INTERPRETATION

第13回 皆さんはLLL派?それともLTL派?

上谷覚志

忙しい人のためのビジネス英語道場

 2週間前に、ベトナム出張に行ってきました。技術あり、財務あり、業績報告ありととにかく内容盛りだくさんの会議でした。その中でコーチングトレーニングのセッションがあり、どう部下を育てるか、どう自分自身学ぶかというセクションで英語の学習にも使える考え方が紹介されていましたので、今日はその話をしたいと思います。

 皆さんは「学び」というとどういうイメージを持っていますか?自分でテーマを決め、独自の視点から学ぶというイメージを持つ方もいるかもしれませんが、多くの方は誰か(通常は先生)から教えてもらうというイメージが強いのではないでしょうか?先生から生徒が知識を受け取るというタイプの学びです。

 英語学習に絞って考えてみると、学生時代のほとんどが後者の「学び」のパターンで英語を学習してきたので、社会人になって英語をやり直す場合、このタイプの「学び」を行なおうとするケースが多いと思います。例えば受験や資格試験(英検とかTOEIC等)のように知識を正確に覚えて、それを決められたタイミングで、再現すれば評価されるようなケースには非常に効率的な「学び」のシステムですが、単に知識の確認ではなく、その知識を本当に理解しているか、それを本当に使えるレベルまで引き上げていくという点では不十分です。

 英語の知識をビジネスの現場で使える知恵に変えるためにはどうすればいいのでしょうか?一番効果的なやり方はやはり現場で使って覚えていくやり方です。企業に勤めている方であれば、OJTのチャンスが与えられ、そこで知識を知恵に変えることができます。ただ現実問題として、社員の英語力を上げるためのOJTの機会というのはそれほど多くなく、機会があったとしても、ある程度の英語力があるという条件が付く場合がほとんどで誰でもそのようなOJTの機会をつかめるわけではありません。ですから現場で自分の英語の知識を知恵に変え、ビジネス英語力をアップさせられる人はほんの一部の人たちだと言えます。

 では、OJTの機会がなくても、知識を知恵に変えるためにどうすればいいのでしょうか?冒頭で、ベトナムでのコーチングセッションの話をすると言いましたが、そのセッションの中で紹介されていたのがLTLという考え方でした。これはLearn Teach Learnという言葉の頭文字を取ったものです。知識を取り込むだけのLearn Learn Learnではなく、一度学んだものを誰かに教えて、そしてさらに「学び」を深めるという考え方です。

 人に何かを教えたことがある方であれば、ご理解いただけると思いますが、人に何かを教えるためには自分が知っているだけでは不十分で、さらに掘り下げて内容を理解していかなければ、教えることはできません。生徒のレベルをイメージし、どう説明すればわかってもらえるのか、どういう質問が来るかも想定しそれに備えた回答の準備も必要でしょう。

 LTLの説明の中で、”他の人に教えることができて初めて自分で理解したと言える”といっていましたが、英語の学習でも同じことが言えると思います。一見ややこしく思える文法や構文・表現を誰にでもわかるように説明できてはじめて自分でも使えるようになると思います。通常の「学び」の場でのLearn Learn Learnだと、知識の蓄積に焦点が当てられすぎ、とにかく知識を多く蓄積することが学習目的になっているケースが多く、どう使うのか?という視点が欠落しがちです。

 このLTLのTeachというのは、自分が学んだ情報を多面的に整理し、自分の中で表面的な理解から本当の意味での理解へと深化させるプロセスでもあります。私自身、通訳の現場やその他の英語を使う場面で、自分が覚えたことすら忘れていたような表現がふっと口をついて出てきて驚くことがあります。そういう表現の多くは、自分が自主学習で得た知識というよりは授業で教えたものが圧倒的に多いような気がします。

 英語の知識を知恵に変えるために、英語講師の仕事をした方がいいと言っているのではありません。周りの人の協力は必要ですが、自分が苦手な分野を整理して、説明してみるだけでもLTLの効果を得ることができると思います。説明をするための事前準備、実際の説明時の質疑応答をこなすうちに、自分の中で曖昧だった情報が明確に整理され、それが現場で使える知恵に変わっていくことを体感できると思います。

 お金をもらって教えるわけではありませんから、うまく説明できなくても全く問題ありませんし、今のレベルがどんなレベルでも構いません。大切なのはLearn Learn Learnというこれまでの「学び」の流れにTeachという要素を取り入れることで、今の自分の知識をさらに深め、わかったと思い込んでいるレベルから本当に理解し使える知恵に変えることなのです。教える立場になってはじめて得られる気付きもたくさんあります。ぜひ、このLTLのプロセス試してみください。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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