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翻訳者インタビュー 第一線でご活躍されている翻訳者の「仕事」「自分らしい生き方」
「プライベート」など、生の声をご紹介します。

Vol.47 ビジネスとしての翻訳

【プロフィール】
H.Sさん
明治大学経営学部を卒業後、半導体関連の商社に就職。その後翻訳コーディネーターなどを経て音楽配信会社の法務部で8年間英文・和文契約書の作成や審査の経験を積んだのち、フリーランス翻訳者として独立。
現在は契約書などの法律文書や金融・経済などの分野を中心にご活躍中。

2010年にテンナインにご登録いただいて以来、常に迅速かつ丁寧な翻訳で定評のあるSさん。特に契約書の翻訳は抜群の安定感でいつも頼りにさせて頂いています。お若いながらベテランさながらのお仕事ぶりの秘訣を伺ってきました。

Q1:どのようなきっかけで英語に興味をお持ちになったのでしょうか?
 最初に興味を持ったのは、高校生のときにアメリカへの交換留学から帰ってきたクラスメートがいて、英語を流暢に話す姿を見てかっこいいなと思ったときです。それで僕も、大学4年生のときに1年間休学してニュージーランドに語学留学に行きました。そこでは、日本で留学前に勉強したアメリカ英語と全然違うので、簡単な単語でも聞き取れなくてショックを受けたのを覚えています。例えば"airline"の"air"が"ear "にしか聞こえなくて分からなかったり。さすがに1年近くいたのでそこそこ話せるようにはなったのですが、そのときは英語を職業にしようとかそこまでは考えていなくて、将来役立てればいいなくらいにしか思っていなかったです。

Q2:翻訳という仕事を意識し始めたのはいつ頃からでしたか?
 かなり後になってからです。元々独立したいなとは大学時代から漠然と思っていたのですが、就職してからは日々の仕事に追われてそんなことは記憶の彼方に飛んでいました。最後に正社員として働いていたときに、法務部で英文契約書を審査する機会が結構あり、そこで100ページ近くある長い契約書を読んで訳したり直したりしているうちに、「これは商売になるのではないか」と思い、独立を決めました。
 翻訳コーディネーターの仕事をしたこともありました。コーディネーターは1年くらいしかやっていないので、そんなにベテランでもないのですが、翻訳会社内の事情やコーディネーターの苦労はよく分かります。お客様と翻訳者の板挟みみたいな立場で、どちらからも文句を言われて厳しいなと思うこともあったので、その辺の内情が分かるというのは今の財産になっています。

Q3:フリーランスに転向された時、悩みや不安などはありましたか?
 そうですね。皆さんそうだと思いますが、最初は仕事がたまにしか来ないので、納品した後にしばらく話がないと「切られたのかな?もうずっと仕事は来ないのかな?」というプレッシャーのようなものはありました。仕事が来ないときは勉強をしてスキルを上げる努力をしなければいけないのですが、それも正直あまり手につかなかったです。
 時間があるときにトライアルを受けたりはしていたのですが、あまり受けすぎるとそれなりに実力がついたときにもう受ける会社がなくなってしまうのではないか、という要らぬ心配をして、たくさん受けるのが憚られたりもしました。僕は全部で30社くらい受けましたね。合格率は6~7割くらいです。合格ラインに達していても、その分野に既に人がたくさんいたら不合格を出している場合もあると思います。今も、20社ぐらい登録はあるのですが、そのうち1回でも発注になった実績があるのは半分程度、コンスタントにやり取りがある会社は7~8社ぐらいです。ですので、インタビューを読まれる方も、トライアル自体はどんどんチャレンジしてもらっていいと思うし、落ちてもあまり気にしないようアドバイスしたいです。

