INTERPRETATION

Vol.2 松下チュン(揚 軍)さん「原稿を通じて世界と繋がる」

ハイキャリア編集部

中国語通訳者・翻訳者インタビュー

【プロフィール】
松下チュン(揚 軍)さん

Yang Jun

中国天津市南開大学大学院経済学研究科経済学説史専攻修士課程修了。1991年来日、中国専門の輸入商社に勤務、中国側との交渉、通訳翻訳を担当。1993年10月より、フリーランス翻訳者としての活動を始める。金融・工業製品マニュアルの翻訳を得意とし、その他にも会社案内、企業HP、契約書、IT、マーケティング関係資料等、幅広い分野を手がけている。

日本語を勉強しようと思ったきっかけは?
「勉

強せざるを得なくなった」というのが実情でしょうか(笑)。大学院を卒業する半年前に結婚したんですが、主人は日本人なんです。普段は中国語で会話してい

ましたが、卒業後日本に行くことが決まったので勉強し始めました。実は中学生の時に、日本語のラジオ講座に興味を持って、ちょっとだけ勉強したことがあっ

たんです。ほとんど身についていませんでしたね(笑)。

1991年に日本へ?
大学院を2月に卒業して、翌月日本に来ました。日本語学校には約1年通い、半年で日本語能力試験2級に合格したので、割と飲み込みは早かったのかもしれません。
翻訳の道に入ったのは?

分でも知らないうちに、いつのまにか翻訳者になっていました。ボランティアで陸上大会の通訳をしたことがあったんです。アテンド通訳で、当時はまだ語学力

も不十分でしたが、いろんな方にお会いして、面白い仕事だなぁと思ったことを覚えています。ただ、私自身は頭の切り替えが遅いので(笑)、じっくり考えて

訳していく翻訳の方が向いていると思いました。その後、企業で通訳翻訳に携わることになり、経験を積ませて頂きました。特に翻訳学校で勉強したわけでもな

かったので、現場でかなり鍛えられました。

翻訳のおもしろさとは?

頼原稿を最初に見た時は、「うわぁこれは大変かな」と思うんですが、自分の手によって違う言語に置き換えられたものを手にした瞬間は何とも嬉しいです。仕

事柄、家にいることが多いのですが、不思議と外と繋がっている感覚があります。原稿を通して、世の中の動きがわかるからでしょうか。

オンとオフの切り替えは?

は割と自分のペースがあるんです。だらだらといえば、そうなのかもしれませんが、好きなテレビ番組が始まる時間になると、手を休めてテレビに向かいます

(笑)。その番組が終わったら、また机に向かうんです。テレビを見るなんて、時間の無駄遣いなのでは? といわれそうですが、どんな情報も仕事に繋がって

いる気がするんですよ。ドラマ1つにしても、最近中国は言葉の発展が目覚しく、どんどん新しい言葉が生まれています。用語の使い方も、昔と比べて随分変

わっており、香港や台湾の言葉が入ってきています。中国に暮らしていない分、生の表現は、そういったところからも学ぶことが多いんです。

この10年で、仕事内容も変わりましたか?
昔はもっと、仕事量に波があったんです。今は全体的に量も増え、分野も広がりました。前は機械類の翻訳が多く、娯楽や芸能の記事翻訳なんて皆無だったのですが、だんだんそういったものを増えてきています。中国も少しずつ変わってきているんだなと身をもって実感しています。
日本に住んでいることのメリットは?

の日本語に触れられることです。日本語の全ての表現が、必ずしも中国語に存在するわけではありません。1対1の関係ではありませんから。例えば、「-らし

い」という言葉にしても、日本に住んでいれば、曖昧なニュアンスが分かるのですが、中国で日本語を勉強している人には、その感覚は理解できないのかもしれ

ません。中国では、あまりそういった表現を使わないので。言葉の意味は理解できても、その感覚までも理解するのは、現地で暮らしてこそなのかもしれません

ね。

1週間のスケジュールは?

分以上仕事に費やしていますが、それ以外は読書や、子供と過ごす時間にあてています。1日の翻訳時間は、4-5時間です。やりだすと早いんですが、やる気

を出すまでに時間がかかるんですよ(笑)。大体、朝8時から2時間程翻訳して朝ごはん、お昼まで翻訳して、お気に入りの中国ドラマを衛星放送で見ます。子

供が帰ってきたら、少し遊んで、夕方また仕事。割ときまぐれというか、自由に動いています。

 他のことをしているときも、常に仕事のことは頭の片隅にあります。「この単語をどう訳そうか?」と。雑誌や新聞を読んでいても、「これって中国語で何と言うんだろう?」と考えてしまうことは多いですね。

今後のキャリアプランは?
翻訳を続けていけたらいいなと思っています。子供向けの絵本を翻訳してみたいという夢もあるんです。日本の絵本を中国に紹介したいんです。子供の言葉で分かりやすく翻訳するのは難しいですが、いつか実現すればいいなと思っています。
中国語を勉強している人へのアドバイスをお願いします。

音で挫折して、やめてしまう人が多いと思うんですよ。最初から発音を完璧にしようとは思わず、気楽に少しずつやっていけばいいと思います。まず日常会話を

勉強し、発音が下手でもそのまま続けること! 続けていけば単語量も増えるし、日本語と共通している部分も多いので、楽になります。少しずつ、がんばって

ほしいです。

もし翻訳者になっていなかったら?

番向いているのは、公務員だと思うんです。与えられた仕事をコツコツやるのが好きなんです。自分で何かアピールしたり、企画したりするのはダメですね。会

社にいても、テキパキ働く自分が想像できないんですが、決まった範囲のことを自分の裁量でこなしていくのが好きなんです。そういう意味では、今の仕事はす

ごく自分に合っていると思います。

編集後記

「も

し、翻訳者になっていなかったら?」の質問に対して、「公務員」という言葉が返ってきたのは、初めてでした! 終始、「私の話なんか聞いても、おもしろく

ないですよ」とおっしゃっていましたが、数少ない中国語翻訳者さんにお会いできて光栄でした。お正月は、中国で過ごされるとのこと、今頃リアルタイムで思

う存分ドラマを楽しんでいらっしゃるのではないでしょうか。

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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