INTERPRETATION

Vol.5 「OJTの大切さ 本番でしか学べないこと」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】
上谷覚志さん
Kakuji Kamitani
大阪大学経済学部経済学科卒業後、南イリノイ大学言語学部に1年間留学。帰国後、語学学校で英語講師を務める。その後、クイーンズランド大学通訳翻訳修士課程で学び、帰国後通訳者としての活動をスタート。同時に、通訳学校での講師も務める。今後は拠点をカナダに移し、通訳活動予定。

Q. 通訳を目指していたわけではないと伺いましたが。

そうなんです。英語を教える上で語学力を強化しようと通訳学校に通い始めたところ、だんだん上のクラスに上がっていって、そのまま通訳になってしまったというわけです(笑)。当時、まさか自分が通訳者になるとは思っていませんでした。

Q. 通訳としての、初めてのお仕事は?

インターネット関係のセミナーです。全然できませんでした(笑)。緊張もしたし、通訳学校と現場は全く違うものなんだと実感した貴重な通訳者デビューでした。学校ではテープを流して止めて、そのテープ自体もクリアな音声ですが、現場ではそんな風にはいきませんよね。今から考えると大した仕事ではなかったんですが、当時は本当に落ち込んで、もう通訳はやめようと思いました。

Q. プレッシャーという意味でも、社内通訳とは違いますか?

全く違います。社内の場合は、失敗してもまた明日があるさ、と気持ちを切り替えることができますが、単発の仕事はそうはいいきません。今日失敗したら、次はないんです。そのエージェントから仕事が来なくなることだってあります。
資料もない、ブリーフィングもない、というケースも結構あるので、そういった環境で通訳するのはかなりのプレッシャーです。パフォーマンスにも影響がでます。知っている人の前で通訳するのと、そうでないのとは全然違いますから。厳しい世界ですね。

Q. 通訳者ならではのおもしろエピソードなどあれば、教えて下さい。

たくさんありすぎて、思い出せません(笑)。例えば『おしょくじけん』という言葉。『お食事券』なのか、『汚職事件』かどっちだろう? と考えたことがあります。耳だけで聞くと分からないことってありますよね。通訳者なら、こういった経験は少なからずあると思います。

Q. 通訳学校で教えていて何か感じることはありますか?

学校でよく出来ても、本番で出来るかはまた別の話。現場でしか学べない部分もたくさんあります。ただ、皆さんマーケットに出るレベルを高く設定しすぎるのか、「もう出てもいいのになあ」と思う人が、まだまだ私は……と、学生モードのままでいるんです。もったいないですね。皆さん大変真面目ですが、勉強を続けていけば通訳になれるわけではなく、やっぱり現場でたたかれて強くなっていかないと。完璧に通訳出来るようになってから現場に出る、なんてありえません。簡単なことから始めればいいんです。卒業するまで通訳してはいけない、なんてことはありませんから。

Q. 「通訳は黒子」とよく言われますが、自分の言葉で話したくなることはありませんか?

あります。もちろん今もそうです。僕の場合は、教えることでバランスを取っているのかもしれません。通訳者は常に客観的である必要があります。一方、教えるという作業には主体性が求められ、その結果が直接返ってくるんです。通訳だけだと、何となく自分の中でうまくバランスが取れないというか……。将来、通訳者を目指す人や、英語力強化を目標としている方のお手伝いがもっとできればと思っています。

<編集後記>
上谷さんとは以前からの知り合いで、お互い関西出身ということもあり、インタビュー中は終始冗談がたえませんでした。もうすぐカナダへ戻られるとのことですが、さらなるご活躍をお祈りしています!

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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