Q4:翻訳の勉強はどのようにされていましたか?
 まずは翻訳の勉強というより、英語力を伸ばすために一般的な英語の勉強をしました。何をやったかというと、英字新聞をひたすら読んでいました。ひたすら辞書を引いて、大量に書き込みをして、1日中やっても1面も読めないくらいのスピードで、一文一文の意味を正確に把握する。いわゆる精読ですね。TOEICも受けましたが、翻訳の勉強としてはTOEICは入口にしかならないと思います。TOEICで高得点が取れたからと言って翻訳ができるとは限りません。でも翻訳を第一線でやっている方は必ずそれくらいの点数は取れると思います。
 翻訳者になろうと思ってからは翻訳学校で学びました。インターネット上の評判なども参考にしながら、通学講座を2つ、通信講座を1つとりました。通学は、自分と同じように勉強している人から刺激が受けられたり、先生と直接会話できたのが良かったです。一方、通信の場合はテキストと同時に解答も送られてくるので、つまずいたらすぐ解答を見てチェックでき、一瞬で解決できるのが良かったです。僕は課題だけじゃなくて、全部翻訳していました。月1回の課題だけでは全然足りないと思いますね。通信を始めたときは既に仕事も始めていたので、いつでも自宅でできるというのも魅力でした。個人的にはどちらの方が力が伸びたかと聞かれれば通信だと思いますが、人によると思います。自分を甘やかしてしまうと課題がたまってしまうという難点もありますが、そこさえコントロールできれば通信は有効だと思います。
 僕の勉強方法で意外と役に立ったのが、大学受験参考書です。英文解釈系の参考書はおすすめです。詳細な解説が書いてあるし、発行部数が多いから値段もお値打ちですし。なかには相当難しい参考書もあって、TOEICで良い点をとって天狗になっている自分の鼻を思いっきり折ってくれたといいますか(笑)、自分の実力を思い知らされたりしましたね。

DSCN0087.jpg※左の男性がH.Sさん

Q5:今はどのように勉強されていますか?
 基本的に仕事を真面目にやっていれば色々なことを調べるので、それが勉強になっていますが、それ以外にはここ2年くらい、月に2回程度ネイティブの先生にマンツーマンで英語を習っています。英会話を学ぶわけではなく、自分が英訳した一般のニュース原稿やWEB上の規約を、先生と会話をしながら目の前で添削して頂いています。そしてそれを自宅に持ち帰って自分でも再度チェックします。地味なのですが、英語を書く力がかなりつくと思います。2年間通い続けていると、直される箇所も激減してきて、自分の力が伸びているという自信にも繋がります。今は安い英会話学校もあるのでおすすめなのですが、真似されるとライバルが増えるのであまり商売敵に情報は与えたくない気もします(笑)

Q6:翻訳という仕事のどこに面白さややりがいを感じていらっしゃいますか?
 色々ありますが、自分の好きなことを仕事にしてしまったというところがあるので、好きなことをやりながら生活の糧を得られるというのが一番の醍醐味です。あとは、仕事を数多くこなすことで能力がついてきていることを実感できるところ。それから、僕が得意としている契約書の出資関係や上場関係の分野でスピードをもって安定してこなせる翻訳者さんはあまりいらっしゃらないという自負がありまして、そこで自分の翻訳者としての持ち味を出しているという感覚があるのでやっていて楽しいです。自分が翻訳したことでクライアントさんのビジネスが進んでいるということを考えると、社会貢献や社会との関わりを感じるのも面白さのひとつですね。

Q7:逆に大変だと感じていらっしゃることはありますか?
 英文を日本語に訳すときですが、必ずしも英語原稿をネイティブが書いているとは限りません。そういうときは原稿の質によってはかなり苦戦することがあります。普通なら2時間で終わる内容が4時間経っても終わらないという場合もあります。
 それから体調管理ですね。自分の翻訳スピードはだいたい把握しているつもりですが、内容がことのほか難しかったり、原文の英文に問題があったりして、予想以上に時間がかかることがあります。そうすると、例えば夜中の12時に終える予定の仕事が3時くらいまでずれ込んでしまって、また次の日も朝から仕事が入っている、というようなときは寝不足で臨まなければいけないので辛いです。あとは、やはりとにかくずっと座って仕事をしていると運動不足になるので大変です。先日健康診断を受けたのですが、血圧が高いだの、お腹周りがやばいだの、メタボ予備軍だのと散々言われてしまいました(笑)

