。

Q. 去年の1月、ロンドンに戻られたそうですが。

20代の大半を日本で過ごしました。30歳を目前にして、今後もずっと日本にいるのか、家族のいるイギリスに戻るのか悩んでいたんです。半年ぐらい考えて、とにかく一度帰国してみようと思いました。日本に戻れなくなったらどうしようとも思いましたが、最終的に、自分の故郷であるイギリスに惹かれる部分が大きかったんだと思います。
ロンドンに戻ってしばらくして、オンサイト金融翻訳のお話を頂きました。今後、どういう形態を選ぶかわかりませんが、今はとにかく経験を積みたいんです。
しばらくはロンドンにいると思います。最近結婚したんですが、春には、夫もVISAを取得してイギリスに来てくれるので、一緒に暮らせるのが今から楽しみなんです。将来的には、日本とイギリス両方に家を持って、自由に行き来できたらいいなと思っています。

Q. 翻訳者を目指す人へのアドバイスをお願いします。

まずは、インハウスを経験してください。ネイティブの方は必ず日本に何年か住んでください。言葉の勉強も大事ですが、翻訳は文化的な要素も入ってきます。表面的なことだけではなく、行間を感じられるようになるためにも、その国で実際に生活することは非常に重要です。

<編集後記>
ロンドンから一時帰国中のニキータさんへのインタビューでした。将来は、日本とイギリスを行き来しながら翻訳を続けるのが夢だそうです。ロンドンでの更なるご活躍をお祈り申し上げます!

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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