TRANSLATION

Vol.5 読み手を意識した文章を

ハイキャリア編集部

翻訳者インタビュー

[プロフィール]
谷垣麻紀子さん
Makiko Tanigaki
幼少時、英国に5年半滞在。青山学院大学文学部英米文学科卒業後、大手銀行に入社。その後、企業内翻訳者を経て、現在はフリーランスとして翻訳に従事。常に読み手を意識した、その訳文の高い完成度には定評がある。

Q. 翻訳者を目指すようになったきっかけは何ですか?

小さい頃海外にいたので、何か武器になることと言えば英語かな、とは思っていたんです。結婚、出産後にこれからは自宅でもできる仕事をと考えたことも大きなきっかけでした。

Q. 言葉の面で、苦労はありましたか?
イギリスにいたのが小さい頃だったので、ほとんど英語も忘れていました。発音だけ聞くと、ネイティブだと思われるのですが、実は結構勉強しないと思い出せない部分が大きかったんです。中学生以降は、発音レベルに自分の語学力を持っていくために随分勉強しました。

Q. 企業でも翻訳通訳業務に従事していらっしゃったと伺いましたが。

プレゼンテーション資料などの翻訳をしていました。担当者が手一杯の時に、「君、確か英語できたよね」と頼まれることがあったんです。通訳は割とスムーズにできたんですが、なんせ専門教育を受けていないので、ある瞬間からがふっとできなくなる時があったんですよ。小さな会議だと、私が通訳するのを待って話してくれたんですが、大きな会議でウィスパリングをする場合は、どんどん通訳しないと遅れてしまうんです。あぁこれは担当がいないからって安易に引き受けちゃいけない、やるならもっと勉強しないと、とつくづく思いました。

Q. 翻訳学校には通われたのですか?

はい。もう本当に目から鱗でした。今までは他に誰もいないから仕方なく私に頼んでいたんだな、ということがよく分かりました(笑)。分野によって言葉使いも違うし、調べ方一つとってもどういう姿勢で臨めばいいか、どこを当たればいいか、これに関してはこういう背景知識がないとできないといったことなどまで教わりました。通った期間は短かったのですが、本当に勉強になったと思っています。

Q. 在宅とオンサイトの違いは? 何か心がけていることはありますか?

企業内だと、もし分からなくても近くの人にちょっと聞いて済ますことができたんです。もちろん、在宅でも担当者に聞くことはできますが、よっぽど調べてそれでも分からないことしか聞けません。こんなことも分からないのか、と質問内容によっては判断されるでしょうし。いざというときに、短時間で欲しい知識を得るために、自分で調べるノウハウを蓄えておく必要があります。自分が調べた結果に責任と自信をもつことも、すごく大事だと思います。
一度受けた依頼は納品後でも必ず見直しをすること。今度同じような依頼が来たときに、もっといいものが出せるよう心がけています。その他には、スケジュール管理、健康管理等にも気を配っています。

Q. 谷垣さんの翻訳は、読みやすいと評判ですが。

ありがとうございます。ただ、例えば得意なコンピュータに関しても、プロ並みの知識があるわけではないんです。翻訳学校でも、「あなたはもっと知識を蓄えなさい」と言われたぐらいですから。もちろんその努力はしていますが、逆にその時読まされた模範解答の訳文は、全然分からなかったんです。専門知識のある人が読めば分かるのかもしれませんが、私には何だかよく分からない。逆に専門知識がない人が読んで理解できる訳文なら、誰にでも受け入れられるんじゃないか、と思ったんです。というわけで、今の文体に落ち着いています。もし評価して頂いているとすれば、こういう努力が実を結んだのかなと思います(笑)。
現在読書中

Q. 在宅翻訳者としての生活はどうですか?

性格的には、家にこもって何かやるのは向いてないと思っていたんですが、やってみたら意外に調べることが好きだったんですよ。今はインターネットもあるので、何かを調べようと思ったら、本当にいくらでも調べられます。また、私は形から入るタイプなので、辞書を揃えたりするのも好きなんです。何か一つの単語をきっかけに、いろんなことが分かってきて、「そうだったのか!」と知識が広がるのが、すごく楽しくて。思いがけないところから依頼を頂いて、調べていくうちに、この会社ってこんなことやってたんだと開眼する瞬間もあります。翻訳を始めて本当によかったと思います。日々いろんな発見があります。

Q. 印象に残ったお仕事はありますか?

美術関係の翻訳です。ルイ何世など名前だけでも色々な解釈があって、すごくおもしろかったんですが、ものすごく奥が深いんです。これはもっと修行を積まないと安易に受けられないなと思いました。でも今後も是非受けてみたい内容のものなので、その時に備えて勉強することにします。

Q. 新しい技術はどこまで収得する必要があると思いますか?

私自身、お金で買える知識はどんどん増やすべきだと思っています。辞書一つでも随分言葉取りが変わってきます。例文一つ目にするだけにしても、品質があがったり、次に繋がるのであれば、決して高い投資ではありません。トラドスのようなソフトウェアも高額ですが、翻訳スピードもあがり、訳文の統一も可能です。使ってみて役に立たないと思ったら、使わなければいいだけのことです。自分のできる範囲であれば、どんどん投資すればいいと思います。最終的には、必ず自分の実力アップにつながると信じています。

Q. まだお若いのに、ここまで登りつめてしまったら、今後はどうされるんですか。

そうはいってもまだ経験も足りないので、今後層を厚くするには今頂いているお仕事を着実にこなしていって、次につなげられるようにすることだと思うんです。今はアンテナを広くはって、辞書やソフトを充実させ、今まで関わってきた分野の雑誌記事を目にしたら、必ず目を通すようにしています。こういった努力を十年以上やってはじめてベテランと言われると思うんです。今はとにかく「努力あるのみ!」と考えています。

Q. 今後のキャリアは?

「この分野に関しては谷垣さんに」と、一番に声がかかるようになれたらと思います。十年単位での目標です。二十年単位では小説など、何か本を一冊世に出したいです。待っていてください!(笑)

<編集後記>
「仕事が楽しい!」とインタビュー中に何度もおっしゃっていましたが、とにかくパワフルで前向きな方です。谷垣さんにかかれば、不可能なことなんてないのでは? と思わずにはいられませんでした。小説の翻訳、楽しみにしております!

Written by

記事を書いた人

ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

END