Q8:お仕事をされる際に心掛けていることやモットーはありますか?
 フリーランス1~2年目のころは、ある1社から主にお仕事を頂いていたのですが、ある時から依頼数が減り、その1社に収入を依存していたのでそれが激減してしまい困ったことがありました。なので、その反省を生かして今は7~8社から依頼を頂き、1社に偏らないようにしています。4~5社くらいで充分な仕事量はあるのですが、社会人としてスケジュールに空白を作りたくないので、10社くらいまでは確保しておいて良いのではないかな、と思っています。その分お断りする仕事も出てきてしまいますが。
 それから、不当に安い単価では仕事は受けないようにしています。翻訳会社によってはあまりにも翻訳単価が低かったりするところもやはりありますので。不利な立場で、安い金額でやってらっしゃる翻訳者さんもライバルではありつつも同業の人なので、これからも自分だけじゃなくて翻訳者全体の地位向上には微力ながら貢献していきたいと思っています。

Q9:基本的な生活リズムを教えて下さい。
 普段は10時くらいに起きて、まずはメールチェックをします。仕事がひっ迫しているときはそのまま仕事を始めますが、スケジュールに結構余裕があるときはもう一眠りしたりするときもありますね(笑)そこからお昼ご飯を食べて、仕事を始める、という流れが多いです。そのあとは適当にお休みを取りながら、ひたすら深夜12時くらいまでお仕事をしています。気分がのっているときは3時くらいまでやってしまう時もあります。僕は夜のほうが集中できるので。
 土日は少し気を抜いたりもしますが、基本的には仕事の依頼が来れば受けますので、あんまり平日と変わらない日を送っているときが多いですね。長い休みもだれてしまうので、休みたいって心から思うとき以外は基本的には必要ないかなと思っています。3日位休めばもう、仕事がしたくなってしまいますね。まだ翻訳者としては割と若手の部類に入るので、若いうちは仕事を一生懸命やりたいなと思っています。

Q10:趣味やリフレッシュ方法はありますか?
 音楽教室がやっているビッグバンドに入っていて、そこでアルトサックスをやっています。6年半くらい続けているので、実はフリーランス歴よりちょっと長いんです(笑)大勢で合奏するのがとても楽しいし、楽器演奏は普段と全然違う頭の使い方なので、気分転換にもなります。楽譜はいまだに読むのが得意じゃなくて、ドとかレとかルビを振ったり(笑)、四苦八苦しながらやっています。

Q11:今後の目標や、やってみたいことがあれば教えて下さい!
 まずはこの仕事をどんどん発展させていきたいです。とはいっても人を雇ったりとかは全然考えていなくて、自分のスキルを向上させていきたいなと思っています。例えば3時間かかることを2時間半、2時間でできるようになればそれだけ多くの仕事が引き受けられて収入も増えます。僕はビジネスとしてやっている以上はもっと成功して収入を上げたいと思っていますし、大きな仕事もやってみたいですね。いわゆる「売れっ子」になって、次から次へと仕事が舞い込んでくるみたいな、そういう翻訳者になりたいなって思います。小さい目標なんですけど(笑)
 分野は法律をコアに、金融・経済とか、環境とかもやってみたいと思っています。徐々に対応可能な分野を増やしていきたいと思っていますが、あまりにも関連がない科学技術とか医学系の分野に足を突っ込むと足元をすくわれそうな気もするので、その辺は慎重にいこうと思っています。

Q12:最後に翻訳者を目指す方へのメッセージをお願いします。
 基本的には商売敵になるポテンシャルを持った人たちなので、あんまり迂闊なことは言えないんです(笑)もしこれを読んでいる方で、翻訳者になられる方がいたら、その時はお手柔らかにお願いしますね。

DSCN0092.JPG※H.Sさんと翻訳部スタッフ一同

編集後記

 社会貢献、翻訳者の地位向上、ビジネスとしての翻訳。そういった言葉がインタビュー中何度もSさんの口から聞かれ、Sさんのプロの翻訳者としての意識の高さ、視野の広さに改めて感銘を受けました。翻訳という「ビジネス」に誇りをもって、そしてとても楽しみながらやっていらっしゃるのが文章からも伝わればいいなと思います。「この記事を読んで、皆さんがやる気になれば」とお話し下さったたくさんのアドバイスや経験談を、皆さんぜひご参考にしてみて下さい。


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