HOME > 翻訳 > 本場に学ぶ中国茶―茶葉や茶器の選び方・おいしい淹れ方・味わい方...すべてがわかる一冊

タイトル 「本場に学ぶ中国茶―茶葉や茶器の選び方・おいしい淹れ方・味わい方...すべてがわかる一冊」
著者 王 広智
訳者 岩谷 貴久子
出版社 科学出版社東京

〔この本の特徴〕

ひとことで言うと「実用書」と「雑学書」を兼ね備えた本。
茶葉の状態、淹れ方の手順、淹れたお茶の色がきれいな写真でわかりやすく示されている一方で、お茶にまつわるウンチクが多いのが本書の特徴です。

 淹れ方の写真の部分を切り取って綴じてパラパラ漫画のようにすると、そのまま動画になるんじゃないかと思うくらい写真が多く、また各茶葉の特徴、健康効果、茶殻の利用法のほか、お茶の歴史、茶器やお茶にまつわる伝説やエピソードなど日本ではあまり知られていない内容が盛り沢山。しかも漢詩や歴史書の一節といった先人の教えが随所に出て来たりして、拾い読みするだけでも知的好奇心がくすぐられる、そんな一冊です。

〔翻訳にあたって心がけたこと〕
原書は盛り沢山な内容が平易な言葉でわかりやすく書かれていますので、翻訳にあたっては、その良さを最大限再現するよう心がけました。

具体的には、
①日本語も平易な言葉で構成する
②漢詩や歴史書の一節といった中国の古典を、その場に合わせて読み下し文にしたり、現代語訳にしたりする。必要に応じて注釈をつける
③お茶や茶器、所作の「読み方」を示す
といった具合です。

〔訳し終えて〕
前述の心がけを柱に翻訳作業を進めましたが、素材は日本でも人気の中国茶。それだけに訳しづらい部分もありました。十数年ほど前から「茶芸」の一環としても紹介されており、茶葉や茶器、所作の名称については、すでに「中国漢字の日本語読み」で入っているものが多かったからです。悩みどころは「どこまで日本語にするか」でした。例えば「急須」を意味する「茶壺」。「急須」とするか「茶壺」とするか。すでに中国茶の世界に脚を踏み入れた方の中には「中国茶なら茶壺でしょ」と思われる方も多くいらっしゃいます。しかし初心者の方にとっては「ちゃつぼ? 何それ」というのが正直なところ。しかも茶芸を日本に紹介した時期によって、あるいは紹介した方によって「茶壺」を「ちゃこ」と日本語読みにしたり「チャアフー」と中国語読みにしたり、また他の茶器はどちらかの呼び方しかなかったり......。編集者の方にはもちろん、関係各所に教えを請いながら、茶器や茶葉の呼び方を固めていくことになりましたが、これが本当に難関でした。
第二の難関はいわゆる「漢文」の読み下しでした。中国語では古典も頭から読んでいくので「レ点」も「一二点」もありません。間違えないよう読むために、裏付けとなるもの、拠り所となるものを探し出し、また複数の解釈ができるものについては、より普及していると思われる方を採りました。

このように多少の難関はあったものの、それ以上に感じたのは翻訳の醍醐味です。原書のすばらしさを過不足なくいかに日本語らしい日本語で伝えるか、そのことに心を砕く時間はまさに至福のときでした。一冊の本を別の言語の本にするのは、できうる限りの手を尽くして元の本と同じ価値、同じ重みを再現する作業。単に言語を移し替えるだけでなく、その背景にある文化や教養も一緒に受けとめて新しい命として誕生させます。

今回、新しい命を誕生させるまでに、多くの方の力をいただきました。そうして誕生した新しい命が日本でどのように歩んでいくか、生みの親としてはやはり心配ではありますが、その一方で「手は尽くした」という実感も間違いなくあるので、ここは黙って見守っていくことにしようと思います。

好奇心や探究心を満足させながら仕事ができる喜び。そんな喜びが味わえる翻訳者はいくつになってもやめられません。

一覧へ

↑Page Top